46、すっかりリゾート気分



 海へ向かって続く街並みに、色とりどりの果物と看板が並ぶ露店が続いている。

 メインの通りは人が多く行き交っていて、観光客もいれば仕入れするために店の人と交渉している商人もいたりする。

 活気のある風景の中、私の目を惹いたのは……。


「モフモフの耳……!!」


「ああ、獣人か。初めて見たのか? 確かに、こういう場所じゃないと姿を見ないだろうが」


「はい!! 色々な耳と尻尾があるんですね!!」


「種族によって違うからな……って、それくらいは知っているだろう?」


「はい!! 知識としてあるのと、見るのでは大違いですね!!」


「……竜族は獣人よりも珍しい種族なんだが」


 ディーンさんが何か呟いているけど、私のテンションの上がりっぷりはとどまることを知らない時間の中にいるのだ。フゥーッ!!

 森の中で会った子狼の神様をモフッたのが最後だった私は、やっぱりモフモフしたいと尻尾を見ながら手をワキワキさせてしまう。

 おっといけない。このまま暴走したらセクハラになってしまう。


「えっと、魚介を使った食事が出来るところはどこですかね?」


「やっと落ち着いたか。ここら辺の店なら、ほぼ魚介料理を出す。もっと海に近ければ安い店もあるぞ」


 そ、それはもしや、お祭りなどにある出店みたいなもんですかね?

 焼いた貝とか、焼いた魚とか、焼いたイカとかをその場で食べるみたいなじゅるり。


『蟹……いい蟹があったら供物頼むわ……』


 おや? やけに疲れた声の風の神様がいらっしゃる?

 海風が強いからお仕事中なのかしら?


『今日は波を高くする日でなぁ……アイツら神(ひと)扱いが厳しいねん……』


 アイツらというのが誰かは分からないけど、とりあえず風の神様は基本真面目なんだろうなってことにしておこう。


「ティーンさん、新鮮な魚介が売っているところに行きたいです」


「なら海側だな」


 ディーンさんは伴侶?を探しながら色々なところを旅しているせいか、地理に詳しい。そして各地の名産にも詳しい。

 護衛の腕だけじゃなく、知識も豊富なのは本当に助かります。神様たちのプッシュもあったとはいえ、教会の依頼を引き受けてくれたのは本当に本当にありがたい。


「あ、そうだ。麺料理ってあります?」


「ああ、王都近くから小麦を供給しているからな。あと高台のほうに牧場もあるから、肉も乳製品も豊富だ」


 なるほど。さらに海ということもあって、交易も潤っているということか。

 ふむふむ……なんて言っているけど、実際何が良いとかよく分かっていなかったりする。地理も歴史も苦手だったからな……得意なのは保健体育だったからな……。


 海側にある露店は、思った通り海産物の宝庫だった。

 漁師がそのまま店を出して売るのもあれば、焼いたり煮たりして出してくれるところもある。新鮮で安く手に入れたいなら、断然こっちだろう。


「町の店は、手の込んだ料理が出る。王都からわざわざ移住して、新しい味を生み出している料理人もいるというぞ」


「もが! もぐもがが!」


「そんなに急ぐな。落ち着いて食え」


「もぐが!」


 ただ塩をふっただけ、ちょっとお酒をいれただけ、ちょっと焼いて、ちょっと煮ただけでこんなに美味しいとは!

 久しぶりすぎる海の味覚に、ただただ涙する私。


 ただ残念だったのは、町の料理のほとんどがイタリアーンなこと。

 王都から移住したという料理人も創作フレンチという感じで、牛の女神様が求めているラーメンは無さそうだった。パスタっぽいのはあったんだけどね、残念。


『しょぎょうむじょう』


 まぁまぁそう落ち込まないでくださいよ。

 王都からの料理人さんは、私が話した「らぁめん」という食べ物に興味を持ってくれましたし。


『次回、乞うご期待』


 そうですね。また来ましょうね。







 ここの神官さんが用意してくれた宿は、町から少し離れた場所にある劇場(!)に隣接されていて、いかにも観光客用といった造りをしている。

 お貴族様も泊まるというこの場所は、町の中で一番安全な宿なんですって。


「神殿が安全じゃないって、ここって治安悪いんですかね?」


「悪くはないが、ここは奔放な人間が多い」


「……なるほど?」


 つまり悪意はないけど奔放な人たちが多いということか。


「特に王都から来た男は狙われやすい。気をつけろ」


 なんで?

 あと私は巡礼神官なので、手を出した時点で処罰対象になっちゃうよ?


「犯罪者を増やさないように神殿も苦労してるのだろうな」


「……なるほど?」


 エントランスに入れば、目ざとく私の法衣に気づいた宿の従業員がスマートに案内してくれる。さすがお貴族様も利用しているだけあるね。

 建物は複雑な構造をしていて、階段を上ったり降りたりしながら案内の人について行く。

 何かあったらすぐ逃げられるのかなぁと思っていたら、ディーンさんから「窓から出ればいい」との助言が。そりゃ竜化できるなら窓からだろうけどさ。


 部屋にはすでに荷物が置いてあった。それらの整理は後回しにして、さっそくテラスに出てみる。ちょうど町と海が見えるように建っているから、見晴らしもよくて海風が心地良い。

 そして嬉しいことに、お風呂が設置されている。


「露天風呂ですよ!! ディーンさん!!」


「あの神官長、奮発したな」


 ああ、中央神殿で贅沢をしていたから、しばらくお風呂は我慢かと思っていたのもあって嬉しすぎる!! やったー!!

 さっそく服を脱ごうとしたらディーンさんに首根っこを掴まれてしまう。


「落ち着け。せめて俺がいなくなってから入れ」


 はーい、ごめんなさーい。

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