49、次の目的地は……


 いじけていても仕方がない。

 私は私で、この世界を楽しんで生きていくと決めたはず。


 となると、どう彼女と接するかの方向も決まった。

 時系列は違えど、私が同じ日本から来たことは彼女に言わない。


『それで、いいの?』


 心配そうな水の女神様の声に、こくりと頷く。

 なぜなら、同郷の人間だと知ったところで、片方が帰れて片方が残るなんて、彼女にとって重荷にしかならないと思うから。

 もしかしたら考えが変わるかもしれないけど、今のところ言わない方向でいくことにするよ。


 考えをまとめ終えた私は『祈り』の姿勢になって辺りを浄化する。

 ここ最近の、諸々まとめて感謝を捧げておこう。


 簡易的な法衣を身につけてきて良かった。どんな時でも巡礼神官の証は手元にあったほうがいいかもね。突発的な『祈り』に対応できないのは困る。

 法衣がなくても神官としての力を使えるけれど、それなりに格好つけておかないとね。周りへのアピールが必要な時もあるだろうし……。


 いつもより長めに『祈り』を捧げ終わった私が膝についた土を払って振り返ると、アイリちゃんが目をキラキラと輝かせている。

 急にどうした。


「……本当に神官様だったんですね」


「なんだと思っていたのかな?」


 思わず苦笑して返せば、アイリちゃんが頬を染めて「クリスさんってお兄ちゃんに似てる」などと言っている。

 アイリちゃん……さてはブラコンだな?


「さぁ、宿に戻るか」


「ディーンさん、ありがとうございます」


「……俺には、ずっとそれなのか?」


「え?」


「クリスさん、たぶん言葉づかいのことですよ」


 首を傾げる私の横で、ピンときたらしいアイリちゃんがこっそり(?)と教えてくれる。

 言葉づかいと言われましても。


「ディーンさんは年上ですし……」


「お前とそう変わらん。普通にしろ」


「そう言われましても……」


 困っていると、服をくいくいっと引っ張ってくる顔を真っ赤にしたアイリちゃんが。

 どしたの?


「ディーンさんのお願いを聞いてあげてください。私からもお願いします」


「なんで?」


「いいから! お願いします!」


「わかった、わかったから落ち着いて。少しずつ頑張るから、ね?」


 顔がどんどん真っ赤になるアイリちゃんが心配で、とりあえず無難な回答をしておく。

 ディーンさんが「でかした」とばかりに頷いているから、これが正解なのだろう。だけどなんだか納得いかない。

 まぁ、言葉づかいくらいでヤイヤイ言うのもおかしいし、気にしないでおこう。うん。







 翌日、港町のグルメは粗方把握できたため、出発前に教会に寄ることにする。


 いや間違えた。


 宿の裏にあった泉を始めとする、この近辺の神様スポットには『祈り』を捧げておいたから出発することにする。

 相変わらず神様たちの反応はうすいけど、この世界の神官にとってはこれでもかなり「神と対話」できるほうなんだと思う。


 教会に行くと、門の前に神官さんが待っていてくれた。

 中に入らないほうがいいらしい。


「すみません、うちの教会は開放的すぎるといいますが……」


「大丈夫ですよ。近くにいる神々には『祈り』を捧げましたから」


「おお! それはありがたいことです! さすが巡礼神官様ですね!」


 いやいや、主にアイリちゃんの今後について話していただけだから、感謝されても困るというかなんというか。

 それでもこの町の神官さんにとって、ありがたいことだったのだろう。

 チラリと奥を覗けば、女性たちがドアのところで鈴なりになっている。私の後ろにいるディーンさんもターゲットになっているみたい。

 セットでお得と言うとる場合か。

 これだと、ちょっとしたホラーになっちゃうよ……。


「それで、宿から連絡が入ったと思いますが」


「はい。神官見習いとして預かっていた『アイリ』についてですね。家族が待っているというのであれば、こちらは問題ありません。道中の無事を祈っております」


「ありがとう、神官さま」


 旅装姿のアイリがペコリと頭を下げている。

 彼女の持っている服が派手な色だったので新しく買おうかと思っていたけど、配色を変えることができるとのことで、申し訳ないけど地味な色に変更してもらったのだ。

 でも、若い子には好きな色の服を着せてあげたいんだけどなぁ……。


 ちなみに私は白基調なのがデフォだよ。それ以外だと巡礼神官と認知されないからね。

 この世界のキラキラしい人たちと違って、私の顔のつくりは地味目なのだ。やれやれなのだ。


「そうか? 銀色の髪や紫の瞳も、かなり目立つと思うぞ」


「クリスさんはオーラがありますからね! 目立ちます!」


 え、あ、うん、そう?

 二人の言葉に微妙な笑顔で応えながら、港町を出発する。

 次は……あれ? どこに行くんだっけ?


「その子が良ければ、行きたい場所があるのだが」


「アイリちゃんはどこからでも帰れるから大丈夫です……大丈夫だよ」


「そうか。ならば東に向かわないか?」


「東……!? もしかして、あの?」


「たぶん、お望みのものも手に入ると思う」


「行く行く!! アイリちゃん、大丈夫!?」


「は、はい。大丈夫、ですよ?」


 一気にテンションが上がった私に少し引いているアイリちゃん。

 そりゃ、気持ちが抑えきれなくもなるよ。


 東といえば、アレがありますからね!!




 いざゆかん!!

 我らが至高のアイテム!! フンドシの聖地へ!!

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