七不思議の四番目、漏水の怪

「まあ」新島はコーヒーを飲み干して、缶を床に置いた。「今年も七不思議の四番目が起こるとは限らないからな」

「だな。他に新しい情報がある人は~?」土方の呼びかけに、誰も挙手をしなかった。「このペースじゃ、烏合の衆の会議はすぐに終わっちゃうな」

「なら、会議は早急に切り上げて、遊ぶか?」

「いいな」

「私は賛成です」

「私も賛成しますっ!」

「んじゃあ、俺も」

 五人は一時間、自由な時間を過ごした。


──次の日、放課後──

 八坂中学校二年五組放課後清掃委員会副会長という肩書きを持つ兼島手甲(かねしまてっこう)は、いつも通り放課後清掃をしていた。

 兼島は副会長のため、清掃を受け持つ範囲が広いのだ。急いで清掃をしないと活動終了前会議に参加出来なくなってしまう。

「疲れたなぁ」

 兼島は休憩するため、テニスコートに向かった。テニスコートも清掃範囲だが、周辺にはプールくらいしかないから見回りも来ない。

 テニスコートに折りたたみの椅子が置いてあるので、普段はそれを広げて座っている。だが、今回はテニスコートに行くことは無理そうだった。

「ろ、漏水っ!」

 プールにたまった雨水が、どこからか漏れてテニスコートを浸水させていた。

 こんなことは初めてだから、兼島は飛び上がれる高さまで飛び上がってみた。

「どうすればいいんだ!?」

 兼島は迷ったあげく、近くの通行人に助けを求めた。

「あの! 助けてください!」

「うおっ? プールから水が......」


「で」新島は腕を組んで口をへの字に曲げた。そして、兼島から高田に目を向けた。「兼島が助けを求めた通行人が高田だったというわけか」

「そゆこと」

「まったく......。まあ、七不思議の四番目に早速出会えたことは良かったな」

「俺に感謝しろよ」

 新島と高田の会話にしびれをきらした兼島が、声を上げた。「あのう! 水を全てプールに戻すことは出来ますか?」

「そんなの、先公に頼めばいいんじゃないか? 高田を連れて行かせるから、先公に伝えてこい」

「そうなんですけど、これでは今週の清掃ノルマが達成出来ません」

「清掃ノルマ?」

「放課後清掃委員会では、その週の清掃担当の人に清掃ノルマが設けられます。それを毎回、完璧に達成していると、赤点補習の免除などが出来ます。俺はその免除が欲しいんです」

「こんなことがあったんだから、さすがに清掃ノルマくらいは免除されるだろ?」

「されません」

「なるほど。そういう依頼か。つまり、水を蒸発させればいいんだな?」

「はい」

「なら、いい機械を持っている。君は掃除をしたことにして本部に戻りなさい」

「わかりました。ありがとうございます」

 兼島はお辞儀をして部室を出ていった。

「新島は水を蒸発させる機械を持っているのか?」

「あんなの、兼島を安心させるための嘘だ。それより、テニスコートを掃除しに行くぞ」

 新島はダンボール箱を一つだけ持って部室を出た。高田、三島、新田は新島のあとを追った。

「よし。んじゃ、ダンボール箱の中身を分配する」

 新島はダンボール箱から掌(てのひら)サイズのスポンジをいっぱい取りだして、三人に配った。

「新島。このスポンジ、もしかして......」

「そうだ。そのスポンジで床の水を吸収して、排水口の上で絞れ。で、またスポンジで水を吸収する」

「やっぱり、手作業か」

「ほら。口より手を動かせ」

「へいへい」

 四人は黙々と手を動かして、スポンジで水を吸収していった。高田はため息をつきながら、スポンジを床に放り投げた。十秒ほど待ってから、スポンジを取り、排水口で絞った。

「高田! 手を抜くな!」

「だって、めんどうくさい!」

「三島も新田も、文句を言わずにやってるんだよ。ちゃんとやれ」

「わぁったよ」

 高田はため息をついた。


 一時間、苦労をした。そして、水は全て吸収できた。四人は泥だらけで部室に生還した。

「あぁー! 俺、もう無理だ!」

「高田だけじゃなくて、俺らも無理だ。お互い様だ」

「まあ、そうだけどさぁ......」

「次は、プールの水を漏水させた動機とそのトリックを考えよう」

「機械を使ったはずだ。それで水をテニスコートに出したんだ」

「その機械はどこにあるのか......。まあ、かなり大きい機械のはずだから隠している場所は限られてくる」

「テレビで見たら、かなり大きいもんな!」

「当たり前だ」

「なら、探すか」

「それが一番手っ取り早いな」

「じゃあ、暗くなってから四人で手分けして倉庫を漁ろう」

「そのつもりだ」

 やがて暗くなると、四人はまず第一倉庫に向かった。雑多な道具は大体ここに入れられて、次に取りに戻ってくることは少ない。隠すならうってつけであり、かなり倉庫も大きい。

 四人は物音を立てずに倉庫の中の備品をいじり、水を抜くことに使用出来そうな機械を探した。だが、見付けたものでそれっぽいものといえば、壊れたエアコンのスリーブだ。学校用のエアコンだからスリーブも長く、エアコンとくっついているから水を吸い上げる機械のように見えなくもないのだ。

「駄目だな。第一倉庫にはなにもない」新島は目に入ったほこりを取りながら言った。

「完全に外れだ第二倉庫行くぞ」

「待て。三島と新田が疲れている。──二人とも、大丈夫か?」

 二人は息を切らせながらも、それぞれ大丈夫だと答えた。

 その後、休憩もしながら探していたが水を抜くための機械らしきものは見つからなかった。

「どうするんだよ、新島」

「どうするって......。なんで水を抜いたか、動機を探ってみるしかないだろ」

「動機か。テニス部に練習させないためとか?」

「テニス部に練習させない理由がないな」

「そうだよな」

「そういえば」三島は何かを思い出すように頭に手を当てた。「明日、明後日くらいにテニス部のテニスコートで他校と練習試合があるはずです。ですが、確かその他校のテニス部が強豪でした」

「それが動機か」新島はため息をついた。「学校はむちゃくちゃするな」

「つまり、学校側はテニス部に負けさせるのが嫌だったからということか? なんか、違う気がする」

「まあ、少しはこじつけがましいな」

「だろ? だって、他のテニスコート使っても練習試合は出来るからな」

「じゃあ、どんな動機があったっていうんだ?」

「わからんな」

「じゃあ、これからどうするんだ?」

「プールの水を抜くための仕掛けを考えればいいだろ」

「バケツで水を抜いたんじゃないか?」

「やってみるか? この四人でバケツ持って、何時間でプールの水を抜けるか」

「プールに水は今は張ってないぞ」

「確かにそうだな。だったら、計算すればいいんだ」

「どうやって?」

「八坂中学校のプールの大きさは、縦25メートル。横は12.5メートル、水深が1.35メートル」新島は紙に書いて計算を始めた。一分ほど経ってから、新島は顔を上げた。「計算すると、容積は421.875立法メートル。リットルに直すと約422000リットル。バケツは6リットルとすると、四人でやるから一回で24リットルが抜ける。──つまり、17583.333333333回でプール一杯分の約422000リットが抜けるはずだ。

 四人が6リットルバケツを持って、一回で24リットルのプールの水が抜ける。で、約17582回で一回にかかる時間を0.5分にする。すると、8791分かかる。だから、146時間31分か」

「結構、時間かかるな」

「バケツで水を抜く方法は没でいいか?」

「没でいい」

「よし。じゃあ、どうする?」

「どうするって......帰るか?」

「高田にしては名案だ。すでに五時半。部活を切り上げようか」

「賛成だ」

 四人は戸締まりをしっかりして、家に帰っていった。


 次の日、新島は昨日の労働で筋肉痛になった体を動かしながら三年三組の教室に入った。男子生徒は、さすが十五歳という目つきで女生徒を見つめている人物もちらほら見受けられる。新島は苦笑しつつ自分の席に座った。

「新島!」

「高田か。どうした? 寂しいのか?」

「お前、酷いな」

「そうか? で、どうした?」

「七不思議の四番目の件だ」

「朝からめんどうだな」

「仕方ないだろ」

「昨日、家帰って調べていたらもしかしてって思った水を抜くトリックを考えついちゃった」

「......言ってみな」

「プールの水はただ栓を抜いただけだ」

「それだと、テニスコートに水が漏水しないだろ」

「だから、テニスコートの前に水道の蛇口がいくつかあるだろ?」

「ああ、確か美術室のところだったな」

「その蛇口をテニスコートに向けて、水を出したってことは考えられないか?」

「なるほど。かなりいいトリックを思いついたな」

「だろ?」

「今日、実験してみよう」

「だな」高田は頬を掻いた。

「それより、もうすぐホームルームだぞ!」

「あ、本当だ」

「席に座っとけ」

「わかってるよ」

 高田が自席に座ると、担任の八代が入ってきた。三年になっても担任は替わらなかったのだ。


 放課後、高田は鼻歌を歌いながら新島に近づいた。

「実験するぞ!」

「おい、高田。急過ぎるんだよ! ちょっと待てよ」

「わかったよ」

 新島は立腹して、椅子から立ち上がった。

「そう怒るなよ。新島は怒らない方が格好がいいぞ」

「煽てているつもりか?」

「ま、まさか......ハハハハハハ」

 二人は文芸部の部室に寄らず、テニスコートに向かった。

 校舎の裏側だが、太陽がある向きだ。だから、ジメジメとはしていない。新島はテニスコートの近くの水道の蛇口に近寄った。

「高田! 蛇口の先をテニスコートに向けたぞ!」

「なら、水を放出しろ!」

「わかった!」

 新島は蛇口のノブをひねった。その途端、水が一斉に飛び出してきた。水が向かったのは目の前のテニスコート。地面に水が直撃し、四方八方に飛び散る。

 他の蛇口のノブもひねり、水の量が一気に増えた。高田は離れたところから高みの見物をしている。新島の服が水浸しなった光景を見ていた高田は吹き出してしまっていた。

 一五分程度待っていると、テニスコートは浅瀬と化していた。

「高田! これくらいで蛇口を止めるか?」

「そうだな。止めよう」

 新島は蛇口を止めた。

「これで決まりだな。プールの水はフェイクだった」

「ああ。高田の言うとおりだ」

「じゃあ、部室に帰るぞ」

「何言ってんだ? テニスコートを綺麗にするから、スポンジを持て」

「はあ!? マジで言ってんの?」

「うん。マジだ」

 高田はため息をついてから、スポンジを持った。

 新島と高田の二人は、テニスコートをスポンジで綺麗にした。その後、部室に戻った。部室では三島と新田が雑談をしていた。

 新田は、新島が戻ってくるなり口を開いた。

「部長!」

「どうした?」

「高田先輩と一緒に、プールから水をどうやって漏水させたか実験したんですよね?」

「ああ。だが、今回は高田の案だ」

「どんなトリックだったんですか?」

「プールの栓を外して、水を抜くんだ」

「でも、それではテニスコートに水は漏れませんよ?」

「テニスコートの近くにある水道の蛇口から、テニスコートに向けて水を流したんだ」

「......なるほど。そういう考えもありますね」

「だろ?」

 新島は椅子に座った。

 高田も椅子に座り、「これで解決だ」と言った。

「多分」三島は椅子から立ち上がり、組んでいた腕をほどいた。「夜は、学校の水道が止められているはずです。動機も、不十分だと思います」

 三島の言葉に、新島と高田が驚いたように声を上げた。

「本当か?」

「おそらく、そうだったと思います」

「よし。それが事実かどうか調べに行くぞ!」

「新島、やけに張り切ってるな」

「ああ、当たり前だ。だって、高田が俺より先に解けるはずがない!」

「偏見が酷いな」

「当然の反応だろ。さあ、行くぞ」

 四人は部室を出て、ひとまず生徒会に向かった。生徒会なら、ある程度の学校のことは把握しているからだ。


 生徒会室の扉を、新島がノックした。

「何ですか?」

「文芸部部長の新島真です。生徒会会長の鴨野剛健(かものごうけん)さんを出してください」

「僕が鴨野剛健生徒会会長だよ。何か用かな?」

「水道のことを聞きたいです。水道は、夜は止められているんですか?」

「ああ、止められているよ」

「何ですか?」

「夜の学校に何者かが忍び込んで、水道の水でイタズラをされていることがありました。だから、夜だけは水道の水を止めることにしたんです」

「学校側が勝手に水を流すように細工をすることは可能でしょうか?」

「何でそんなことを聞くのですか?」

「えっと......な、七不思議の四番目の検証をしていまして」

「あ、なるほど。君たちは日常探偵団だったね」

「はい......」

「水道の水の管理は水道会社が行っているんだ。特例がなければ夜に水道の水が流れることはないよ」

「ありがとうございます」

 新島は生徒会会長に頭を下げた。鴨野は、困ったらいつでも呼んでいいよ、と言って扉を閉めた。

「新島!」

「どうした?」

「俺の仮説は外れたな」

「高田に負けるのは悔しかったが、かなりいいトリックを考えたとは思ったんだがな」

「フォローはいいよ」

「フォローじゃない。単純に褒めているんだ」

「新島が褒めるとは......。気持ち悪いぞ。凄く気分が悪くなる

な」

「褒めてやったのに酷いこと言うな」

「まあ、話すのはここまでだ。部室に戻って、どんなトリックか考えないといけない」

「そうだな」

 部室に戻り、それぞれが椅子に座った。

 新島は足と腕を組む。「高田の予想は外れた。だが、大筋の考えは変わらないんじゃないか? 高田はプールの水を抜き、水道の水をテニスコートに流すと言った。だが、水道からじゃなく水をテニスコートに流す方法があるかもしれない」

「そんなことが出来るのか?」

「わからない。──三島は八坂中学校の地図を持ってなかったか?」

「持ってます。校舎の地図と校内全体の地図の二つがありますが、どちらを渡しますか?」

「両方くれ」

「どうぞ」

「ありがとう」

 新島は三島から筒を二つ受け取った。中央に付いている輪ゴムを外して、地図をテーブルに広げた。

「どうだ、新島?」

「テニスコートの周囲に水源はないな......」

「そういえば、この学校は貯水タンクを三つは持ってただろ? ほら、体育館の連絡通路の途中で白色で四角いタンクがあったじゃん!」

「あれか。地図じゃ貯水タンクのくわしいことはわからないな」

「だけど、もしその貯水タンクにホースをつなげたらテニスコートに水が届くぞ」

「ホースってそんなに長いのあったっけ?」

「探せばあるんじゃないか? 知らんが」

「よし。貯水タンクを確認しに行くぞ」

「ああ、行こう」

「待て。いつも全員が動くと時間がかかる。俺一人で行く」

「はぁ? 俺も行きたい」

「あのっ」新田は立ち上がった。「わ、私も行きたいです!」

「同じく、私も」

「マジかよ......。仕方ないから着いてこい」

 新島は頭を抱えた。高田、三島、新田はそんなことにお構いなしに部室から廊下に出た。

 中学校は高校より校舎は大きくはない。七階にある文芸部部室から体育館連絡通路までは往復で五分から十分程度だ。貯水タンクを調べたり確認するのには高田が来てしまったから一五分は滞在するだろう。部室に帰った頃には部活動終了時間の午後六時。

 新島は時計を見ながら、そんなことを考えていた。貯水タンクを調べたあとで、他にも調べたいことがあったらしいのだがこれでは今日は無理そうだと諦めた。

「貯水タンクのことについて話し合うのは烏合の衆の時にでもいいか......」新島はため息をついた。

「改めて見ると、貯水タンクも意外と大きいな」

「で? どうだ、高田?」

「ああ、うん。ホースがつなげそうな部分はないぞ」

「やっぱりか。じゃあ、帰ろう」

「早いな」

「いや、先輩は多分すでに俺の家に入っているはずだ。急ごう」

「まあまあ。そう急がすなよ」

 高田は策を乗り越えて、体育館連絡通路に戻ってきた。

「カバン持ってくれば良かったよ」

「カバンあったら、今みたいに高田は策を乗り越えられないだろ」

「それもそうだな」

 部室に向かって歩き出すと、部活動終了のチャイムが響いた。時間が思った以上にかかったから、新島は眉をひそめた。

 戸締まりをしっかりすると、部室の扉を施錠した。鍵はちゃんと職員室に戻す。

 正門を出て右に曲がり、徒歩数分。マンションが見えてくる。入り口に人影がぼんやりとあったので、新島は目を凝らした。

 人影はビニール袋を持ち、制服姿。女性。ビニール袋には缶が入っている。彼女とは土方だった。

「よお! 新島」

「先輩。鍵は持っているでしょ? 家に入れなかったのか?」

「四人を待っていたんだ。新島の家はある程度広いだろ?」

「ああ......」

「広いから、あそこで十分か二十分待つと寂しくなるんだ」

「静寂って、長いとうるさく感じるからな」

「言い得て妙だな」

「そうか?」

 新島はカバンを開けて、自宅の鍵を取りだした。その鍵をロビーのオートロックシステムの鍵穴に差し込んだ。

「先輩がいたらテンキーで部屋番号打ち込めばいいだけだったんだが......」

「新島。私に文句があるのか?」

「あっ......文句、ないです......」

「よろしい」

 自動ドアをくぐり、エレベーターに乗りこんだ。二階のボタンを押して、扉が閉まる。扉が開くと、二階に着いている。縄文人ならびっくりだ。

 エレベーターを降りて、左に曲がり突き当たりまで進むと206号室がある。鍵で解錠すると、中に入る。靴を脱いだ。

「イチゴ、元気だな」高田は靴を脱ぎながら言った。

「こいつ、俺の家に来てからすでに二年は経ったんだ。元気だろ? イチゴは縁日で取ったんだがピンピンしてるんだ」

「そういえば、金魚すくいで一匹しか取れなかったのか?」

「二匹だ。イチゴともう一匹いた。黒色で腹が大きい。八幡(はちまん)っていう名前だった。だが、二週間程度で死んでしまったんだ」

「八幡? なんで名前が八幡なんだ?」

「金魚すくいがあったのが、なんちゃらっていう八幡神社だったんだよ」

「そうなのか」

「ちなみに補足すると、金魚すくいで一匹もすくえなかった。だが、その金魚すくいでは、すくえなかった人は二匹自由に選んで持って帰れたんだ」

「それは酷いな」

「かなりすくえなかったよ」

 五人が靴を脱ぐと、新島は明かりを付けた。リビングにカバンを置くと、コップを五つ出して紅茶の粉末清涼飲料を入れてお湯を注いだ。

「たまには、会議中に熱い飲み物も飲みたいだろ? いつも冷たいコーヒーってのもね」

「なら、私が買ってきた缶コーヒーはどうする?」

「一応、冷蔵庫に入れよう。飲みたい人は飲むことにする」

「そうしよう」

 新島は土方から缶コーヒーを五つ受け取って、冷蔵庫に入れた。

 新島がリビングの床に座ると、他の四人も円を描くように床に腰を下ろした。

「まず、七不思議の四番目の進捗情報を私に教えてくれ」

「わかった。高田、お前が話せ」

「OK」高田は立ち上がって、手帳とボールペンを取りだした。「まず、実際に七不思議の四番目が起こったんす」

「マジ?」

「マジっすね。俺がちゃんと見た。で、兼島とかいう奴の依頼でテニスコートをスポンジで綺麗にした。動機は暫定で、テニスコートでのテニス部の練習試合を阻止するため。相手は強豪校っす。

 プールの水をどうやってテニスコートまで漏水させるか。最初に水を抜く機械を探したんですが、それらしいことは見つからず。俺の考えたトリックも水道の都合上無理だったっす」

「高田が考えたトリックはどんなものだったんだ?」

「プールの栓を外して、水を抜くっす。そして、テニスコート近くの水道の蛇口から水を流して、プールから水が漏れたと思わせるトリック」

「なるほど。面白いトリックだな」

「だが」新島は紅茶を口に運んだ。「その面白いトリックも、夜は水道の水が止められているから無理なんだ。だから、どんなトリックを使ったのか考えていた途中だ」

「難しいことを言うね」

「当たり前だ。あと、バケツでプールの水を外に出したってのは無しだ。四人が6リットルバケツを持って、一回で24リットルのプールの水が抜ける。で、約17582回で一回にかかる時間を0.5分にする。すると、146時間31分かかるからだ」

「随分ややこしいな」

「簡単に言うと、時間がかかり過ぎるんだ」

「なら、怪奇現象で片付けるか」

「それは駄目だ。鈴木先輩は七つ全て解いたんだ。だから、七つ全てに納得のいく結論がつくということだ」

「それもそうか......。だったら鈴木に聞こうか?」

「それも駄目だから苦労しているんだ」

「やたら注文が多いな」

「料理店か? 小学校の夏休みの読書感想文で書いたな」

「全然違う。脱線しているじゃないか」

 新島はニヤけながら、紅茶を飲み込んだ。そして、プールの水を外に移すトリックに考えを巡らせた。

「よし。じゃあ手品をやろう!」

 唐突に、高田がそう叫んだ。新島は唖然とした。

「手品? 何をやるんだよ」

「まあ待て、新島。多分、今回の七不思議の四番目の解決のヒントを与えてくれるはずだ」

「仕方ない。その手品で用意する物はあるか?」

「透明なプラスチックのコップを二個と、短い紐をよこせ」

「へいへい」

「あと、ある程度大きい布」

「わかったよ」

 新島は部室の棚からプラスチックのコップを二個取り出し、ダンボール箱を開けて一本の紐を引っ張りだした。

「ほら。用意したぞ」

「布がない」

「なら、俺の予備のハンカチをやる」

「サンキュー」

 高田は新島から大きいハンカチを受け取った。

「で、どうすんの?」

「急かすな」

 高田は机を一つ、隣りの空き部屋から運んできた。その机の上にプラスチックのコップを二つ並べた。片方だけに水が入っている。紐を吟味すると、水の入ったコップの底まで紐の端を入れた。紐のもう片端は水の入っていない空のコップの底につけた。

「では、布を被せます」

 高田の口ぶりに、新島はイラッとした。

 それはさておき高田は、三秒数えます、と言った。三秒経つと、右手を上に大きく上げて指をパチンと鳴らした。フィンガースナップだ。広く知られた名前をあえて言うなら、指パッチンという。フィンガースナップをしてすぐに、左手でハンカチを取った。左のコップに入っていた水が右のコップに移っていた。

「どうだ? 新島?」

「ミスディレクションだろ、それ......」

「フィンガースナップか? 当たり前だろ」

「ミスディレクションは客の注意を別の場所に移す手法だ。右手がフィンガースナップで注目されている間に左手でコップの位置を逆に動かしたんだろ?」

「正解だ」

「これが何のヒントになるんだ? プールとテニスコートを入れ替えたと言うのか?」

「俺は答えを知らないからなんとも言えない。だが、ヒントくらいにはなるだろ?」

「だから、どんなヒントだよ」

「例えば」高田は眉間に皺を寄せて、顎を撫でた。「プールとテニスコートを連結させるとか、テニスコートをプールにしちゃうとか」

「意味がわからんな」

「ちゃんと俺のヒントを役立てろよ」

「むちゃくちゃだ」

「しょうがないだろ。俺は無垢なんだ。知ってるか? 俺の脳の中身はな、虚無だ」

「ああ、知ってるよ。元からだ」

「自覚はあるが、この俺でさえかなり傷つくぞ」

「そうか。いいことを知ったな。これからも酷いことを言おう」

「硫黄? 俺は有害じゃねぇよ」

「久々に洒落を聞いた。っていうか、硫黄は燃焼すると有害なガスである二酸化硫黄を排出するから硫黄自体は有害じゃない。いや、有害か?」

「有害だよ。粉末でも粉塵爆発の危険性はあるし強酸化剤と反応して火災だぜ?」

「確かにそうだな......」

 新島は何か思いついたように、うねり声を上げた。

「便秘?」

「やかましいな、高田......」前髪をくしゃくしゃにいじった。「社会科の歴史で最近に水時計、漏刻を学んだだろ?」

「つい最近に学んだな」

「漏刻は段々になってて、漏刻で箱から箱に水を移す時はサイフォンの原理を利用していたはずだ。そうか! そうだよ!」

「はぁ?」

「高田が言っただろ? プールとテニスコートを繋げるって」

「ああ、そんなニュアンスの言葉を言ったな」

「実際にプールとテニスコートを繋げたんだよ!」

「はぁ? ごめん、もう一回言ってくんない?」

「実際にプールとテニスコートを繋げたんだよ!」

「はぁ?」

「つまり、プールとテニスコートを繋ぐ道を作ったんだよ」

「道だぁ?」

「そう。その道はプールと一体化しているんだ」

「一体化? あれだな? ロボットの合体か」

「全然違う。目の前で見せた方が早いだろう。手品の器具をそのままにしろ」

「わ、わかった」

 高田は怪訝そうな顔で頭を掻きながら、椅子に座った。新島はどこからか飲み口を曲げることのできるストローを出してきた。そのストローを曲げて、短い部分を水の入ったコップに入れた。

「水の量が少ない」

 新島はプラスチックのコップのギリギリまで水で満たし、『へ』の字のように曲がったストロー内も水で満たす。ストローの長い方の端を指で押さえ、短い方を水で満たしたコップに入れた。指を離すと、勢いよく水が流れ出してきた。新島は少し驚いてから、空のコップで流れてきた水を受け止めた。

「これがサイフォンの原理だ」

「くわしく説明してくれ」

「くわしく説明するとややこしい。簡単に説明言う。ストローに水を満たして、水の入ったコップに入れただろ?」

「ああ」

「すると、ストローがコップと繫がって一体化するんだ。水の入ったコップに穴が開いたようなもんだ」

「なるだろ。そういうことか」

「これは重力によって出来るらしい」

「重力?」

「サイフォンの原理を利用して、プールと一体化させたホースか何かでテニスコートに水を流したということだ」

「ホースか。......もしかして、第一倉庫にあったエアコンのスリーブを使ったんじゃないか? 学校で使っていたものだから長かったし」

「かもしれない。改めて調べてみよう。まさか、高田の言葉がヒントになるとは」

「相変わらず酷いことを言うな」

「当然だ。これが俺のポリシーなんだよ」

「最低のポリシーだな」

「まあ、気にすんな」

「気にするよ」

「サイフォンの原理でプールの水を抜いたことはわかった。水でサイフォンをする場合、7メートルか8メートル程度は大丈夫らしい。プールの中ギリギリまで雨水が入っていたから、実現可能だ」

 新島はサイフォンの原理を実験している最中にプラスチックのコップからこぼれた水を、嫌な顔をしながら雑巾で拭いていた。

「ていうことはさぁ」高田はソファに横たわった。「これで七不思議の四番目は万事解決ってこと?」

「万事ではないだろ。七不思議はあと二つ残っている。それに、四番目はまだ解決していない」

「は? 何言ってんの?」

「動機だ」

「息切れ?」

「違う。その動悸じゃない。七不思議の四番目、つまりプールから水を抜いてテニスコートに流した理由だ」

「だから、練習試合を中止させるためだろ?」

「練習試合を中止させたいわけではない可能性の方が高いだろうな」

「なんで?」

「八坂中学校のテニスコートの一つが使えなくなった程度では練習試合はなくならない。確かに予定されていた期日に練習試合は出来なかったが、実際来週あたりに練習試合を行うらしい」

「そう言われれば、そうだな......」

「つまり、何か他の理由があるはずだということだ」

「他の理由か。練習試合が行われる当日は何か学校側の不都合があって、他校を校内に入れたくなかったとか?」

「だったら、その不都合がわからないことには解決しないだろ」

「それがわからないから『不都合』という言葉を使ったんだよ」

「動機不明で処理しようか?」

「部長が許さないだろ」

「......あのさ、その『部長』って言葉を使わない方がいいよ」

「なんで?」

「三島と新田が文芸部の部員になったとき、俺が文芸部の部長になったからだ。三島と新田が混乱する」

「それもそうだな。これからは部長じゃなくて土方と呼ぼう」

「あの、私はかまいませんけど?」

「私も大丈夫です!」

「そうか? なら、部長のままだ」

「三島と新田がいいなら好きにしろ」

「話しを戻すぞ」

「動機の調査か?」

「そういうこと」

 新島は床を拭いた雑巾を、バケツに投げ込んだ。

「よし。まずは第一倉庫の中にあったエアコンのスリーブ内を調べよう。プールには藻が浮いていたから、スリーブを使って水を抜いたなら藻が付着しているはずだ」

「そうだな。動機が不明でもトリックさえわかればどうってことはないな」

 と、意見が一したので第一倉庫に向かうことになった。

「第一倉庫」高田は威風堂々としたたたずまいで、腰に手を当てた。「相変わらず、倉庫の中が汚い! ほこりっぽい」

「なら、マスクでもしておけ」

「マスクなんか持ってきてない」

「俺も、まさか第一倉庫に今日入るとは思わなかったからマスクは持ってきていない」

「だろうな。まあ、行くぞ!」

 最初、新島は咳き込んだ。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ。咳き込んだが、一人ではないからな」

「尾崎放哉(おざきほうさい)か。無季自由律俳句だっけ?」

「よく覚えているじゃないか。俺が好きな俳句は『ゆうべ底がぬけた柄杓(ひしゃく)で朝』だ。ちょっと面白いだろ? 添削はされているがな」

「何が面白い?」

「日常の些細なことをだな──」

「そういうのはいい。よし。スリーブを外すぞ」

「聞いておいて最低な野郎だな」

「そうか? 普通の中学生だ」

「まあ、許してやろう。で? スリーブの内側に藻は付着しているのか?」

「......。ふむ。微量だが、藻らしきものがところどころに付着しているぞ」

「ほとんどそのスリーブを使ったということで確定だな。普通に使っていたらスリーブの内側に藻は付着しないだろう......」

「じゃあ、次は動機探し?」

「そうだ。動機探しだ」

「動機佐賀市か」

「九州と関東じゃ離れすぎだ」

 動機を知るために、第一倉庫を出た一行は校舎内の散策を始めた。A棟の屋上から順々に階下に下がっていき、一階に着くとB棟に移った。

「B棟に理科室があるだろ?」

「確かにあるが、高田は理科室が見たいのか?」

「理科室が嫌いなんだよ。悟れよ」

「なんで理科室が嫌いなんだ?」

「骨格標本とか虫の標本、生きた虫がはいった虫かごとかゲテモノが多く置いてあるだろ?」

「えっ! 高田......お前、ゲテモノ嫌いだったの!?」

「好きではある。中国言ったときに猿脳(えんのう)も食った。だが、虫と骨は駄目なんだよ」

「普通なら逆だぞ。猿の脳味噌シャーベットなんて、日本人は食えねーよ」

「いや、案外うまいぞ。あの見た目でな」

「見た目がクソだ」

「だけど、虫と骨は無理だ」

「諦めろ。理科室管理担当は外道虫大好き理科教員の榊原和仁(さかきばらかずひと)だ。理科室には虫と骸(むくろ)が並んでいる。昆虫やら動物やらの解剖など顔色一つ変えずにやってるからな、榊原は」

「なぜ倒置法......」

「強調したかったんだ」

「高田の嫌な顔、見たいな......。よし! 理科室を先に散策しに行くぞ!」

「なっ! テメェ!」

「まあまあ。アイマスクを貸してやる」

 新島はポケットからアイマスクを一つ出して、高田に渡した。

「なんでアイマスクを持ってんだ?」

「文芸部の備品だよ」

「備品? ほぉ......」

「そう、備品だ。ダンボール箱に入った、かなり古い奴だ」

「古い奴でもいいから、アイマスクがあって助かるよ」

「行くぞ! 理科室!」

「やっぱり、新島は最低な奴だ! アイマスクのことで少しは見直したんだがな......」

「高田の眉間に皺を寄せた顔が面白いから仕方がない」

 新島はわくわくして、裂けるほど口を緩めた。そして、スキップしながら理科室がある階まで向かった。

 ちゃんとした目的がなければ、普段ならなかなか理科室には入れない。なぜならば、危険な薬品が多く置かれているからだ。だが理科室には、この時間帯なら榊原がいることが多い。榊原がいるのならば、理科室には入ることができる。

 新島は理科室の扉をノックした。そして、榊原が顔を出した。理科室に榊原がいたことに、新島は安堵のため息をつく。

「どうした?」

「文芸部部長の新島です。ちょっと理科室の骨格標本を観察したいと思い、文芸部全員で来ました」

 榊原自慢の骨格標本を見たいという生徒が四人も来たのだ。榊原はうれしくなって、理科室に大歓迎した。

「ひとつずつ丁寧に見ていくといいよ。ほら! あの骨の曲線! 美しいだろう? 綺麗だろう? 骨というのはだな、動物が死しても残るんだ。ロマンを感じるだろ? どうだ?」

「ええ。感じます。角張っておらず、可愛らしいですね」

 新島は目を輝かせて、骨格標本を眺めた。彼は動物の、骨という最終形態に興味があるようだ。

 高田はアイマスクをしていて、前が見えないから新島の肩につかまっていた。

「高田! 肩につかまるなよ」

「アイマスクをしているんだから仕方ないだろ!」

「あっ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 肩を強く握るなよ」

「仕返しだ」

「くそっ! アイマスク外してやるよ」

 新島は高田の顔からアイマスクを剥ぎ取った。

「うあぁー! ゲテモノッ!」

「それほど驚かなくてもいいだろ......。大げさだな。死骸だけだぜ?」

「気持ち悪い」

「お前、猿脳食ったんだろ?」

「といっても、その猿の脳味噌シャーベットが入っている器は本物の猿の頭の中じゃなくて作り物の猿の頭だ」

「前に一度だけ画像を見たことがあるが、直視できないぞ? あんなに気色の悪い食べ物は」

「中国では重宝されているんだ」

「ここはチャイナじゃなくて、ジャパンだ。わかるか? JAPAN。NIPPON。日本。日本(ジャパン)だぞ!」

「日本で使われている漢字は、元は中国のだろ」

「それを言うなら、文字の起源はメソポタミア文明のシュメール人が絵文字使ったからだ」

「遡り過ぎだ! それに、メソポタミア文明もそうだが世界四大文明には中国の黄河文明も含まれている」

「殷の時代なら甲骨(こうこつ)文字だろ? 骨に文字を刻むとは論外だな。めんどうだろ」

「......日本の縄文時代では、土器に縄の文様を付けていただろ? あれこそ無駄だ。それに、弥生時代の名前の由来を知っているか? 東京都文京区弥生の向丘(むこうがおか)貝塚という場所から壺が出土した。その壺が使われていた時代が弥生時代なのだが、弥生という場所から出土したのが由来だぞ? 馬鹿だろ」

「文字関係ないじゃないか!」

「新島、お前意外と細かいな!」

「何だと!」

 新島と高田の喧嘩を三島が呆れたように見物していた。

 数十分して、二人は疲れたから喧嘩をやめた。両者とも息を切らしていた。

「で、新島?」

「ど......どうしたんだ? ハァハァ......」

「ああ」高田は声をひそめた。「七不思議の四番目の動機はわかったか?」

「理科室に手掛かりはなさそうだ」

「そうか。わかった」

 高田はうなずいて、歩き出した。そして、足に何かが当たり、しゃがむ。そこには、虫かごがあった。中をよく見た。

「生きた虫だ!」

「おっ! 君はいいところに気づいたね」榊原は活き活きとした口調で話し始めた。「それはヤゴだよ。トンボに羽化させたくてね。あとは解剖か実験に使うんだ」

「か、解剖?」

「おっと。それ以上は言えないぞ。ハハハハハハ」

「ヤゴか」新島もしゃがんだ。「もしかすると、これが動機か?」

「どういうことだ?」

「この続きは部室で話そう」

 四人は榊原にお礼をして、部室に戻っていった。

「さて。動機の件を話してもらおうか?」

「プールから水を抜いたのは榊原だろうな」

「何でだよ?」

「プールに溜まった雨水でヤゴを育てていたとかが、考えられるな」

「じゃあ、何でヤゴがいるのにプールから水を抜いたんだ?」

「育てていたヤゴを回収するためだろうな。プールの栓を抜いたら排水口にヤゴが流されてしまうから、仕方なくサイフォンの原理を利用してテニスコートに水を流した。あとは、流されてきたヤゴを回収すればいい」

「だったらなんでこっそりと育てていたんだ?」

「学校が公認していない可能性もあるが、多分学校は公認しているはずだ。生徒に言わなかったのは、ヤゴを使って非人道的な実験をするからだろう」

「そういうことか」

「それに藻が付着していたスリーブの付いたエアコンは、俺達が一年生の頃に理科室に設けられていたエアコンだ」

「確かに、言われてみればそうだ」

「ヤゴの時期は三月から八月。まあ、辻褄は合うだろ?」

「だな」

「そんで、トンボに羽化か」

「うっかり羽化したトンボを迂回しながら歩くんだな」

「洒落か。三連続は久々じゃないか?」

「久々だ」

 七不思議の四番目の動機は、見当が付いた。新島は、今日の烏合の衆の会議は会食にしよう、と言い出した。

「なんで?」

「七不思議残り二つの祝いだ。その時に、高田から先輩に七不思議の四番目が解決したと発表しろ」

「了解」

「その会食の代金は俺が払う。だが、安いファミレスだからな」

「えー」

「奢ってやるだけありがたいと思えよっ!」

 新島は椅子に座って、足を組んだ。三人も着席する。三島は本を開いて、新島の顔を見た。新島は視線に気づいて、三島の方を向く。彼と彼女は七秒ほど見つめ合った。

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