稲穂祭と予言者

 稲穂祭が始まった。稲穂祭では各部活動がひとつの出し物をする。文芸部では文集だ。そして、部室に文集を置くから、三人うち一人は店番だ。

「私は行きたいところがあるから、店番はキツい...」

「俺もっす」

「俺は行きたいところとかないんで、店番してるよ」

 こうして、新島が店番をすることになった。といっても、客などほとんど来ないというのが文芸部の考えだった。

「はあ。本でも読むか」

 新島は二人が部室を出た後で、売り物として並べられていた文集を手に取って開いた。新島はシナリオを担当したから作品は書いていない。土方の作品は二つで、高田の作品が一つだ。新島は高田の作品が載っているページを開いた。

「タイトル『日常探偵団』。内容は偽札事件や五十円玉二十枚の謎、You lied to me.。完全に文芸部の話しじゃないか」

 新島は高田の作品を読み進めた。さすがに前回のストーカー事件を小説には出来ないが、新島は我ながら良い出来だと自画自賛した。

 文集を元の位置に並べると、本棚に向かった。本棚にはズラッと本が並んでいて、その中の一冊を取り出した。

「新聞の切り抜きか」

 新島は新聞のスクラップを読み始めた。そのスクラップは八坂中学校に起こった事件をまとめていた。これは、土方が一人で行っていた。

────────────────────

平成十八年十月十日 「千葉県のある中学校の前の道路で事故多発!」

────────────────────

 千葉県のある中学校の前にある大通りで三日間事故が多発した。警察も動いて調査が始まったが、四日目には事故は起こらなかった。近隣住人に話しを聞くと、事故といっても軽傷程度のようだった。

〈了〉

────────────────────

 新島はスクラップを閉じた。


 高田は手紙を持って、学校の屋上に行った。断っておくが、ラブレターを持って告白しに屋上に行く、というベタな展開ではない。もっと重要なことだ。高田は予言の手紙を持って、予言された場所に向かっている。断っておくが、オカルトではない。

「ここか」

 高田は屋上に立った。予言の手紙には


『我、見通す者なり。文芸部の貴殿に、話しがある。稲穂祭初日の屋上から見えるところである事件が起こっている。ある事件、とは見ればわかる』


 とあったのだ。高田はある事件が起こるか、ゆっくりと待っていた。すると、奥の電柱が倒れていた。高田は急いで降りて、職員を探した。

「先生!」

「どうした、高田?」

「あの電柱が倒れてますよね?」

「ああ」

「いつからですか?」

「ああ、あれか......。あれは昨日の七時くらいに倒れていたよ」

「ほ、本当ですか!」

「ああ、本当だよ」

 高田の持っていた手紙にある消印はおとといであった。つまり、一日先のことを予言したことになる。高田は急いで文芸部部室に向かった。


 新島はスクラップを本棚に戻すと、ソファに寝転がった。それからため息をついていると、扉が開いた。新島は焦って起き上がると、そこには高田がいた。

「新島!」

「どうした、高田」

「予言者だ」

「予言者だぁ?」

「ああ。俺の家におととい手紙が来たんだ。それで、内容が次の日の話だった」

「手紙?」

「これだ」

 新島は高田から手紙を受け取って中身を見た。それから窓の外を見た。

「七不思議の一番目より先に、予言者の謎を解かなきゃな......」

「だよな。それより、犯人の狙いは何なんだ?」

「わからん」

 新島と高田は手紙と電柱を交互に見て、絶句した。


 十数年ぶりの軽音楽部のライブが行われていて、そのライブに土方は来ている。速いテンポにつられて、土方はリズムを取って体を上下させていた。土方は音楽を聴くのが好きなようだった。

 ライブが一時休憩すると、土方は急いで文芸部部室に向かった。新島に店番をさせるのは心が痛むようだ。部室に入ると、高田もいて、二人とも絶句していた。

「おい、二人とも!」

「あ、ああ。先輩......」

「高田......どうした?」

「あの......予言者が現れたんすよ」

「予言者? あれのことか? ほら、ノストラダムス」

「あれはすでに死んでいる。ご存命の予言者が、未来を見透した手紙を出してきた」

「手紙?」

「高田。先輩に手紙を渡してみろ」

 高田は土方に予言者の手紙の件を話した。土方も少し頭を抱(かか)えた。

 なぜ、こんな予言の手紙が来たのか。犯人は何をしたいのか。三人は絶句した。

 ちょっとして、新島は口を開いた。

「待て。俺たちの目的は予言者じゃなくて七不思議の一番目だぞ」

「いや。私達文芸部がその予言者の謎を解けば、より宣伝になるわけだ。だったら、二つとも解決しよう。それに、事故が起こるかわからないだろ?」

 その時だった。外が騒がしくなったので、三人は窓から覗(のぞ)いた。すると、八坂中学校の前の大通りで車が二台正面衝突していた。

「!」

 高田は体が硬直した。そして、ポケットから紙が落ちた。土方は紙を拾い上げて読み上げた。

「『稲穂祭初日に車の事故が起こる』! 事故のことも予言してるじゃないか!」

「高田! どういうことだ!」

「その紙切れはこっちの手紙と一緒に送られてきたんだ」

「どういうことなんだ」

 土方は少し考えてから、本棚に近づいた。

「私の知っている者で予言者はいるにはいる」

「部長! それは誰っすか?」

「八坂中学校最古の部活、占い研究部だ」

「占い研究部?」

「そう。八坂中学校は変な部活多いだろ? その一つだ。なんか、占い師養成機関みたいな部活らしい」

 新島は少し考えたが、土方に提案した。

「部室は少し閉じて、その占い師研究部に行こう」

「私もそう思う」

 三人は文集を売るのを諦めて、占い師研究部部室に向かった。

「占い師研究部の部長は私の友達なんだ」

「そうなんすか!」

「ああ」

「ってことは、怖いのか」

「新島、何か言ったか?」

 土方は拳を握った。

「何でも、ありません...」

 新島は静かになった。


「三鷹ちゃん?」

「あっ、ナミちゃん! 久しぶり」

 彼女が土方の言う占い師研究部部長の三鷹夜空(みたかよぞら)だ。

「それで、ナミちゃんどうしたの?」

「予言者のことについて......」

 土方は三鷹に予言者の手紙のことを話した。

「そんなことがあったんだー。まあ、部室に入って」

「なら、入らせてもらおう」

 三人は部室に入った。中にはタロットカードやガラスの玉、薄いカーテンなど占い師が使う道具が多く置かれていた。

「あれ、三鷹ちゃん。部員は?」

「へへー。皆部活やめちゃったんだ」

 三鷹は暗いことを明るく話していた。彼女は別にいじめにあっているようには見えない。単純に、占いという行為に飽きた部員が辞めていっただけだろう。だが、以前いた数少ない部員の名残だろうか。椅子が四つ、窓際に並んでいた。土方がその後に聞いた話しでは、三鷹いわく、その四つの椅子に思い出が座っているらしい。

「それで、予言者に心当たりはある?」

「ん~? 無いかな? だけど、その予言者に興味あるから手伝うよ」

「本当か?」

「うん。それに、暇だしね」

「では、手伝ってくれ」

「いいけど、どこに次は行くの?」

「それが、まだ決まっていないんだ」

「大変だね」

「そうなんだよ」

「なら、まずはこっちから予言者を占うね」

 三鷹はガラス玉を手紙の前に持ってきて、手をかざした。

「おっ、出てきた。予言者が誰かわからないけど、占いは出てきたよ。


 ──稲穂祭を楽しめ──


 だってさぁ」

「稲穂祭を楽しめだってぇ!」


 三鷹を加えた四人はまず、ゲーム部が運営する射的に向かった。コルク五個三百円。コルクを銃口に詰めた新島は、銃をかまえた。そして、銃口を目当てのものに向けた。引き金を引く。発射されたコルクは目当てのものに当たりはしたが、倒れることはなかった。続けて四発発射したが、無理だった。

「ちくしょう!」

「ドンマイ」

「高田......」

「次は俺の本気を見せてやる」

 高田は新島から銃を受け取った。というより少し強引に奪い取った、の方が正しいだろう。コルク五個を購入すると、一つをつかんで銃口に詰め込んだ。台に乗って、机に体をつけた。そして、両手で引き金を引いてコルクを発射した。すると、コルクは目当てのものの少し横を通過した。

「あ、くそっ!」

「ドンマイ、高田!」

「まだ四発残ってるよ」

 高田は新島にブーイングして、また銃をかまえた。

 その後、四発とも外した。

「外すことに天才的な高田君、どうした?」

「当たっても倒れないことに天才的な新島君、どうした?」

「何だと?」

「あぁん?」

 高田と新島は睨(にら)み合った。

「二人とも、やめたまえ」

「でも、先輩......」

「まあまあ。しかし、優先すべきは予言者さ」

「予言者......あれはマグレじゃないっすか?」

「マグレで二つを当てるとは、運勢が良すぎるな」

「実際、占いなんて相手が言って欲しそうなことを言えばいいんすよ。占い師は所詮その程度っす」

「バッカ、高田! なかなか探してもいない先輩の唯一の友達を貶(けな)すな!」

「ほお? 新島は私を貶しているようだが」

「あ、いやっ? 違います。えっと、そうっ! これは、あれだ......仲がいい奴のフォロー......とか?」

「私と新島はそんなに仲が良かったか?」

「えっと......同じ部活じゃありませんか?」

「まあいい」

「それより、ナミちゃん。あそこで人が集まってるね」

「また事故か!」

「そうみたいだな」

 車が横転していた。まさか、立てつづけにこんなことが起こるとは。

 軽音楽部のライブが盛り上がり、耳に音楽が響く。そして、その傍(かたわ)らで車が奏でる衝突の騒音が空中に漂い続けていた。

「あそこ、行ってみようっす!」

「ああ。私も同意見だ。三鷹ちゃんと新島はどうだ」

「俺も行きたい!」

「わ、私も」

「一致だ。行こう」

 四人は人が密集していた場所に向かった。そこの前の道路では車が一台ひっくり返っていた。

「七不思議、起こったな」

「なあ、高田。他にポストには何か入ってなかったのか?」

「もちろん。新島が気になっていそうなものは入ってないよ」

「そうか」

「何かわかったのか?」

「まだ、全然わからない。何で事故が平成十八年の稲穂祭の三日間に集中したかなんて、わかるわけがない」

「意図的にやろうと思っても、方法なんてないもんな」

「ああ。まったくその通りだ」

 車から人が降りてきた。運転席側からで、乗っているのはその男が一人だけのようだ。その男は急いでポケットからスマホを取りだして、電話をかけた。

「すみません。事故を起こしてしまって......」

「保険に入っていますので、安心してください。そちらの現在地を教えていただければレッカー移動をしますが、どうしますか?」

「お願いします」

「では、現在地を教えてください」

「えっと──千葉県八坂市の......。あの、そこの生徒さん。この学校名は?」

 野次馬の一人が「八坂中学校だよ」と答えた。運転手はすかさずに電話相手に話した。

「千葉県八坂市の八坂中学校の前の大通りだけど、わかりますか?」

「わかりました。では、レッカー移動をさせていただきます」

「はい」

 運転手は電話を切った。その頃には職員が駆けつけて、野次馬の生徒を払っていた。その波に乗って、四人はその場を離れた。

「新島!」

「高田か......何だよ」

「何だよ、じゃねーよ! それより、この稲穂祭......」

「七不思議の一番目が実行されてるよ」

「じゃなくて、予言者わかったよ」

「は?」

「誰だと思う?」

「誰だよ」

「事故を起こした本人だ」

「だったら、電柱が倒れていたのはどうやってするんだよ」

「手紙にはある事件としか書いてなかった」

「だったら、事故を予想していた紙切れは?」

「そうだな......」

「やっぱり、駄目じゃねーか」

「う~ん?」

 高田は腕を組んでいた。新島はため息をついた。

「誰が何のために予言しているのか、わからないとだめね」

「部長......」

「まあ、まあ。さあて、三鷹ちゃん! 次はどこ行こっか? ほら、高田も新島も。予言者を探すより、楽しむよ!」

 土方は三鷹と肩を組んで先に歩いて行った。

「新島、どうする?」

「ちょっと、俺は部室に戻っていたい。部室の方が考えがまとまるんだ。ゆっくりと七不思議の一番目について思考を凝らしてみたいんだ」

「じゃあ、俺も部室に行く」

「先輩と三鷹先輩の二人で楽しんでもらおう」

「そうだな」

 二人は土方に話して部室の鍵をもらった。それから、急いで部室に向かった。

 部室に戻った二人は話し合いを始めた。

「まず、当初の予定通り俺は七不思議の一番目を調べたい」

「いや、まずは俺の家に送られた予言の書についてだ」

 二人は互いに睨んで、一歩も譲らなかった。

「いや、良い案を思いついた」

「言ってみろ、新島」

「両方調べよう」

「ん~? まあ、やるだけやろう」

「まず、わかっていることを出していこう」

「予言者は一日後を予言できる」

「事故は特定のメカニズムで起こる」

「どんな?」

「わからんが、決まった法則があるんだろ? 意図的な可能性はないだろう」

「あんまり定かじゃないな」

「仕方ないだろ?」

「だとすると、まずは事故のメカニズムを知らないといけないか」

「ああ、まったくその通りだ。だとすると、道路付近に何かがあるはずだ」

「どんな仕掛けをしたら事故が起こるんだ?」

「さあな」

「駄目じゃないか。だったら、予言者の推理をする」

「ああ、仕方ないな」

「ほら、予言者の手紙だ」

 新島は高田から手紙を受け取った。

「なるほど。やっぱり、この手紙はおとといの消印だ」

「その消印が偽物の可能性はあるか?」

「うーん? 高田の家のポストにあったんだな?」

「もちろん」

「なるほど。ここまで精巧に作られた消印はないだろ? それに、大体のトリックは理解出来た」

「マジで?」

「ああ。これを見ろ」

「......どれだ?」

「ここ」

「ああ、そういうことか」

「ライトあるか?」

「ほら」

 新島はライトを手紙にかざした。


 新島と高田は手紙を持って、軽音楽部のライブが行われている舞台裏に向かった。

「文芸部だが、軽音楽部部員の鈴木真美(すずきまみ)さんはいるか?」

 新島の言葉で、軽音楽部の部員が反応した。

「文芸部が真美に何の用かしら?」

「あんたが真美さん?」

「違うわ。私は永井未来(ながいみく)。真美のクラスメイト」

「真美さんはどこに?」

「何であんた達が真美に会いたいの?」

「お話しする義務はないと思うが......」

「あっそ。なら、教えない」

「あ、ちょっと!」

 永井は奥に消えていった。

「どうする、新島?」

「予言者は鈴木真美で決まりなんだが......」

「だよな......」

「予言の手紙を出すからにはそれなりの理由があったはずだ」

「その理由は?」

「知らん。まずはそれを見つける」

「でもまさか、二重でポストに出していたとは」

「だな。あの手紙はまず、鈴木真美が自分の家宛てにして郵便局に出す。それから手紙が家に届いたら、鈴木真美はシャーペンか何かで書いていた家の住所を消して、上からボールペンで高田の家の住所を書いた。そして、手紙を予言の手紙と入れかえてから、高田のポストにいれた。つまり、すり替えが行われていた。

 シャーペンで自分宛に手紙を出して、届いたらシャーペンの文字を消して宛名を書く。そして、届けたい所に朝、投函(とうかん)したら昨日の日付の消印になる、か。とんだトリックだぜ」

「まったくだ。それから、新島がライトをかざして凹凸を読み取った結果、鈴木真美の名前が出てきたから奇跡みたいだな」

「だが、軽音楽部に来ても成果はなかった」

「どうする?」

「さあ」

「じゃあ、鈴木真美が予言の手紙を出した理由を探すぞ!」

「それが、一番だな」

 二人は軽音楽部を知るために、図書室に向かった。八坂中学校の各部活の活動記録は図書室に置かれているからだ。

「あ、あれ?」

「どうした、高田」

「扉に鍵が掛かっているらしい」

「あ、今日は稲穂祭か」

「どうする?」

「まかせろ」

 新島は扉付近にある小さい窓を開けた。

「おい、その窓からは入れないぞ」

「だから、こうする」

 窓に手を入れて、中から扉の鍵を開けた。

「やるな、新島」

「だろ?」

 二人は図書室に入るとすぐに扉に鍵を掛けた。

「活動記録はどこに保管してあるんだ?」

「さあ?」

「新島、しっかりしろよ」

 高田は引き出しを弄(まさぐ)って、鍵を取りだした。

「多分、この鍵で開けられる奴じゃないか?」

「だとすると、図書蔵書室だ」

「なんだそれ?」

「高田は知らないのか」

「ああ」

「あの扉の向こうだ」

 新島は高田から鍵を受け取ると、奥の扉の鍵穴に差し込んで右に回した。

「入るぞ」

 二人は蔵書室に入った。蔵書室は元々別の場所だったが、数年前にここが蔵書室になったらしい。

「本棚に並んでいる本が、どうやら活動記録だぜ。高田も見てみろ」

「本当だ。軽音楽部のはあるか?」

「あるぜ。開こう」

 新島は軽音楽部の活動記録を取りだして、開いた。

「平成三年に軽音楽部が結成されたらしい」

「そこ年から活動記録があるか?」

「ああ。毎日ちゃんと書かれている」

「マメだな」

「そのようだ」

 活動記録を机に置くと、二人は読み始めた。



  軽音楽部活動記録(1)


平成三年 四月五日


記録:北村新二(きたむらしんじ)

────────────────────

「これより、軽音楽部初の部活動を始めたいと思います」

 彼が軽音楽部部長の一色一哉(いっしきかずや)だ。

 現在、軽音楽部の部員は私・北村新二(きたむらしんじ)と部長を含めて三人。つまり、もう一人だけ部員は存在する。二年五組の遠山寛二(とおやまかんじ)。知っていると思うが、遠山は不登校だ。だから、部室にすら顔を出さない。実質、軽音楽部に部員は二人しかいない。

「部活動と言っても、何をどうするんですか」

「よく聞いてくれた。まずは、皆の前で演奏できる程度にはしよう」

「って、私はギターで部長はドラム。ボーカルがいません」

「よく聞いてくれた。これから部員を一人だけ勧誘(かんゆう)しよう」

「勧誘って......出来るわけがありません!」

「不可能と思われることも、やってみれば出来るんだ。源義経(みなもとのよしつね)の逆落としや、豊臣秀吉(とよとみひでよし)の中国大返しも不可能とされただろ?」

「部長! 二つほど訂正したいです」

「良いよ。話してみな」

「まず、現在の馬はサラブレット。サラブレットは急な斜面に弱いです」

「だろ? だから、不可能な物事もやってみれば出来れる──」

「違います。当時の馬はモンゴルから来た身長の低い力の強い種類。急な斜面も余裕ではありませんが、サラブレットに比べれば遙(はる)かに降りやすいのです」

「雑学ありがとう」

「まだあります。中国大返しは一週間で二百キロ。一日あたり二、三十キロ歩くことになります。中国大返しが行われていたのは夏。日照時間が長い。一日七時間ほど歩けるとして、計算すると時速二、三キロ。大体人が歩いているスピードと変わりません」

「雑学ありがとう」

 今日の活動は終わった。

────────────────────



「なあ、新島」

「何だ?」

「この活動記録、ゴミだな」

「だな。どの年の見る?」

「そうだな......一応、今年まで目を通そう」


 稲穂祭初日。七不思議と予言の手紙についての進歩はほとんど無く終わった。

 新島は高田と土方に何も話さず、鈴木真美の家の前で待った。大体三十分ほど待つと、八坂中学校の女子の制服を来た女が近づいてきた。

「あなたが鈴木真美先輩ですか?」

「そうだけど?」

「文芸部部員の新島真です。先輩が予言の手紙を高田の家に投函したんですよね?」

「あなたが新島君ね」

「そうです」

「やっぱり、あなたが一番頭がキレるようね」

「一応、そういうことです」

「あなたは私が何で予言の手紙を出したか知りたいのよね?」

「もちろんです」

「教えないわ。あなたがその真実を見つけるのよ。私じゃなにも出来ない」

「?」

「どういうことですか?」

「七不思議の一番目」

「......!」

「あの事故は意図的に行われているのよ」

「その仕掛けを知っているんですか?」

「知っているわ。でも、あなたが見つけ出しなさい。そうすれば、何もかもがわかるの」

「何もかも?」

「八坂中学校の真実を知るための鍵の在処(ありか)がわかる鍵。つまり、これだけじゃ終わらない。あなたが卒業するまでに七不思議を全て解決してね。その先に八坂中学校の真実がある。

 私は一度そのパンドラを開けて、そしてひどい目に遭った。でも、あなたならきっと......」

「パンドラの中身はもしかして......」

「八坂中学校の私情、他にも諸々。私が言えるのはここまで......」

「あ、待ってください!」

 新島は鈴木が家に入るのを食い止めた。

「何よ」

「七不思議の七番目は学校の私情に関係がないはずです」

「あなたはもしかして、七番目の謎を解いているの?」

「ええ。カイロのテルミット反応ですよね?」

「ええ、そうよ」

「それが、何か?」

「七番目は何も知らない一年生が勝手に七不思議にしたの」

「もしかして......」

「あなたの思う通り。実際は七つではなく六つ。ゴロがいいからって七つにされたの」

「七不思議研究部は知っているんですか?」

「知らないと思うわ」

「あなたは全て解いたんですよね?」

「ええ」

「なら、俺もやってみます。汚職を解決します」

「頑張りなさい」

 鈴木は家に帰っていった。

「まさか、八坂中学校のパンドラの箱が七不思議だったとは......」

 新島はその場に座り込んだ。それから、少し落胆した様子の新島は自宅に向かった。新島は八坂中学校のすぐ近くの赤色のマンションの206号室に住んでいる。つまり、二階だ。マンションの隣りには砂利道があり、昔は川が流れていたようだ。

 新島は家に帰って早々に部屋に籠(こ)もった。と言っても、家には新島しかいない。

「スマホ、スマホ......」

 新島はスマホを手に取ると、気になっていることを調べ始めた。どうやら、事故が起こる原因に心当たりがあるらしい。スマホを片手にベットに潜り込んだ。


 稲穂祭二日目。新島は確実に七不思議の一番目の正体をつかんでいた。

 新島が部室で待っていると、高田が来た。

「よっ! 新島」

「高田、話したいことがある」

「何?」

「事故は意図的に起こされていた」

「は?」

「学校が意図的に事故を起こしていた」

「はぁ!?」

「七不思議は八坂中学校の私情のせいで起こっているんだ」

「どこからの情報だ?」

「鈴木真美からだ」

「はぁ!?」

「つまり、七不思議を全て解決すると八坂中学校の秘密がわかるらしい」

「秘密って?」

「さあ。汚職か忖度(そんたく)か。まあ、そのあたりだろ」

「なるほど。で、一番目は解決出来たということか?」

「ああ。七不思議の一番目は学校の私利私欲が関わっている。トリックも完璧に理解した」

「私利私欲? んだよ、それ」

「ああ。先輩が来たら話すことにしようか」

「わかった」

 その十分後。土方は部室にやってきた。

「二人とも、どうした?」

「先輩、座ってくれ。話しがあるんだ」

「どうした?」

「事故の原因がわかった」

「ほぉ? 気になるね」

 土方はソファで横になって、毛布に包まった。

 新島はその後、二人に全てを話した。

「まさか、昨日そんなことが......」

「しかも、事故の原因が......」

「まず、軽音楽部に行こう」

 新島は急いでカバンを持つと、部室を出た。二人も新島を追った。


「あの、鈴木真美さんはいますか」

「おや、新島君じゃないか」

「どうも。あなたは七不思議の一番目を解いているんでしょう?」

「もちろん」

「なら、ライブを中止してください」

「本当に仕掛けがわかったようね」

「ええ」

「なら、今ここにいる軽音楽部部員に説明しないと」

「わかってます」

 新島はマイクをつかんで声を張り上げた。

「ライブを、中止しろ!」

 周囲が固まった。新島が続けた。

「ライブで流れている曲は全て六十BPMを超えるテンポです。六十BPMを超えるテンポの曲を聴くと、心拍数と血圧が上がります。つまり、興奮状態になる。そんな曲を運転中に聴くと、事故を起こしやすくなります。事故を起こした車は全て、窓が開いていました。

 ライブを中止してください! 事故が、また起こります!」

 鈴木は拍手した。

「新島君。よくやった。皆! ライブは中止だと伝えておこう」

「わかりました」

 ライブは鈴木の働きによって、中止された。

 鈴木は新島の元にやってきた。

「学校が六十BPMの曲しか演奏させない理由はわかる? その理由が七不思議の一番目の学校の私情だ」

「演劇部の劇を失敗させることですよね?」

「そこまで理解しているのね」

「ええ」

「では、これから四人で演劇部の劇を見に行こう」

「ええ。土方先輩、高田! 行くぞ」

「あ、ちょっと」

 演劇部は劇の真っ最中だった。四人は席に着いた。

「新島君。なんで劇を失敗させたいかはわかっているよね?」

「演劇部の部室を移すこと、です」

「そうよ。演劇部の部室があるのは学校で一番広い部屋。そこは有効活用ができるかは、部活には渡したくなかった。だから、六十BPMの曲を劇中に役者に聴かせることで、興奮状態にさせて劇を失敗させる。それを口実に部室を移す。これが学校の私情」

「ひどい話ですよ」

「平成十八年にも、演劇部の部室を移させたかったからこの方法を八坂中学校が使った。結果、事故につながったんだよ」

「......」

 四人は静かに劇を見ていた。

 演劇部の劇は学校の策略で大失敗した。それから部室を移ることになった。演劇部の今の部室は狭く、劇の練習が難しいようだ。体育館を使えるのは週に一度。部の存続も怪しくなってきたのだ。

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