濃紺と銀色–5


 星と花火を堪能して騒ぎ疲れた帰り道。自転車通学で、家も同じ方向だった私と陽太は二人でコンビニに寄り、アイスを買った。



 その当時仲の良い友人たちみんなでハマっていた「当たりくじ」付きアイスバー。それが並んだアイスボックスにそっと手を入れる。さっきまで熱を持っていた右手の指先がひんやりと気持ちいい。



「あったー、アップルミント味」



その中でも最後の一本となっていた、一番のお気に入りであるこの夏のフレーバーに嬉々として手を伸ばす。そのとき。



「あのさ星野」



「なにさ斎藤」



「隙あり」



 アイスボックスの中で急に右手首を掴まれて、びっくりした私はラス一のアイスバーから手を離してしまった。



 それを器用に左手でキャッチして、先ほど腹を蹴られたばかりの王様はにこりと笑った。



「おれ、絶対こういうの当たり引く自信あるんだわ。王様ゲームリベンジなこれ」



「なにそれ意味わかんない、つか最後の一本! 返してよー!」



「やだ。その代わり星野にはおれの好きなコーラ味やる」



「コーラ味いつでも食べれるもん! 返してよ限定フレーバー!」



「あっ、腹が、腹が痛い。さっき蹴られたとこ痣になってるかも。見る? 星野。俺のかわいそうかつエロかっこいい腹」



 制服のスラックスからだらしなくはみ出したシャツの裾を、涼しい顔でまくりあげようとする目の前の相手から、思わず飛び退った私に、「これは慰謝料としていただく。その代わりコーラ味奢るからさ」と言って、陽太は笑った。



 そしてコンビニを出て10秒でアイスバーを食べ切ったそいつは、「当たり」と書かれた棒を、留めた自転車の荷台に腰掛けた私の目の前で得意げにひらひらと振った。



「ほら、王様を信じるといいことあるだろ?」

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