3.

12月、街はすっかりクリスマスムード。

だけど俺はクリスマスが大嫌いだった。


あの白いひげに赤い服のサンタさんって奴がどうしても好きになれなくて。

だってそうでしょ?

不公平じゃんか。良い子は綺麗にラッピングされたきらきらのプレゼントを貰えるのに、悪い子はせいぜいが炭だけなんて。

それじゃ良い子になれない俺は、25日を迎えられないんだ。


実際、俺はプレゼントを貰えない子だった。

自分でも自分が叱られてばっかりなのは理解しているから、イブは一日中不安だった。それでも心のどこかでは、カラフルな包装用紙をびりびりちぎって憧れのライダーベルトや赤いマントを取り出す瞬間を夢見ていた。


初めて、プレゼントが無かったその年は……きっと大晦日のお片付けが終わっても、この息苦しい気持ちだけは片づけることができないだろうと思った。サンタさんが俺を見限ったんだと知って、会ったこともないサンタさんの冷たい顔を想像した。底抜けに明るいクリスマスソングが胸をチクチク刺してきて、何だかひどく重苦しかった。


夜深だけが救いだった。

いつかの25日、俺の分のプレゼントがないことに気づいたとき、あの子はまずどうしようという顔をした。それから「心当たりがあるんじゃない?」と遠回しに言いたげな二人の親を他所に…まるで俺が良い子だと確信しているみたいに…部屋中を漁ってクリスマスプレゼントを探し始めた。俺も一生懸命に、あちこち探した。

探し尽くして結局何も見つからなかったとき夜深はまだ箱から出されてもいないおもちゃを俺に差し出したんだ。


「…二人で一個ってことみたい。

一緒にあそぼ?」


こてんと首を傾げてさ。

俺は初めぽかんとして言葉の意味を取りかねていた。けれどもじんわりとその優しさが沁みてきて、沈みこんでいたこころを解きほぐしていったから…俺は夜深がますます大好きになったよ。


あれ以来、俺にサンタさんからのプレゼントが来ることはなかった。でも夜深が、サンタさんの代わりをしてくれたんだ。

毎年、夜深がこっそりと用意をしてくれる、ほんの小さなプレゼントが楽しみだった。

これが本物のサンタさんからじゃないのは分かっていたし、お互いそれを知っているのを知っていた。けれども決まって俺たちは、サンタさんがこっそりくれたんだよと言い合った。

その習慣は、俺が怪盗になった今でも自然と続いている。




俺のサンタさんはトクベツなんだ。

俺のもとにだけ現れる、うりふたつの顔したサンタさん。










「ねぇ、今年もクリスマスが近いよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Merry Christmas! @donuts_07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る