36、大きいことはいいことだけど
なぜか私の体を見て、異常がないかを確かめているディーンさん。後ろに回り込み、再び前に来たところて大きく息を吐いた。
え、そんなに心配かけちゃったやつなの?
「普通の方は感知できないのですが、護衛殿はよほど鋭い感覚をお持ちなのですね」
私たちの様子を見ている案内の人は感心したような表情をしていた。
確かにディーンさんは竜族だし、人よりも色々と敏感だろうけれど……何だろう、言い方が妙な感じになってしまうのは気のせいだろうか。
案内の人は祈祷室のドアを指差し、私たちに分かるよう指で模様を辿ってみせる。
むむ? これは……魔法陣?
「この場所は時の神様が特殊な陣を授けられまして、どれだけ長く滞在しても短時間で出られるようになっております」
するとディーンさんが何かに気づいたようだ。
「時の……もしや、ドアを開閉することで陣が発動するのか?」
「はい、その通りです」
おお、ディーンさんの鋭い読みが唸りを上げている。
不思議なことをするもんだなぁなんて呑気に考えていたら、そんな私を見て案内の人が困ったように微笑んだ。
「神々は気まぐれに降臨されますが、長いと数年は留めることもあるとか。さすがに人の身には負担が大きすぎると、このような場を創られたようです」
「なるほど……?」
「ここ以外の場では長く対話することを、神々は禁じているようですよ」
へぇ、神様たちの中でも共通に決まりがあるんだ。
他にも過去に長く留められた人が、神に近い存在になってしまったとか、神気を受け続けると良くないこともあると教えてもらった。
ちなみに、その人は部屋じゃなくて洞窟で神様と暮らしていたらしいんだけどね。同棲か? 同棲カップルなのか?
「そうか、それで『なかったこと』になるのか」
「ディーンさん?」
納得している様子のディーンさん。なんかよく分からないけど、まぁいいや。後で教えてもらうとして。
つまりここだと神様たちとたくさん話しても大丈夫っていうのが分かった。
でも肉体的にはともかく、精神的には疲れるからほどほどにしてもらおうっと。
その後、本殿周りの『部屋』を案内してもらって、ついでに貴重な書物が多く保管されているという書庫の場所も教えてもらった。
試験は一日一回だけで、自由時間がだいぶあるみたい。
「この期間にぜひ、多くのことを学んでいただければと思います」
「わかりました!」
イアル町の神殿にも本がたくさんあったけど、ちらっと見たところ数倍は多くあると思われる。そしてちょっと悪いことを考えていたりする。ムフフ。
こうして中央神殿の「一部」を案内された私たちは今夜からお世話になる『部屋』に通されたのだけど……。
そこは予想を遥かに超える『部屋』だった。
「うわぁー! 広いですねー!」
「護衛用の部屋もあるな」
「えっ、見たいです!」
「……下着は見せないが」
「わ、わかってますよ!」
思わずどもってしまったけれど、本当にそんな気はなかったですよ。ちょこっとしか。
あ、そうそう、さっきのこと教えてもらわないと。
「ディーンさん、さっきの『なかったこと』って、何ですか?」
「あのドアに『我らの訪れは、なかったこととする』と書かれていた。神気も感じられないのは、あの陣が理由なのだろう」
「え、あれって模様じゃなくて文字だったんですか?」
「神の言葉と呼ばれるものだ。この世界の『
「ことわり……え、ちょっと待ってください。なかったことになるって、神様と対話した記憶は?」
「残っているはずだ。『なかったこと』にするのは『訪れ』だけだからな」
えーっと、つまり話したことはそのままに、来た痕跡だけを消すみたいってことでいいのかな? 時間も絡むとよけいややこしくなる! 教えて理系の人!(不在)
まぁいいか。ここまで大層な仕掛けは他のところには無いだろうし、気にする必要はないってことで。
せっかく部屋でくつろげるのだから、旅装をといて荷物整理をしてしまおう。
滞在することになった『部屋』は、前の世界でいうホテルのスイートルームみたいな造りになっている。
護衛用としての部屋にもベッドルームとダイニングルームがあるし、バスルームとトイレもそれぞれついている。
食堂から打ち合わせ用のコネクションルーム。神官ならではの『祈り』ができる部屋に、読書や書き物ができる書斎まで……とにかくいたれりつくせりといった感じ。
そう、お風呂だ。
部屋にあるのは一人用なんだけど、常にお湯が張られている大浴場もあるとのことだった。
「なんという……贅沢な……」
「これは来賓用じゃないのか?」
「そうですね……でも、お風呂は嬉しいです……」
イアル町でも、王都に来る途中の町でも入れなかったお風呂。
これまで諸々の事情で機会を逃してきたけれど、今度は、今度こそは!!
「じゃあ入って来い。俺は見張りがあるから後でいい」
「え? いいんですか?」
「何のための護衛だと思ってる」
そ、そうか、そうだよね。確かに「一緒に風呂、入ろうぜっ☆」ってわけにはいかないよね。うん。
首をかしげるディーンさんに笑って誤魔化した私は、お風呂に入る準備をしよう荷物袋から色々と取り出していく。
こんな事もあろうかと、お風呂セットをイアル町の雑貨屋さんで買っておいたのだ。
ハーブ入りの石鹸とオイルと、体を洗う布と……。
「む、それは?」
「雑貨屋さんで見つけたんです。体を洗うのにちょうどいいんですよ」
「……そうか」
なぜか微妙な表情のディーンさん。
この布に何かあるのかな?
「ディーンさんも使います?」
「いや、いい」
「遠慮しなくてもいいのに……。あ、そうだ! ディーンさんがお風呂に入っている時は、私が護衛しますね!」
「お前、俺の何を護衛するんだ?」
あはは……えーと。そうですね、やっぱりフンドシですかね。
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