38、心が滾りたがっている時もある
「久しぶりだねクリス君。会えるのはもう少し先かと思っていたけれど、思ったよりも早い再会で驚いているよ」
「驚いたのはこっちのほうですよ。なぜ、大神官様と会う部屋にエリーアス神官長が?」
「ふふ、なぜだろうね?」
疑問を疑問で返された!?
もしや、すでに試験が始まっているということか!?
「落ち着け。この人が理由を知らないはずないだろう」
ディーンさんからの冷静なツッコミが入る。
そ、そうだね。落ち着こうか。すぅー、はぁー……。
思い出した。エリーアス神官長は「ちょい意地悪なドS」だった。言葉の意味がよく分からないことになっているのは承知の上である。
エリーアス神官長は意地悪モードから一転、慈愛の笑みを浮かべて私たちを見た。
「ふむふむ、少し見ない間に良い感じになっているね。護衛の……ディーン君も心は決まったかな?」
「ああ」
「何の話です?」
「クリス君の護衛の話だよ」
護衛はディーンさんにやってもらっているのに、護衛の話?
「巡礼する神官を護衛する話だ」
「え!? でもそれはディーンさんの……っ!!」
呪いと言いそうになった私は慌てて口を押さえていると、エリーアス神官長は笑顔のまま衝撃発言をした。
「ディーン君の呪いについては神殿で把握しているよ」
「ええ!? ディーンさん酷い!! 私たちだけの秘密♡じゃなかったんですか!?」
「妙な言いかたをするのはやめろ!!」
自分だけ知らないのが悔しかったので、わざとハートマークを付けました!
まぁ、確かに過保護な神様たちがディーンさんの経歴を調べるのは予想できたことだ。
それにエリーアス神官長は、水の女神様と仲が良さそうだしね。
『べっ、べつにエリーアスとはそういう仲じゃっ……』
あーはいはいそういうことでしたか把握しました。(ノンブレス)
頭の中で騒いでいる女神様(ひと)は、さて置いて。
「ええと、つまりディーンさんは護衛を続けてくれるということですか?」
「そういうことだ」
「呪いは……」
「お前の近くにいれば呪いは抑えることができる。それに護衛を引き受ければ、神殿も協力をしてくれるって話だ」
なるほど。ディーンさんを呪った魔女探しの協力をしてくれるから、私の護衛を引き受けてくれるってことか。
それなら気兼ねなく……。
「では、これからもよろしくお願いします!」
「おう」
「ふふ、良かったねクリス君。ところで最終試験の話をしてもいいかな?」
「あっ、はい!!」
忘れてた!!
「忘れてたという顔をしているけれど、それはいいとして。今代の大神官が山籠もりから帰ってこないから、彼を手なづけ……説得してくるというのを試験内容にしようと思ってね」
今、手なづけろって言おうとしてたよね? 獣? 野生の獣なの?
「そんなんでいいのか?」
「いいもなにも、今代が不在なら先代が最終試験を行う権限があるのだよ」
穏やかに語るエリーアス神官長の微笑みが、次の瞬間とてつもなく黒い何かに変化した。
「あの子は、月に一度の逢瀬を邪魔した挙げ句、大神官としての責務から逃げるという許されざる行為をしたからね……タダでは済まないよ……」
わぁー、神官長様のお怒りが、めっちゃ私怨のやつっぽーい。
ところで水の女神様って、今日は来れないみたいなこと言ってなかったっけ?
『……気のせいよ』
そう? ならいいけど。
というわけで。
身支度を整えた私は、中央神殿の中庭(すごく広い場所)にいる。
山に入るということだから法衣じゃなく、ごく普通の旅人っぽい服装になっている。
神官服は白を基調としているから、汚れの目立たない茶色っぽいコーディネートの旅装を仕入れて……というか、すでにエリーアス神官長が用意してくれていた。
せっかくだから王都で買い物をしたいなぁと思わなくもなかったけど、よくよく考えれば山に行くのはハイキングじゃなく試験のためだ。
文句を言ったら怒られるところだったよ。あぶないあぶない。
「では、いってきます!」
「気をつけてね。あと今代に先代がよろしく言っていたと伝えておいて」
「了解です!」
心なしか黒いオーラを発しているエリーアス神官長は恐ろしいけれど、興奮している今の私にとっては些末なことである。
なぜなら、ディーンさんが竜の姿で目的地に運んでくれることになったからだ!!(ばばーん!!)
神殿に協力してもらえるって、こういうことも入るんだね。便利……!!
「結界の維持は数分です。それまでに町から離れれば姿は見えないようになっておりますから、その点だけご注意くださいませ」
「ありがとうございます!」
案内の人が苦笑しつつも注意事項を申し伝えてくれる。
いや、聞いてるよ? ちょっと今それどころじゃないけど一応聞いてるよ?
「待たせたな。用意は出来ているか?」
「ディーンさん! はい! できてます!」
「……元気、だな」
あまりにも興奮しすぎて、つい大きな声が出てしまった。
さすがに引かれたかなぁと思ったけど、ディーンさんは気にしていないようだった。
「少し離れていろ」
私が離れた瞬間、ディーンさんの体が膨れたように見えたと思ったら、真っ黒い影が辺りに広がっていた。
「わぁ……」
「これはすごいね」
「おお……これほどとは……」
陽の光に当たってキラキラ輝くのは黒曜石のような鱗と、角度によって色が混じる不思議な金色の瞳。
大きく広げた羽根は皮膜が付いていて、いかにもドラゴンといった感じで。
何というか、こう……滾(たぎ)る……っ!!
「クリス君も男の子だったんだねぇ」
「先代様、その言いかたはどうかと思いますが……」
異世界……ドラゴン……!! はぁ、しゅごいよぉっ!!!!
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