29、だって男同士ですし
すっかりうっかり忘れていたけれど、ディーンさんは私の護衛をしてくれている。
つまり「いつでも一緒」で「つかず離れず」じゃないとダメってことになる。
「いや、そうでもないぞ。俺なら隣の部屋からでも危機を察知することができる」
「それって普通のこと……じゃないですよね?」
ディーンさんの事情からすると、自分の種族を隠していたいのだろう。それなのに私を個室にしたせいで色々な能力がバレてしまうのは申し訳ない。
「事前に聞いておけば良かったな。男同士だから、まったく気にしていなかった」
「あっ、いや、すみません! 大丈夫です!」
「……本当か?」
「本当です!!」
あーっ!! そうだったーっ!!
うっかりどころじゃなく、すっかり忘れていたけど私は「男」でしたーっ!!
うわぁ、めっちゃ恥ずかしい……。男同士が同じ部屋なんてよくある話なのに、私ったらテンパっちゃって……。
細かいことを気にする小さい男だ、とか思われてたらどうしよう……。
赤くなっているだろう顔を隠したくて下を向くと、ディーンさんが「なるほど」と頷いた。
「そういえば神殿では一人部屋だったな。常に人が近くにいるのは慣れないと思うが、移動の間は我慢してほしい」
「すみません、本当に大丈夫です……」
うう、本当にすみません。
ちなみに、もちろん貴族だったり女性の場合は護衛対象は個室になるけれど、別途女性の護衛や使用人がつくことになる。
私は一応男だし、テオ先輩から仕込まれた護身術もあるから……うん、やっぱりディーンさんは悪くないね。ははは知ってた。
「ディーンさん、俺たち飯食って寝るんですけど、それでいいっすか?」
「ああ……それより、そっちは大丈夫なのか?」
力尽きたのか、マリーちゃんはユリウス君に背負われている。
この様子だと夕食は部屋でとることになりそうだね。
「マリーは俺が見とくんで。すんません、色々稽古つけてもらったのに」
「あれを耐えられたのなら見所がある」
「えへへ、やったぜ! じゃ、クリスさんもお先に!」
「お疲れ様です」
ちゃんとマリーちゃんを気遣っているユリウス君に、なんとなく甘酸っぱいものを感じながら見送っていると、ディーンさんから獣の唸り声のような音が。
「飯、いいか?」
「ふふっ、部屋に荷物を置いたら、すぐに食事にしましょう」
さすが竜族。
お腹の音も規格外だねっ!
体力はあると思っていたんだけど、初めての馬車移動で疲れていたみたい。
芋メインの食事をわっふわっふ食べた私は、部屋に着いてからベッドで少しだけ横になろうと思ったところまでは覚えている。
「ん……寝てたのか……」
一瞬、ここがどこだか分からなかった。
昨日は暗くて分からなかったけど部屋全体が木造りで、家具は小さなテーブルとベッドが二つのみ。
シーツも毛布も清潔だし、部屋の奥にシャワーがあるっぽいから、まぁまぁ良いお宿だと思われる。ありがたや。
しまった! シャワーも浴びずに寝たから、服の汚れとか気になる!
そして朝の恒例行事も、しっかりと開催中だ!
慌てて手を組んで祈りを捧げる私。
天におられる神々よ、願わくば平穏を我らに与えたまえ
世界に満ち溢れる御力の、ひとしずくを我らに与えたまえ
祈りよ、我らの苦しみを救い、癒し、愛したまえ
「ふぅ、やっぱり朝は祈っておかないと」
「神官とは、ここまで信心深いのか?」
「ひぇっ!? あっ、ディーンさんおはようございます!!」
びっくりした。ディーンさんがいるとは思わなかった……って、同じ部屋なんだからいるのは当たり前か。
つい、いつもの一人部屋の感覚でいた。危ない。気をつけないと。
祈ったことにより朝のアレは治ったけど、ディーンさんを見ると平然とした様子だ。
やはり、プロの男は落ち着きが違うね!(プロ、とは)
「ディーンさんはシャワー使いました?」
「夜に使わせてもらった。それと服を洗うのは次の宿泊場所にしてほしい。馬車の乗り継ぎで丸一日空く計算だ」
「わかりました。じゃあ、シャワー使いますね」
「ああ」
先にご飯食べてくださいって言おうとしたけど、ディーンさんは護衛だから私と一緒に行動がデフォだった。
お仕事とはいえ、なんか申し訳ないなぁ。
「ゆっくり入って大丈夫だ」
「……ありがとうございます」
無愛想だけど、優しいディーンさん。
いい人だ。さすがプロの男……いやちょっと待てよ?
前に読んだ本に、竜族が番を探すのは発情期に備えてとか云々書いてあったような……つまりディーンさんは発情期じゃなければ朝のイベントが無いってことでは?
いい湯加減のシャワーを浴びつつ、勝手にぐぬぬとなる私。
ディーンさんずるい! 竜族が羨ましい!
『そうは言っても、竜族も大変なのよ?』
水あるところに、聖女あり。
『聖女じゃなくて女神でオネシャス』
はいはい、それで? 何か用ですか水の女神様?
『竜族も大変ってこと。大きな力を持つ種族なんだけど、番を見つけて伴侶にしないと子どもを作ることが出来ないのよ。運良く里で見つかればいいけれど、厄介なのは外にいる竜族が伴侶だった場合ね』
世界を旅して見つける必要があるってことですか。壮大なスケール。
『あまり知られてはいないのだけど、竜族は魔獣とされる邪竜と深い結びつきがあってね。伴侶を亡くしたか、番が見つからずに狂ってしまった竜族の末路が邪竜になるの』
へ? も、もしや呪いでバタバタしているディーンさんも、このままだと……。
『すぐにどうこうなるってわけじゃないから、気にしなくても大丈夫よ』
いやいや気にしますから! 知らない仲じゃないですし!
『そういうわけで、人間っていいなってことでヨロシクね!』
どこかで聞いたことのある台詞を残し、姿?を消した女神様。
もう、こういうこと言われたら、絶対に気になっちゃうじゃん! じゃんじゃん!
部屋に戻るとディーンさんが不思議そうな顔で私を見ている。
いや、私の主観で「不思議そうだな」と思うだけで、実際のディーンさんは無表情のままなんだけどね。
「また祈っていたのか? 清浄な空気というか、神気を感じる」
「わかります?」
「俺だから分かる程度だが」
「少しだけ女神様と会話をしていたんです」
「……は?」
「秘密ですよ」
「……ああ」
なんとなく、ディーンさんには話しても良いように思えた。
女神様も止めたりしなかったし、なんなら竜族について詳しく教えてくれたりもする。だからきっと彼は「大丈夫」なのだろう。うん。
「あ、紅茶がある! 淹れてくれたんですか?」
「お前の従者がうるさいからおぼえた」
うちの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます