45、魚介の料理といえば……?
今さらだけど、私が落ちた国は『聖王国』と呼ばれている。
その周りをぐるっと取り囲むように他の国が隣接しているのだけど、砂漠や森や山が間にあるから滅多に戦争が起こらない……らしい。
実際は裏で色々あったりするのかもだけど、表立った戦争は1000年前の大規模な地殻変動により強制終了したとのこと。
『主神がね、ブチ切れたのよ』
主神? え、ちゃんと挨拶してたかな私……。
『その時のことがあって、主神は寝ているから気にしないで。代わりに私たちがこの世界を少しずつ回すことになったんだけど』
へぇ、少しずつ?
それにしては、水の女神様の負担が大きいような気がするけど?
『主神とは仲良しだから、つい色々やっちゃうのよねー』
友情って、素敵だね!
馬車の中にある干し肉袋は残り二つほど。
満足げに膝の上で寝ている牛の女神ことうしたんを撫でながら、馬車は王都から南へと向かっている。
私たちが最初に目指しているのは港町だ。
「もうすぐ町に着くが、神殿でいいのか?」
「そうですね。まずは神殿に挨拶して、馬車も返さないと……」
「わかった」
道中、ずっと御者をしてくれていたディーンさんに疲れた様子はない。
私はといえば、前に乗った乗合馬車よりも椅子のクッションがよくなっているとはいえ、やっぱりお尻が痛い。坐骨がジンジンしている感じだ。
王都では人が多くて大騒ぎだったけど、さすがにここまで来れば静かだ。
窓から外を見れば、王都よりも緑が少ないのが分かる。
「ここから海が見えるぞ」
「海!!」
ディーンさんの言葉に、膝で寝ているうしたんをそっと肉袋の上にのせた私は、御者席に通じる窓から身を乗り出す。
道は下り坂になっていて、広がる街の家々は薄茶色の屋根と真っ白な壁で統一されている。
坂が多い街並みは段々になっていて、前の世界で見たシチリア島のような……。
「この港は観光名所だ。町の決まりで建物の色が決まっている」
どこの世界でも考えることは一緒かぁ。
「ここは海産物と麺類が美味い」
「早く行きましょう!」
お肉の出番は無かろうと姿を消した牛の女神様には申し訳ないけれど、海と海産物とパスタが私を呼んでいるのだ!
すると消えたはずのうしたんがフワッと出てくる。
『ラーメン見つけたら……呼んで……』
ラーメン好きなのですね!!
うしたん了解です!!
港町の神殿は、海に近いこともあって水の女神様の他に海の神様と魚の女神様が祀られている。
中央神殿から借りていた馬車とは、ここでお別れだ。
馬たちと別れを惜しんでいると、神殿の中から神官さんが出てきた。
なんかこの神官さん、すごく、肌が焼けている……?
「おお! 巡礼神官殿! この町にようこそ!」
「お邪魔しています。まだまだ未熟者ですが、精一杯つとめさせていただきます」
営業スマイルで手を合わせ祈ると、神官さんが驚いている。
神官特有の挨拶なんだけど、何か変だったかな?
「ここの神気が増えましたね。さすが、巡礼神官殿です」
え、ちょっと待って。こんなサーファーみたいな神官さんが神気読めるとか聞いてないんですけど。
『かすかに感じる程度だから大丈夫よ。……たぶん』
たぶんって言っちゃってるじゃん!
「普段はもっと薄いのです。この町は神官の数が少ないのもあり、お恥ずかしい話ですが『祈り』が行き渡らず……」
「いえ、そのために私がいるのですから。この町に滞在中は、しっかりと『祈り』を捧げさせてください」
もともと白を基調として建てられることが多いのに、この町の神殿は景観に合わせてか屋根を薄茶色にしている。ちょっとかわいい。
そして神殿の向こうに、もうひとつ神殿があるのは何でだろう? なんだか異様に騒がしいけど集会とかがあるのかな?
「……宿をとるか」
「え? なんでですか?」
「申し訳ございません。こちらで『月と海』という宿に手配をしておきましたので」
「え? え?」
「わかった」
話は終わったとばかりに馬車に積んでいた荷物をひょいひょいと担ぎ上げたディーンさんは、そのままスタスタと歩いていってしまう。
なんでだろうと思ったその瞬間、奥の神殿からたくさんの視線を向けられていることに気づく。
「女性の神官?」
ひらりと手を振ると、すごい黄色い声が。うわぁ、私って人気者だぁ。
「この町は女性の神官が行儀見習いとして多くおります。若い男は海に出るものがほとんどなので……」
なるほど。それで私とディーンさんは神殿で寝泊まりできないのね。
そして私が人気なんじゃなくて、若い男の神官が珍しいのか。
女性神官と男性神官の神殿は、基本的に行き来することを禁じられている。
それは神官が「清らかな者」でないと奇跡を起こせないとされているからだ。
稀に性別があやふやな者もいるが、それはそれとして本人が決めた性別の神殿に入ってもらうことになっている。邪な思いを持つ者は神官になる資格を得られないため、これまで問題が起きたことはない。
女性神官たちが私に手を振ったりキャーキャー騒いでいるのは、純粋に慕ってくれているからだろうと思う。たぶん。
ちょっと気になったのは、楽しそうにはしゃぐ彼女たちの中で、一人だけ静かに私を見ている女の子だ。ディーンさんと同じく、この世界では珍しい黒髪だから少し気になるなぁ、なんて……。
「おい、行くぞ」
「はーい! では、また来ます」
「巡礼神官殿、お気をつけて」
神官女子たちの黄色い声を背に受けながら、私たちは町へと繰り出す。
いざゆかん!! 海産物グルメが我らを待っている!!
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