53、目に見えないものは恐怖(モノによる)
とうとつに理解してしまった。
神々からの怒りが呪いになったという、この国に訪れた悲劇を。
「伸びるね、これ」
「これはこれで美味しいですが、思っていたのと違います」
「奇遇だね。私も同じ気持ちだよ」
「コレジャナイ感がすごいです」
「……そうなのか?」
口からチーズを伸ばしながら「すん」とした顔の私とアイリちゃん。
一方、そんな私たちを不思議そうに見ているディーンさん。
窓から見えるのは、ワビサビが詰め込まれた庭園。
食事の時間に案内されたのは畳の部屋で、各々に御膳が用意されていた。
そこに運ばれてきたのは焼きたての……ピザだったよ。
トマトの酸味と香草が、チーズのとろみとマッチしていて美味しい。そして有り得ないくらいに伸びるチーズがすごい。少し冷めた状態でもずっと伸びているのだ。
いやいやだって、異世界もののテンプレで「東」の料理といえば、もっとこう、日本っぽい何かを連想するじゃない!?
ましてや畳とか和装の文化があるんだし、期待くらいしちゃうでしょ!?
あまり顔に出さないようにしている私に比べて、現代日本人の味覚を持つアイリちゃんはあからさまにガッカリしている。
神様たちも、そうだったんじゃないのかな。やたら日本に詳しい感じだったし、感覚みたいなものが似ている気がするんだよね。
水の女神様も、牛の女神様……うしたんもラーメンを希望していたくらいだし。
まぁ、祝福を呪いにするくらい怒ったかは知らないけど……ちょっとくらいは怒ったような気がするよ。
「もっとこう、あっさりとした味のを想像していた」
「海産物などのお出汁を使った、味わい深い料理を期待してました」
「東(アヅマ)の国でも大陸側はこれが普通だ。あっさりとしたのが好みなら島側のほうか……」
「島!?」
「島があるのですか!?」
「あ、ああ。東(アヅマ)の文化は、大陸と島で大きく分かれている」
そうだった。ディーンさんは世界中を旅しているから、各国の文化とかに詳しいのを忘れていた。
ハッ!! まさかっ!?
「お前の探しているものも、島の文化だ」
やっぱりかーーー!!!!
それだともしかしたら、ここの帝サマに聞いても分からないやつじゃないの?
「ここでの用事が終わったら案内しよう。竜体になればすぐだが……」
「がまんします! がんばります!」
おお、竜酔いするアイリちゃんが気合い入っている!!
それならば私も頑張ろう。
「私も『奇跡』でなんとか出来ないか、教典を見直してみるよ」
すっかり忘れていたけれど、神官になった時に『奇跡』について詳しく書かれた教典をもらったんだよね。これに酔い止めとかあるかもしれない。
いつも『祈り』で何とかなっていたから、他のを使っていなかった。反省。
「クリスさんの教典って、どういうのですか?」
「あ、読んでみる?」
袖から分厚い上にやたら大きな書物を取り出したのを見て、ギョッとするアイリちゃん。
違いますよ。未来の青いロボのアレじゃないですよ。
「す、すごいですね」
「神官服の刺繍は、特殊な技法で魔法陣が刻まれているからね。私の荷物が少ないのもそれが理由なんだけど……教典はほとんど開いてなくて。えへへ」
「確かにこれだと開く場所も限られちゃいますね」
例えるならば大きめのカバンのようなサイズだ。しかも鉄の錠前が付いていて、やたら重い。
制約がついているから奪われることはないけれど、ここまで重くする理由はよくわからない。
鍵を『祈り』で解除し、畳に置いてページを開く。
「わぁ……これ、読めないです」
「そう? ディーンさんも?」
「ああ、読めないというよりは読ませないようになっているな」
なるほど。誰かに持っていかれても「読めないようになっている」から、特に取り扱いに関する注意事項がなかったのか。
ということは、私が頑張って読まないとダメなのね……。
「大丈夫ですよクリスさん! 私、がんばりますから!」
「いやいや、たまには読まないとね。神官としてのお仕事として」
もしかしたら『祈り』では対処できない案件があるかもしれないからね。
翌日、あくびを噛みころしながら日課の『祈り』をしていると、私よりも前に起きていたディーンさんがお茶をいれてくれる。
アイリちゃんはまだ寝ているとのこと。
寝室として案内された部屋は襖で四つに仕切れる和室だった。
洋室だと完全個室になるから護衛の問題が面倒だけど、こういう感じだと何かあったらすぐに対処できるし、壁を壊さなくてすむからありがたいってディーンさんが言ってた。
いや、できれば壁は壊さんでもろて……。
部屋に持ってきてもらった朝食は、野菜たっぷりのピタサンドみたいなものだ。
コーンスープと果物のジュースもあって、栄養バランスが良さそうだね。ははは。
「御膳にのせる意味ですよ……」
「うーん……」
「そんなにおかしいか?」
ディーンさんは気にならないみたい。
つまりこの感覚は、異世界転移者にのみ発現するものなのか!?(ばばーん)
「ご朝食中、失礼いたします。お支度できましたら控えているものにお声がけくださいませ」
「わかりました」
デザートを持ってきてくれた着物姿の女性が「正座をしたまま」静々と出て行った。
ちょっとホラー。
「ここで働く人たちの移動方法、怖くないですか?」
「人ではないな」
「ひっ、ひとではない、の?」
思わず声がひっくり返ってしまった。
人じゃないって何? 幽霊? お化けなの?
ゾンビやスケルトンはいいけど幽霊は無理なので!!!!
あ、海外の霊は大丈夫です。白いワンピースとか白いパンツ一枚のも平気。
「あれは『式』ってやつだろう。帝ってやつが警戒して、この部屋近辺には人を置いていないようだ」
「私たちは術で守られているってこと?」
「守ると同時に、外へ出さないようにもしているな」
さらりと恐ろしいことを言うディーンさんだけど、表情は余裕といった感じで。
「じゃあ、出たい時は?」
「術を破る」
「なるほど」
とりあえず穏便に進めたいので、それは最後の手段ということでオネシャス。
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