すごかった大会──参加作品の感想寄せてみました。


 講評の並びは、管理人のおすすめ順になります。個人の独断と偏見になりますので、その辺申し訳ありません。





このひと頭おかしい/はさみ

https://kakuyomu.jp/works/16816452221386131413



(管理人の講評)

 初参加をありがとうございました。コメントにも作者様らしいご返信いただきまして……。私、ものすごく褒めてしまったと思いますので、それに驚かれてのあのご返信だったとしたら、なんか申し訳なかったです。


 こんなこと言って作者様に失礼かもしれませんが、こういうゲテモノ、クセモノみたいな作品を「褒めてもらえる」という感覚で出している人は少ないはずです。「感動してもらえる」と言ったらいいのか。キャプションで作者様が語り、作中でツッコんでおられるとおり、褒めてもらいたいと思っている人があんなに「救急車」を並べはしないでしょう。しかしあれこそ、作者様のこだわりか計算か悪ノリか暴走か作家根性か────なにかなのだと思います!


 私がゲテモニストだから、という理由だけでなく、この作品は「笑い」「音楽的」という部分において非常に優れていると思っています。


 まず読ませていただいたときに「これは小説というより、曲だな。JーPOP(ロック?)みたいな」とすごく思いました。

 冒頭の「もう会社やめたい。」を含む部分がイントロとしてちゃんと機能していて、リフレインと同時に私の頭の中にビートが発生し、その後もすべて、終わりの文章に至るまで、爽快なリズムに乗せられたスピード感溢れる文章(旋律)として伝わってきました。


 また笑いにしても、これでもかと「ひどい現実」を個性的な語りで詰め込んでいますよね。必ずギャグを放って、そのブラックテイストが非常に効いていました。


(引用)冷やし中華はじめる前に潰れてほしかったとさえ思いました。     

 

 おらが街の自慢を一つ挙げるとするなら、そこいらの南米よりは子どもに財布盗まれますよね…


 生徒の大半は狼に育てられたために普通がよくわからず、

    

    

 

 いわゆるこういうギャグですね。中には元ネタを含むものもあるかもしれません。一種の言葉遊び、発想遊びみたいなものですが、一つの作品によくこの数投入できたな、と。またピカチュウ、新垣 結衣さんなども、この特異世界の「毒消し要員」と思えるのに、呑み込まれていますよね……。なんだか気の毒でおかしかったです。


 それから、段落が切れる瞬間に生みだされる「ブレイク」。躍動していたリズムがピタっとやみ、そこにワンフレーズ「ぽん」と置く手法も劇的で見事でした。間違いなく作者様の頭の中にリズムやらメロディーやらが響いているってことだろうと思います。



 荒唐無稽なようで、サブタイトルの「バトン」をちゃんと繋げていて、構成も悪くなかったと思います。とにかく私は「すごいエネルギーに満ちた作品」と感じました。読ませてくださり、本当にありがとうございました。noteも覗かせていただきましたし、ほかの作品も読み、はさみさんの自主企画にも参加しました。そういう魅力があると思います。今後もアタオカ界の気鋭のソングライターとして、魂の楽曲を生みだしてくださいね。またぜひとも聴かせていただきたいです。


 それから二作目のお姫様ですが……老人ホームの慰問でしたら、ただしっとりと歌を聴かせてほしいところなのに、歌唱指導してしまうのですね。利用者の方もしんどかったろうと思います……。新作でしたのでTwitterで宣伝させていただいたところ、「キャッチつよすぎでしょ」という言葉を寄せて引用ツイートしてくださった方がいらっしゃいました。それを見たとき、まるで私の作品のような紹介画像になっていたので、ちょっと「ヤバッ」と思ってしまいました。タイトルやキャッチについては怒ってもいいかもしれませんが……内容にしばらく笑いが止まりませんでした。今現在も笑っています。こういう作品ばかりの大会があったらすごいかもしれませんが、やはり一、二作くらいがちょうどいいのかもしれません……(弱気でゴメンナサイ)。


 追記、「ひときわ荘」ありがとうございますね。




いちゃラブ地雷/佐倉島こみかん

https://kakuyomu.jp/works/1177354055383168558


(管理人の講評)

 ほかの自主企画の参加やTwitterで拝見させていただいておりまして、数作読ませてもらっていた作者様。初参戦をありがとうございました。


 今大会はブラックユーモアがテーマということで、もう一作の『リクルートスーツの死神』ですが、まさかハッピーエンドを迎える物語があるとは思っていなかったものですから、不意を突かれまして「おおっ!」と声に出して驚いてしまいました。最後、主人公が救われたらブラックユーモアとして成立するのか……それをどうこう論じるのはやめておきますが、自殺や就活といった社会の重苦しい題材を扱ってはいるものの、そこに目を向けさせようというよりは、主人公の出来事をくぐり抜けた後の感情の変化や死神ナナミさんのキャラクター、死神業界のおもしろさ──の方が強く打ちだされているように感じられましたので、素敵な「ダークコメディ作品」と捉えた方がいいような気がします。


(引用)流石にエレベーターは止まっていたので、地道に階段で屋上まで上ってきた。

 この文を含めた四行くらい。「屋上」という単語がくり返し五回出てきます。こちらはいくらか省かれるか別の言葉に置き換えてもいいのではないかと思いました。


 亮一さんとナナミさんの夫婦漫才みたいなやりとりもすばらしかったですが、私はどちらかというと『いちゃラブ』の方が好きでした。

 ブラックユーモアは広義では「人間関係の厄介さ」も含むものと思います。まさにそれを描いた作品で、落語の「まんじゅうこわい」を見事に再現していますね。落語にもブラック作品がいっぱいありますよね。

 しかも「女オタクたちのオフ会」を舞台にしているという、私からするとなかなかディープな感じの世界。大変くすぐられ冒頭からニヤニヤしてしまいました。登場人物たちの個性的なペンネームにヴィジュアル、漫画家としての作風まで丁寧にご紹介くださったので、雰囲気が目に浮かび彼女たちに感情移入できましたし、地雷にBL、逆カプやらいちゃラブやら……次々現れる専門用語はたしかに頭が破裂しそうになるのですが、なにを語っているのかははっきりわかるものでした。


 ちなみに、管理人もゲテモニストを自称しておりますので、「雑食マウント」取ってるようなもんやな。でも、昆虫を食べる趣味の人のブログ(写真付き)を読んだときには軽くドン引きしましたよ!(今度は普通の人間マウントを取りはじめる)


 話を戻しまして、関西人の坂本さんですかね? キャラが効いていますね。じわじわ嫌な感じに絡んで、見下げてやるつもりの相手にまんまとやられてしまう後半も大変スムーズで、ツイートで徐々にあらわになっていくところでやや引き締まり、非常にいやーな後味が残りました。いい感じのブラックでした。語り口もそうですが、作者様の彼女たちへの愛着というか、愛情のようなものをすごく感じられ、私には好感度の高い作品でした。こんなにおもしろい作品はそうそうないです。





下衆/塩塚不二夫

https://kakuyomu.jp/works/16816700427231444403


(管理人の講評)

 塩塚さんの作品、140字小説以外のやや長め(?)なものは久々に読ませていただいた気がします。『日本人補完計画 〜蘭の花〜』などは硬質な雰囲気ですがかっこいい作品だと思いますし、私が個人的に一番好きなのは『ガム狂の詩』なんですよね。あれは本当に大笑いしまして、忘れられない作品。


 しかし、今回参加のこの作品も同じくらい「いいなぁ」と思いました。お得意とも言えるちょっととぼけた味のご夫婦のお話。

 冒頭から、ハッピーアイテムであるはずの「ブーケ」が人々を襲っているという意味不明なシュール世界。これをホラーテイストとするのは筆力要りますよ。「列島パニック」の様子が非常にわかりやすく描写されていると思います。夫が電話で説明する「グローバル化と地球温暖化の弊害」などはどう考えても強引な気がしますよね? それを、「説明しよう。」という非リアリスティックな一言を放つことで「これ、ギャグなんですよ」と読者にも示す形になっています。この辺がうまいな、と思いました。

 たいしたことなさそうな不幸が作者の魔法によって提議や事件となり我々の脳みそを襲う「すこし不思議」な塩塚ワールド。健在でした。ありがとうございました。大会ジャンルでいえば、やんわり「風刺作品」になりますでしょうかね?


 あと、酒屋のご主人はもう離婚成立してるんですかね? 協議中とかだったら……少し気が早いような気もしますが……。





スマホと眼球の違いってなんですか?/猫とホウキ

https://kakuyomu.jp/works/16816452219187680246


(管理人の講評)

 これはある意味、度肝を抜かれましたね。猫とホウキさんの物語に登場する幽霊やら妖怪やらは、ホラー作品のキャラクターには定番の「人間に対する怨念、攻撃性」というものが皆無です。なので主人公とほのぼのお友達関係を築いているのですが、にもかかわらず、その他の部分においてはちゃんと「人外設定」を守っていますので、その辺が調子を狂わされて惹き込まれ、大変おもしろく読めます。


 今回もそのシリーズ(?)なのですが、キャラクターのかわいさ、眼球の気持ち悪さ、二人のやりとりの好ましさなど、どれもすばらしかったと思います。


 主人公が「怖い」のセリフを連発するのもホラーにおいては御法度でしょう。しかしこの作品では全然違和感がありません。これもコメディのツッコミとして読めちゃうからだろうと思います。本当に怖いんだということと、なんとかひーちゃんの気分を害さずに返品できないかという主人公の必死さが伝わってきました。友情、愛をひしひしと感じますね。素敵です。

 そしてラストは本当にホラーでした。おとぼけ感ありながら、物語としてきちんと締めていて、スマートさを感じます。今回、「ダークコメディ」部門としては、『リクルートスーツの死神』とこちらの作品が双璧、という感想を持ちました。

 

「ホラーコメディ」の大会もいつか開催したいですね。おそらくその分野においては、猫とホウキさんと南のとさんは〈殿堂入り〉クラスの作品を作りあげられる作者様ではないかと私は予想できるのですが…………気味の悪さより笑いの方を強めにしていただけると、助かります……(怖がり──ネタ振りじゃないですからね)。





森の中での食い違い/南のと

https://kakuyomu.jp/works/16816700427154710828


(管理人の講評)

 私がもうちょっと若かったころに(!)、文章がもっとうまくなりたいと思い、レトリックの勉強をしていたことがあったのですね。その項目の中で一番興味をそそられたのが「コンフリクト」でした。ビジネス用語のように解説してあるサイトもありますが、コミュニケーション用語といったところでしょうか……。

 とにかく、いつか不穏な感じのコンフリクト作品を書いてみたいなぁ、とずっと胸に描いていて、まさかこんなところで不意に出会えるとは思わず、興奮してしまいました。

 この作品、まさに絵に描いたような「コンフリクト」。ニンゲン公爵とクマ子爵のやりとりはたしかにビジネスのそれです。互いが譲らず、おかしな提案をくりだしながら必死の交渉が展開される、ユーモラスでありながらドキドキハラハラな前半部分は非常に惹き込まれました。

 そして、登場人物は二人だけかと思っていましたら、突然「地の文」の暴走がはじまり、後半、謎の「三つ巴プロレス」となりましたよね……。しかし三者とも強烈に絡み合うまではいかず、さっと引いて終わり、「あれ?」と思ったところでエピソードウィンドウを閉じて再びタイトルに目をやったときに、「なるほど、うまいことつけたもんだな……」とニヤリとさせられました。

 これほどまで「齟齬」という単語が似合う作品はないでしょう。


 長さが、若干気になるところ……でしたかね。『ふいごのように』は内容があの凄まじさ、グロテスクさですから、前半のじっくり味わわせる物語と地の文が読者に語りかけてくるあの部分は笑わせてくれ、むしろ救われたのですが、こちらは内容がそこまで破調が似合うとも言えず、クマとニンゲンのやりとりだけでもできあがっていたので、ここまでふざける必要はなさそうな気もしました。

 いや、名前が「ニンゲン公爵」って、結構ふざけてるんですけど……ということでしたら、私が真面目に捉えてしまったのかもしれません。前半の丁寧な文章も前フリだったとしたらとんだ「業師」ですが、多分、シンプルに仕上げられていたとしてもすばらしい作品だったと思います。

 とにかく、クマとニンゲンのやりとりで一万六千字超えを書いてしまう、読ませてしまうというこの文章力……。読まれたユーザーさんが「怖い」とおっしゃっていましたが、私はむしろ「南さんの文章力が一番怖かった」と思ってしまいました。


 『ふいごのように』と『疑似的な行為』(個人的に好きなやつです)の二本の「残酷ワクチン」を打ったおかげで私の体質は強くなったのだと思います。副作用は……ありませんでしたよ! これからも定期的に接種に伺います、お願いしますね!





第1回ドラゴン対策会議/ももも

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890994977



(管理人の講評)

 もももさん、初参戦ありがとうございます。Twitterから来てくださったということで、宣伝してよかったと思いました。


 こちら、双葉屋ほいるさんの企画に投じられた作品だと思うのですが、ダーティージョークとして大変おもしろい書き方をされているな、とある意味感動しました。


 今大会では、@John-Dさんが『紙皿』『授業参観日』という珠玉の(!)ダーティー作品を投稿してくださっていますが、あれがまさに「THEダーティー」という感じで(ここからちょっと、発言閲覧注意になりますよ……)、通常、ダーティー作品というのは、例のブツを「手で掴んじゃう、あるいは食べちゃう」みたいな作品が多いんですよね。


 しかしこちらは非常に上品に、そのものの発現を「回避する」ことにてんやわんやするという方向の物語でした。その辺がとても新鮮に感じました。清潔を重んじる日本人向け作品なのかも……?

 ドラゴンという幻獣の排泄を取りあげるという発想の意外性。大臣たちの調子のいい言動は風刺作品のようで、色合いが多彩で存分に楽しめる世界観だったと思います。こういうユーモア、童話風の物語、大変好きです。


 ドラゴンにキャベツとトマト与えちゃったんですか……なんか象みたい。「餌付け」「飼料代」という動物園ワードの現実感もたまりませんね。多摩川のタマちゃん的な世間を賑わせたニュースを思い出しちゃいました(知らない人は調べましょう)。




ともだち100人できたかな?/つるよしの

https://kakuyomu.jp/works/16816452219171625110



(管理人の講評)

 つるさんも初参加作家さんですね。総評で申しあげたとおり、Twitterのスペースで煙突さんと会話させていただくことがあったのですが、その煙突さんにご紹介いただきお知り合いになり、作品を読ませてもらいました。

 夜、30分くらい三人で創作関連の話をして、その後退室してふと通知を見たらいきなりご参加くださっていました。まさに秒速参加。大変ありがとうございました。


 私はSFはそこまでくわしいジャンルではないのですが、こちらの作品、3000字未満と短いながらおもしろ要素がたくさん詰まっていて、すごいですね。

 コンテストのテーマの「スマホ」。皆がよく知る歌詞の無邪気さの中にある「強迫性」。子どもも大人も閉じ込められている「悲しきディストピア」。


 小難しい知識がなくても楽しめる身近でシンプルな小道具を入口にしながら、なかなかに怖い世界がユニークでした。このような乾いたやりとりで本当に「友達」と言えるのか……。ここで述べられている「平等」「公平」って大丈夫なの? どこか繊細で知的なすばらしい社会風刺作品だと思いました。




(笑いのバーテンダーさんの講評)

 小生は、この度の企画を通して、ブラックユーモアには大きく二つの型があることを勉強させて頂きました。一つは、身近でポップな言葉や物を、ダークな角度から切ることでユーモアが生まれる、というものであります。二つ目の型は反対に、死やグロテスクなど陰鬱な対象をユーモア化させるというものでした。もちろん、これらに属さない類ナシの作も見受けられましたが、おおまかにはこの二つだと思っております。

 小生の中には、この一つ目の型の発想はまるでありませんでした。ブラックユーモア小説を書こうと意識しても、二つ目の型ばかりで考えていただけに、大変参考となりました。

 当企画において一つ目の型に当たるのは、崇期『十二支をダークな感じで覚えませんか?』、佐倉島こみかん『いちゃラブ地雷』、塩塚不二夫『下衆』(順不同に注意 敬称略、御免)などになるでしょう。

 それからつるよしの『ともだち100人できたかな?』もこちらに属するものだと考えます。誰もが知る歌謡曲「一年生になったら」のフレーズ、「ともだち100人できるかな」を、ダークな角度から切ることで生まれたユーモア小説かと思います。(誰もが知ると申しましたが、世代間格差や地域差などで耳にしたことのない方も居られるのでしょうか。)

 つるよしの氏はSF作品を多く輩出していらっしゃる作家であり、当小説もSFであります。小生の考えるSF作品の側面のひとつに、「現実社会をSF的に分解して再構築する為に、現実社会のある問題が却って顕在化する」、がございます。無論、全てのSF作品がそうだとは言いませんが、当小説には当てはまっていると思います。それはSNSに始まるデジタル社会であり、階級社会であり、ステータス社会に対するものと受け取りました。

 そして小生は、SFの持つ分解して再構築と、ブラックユーモア前者の型のダークな角度で切る、に親和性があるように感じました。いや、一概に親和性があるとは言い切れませんが、この小説においては、両者が確かにマッチングしております。だからこそ、現実社会を生きる小生としても、二千字という小さな小説を通して見たSF世界に対して、「ああ、なんとなく分かるなあ」と、十分楽しめました。





蛙女が恋をした/古博かん

https://kakuyomu.jp/works/16816700426743177402



(笑いのバーテンダーさんの講評)

 つるよしの『ともだち100人できたかな?』の講評で書かせて頂いた、ブラックユーモアの二つの型の論を引き継いで書いていきます。二つ目の型として挙げた、死やグロテスクなど陰鬱な対象をユーモア化させた小説は、当企画にも多く見られました。崇期『アルルカンが世界中の誰よりも作者の期待に応えたいと奮闘努力をする小説』、いちはじめ『最後の料理』、タツマゲドン『悪役』(順不同に注意 敬称略、御免)がそれに当たりますでしょうか。崇期氏は二つの型どちらも書かれていらっしゃるのですね。さすがは当企画のマスターです。

 さて、この後者の型でピックアップさせて頂きたい作が、古博かん『蛙女が恋をした』です。

 ホラーのエンタテインメントを日頃摂取しない小生からすると、恐怖を齎もたらす事物は、死した怨霊や物の怪の類である、という固定観念を持っておりました。ですから、生きた女性が化け物に変わっていく、この蛙女が新鮮に不気味でした。人を食っておきながら「元の日常に戻っていった。」とは、猶のこと恐ろしいです。

 それから、名前ではない呼称を用いるのも当小説の魅力の一つではないでしょうか。蛙女は、容姿から蛙女と名指しされ、それが化け物の蛙的な性質へと繋がってゆく。そしてこの繋がりと、女が恋慕に乱れて男を襲うという話が、実に嚙み合っております。

 一方、イケメンはどうでしょうか。小生には、あまりに俗っぽく、文章の雰囲気に溶け込んでいないように思えました。優男であるとか、もう少し小説然とした呼称になさってもよかったのではなかろうか、と。しかし、それは小生の誤りでございました。

 蛙女の背後から小説世界をやや俯瞰する形で、こちらの小説は書かれております。蛙女にはこの男の名前を知る機会がなかった。では、その為にイケメンと呼称する他は無かったかと言いますと、そうとも限らず別の小説然とした呼称としても良かった筈ではないでしょうか。イケメン、としなければならなかったのは、ビクビク生きる内向的な蛙女の視点で綴る小説世界と、かの社交的で明るい男とでは住む世界が異なる為なのであります。ですから、男の存在は小説の中に溶け込まず、イケメンという呼称で、常に浮いているのです。物の例えとなりますが、彼岸と此岸で見るならば、イケメンは此岸、蛙女は彼岸でしょうか。

 そうと考えつくと、小生にはもうそうとしか思えません。

 読書とは得てして、読み手の独りよがりな解釈こそが中心にありますでしょうから、どうか拙筆をお許しください。



(管理人のちょこっと感想)

 私もこの作品大好きでしたよー。もし『ブラックユーモア作品集 ー笑いのヒトキワ荘・編ー』みたいな本を出版するなら、こちらは絶対収録します。物語としての引きの強さ、どこか木訥とした語り口、蛙女のどろっとした粘着性、なんとも言いがたい魅力を放っていました。すごく怖いのに、物語の中でまた蛙女に会いたい気持ちです。




悪役/タツマゲドン

https://kakuyomu.jp/works/16816700427153047175



(管理人の講評)

 今回、何人かの作家さんと企画のお話ができ、参加作品を読んでくださった方もたくさんいらっしゃった中で、「この作品好きでした」のご意見で、この作品が一番人気が高かったように感じました。


 私も前半で一番注目した作品がこれでした。SNSの記事を冒頭に据え、そこから物語に移っていくという、非常におもしろい構成ですね。群像劇として視点を変えて見せていき、罪や価値がころっと変わってしまうように、意見も易々と変わってしまい、それをたやすく公衆の面前で披露するという人々の浅はかさ。


 短い作品なので、あれこれ語る必要はないかもしれません。最後の段落での主人公である職を失った清掃員をジロジロと見ていた男、もしこれが最初に出てきた帰宅中の男だったら、助けてあげたいという思いで見ていたのだとしたら──。また、最初は43.7k、 26.7kもあったホームレス関連記事に対する反応が、一番最後のツイートでは極端に少なくなっています。これを思うととても悲しいですね。

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