七不思議の二番目、心霊現象
「何か、部活活動時間の四時~六時の間だけ学校が揺れたり、上から『バン』とか『カン』っていう音が聞こえるらしい。つまり、ラップ現象だ。七不思議の二番目はポルターガイスト現象とラップ現象の心霊現象てんこ盛りの感じだ」
高田は手帳を取りだして、慎重に吟味(ぎんみ)しながら話しをしていた。
「だが、実際に体験してみないとわからないな。俺はないが高田は体験したか?」
「百聞しただけだ」
「なら、体験しよう。先輩も賛成だろ?」
「もちろん」
「ポルターガイストが起こるのは上の階らしい」
「ここは最果ての七階だが?」
「B棟の方だよ」
「なるほど」
新島は少し考えてから、口を開いた。
「百聞は一見にしかず、か」
「ポルターガイストは見るんじゃなくて感じるんだがな」
「ああ。百聞は一感にしかず、だな?」
「一感? そんな言葉あるのか?」
「知らん」
三人は連絡通路からB棟に移り、五階でポルターガイストを待っていた。その間は話しながら時間を潰すらしい。
「なあ、新島。今日の数学の小テストで、太郎がA地点からB地点を歩く時の時速が十三キロになって、太郎がB地点からC地点を走るときは時速八キロになったんだ」
「なぜ、走るより歩く方が太郎は速いんだよ」
「知らん。だから新島に聞いてんだ。お前は何キロになった?」
「マイナス五キロ...」
「マジか! 時速にマイナスとかないだろ?」
「だから言いたくなかったんだ!」
新島は頭を下に向けた。
「新島はちまちました計算が苦手なんだな。太郎の時速がマイナスって...。俺より酷い」
「高田だってテストの点数は俺より酷いだろ!」
「それを言うか!」
「待て、二人とも。話しの話題を変えよう」
土方の提案で、話題は変わった。それから数分ほど話していると、『バン』という音が聞こえてきた。
高田は手帳をなめ回すように見て、ラップ現象だと騒ぎ出した。
「これがいわゆるラップ現象だよ! 新島、早く解いてくれ」
「──新築の木造住宅において起こるんだが、住宅を建てる時に、骨格となる柱に使う材木は普通ある程度乾かしたものが用いられているんだ。だが、中には乾燥が十分ではなかったから、年が経つにつれ徐々に乾きが進行し、木材が乾燥する時の割れにより「ミシッ」とか「パーン」といった音が出ることがある。──
と、インターネットにはあった。その点はどうだろう?」
「新島、その文章...ウィキペディ──」
「高田、最後の『ア』は言うな!」
「やっぱりウィキペディ──」
「言うな!」
「わかった。それより、この学校はA棟もB棟も木造じゃないぞ」
「そうだよなぁー」
新島は頭を掻(か)きむしった。
「高田!」
「なんだ?」
「上の階で何か行われていたか?」
「いや、ないだろ?」
「だよな...」
「それに、俺の調査が合っているならあともう少しでポルターガイストが起こるぞ」
「何でだ?」
「必ずラップ現象の数分後にポルターガイスト現象が起こるんだ。少なくとも、俺が聞いた五人はそうだったらしい。つまり、そろそろ──」
高田は腕時計を見た。短針は微動すらしないが、秒針は一秒ずつ動く。そして、12を出発した秒針は一周して12に戻った。これで一分。そして、長針が一つずれた。
秒針が三周すると、周りの棚や机が微(かす)かに揺れ始めた。それは次第に大きく発展し、いわゆるポルターガイスト現象になったのだ!
「揺れてるぞ!」
「ほら、俺の言うとおりだ」
「だぁー! 今はそこじゃない。先輩、大丈夫か?」
「ああ、私は平気だ。だが、こんなに早く七不思議のもう一つに出会えるとはラッキーだ。八坂中学校のパンドラの箱をまた、あけようじゃないか!」
「そうっすね」
「おっ! 揺れが収まったか...」
新島は揺れが収まると、少し沈黙した。それから、階段を降りてA棟に向かった。高田と土方も、新島を追ってA棟に向かう。
新島が向かったのは稲穂祭の時に軽音楽部を調べるために入った図書蔵書室だ。前回とは違って今は部活動時間だから、中には図書委員がいた。
「失礼。君たちの用件は?」
新島は図書室にいた図書委員に話しかけられたのですかさず、返事をした。
「図書蔵書室に入りたいんですが?」
「駄目に決まっているだろ」
「なら、演劇部の活動記録をください」
「演劇部? 君は演劇部の部員なのか?」
「違います。文芸部です」
「文芸部? 文芸部がなぜ演劇部の活動記録が欲しいんだ?」
「演劇部は稲穂祭での劇に失敗して部室が変わりました。どこに変わったのか知りたいんです」
「部室が変わったのか? 一応、図書委員顧問に話しをしてみる」
「先生に言うんですか?」
「もちろん」
「なるほど...。先生は今、職員会議中ですので大丈夫です」
「そうか、わかった」
新島は職員に演劇部を調べていることを知られたくないから、仕方なく図書室を出た。
外では、高田と土方が待っていた。高田は壁に寄りかかりながら新島に話しかけた。
「どうしたんだ、新島。急に図書室なんか」
「高田、前の演劇部の部室を教えろ」
「何でだ?」
「いいから、教えろ。演劇部は今、やばいかもしれない」
「やばい?」
「存続の危機だ」
「わ、わかった」
高田は演劇部の前の部室に案内した。土方は珍しく捜査に積極的だった。
「高田と先輩もこの元演劇部部室を調べてください」
「わかった。今日は私も手伝う」
「わかった」
三人は部屋に入ると、並んでいたダンボールを開けて調べた。すると、土方がある紙を見つけた。
「この部屋はこれから資料管理室になるのね」
「先輩!」
「なんだ、新島?」
「その紙には何が書かれている?」
「『B棟一階第五室 資料管理室』とある。この部屋はB棟一階第五室だろ?」
「よし、やっぱりだ! B棟屋上に行くぞ」
「お、屋上?」
新島は走って屋上に向かった。扉を開けて、屋上を確認した。だが、そこには何もなかった。
「もう帰ったのか」
「誰がだ?」
「明日、放課後に屋上に来ていてくれ。高田も先輩も」
その日は結局、進展もなく終わった。
次の日、B棟屋上。新島はいち早くそこに来ていた。そして、本を読んでいた。すると、土方が来た。
「新島!」
「先輩、早いな」
「私も早いときは早い」
土方は新島の隣りに座った。
「それで、ポルターガイスト現象の正体は?」
「『ミレニアム・ブリッジ』と同じだ」
「ミレニアム・ブリッジ?」
「イギリスのホームズがいたロンドンの、正典にもたびたび登場するテムズ川に架けられた橋だ。2000年に架けられたが、すぐに橋が大きく揺れ始めた」
「その原因が今回のポルターガイスト現象と同じなのか?」
「ああ」
「どんな原因なの?」
その時、高田が来た。
「高田! こっちだ」
「おう!」
高田が来ると、新島は話し始めた。
「『ミレニアム・ブリッジ』が揺れた原因だが、人は人混みを歩くときに他の人との衝突を避けるために無意識に他人の歩調に合わせる心理があるらしく、歩行による荷重は分散せずに周期的なものとなった。そして橋の固有振動周期が荷重の周期に近かったため、共振により揺れ始めた。さらに、ひとたび橋が揺れ始めると、多くの歩行者が揺れに対応しようとして橋の振動に歩調を合わせるようになり、ますます橋の揺れが激しくなった、というものなんだ」
「その原理はわかった。だが、どこに人混みが出来ていたんだ?」
「それは、ここだ。ここ、屋上だ」
新島が扉を指差すと、人がぞろぞろと屋上に入ってきた。
「すみません!」
新島は立ち上がると、その集団に話しかけた。
「はい、何ですか?」部長が口を開いた。
「演劇部ですよね?」
「そうです」
「やっぱり、か」
「やっぱり?」
「ここに演劇部が来る理由は知っています。ですが、そのせいで校舎が揺れているのは承知のうえですか?」
「揺れる?」
「わかってなかったんですね。演劇部は新しい部室は狭いから屋上で演劇の練習をしていますが、劇の中で人混みを再現していますよね」
「ええ」
「その人混みが揺れた原因です」
新島は演劇部部長にポルターガイスト現象とその原理を説明した。
「そんなことが...」
「ラップ現象はおそらく、人混みが歩く時の足音でしょう」
「校舎が揺れて皆に迷惑をかけているなら、屋上では演劇の練習はしないよ。だが、これからどこで劇の練習をすればいいんだ」
「学校側が軽音楽部ライブを利用して稲穂祭の劇を失敗させたのは知っているんですか」
「ああ、理解している」
「なら、前の部室を資料管理室に利用するために劇を失敗させたのも?」
「部室が資料管理室になっていて、それでわかったんだ。理解している」
「なるほど。八坂中学校に抗議しないんですか?」
「証拠がない。だから、諦(あきら)めている」
「体育館は使えないんですか?」
「使えない。そういう風に手を回されていた」
「つまり、実質演劇部は潰れたんですね?」
「そういうことだ」
部長は肩を落とした。
「なら、俺が校舎に細工して固有振動周期をずらしておきます。そしたら、人混みの劇をしても揺れませんよ」
「本当にいいのか!」
「ええ。骨組みをこっそり入れておきましょう」
「なら、頼むよ...。演劇部は続けたいんだ」
新島は頭を下げて、二人のいる場所に戻った。
「自分で調べてみたが、前にもポルターガイスト現象があったのは、稲穂祭でわかったことだが前にも一度演劇部は軽音楽部ライブで部室を移されている。それから元の部室に戻れるまでの八ヶ月間は屋上で演劇部は劇の練習をしていた。つまり、今の状況が前にもあったんだ」
「七不思議は八坂中学校のパンドラの箱。本当にパンドラの箱だ。学校の都合で七不思議は起こるんだな」土方は髪にピン留めをつけながら言った。
「卒業までに七不思議を解決しなきゃ、八坂中学校は終わる。後一年しかないな」
「私が卒業したら、頼むよ新島部長!」
「ああ、わかっている。日誌は必ず書くよ」
ちなみにいっておくが、私はこの日誌を元にこの本を書いている。私はこの新島たちの十六年後に八坂中学校に入学し、廃部した文芸部の部室で日誌を見つけたのだ。
新島はその後、校舎の骨組みを調節して、細工を施していた。
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