52、好奇心は何かをコロコロさせる


「ここは身分など関係ない場として設けておる。茶を出そう」


 通された部屋は懐かしの「畳」だった。やはりイメージしていた日本に近いのかなぁと思うけれど、さっきの謁見の間?は西洋風だったように思える。

 いや、西洋とか東洋とかハッキリ分かるかと聞かれたら謝るしかないのですががが。


 柔らかな桃色の髪を揺らし、まっすぐに私を見ている美少年。

 なんとなく予想はしていたけれど、身分だのなんだの言ってるってことは偉い人なのね。そして外見通りの年齢じゃないのね。

 面倒そうだから色々スルーしたい。でも、お茶は飲みたい。


「我が国は呪われておる。特に王族は呪い持ちが多い」


 いそいそと靴を脱ぎ、畳に上がらせてもらったところでの第一声が重すぎる。

 私としてはトラディショナル・アンダーウエアの話をですね。


「その血を受け継がせないためには、外からの血が必要となる」


 あ、この体って正座できるのか不安だったけど、なんとか出来た!

 後ろにいるアイリちゃんはもちろん綺麗な所作で座り、ディーンさんに至ってはしれっと正座していやがる。なんか悔しい。


 お茶は残念ながら紅茶が出てきたよ。

 なんで抹茶じゃないの? こんだけ和のテイストを出しておきながら、ナンデ???


「ミーたんは、王族の血から逃れた子ぞ。我は、我の血を後に残したくない」


 ところで、今は何の話をしているんですかね?

 すっかりトラディショナル・アンダーウェアの話をする気満々だったので、いまいち話の流れについていけないのですが。


「あのー、今さらなんですが、あなた様はこの国の王様……帝だったりします?」


「クリスさん、本当に今さらですね!?」


「鈍すぎるだろう……」


 流れるようにツッコミを入れるアイリちゃんとディーンさん。


 いや、気づいてたよ? 気づいていたけど、あえて知らんフリしていたのだよ?

 話の流れが深刻な感じだったから、肝心な所をスルーするのもどうかと思ってですね。


「あいや、すまぬ。我は今代の帝『舜』である。気楽にシュンたんと呼んでくれても……」


「却下で」


「つれないの」


 誰が好んで、見るからに厄介そうな権力者とキャッキャウフフするかっての。

 それに私の役職は『巡礼神官』だ。普通の神官はどうか知らないけど、各国から庇護される代わりに、どこかの権力者に肩入れするなんてことはできないのだ。


 とはいえ、銀色の髪の繋がりで某侯爵家が後ろ盾になってくれているけれども。


「我には多くの姫がおっての。ぜひ強き力を持つ神官殿に嫁がせ……」


「却下で」


「つれないの。そこの護衛はどうだ?」


「……断る」


「つれないの」


 この腹黒ショタ帝は、私たちの答えを想定していただろうに、悲しげな表情をしていやがりますよ。ぺっ。

 あとディーンさんは竜族なので、そもそも人とは相入れない気がするのですが。


「冗談はともかく」


「冗談ではないのだがの」


 はいはい。スルーしますよ。

 そして今さら不敬と言われても態度を改めませんよ。


「わざわざ私を連れてきたのは、何か理由があるのでは?」


「うむ」


 頷いたショタ帝(ピンク)は背すじをのばし、ゆっくりと頭を下げた。


「今代の巡礼神官クリス殿。どうかこの国の呪いを解いてほしい」


「それ、私に出来ることですか?」


「歴代の巡礼神官殿も、手を尽くしてくれていたがの……」


 え、それって無理ゲーでは?

 斜め後ろにいるディーンさんが声を発する。


「……それを行うことで、こちらに不利益なことは?」


「それはない。むしろ不可能である。我らは神に仕える者たちを害することはできぬ。……なによりも、長すぎる生を我は自ら終わらせるわけにはいかぬのだ。我が生きているかぎり民のために手を尽くしていく。これが上に立つ者としての使命であろう?」


「長すぎる生とは、どれくらい……と聞いても良いですか?」


「ここ数代の帝は『舜』となっておる。つまりその分のすべてである」


 え? どういうこと? その少年の姿でずっと生きていたってこと?

 子沢山みたいに言ってなかった?


「我の呪いが発動し、若返ると代を変えることになるのだ。側近がおれば正確な年数を記憶しておるぞ。問うてみるか?」


「いえ、そこまでは結構です」


 呪いを解くなんて、そんな高等なこと出来るのか私。

 大怪我した冒険者を助けたり、なんか祭事に参加したりしたけど……。


 ん? そういえば東の国について少ない情報だったけど、唯一印象に残ったものがあったっけ。


「あの、この国に神殿はない、ですよね?」


「うむ。我が生まれる前から、この国に神殿はない」


 つまり、この国に神を呼べないのでは……。


「なぜですか? 何かあったんですか?」


 アイリちゃんが少女を全面に出してグイグイ問いかけてる。いいぞ、もっとやれ。

 そして早く次の話題に移ってほしい。


「これは王族しか知らぬ秘密なのだが……我らの呪いは本来『祝福』と呼ばれるものであった。しかし、この国が興ってから我らは神々の主(しゅ)となる御方を怒らせたという言い伝えがある」


「神々の主(しゅ)?」


 そんな神(ひと)いたっけ?

 あと神様たちってわりとフランクだし、よっぽどのことがない限り怒るなんてなさそうだけど。


「この城の奥に、この国唯一の神殿がある。明日にでも案内したいのだが」


「それはいいのですが……」


「食事も寝所も用意しよう」


「ありがたくお受けいたしましょう」


「……おい」


 ディーンさんから、バリトンボイスツッコミをいただきました。ありがとう。


 だって!!

 東の国の食事が気になるのですよ!!

 アイリちゃんも目を輝かしておりますしおすし!!


「……気をつけろよ」


 はーい!!

 気をつけまーす!!


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