35、穏やか(仮)な神様と初会話
本殿の中にある礼拝堂を見た感想は、イアル町の神殿よりも大きいなぁというのと、神様ってこんなにいるの?だった。
壁の高い位置に、ずらりと並ぶこの世界の神様たち。牛の女神様とか、騎士の女神様もどこかにいるのかな?
イアル町は水の女神様をメインに祀ってあるから、神像は他に火と土と風しかなかったんだよね。
水以外はなぜか奥の部屋にあるからって、見れなかったんだけどさ。
個人的に風はどんななのか気になるんだよね。あの喋り口調というか、ニセモノっぽい関西弁というか……。
「本殿には多くの神像がありますが、ここで『祈り』を捧げるよりも祈祷室がよろしいかと」
「ここじゃ意味がないってことですか?」
「神々に好かれている方が祈られると、大変騒がしいことになってしまうので」
「はぁ、そうなんですか」
案内の人がそう言うのなら従ったほうがいいのだろう。
なんか後ろでコクコク頷いているディーンさんもいることだし。
「祈祷室に行かれますか?」
「はい! ぜひ!」
ここに来る時に馬車を直してくれたり、イアル町の時にもなんか助けてもらった気がするからお礼を言わないとだった。
奥まったところにある目立たない扉を開けると、噴水の見える小さな庭がある。渡り廊下(と言ってもいいのかは分からないけど)を歩いた先に、祈祷室はあった。
「祈祷室っていうから部屋かと思ったら、小さな神殿って感じですね」
「中央神殿とは、もともとは小さな神殿の集まりの総称でして。本殿は一番最後に建てられたことは……」
「はい。エリーアス神官長から神殿の歴史は学びました」
「そうでしたね。この本殿も神殿であり、神々を祀るための神殿もあります。そのため他の用途に使われる神殿は『部屋』と同じ扱いにしているのです」
なるほどね。中央神殿あるあるネタか。
ん? ちょっと待てよ?
「あの、今日私たちが宿泊する『部屋』って……」
「本殿には及びませんが、ここで3番目に大きな『部屋』をご用意しております」
「わぁ……それは楽しみです……」
めちゃくちゃ広い予感がする!
毎度のことながら重い扉を(ディーンさんが)開くと、中は光が溢れていた。
円形になっている室内は、天井がドーム型になっている上に、全面ガラスが張られていて外の光を効率良く取り入れるようになっている。
どうなっているのか分からないけど、祈るために膝をつくクッション辺りに光が落ちる構造になっているのがすごい。
自然の光と建築物がもたらす神秘的な『部屋』に、しばし無言になってしまう。
「では、私たちは外で待っておりますので、ごゆっくり」
「む?」
「護衛の方も外でお待ちください」
案内の人の有無を言わさぬ様子にディーンさんは物言いたげにしていたけど、私の様子から外で待つことを了承してくれた。
うん、できれば神様たちと話すなら誰もいない方がいい気がするのだよ。色々な意味で。
静々と光のさす中心へと進んだ私は、ゆっくりと膝をついて慣れたフレーズを口ずさむ。
当初は教本を見ながら唱えていたけれど、他の奇跡に関しても修練を重ねたおかげか目を瞑れば音階が浮かぶようにまでなっていた。
奇跡の発動に関してはエリーアス神官長のみならず、テオ先輩からもしこたま仕込まれたからね。
喉を開き、顎をひき、胸を膨らませて伸びやかに歌う。
天井がドーム型になっているからか、音の反響が上から降りてくるようで、音を重ねるごとにそれが和音になっていく。
この感じ、どこか懐かしいような……。
『そう。ハルが昔、旅行先で感動したという教会と同じような造りだよね』
おお! そういえば似ているね!
ところで水の女神様、他の神様へのお礼ってここからでも伝わるのかな?
前、全力で祈った時に色々力を貸してくれた神様たちとか……。
『お礼なんて……。毎日ハルが祈ってくれているから、だいぶ助かっているのよ?』
へぇ、私が『祈り』をすれば助けになるんだね?
『できれば色々な場所で私たちと話して欲しいけれど、無理は言わないわよ』
巡礼神官になったら、いっぱい観光……じゃない、巡礼するから無理じゃないよ。世界を旅するとか、前のところじゃ考えられなかったから。
そんなやり取りをしていると、石造りの冷んやりとした室内が心地良い暖かさになっているのに気づく。
『やぁ、ハルさん。こうやって話すのは初めてかな? 急に世界を渡ってもらうことになって申し訳なかった。呼びかけてくれれば、火の神としていつでも力を貸そう』
お、おお? なんかすごく王様というか社長というか、絶対的な安心感が得られる社長みたいな
でも力を貸してもらえるのはありがたいです。
それに、ずっと力を貸してくれてたような気がするので、いつもありがとうございます。火の神様。
『他の神も来たがっていたけれど、1回につき1柱のほうがハルさんも気が楽だろうと思ってね。次は違うのが来るから、またこうやって祈りを捧げてくれたら嬉しい』
お気遣いありがとうございます。
火の神様って、もっとこう荒々しいのをイメージしてたんだけど、ずいぶんと落ち着いた大人な男って感じ。
『そんなことないわよ。この
七日間じゃおさまらない……だと?
最強すぎるやつじゃないですか。
『水の、そんな簡単に俺はキレないから』
『ハルに何かあったら?』
『そりゃ焼失させるに決まっているだろう』
なんか穏やかと思いきや、めちゃくちゃすごい身内びいきの神(ひと)だった!?
『まったく、神としては生きとし生けるものを平等に愛するべきなのに……』
『水のは、もしハルさんが泣いていたら何か思わないのかい?』
『何を言ってるの。泣かせた奴を仄暗い水の底へ永久に沈めるわよ。決まっているじゃない』
水の女神様も身内というか「ハルびいき」が酷すぎるな!?
穏やか(仮)な火の神様と、水の女神様と私の三者面談は数刻ほどかかったと思う。
待たせすぎちゃったかなと外に出たら、ディーンさんが驚いた様子で駆け寄ってきた。
「早かったな。神々との対話はしなかったのか?」
「え?」
どゆこと?
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