104号室 椛みさかさん、105号室 佐倉島こみかんさん

 2022年の大会はツッコミで幕を開けた……(いや、本当は大喜利でした)。

 https://kakuyomu.jp/user_events/16816927860350826346



 104号室はこちらです。


 勉強したくないので神に縋ったら祀ってた神がでてきた件/椛みさか・茨カムイ

 https://kakuyomu.jp/works/16816927859169182689



【ヒトキワ荘・作品分類】

 神霊ファンタジー風コメディ



【作品概要】

 大学受験を控えた主人公・宇佐うさ杵築きつき。彼は勉強が大嫌いなため、神の力に縋ろうと近所の山中にある玖珠神社へ向かった。そこに現れたのは巫女さんの格好をした一人の少女。一体、彼女は何者か? 



【フォーカルポイント】

 勢い有りきの会話がとんでもない……。



 今回は、【企画参加用短編】とエピソードタイトルをつけてくださった第一話のみで評価させていただきました。


 ほぼ登場人物二人の会話劇ですね。最初に宇佐(大学受験生・男子)と米水津(神様?)の紹介が簡単に書かれてはいるのですが、このコメディ小説の本編の内容を知らずに入っていくとなると、当然「誰?」「何?」という感じでしょう。


 しょっぱなから、かる〜いジャブで……というご挨拶もなく、いきなりガツンとストレートが飛んできて、その後もまったく同じ勢いの強めのパンチが次々見舞われ、こちらは「な、何、何何何よ──」と防戦一方でございました。


 多分わかっていただけると思うのですが、私は生粋の田舎者、流行に根っから疎く、堂々たる昭和の人間です(四十代)。ネットスラングもオタク文化も知りませんから、「のじゃロリ」とか言われても「ほよよ?」です(by アラレ語)。


 しかしありがたいことにカクヨムは「ネット小説」。インターネット様が光をまとって私の目の前に現れ、教えてくださいましたのでご安心ください(誰一人としてあなたの身を案じていません)。


 地名から察するに、「大分県」が関係しているのでしょうね。私も、かの有名な宇佐神宮には参拝させていただきました。にも関わらずのじゃロリの「〜じゃ」は、どこか中国地方の方言を彷彿とさせ、本文にも「山口県」と出てきて私の頭は混乱しました。

 また前半は「お菓子の工場当て大会」なるコアな遊びが開催されたと思いきや、ギャグによって話題がスパスパと切り落とされていき、オチの「髪バサッ」も、人物がどういう髪型なのか知らない上、どっちがやったのかさえ見失ってしまった始末。


 こんな調子であるのに、読んでいる頭の中は常に「おおお、おもしろい……」という感想が駆け巡っていました。


 どういう表現をしたらいいのかわかりませんが、「読んでいる間だけ生きている」といったような「笑い」ですよね。読み終わった後に、「今の、なんだったの?」とポカンとなり、内容が残っているわけでもないのですが、また読み返すと再び「おもしろい」。


 正直言って、かなり「粗め」な作品ですし、勢い任せなところがあると思います。そしてそのスピード感もごちそうになっているのでしょう。そう、今大会の101号室の真花さんの作品もやりとりが気分のいいツッコミ作品。『寸止め』は粗さはなく、キャラクターが双方はっきりしていて、話の前後も噛み合っているので疑問は沸き起こりませんが、こちらの作品は本編からは完全に独立した話として仕上げられている上、関係性の説明も特にないのでストーリーとして不明な点があります。


 私は、こういったファンタジーや学園モノであったり、会話劇であったりするものをカクヨムで何度も読ませていただいていると思います。私の頭の堅さや愛している小説の型などを思えば、決して好んでいる方ではないと思うのですね。


 ただ、自作小説中の人物たちを使って「作りました」というとき、どこか「内輪ネタ」の雰囲気が出てしまい、共感性の薄さ、「非千客万来感(無愛想さ)」から敬遠されるところがあるはずなのに、このみさかさんの作品に対してはそれをまったく感じず、読みづらさもありませんでした。


 たとえば、レビューなどで「よくわからないけど、おもしろい」などの言葉があるとき、そこには「細かいところは気にしないでやったよ」という許容のメッセージがあると思います。作者でさえ「こんなもん書いても読者は意味わからんだろうな……でも書いちゃえ」という確信犯的な行動があるはずです。


 簡単に言うと、以前いろいろ読んだ「確信犯的会話劇」とは違い、この作品はまだ「サービス精神の表れ」「娯楽性」が存在していると感じました。読者を突き放して「わかんないだろうねー、ごめんねー」というようなぞんざいな肝太精神で書かれたものではないということです。最後の管理人に対するメッセージを確認するまでもなく、「読まれること」「ギャグを楽しんでもらうこと」を意識して書かれたことは間違いありません。


「お菓子の製造工場当て大会」も「天空の城ラピュタ」のネタも明らかに大衆寄りで「わかる」ことを前提にしたものでしょうし、よくよく読むとツッコミやギャグの後に読者の理解を助けるようなセリフが書かれてあります。私はこの作品を「粗い」と申しましたが、ギャグに対しては丁寧ですらある、と言えるでしょう。こういったノリ重視の作品を細やかに仕上げたり、行数をむやみに重ねることはかえってマイナスですよね。


 とにかく「すばらしい」の一言です。気に入りました。ありがとうございました。




 椛みさか・茨カムイさんへ


【管理人がつけたあだ名】

 ツッコミ王になってくれ!(最有力候補──名前なの? メッセージなの?)


 前回の大喜利大会で見事最優秀賞を獲得されましたが、再びの選出、一階の住人にもなってくださり、本当にうれしいです。


 笑いのセンスは抜群なものをお持ちな方だと思いますし、そのセンスで会話劇以外の作品を紡ぐこともできるでしょう。もし再びヒトキワ荘に来ていただけますならば、ストーリー性のある小説も読んでみたいものです。「アトリエにすでにありますから読んでくださいよー」と言われるかもしれませんが、何分フォロー作家さんが多いものですから、読みたくてもスピードが追いつかないのですよー。


 でも、すごく期待しております。会話劇でも全然構いません。スケジュール的にご無理がなければ、また参戦をお願いいたします。







 105号室はこちらです。


 鯛とコンニャク芋を並列されたら唐揚げにレモンを絞れ/佐倉島こみかん

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861619375828




【ヒトキワ荘・作品ジャンル】

 現代ドラマ(会社員コメディ)


【作品概要】

 社内で、地味な方と可愛い方──という心ない呼ばれ方をされている新卒・土屋と月谷。二人の教育係を担当している水原は、その日の歓迎会が気が気でなかった。はじまって早々、「可愛い方」の月谷に、日野主任が「やっぱり女の子はナチュラルメイクが一番だよねえ」というセクハラ発言を投げる。

「私、そのフレーズを聞く度に、鯛とコンニャク芋を並列するなと思うんですよねぇ」

「地味な方」土屋の進撃がはじまる。




【フォーカルポイント】

 ややこしいけど説得力ある講釈がおもしろい



 登場人物の名字に一週間のエレメントが配されているんですね。全部で五人だと思いますので、木曜と金曜がいませんが、語り手の水原さんが、月曜と土曜の間に挟まれている水曜日というのが、いかにも「そのまんま」な立場を表していておもしろいなと思いました。


 職場で女性の外見に関する話題を投げてくる男性というのは、たしかにいるものです。傍で聞いていても「おいおい、大丈夫かぁ?」と心配になるものですが、当然失礼なことは言えないでしょうし、無難な表現に終始するとか「ただひたすら褒める」といったところが関の山なわけですが、そのおべっか的な言葉の中にも「性差別的な響き」を感じとってしまう方もいらっしゃるでしょうね。


 今回の事の発端は、デリカシーがないことで知られている主任による「ナチュラルメイク発言」ですが、やはり私も、男性が言っちゃうのは違うやろ、と思います。普段、メイクのあれこれを知らない人が知ってる感じで「ナチュラルメイク」と言ってしまい、「じゃあ、そのナチュラルメイクって、どういうものかきちんと説明できますか?」ということになってしまったわけですね。


 通常、「え?」と思っても胸の内にしまうことを土屋はキャラクター的に看過できない質で果敢に自説を披露する。しかし会社員気苦労をしょって立つ性格を与えられている水原は当然止めに入るわけです。物語的には視点であり、ツッコミ役ではありますが、「土屋ァ!」「火賀ァ!」と声を上げるのが精一杯でまったく止められてはいません。この辺もなんだか憐れでおかしい。


 しかし鯛やらコンニャク芋やらは「どっから来た?」と思ってしまい、こんな説明が待ち受けていようとは思ってもみなかったので、ひたすら笑ってしまいました。こじつけも甚だしいというか、かなり強引な説ですが、妙に説得力がありましたし、土屋の実家が「コンニャク屋だった」ということが判明し、それでコンニャク芋か……と納得できました。


 この講釈、落語家さんによる話芸で聞いたら楽しいだろうなぁと想像しました。


「唐揚げレモン」に関しましては、私も過去、会社員時代に忘年会など何度も参加し、何度も唐揚げを食べましたが、レモンで「かけるかけない」のやりとりをやった憶えが全然ないんですね。なのでこの問題が世間で結構取り沙汰されているということを最近まで知りませんでした。私は「かけてもかけなくてもどっちでも」という感じ。

 しかしこれが食に対するこだわりや気遣い論などに発展するとしたら、自分の考えで勝手にかけてしまう、というのは避けた方がいいでしょうね。それこそ「ナチュラルメイクは無条件に好ましいもの」という思い込み、「奥さんや女きょうだいがこうだったから女性というものはこう」という理由での決めつけと同じような危険が含まれているかもしれません。


 

 この作品は、ある意味タイトルがとてもおもしろく引きが強くて、その謎が解明されていく過程も魅力だったかな、と思います。世間にはびこっていそうな勘違いをこれでもかと手厳しくツッコむ、ある意味胸がすくようなツッコミですが、コンニャク芋理論の込み入った感とトマトにまで発展していく、という笑いのしつこさが想像を超えていて、すごく楽しかったです。

 終わり方も好きでしたが、私は水原さんの「唐揚げ理論」は、やはりコンニャク芋が強敵すぎて太刀打ちできてはいないよな、と思いました。しかし笑いの中心はコンニャク芋でしたので、特にオチが重視されるようなストーリーでもなかったと思います。


 唯一、申し上げたい──字数についてですね。今回四千字以下でも、4,500字までは審査に響かない、とお知らせし、はじめ4,600字を超えていたと記憶しています。

 するとTwitterで、佐倉島さんの「規定を見落としていたので削りました」とのツイートが流れてきたので、住人選考対象となっていたために「よかった」と安堵したものの、確認してみたら、なんと3,999字に!

 ここまで削っていただけるとは想像していませんで、「申し訳ねぇ」の気持ちがいっぱいになりました。


 佐倉島さんは作風からして丁寧に書かれるタイプの方だと存じております。削ったことで作品の、特に作者として気に入っていた部分をどうにかしたんじゃないかと、ひたすら心配をしました。


 その辺りはお手数をおかけし、本当にすみませんでした。素敵な笑いの作品をありがとうございました。




 佐倉島さんへ


【管理人がつけたあだ名】

 覚悟も美味な世界に仕上げる、ペイストリー作家さん


 おいしいものがお好きだというプロフィールどおり、食べ物を題材にした作品が多いですね。女性らしい雰囲気の作品だと思いますが、なかなかに重いテーマのものもあります。


 私は、スイーツのみならず、食べ物は娯楽・享楽でありながら、人間の健康に関わることを思えばある意味「口にする覚悟」も必要なものではないかと思っています。


 佐倉島さんの作品にある優しさ、幸福感も、様々な試練や人生の覚悟なしに描かれている軽やかさではないのだ、と感じました。「スイーツっていいよね、ああ、おいしい」で終われる単純なものではないとわかっているけれど、「重苦しい」を主張しているのでもない。すべてを内包していても「美味な世界」として仕上げられているとしたら、本当にすごいことだな、と思います。笑いにおいても少々厄介な癖のある感じをキャラクターで出されているのも、「それも世界のおいしさを際立たせてくれる(調味料の一つ)」ということかもしれませんね。


 またご都合が合うようでしたら、ご参加ください。拝見できればうれしいです。これからもよろしくお願いいたします。






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