21、わりと残っていた女子力


 ガックリと落ち込むルッツ君に、ユリウス君とマリーちゃんがオロオロしている。

 私はというと、なぜ彼がここまで落ち込むのかがよく分かっていない。いや、理由は分かるんだけど、そこまで落ち込まなくてもいいでしょって思うのよ。


「クリス様、少々よろしいですか?」


「あ、すみませんマルコさん。もうしばらくしたら神殿に戻りますので……」


 ギルドの中にある、ちょっとした打ち合わせスペースに私たちはいる。

 落ち込んだルッツ君が動かないものだから、占領して申し訳ない気持ちでいたのだけど……。


「いえ、こちらは大丈夫ですよ。それよりもディーン様のことでお話が」


「ディーンさん?」


 人のいいユリウス君たちに見習い神官をお任せすると、ちょっと離れた場所へマルコさんと移動する。


「クリス様は、神殿からの依頼内容を知ってますか?」


「はい。護衛だと聞いてます」


「……実は、その、あまり詳しくはお伝えできないのですが、ディーン様は常に一人で活動されてまして少々よからぬ噂もあるのです」


「人助けのことですか?」


「それもありますが、呪い持ちだ……とか」


「呪い……?」


 それなら教会にで解呪してもらえばと思うけど、もしそれが本当ならとっくにやっていることだろうし。

 マルコさんは何が言いたいのかしら?


「もしかして、ディーンさんのことが心配、とか?」


「悪い方ではないのです! 少々誤解されやすいだけで……」


 心配してくれるマルコさんには申し訳ないけど、うちの神官長はその噂も加味してディーンさんに依頼していると思う。だから大丈夫……だと思う。


「わかってますよ。あの後に雑貨屋で会ったんですけど、私の欲しかったものを自分が買うものから分けてくれましたからね! それに彼とは同志でもありますから!」


「ディーン様と、同志……?」


「クリスさーん! ルッツさんが復活しましたよー!」


「はーい! マルコさん、私も気をつけておきますから大丈夫ですよ」


「……そうですね。クリス様ならきっと」


 先ほどとは違って、ホッとしたような笑顔をみせてくれるマルコさん。

 大丈夫ですよ! フンドシ愛好家として、同志を見捨てたりしませんから!


 ユリウス君たちの所へ戻ると、まだ顔色が悪いルッツ君が私に頭を下げる。


「すみません、思わぬことに動揺してしまって……」


「ルッツ君は実力があるのだから、次の試験で合格すると思うよ。そうしたら結局は付き人じゃなくなるのだから」


「それは、そうですが……」


 ため息を吐くルッツ君に、マリーちゃんが「なるほど!」と手を叩いた。


「神官になったらクリスさんの付き人じゃなくなるから、落ち込んでいるのね! あれ? でも、その試験っていつのこと?」


「半年先ですね」


「なら、なんで今落ち込んでんだ?」


 首を傾げるユリウス君。

 確かにその通りなんだけど、ディーンさんが護衛を受けたということは、私が『巡礼神官』になるための選定で王都へ行くことになる。そうすると自動的にルッツ君と離れることになるのだ。


「この町の神殿は常に人手不足です。私は、ルッツ君のような優秀な人こそ、ぜひ神官として活躍してほしいと思っています」


「へぇ、この見習いさん優秀なのね」


「マリー、失礼だぞ」


「だって……すんごく萎れていたんだもん」


 マリーちゃんを軽く注意するユリウス君をほのぼのと眺めると、だいぶ立ち直ってきたルッツ君に声をかける。


「では、雑貨屋さんによってから神殿に戻りましょうか」


「……はい」


「あ、私も行きたーい!」


「私の行く店は、輸入ものも扱っているところですが……」


「あのちょっとお高い店? 報告だけで結構いい額をもらったから、化粧品とか見たいかも」


「俺は武器と防具の手入れしてもらうから、ギルドでまた落ちあおうぜ」


「了解!」


 しょんぼりルッツ君を連れていくのも申し訳ないなと思っていたけど、マリーちゃんが一緒なら気分が変わってありがたい。

 綺麗な赤色の髪をポニーテールにしてるマリーちゃんは可愛いのだけど、ちょっと気になるところが。


「あの、マリーさんは髪のお手入れにオイルなどを使ってますか?」


「オイル?」


「手荒れにも使えますけど、髪も同じように洗った後オイルを毛先に塗ると良いそうですよ。あの店の店員さんから教えてもらいました。花の種から採ったものだから、香りもいいですよ」


「へぇ、クリスさんって男性だけど詳しいのね。あ、神官さんは髪を長くしてる人が多いからか」


「ええ、まぁ」


 なにせ、前の世界では女だったので……とは言えないけど。

 マリーちゃんは姪っ子みたいで話しやすい。そして世話を焼きたい。

 化粧品に関しても「安いの使ってる!」とか言ってるから、できれば肌質や色の合うものを選んであげたい。

 それに……。


「せっかくだから服も選びましょうか。可愛く変身して幼馴染みを驚かせてやりましょう」


「ふぁっ!? な、なななななんでっ!?」


 ユリウス君とマリーちゃんは、なんとなく応援したくなるのだ。

 お節介おばさんになりすぎないようにしないとね。ふふふ。







 自分用のスキンケア用品もしっかり購入し、店員さんと二人タッグを組んで劇的にマリーちゃんを変身させて満足した私。

 ルッツ君もだいぶ回復して、髪用のオイルを「自分も買おうかな」なんて言ったりする。よかったよかった。ちなみにフンドシは断られた。なんでや。


 神殿に戻ると、普段の静かな様子とは違い、いつになくざわついている。

 すると私の姿を見た見習い神官さんが、慌てた様子で「神官長がお呼びです」と伝えてくれた。どうやら急ぎらしい。


「何かあったのかな?」


「……嫌な予感がします」


 私は全然だから、もしかしたら神官の予知的な能力はルッツ君のほうが上なのかも?

 神殿の奥にある神官長の部屋まで早足で辿り着くと、ぜぇぜぇ息を切らす付き人よりも先に私がドアをノックする。いやだって、急ぎだって言うし?


「エリーアス神官長、クリスです」


「入りなさい」


 ドアを開けるとそこには、黒髪の美丈夫が立っていた。

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