4.夢の中――カトレア。










 帰宅して、食事などを簡単に済ませた。

 自室に閉じこもる準備をして、ゲームで適当に時間を潰す。そうしていると、いつの間にやら就寝の時間になっていた。

 明日も学校がある。

 無理せずに、眠っておこう。



「そういえば、夢――か」



 ベッドに入ってから、俺はふと文芸部での話を思い出した。

 夢を日記につける。そんな話が出ていたが、本当に傾向など見えてくるのだろうか。しかし他に方法は思いつかなかった。

 それに、自分自身こういったことへの興味はある方だ。

 どんな夢を見るのか、実は楽しみだったりする。



「ふぁ……。とりあえず、寝よう」



 そうこう考えているうちに、眠気さんがやってきた。

 俺は横になって布団をかぶる。目を閉じると少しずつ意識が遠くなって――。









 ――女の子が、泣いていた。

 綺麗な黒髪の女の子。大粒の涙を流して、なにかを言っていた。

 聞き取れなかったが口の動きから、それは何かへの謝罪に感じられる。いったい、なにに謝っているのだろう。



 分からない。

 それでも、女の子は必死に謝っていた。



 周囲を見渡せば、そこに広がっているのは炎に包まれた街。廃ビルや、朽ち果てた家屋が文字通り転がっていた。

 そんな中で俺は立ち尽くし、ただただ少女を見つめている。



 理由は分からない。

 それでも、俺は彼女から目を離せなかった。




「――――カトレア」





 その時だった。

 夢の中の俺がそう、口にしたのは。

 その声に反応したのは、今までずっと泣いていた女の子。彼女はこちらに背を向けると、ぎゅっと拳を握りしめて震わせる。

 そして真っ赤な空を見上げて、こうハッキリと言うのだった。





「こんな結末、あんまりだ……」――と。





 夢の中の俺は答えない。

 それでも、どこかカトレアという少女に同調しているのは分かった。




 こんな結末は、あってはならない。

 もし変えられるのであれば、変えてやりたい。





 できないとは分かっていても。

 時は戻せないとは、分かっていても。




 それでも、俺とカトレアは心の底からそう思ったのだ。




 







 朝日が、俺の瞼をくすぐった。

 それによって、意識は次第に夢から現実へ。



「ん、あ……?」



 寝惚け眼をこすって、俺は無我夢中にノートに手を伸ばした。

 そして、書き綴る。あの景色を――。






「あれ、なんで……」






 そこで気付く。

 勝手に、意思とは関係なく、涙がこぼれ落ちていたことに。

 拭っても拭っても、それは際限なしに溢れ出してきた。ノートにペンを走らせながら、何度となく涙を拭い取る。

 その中でも、忘れはしなかった。





「……カトレア」





 あの、不思議な女の子の名前だけは……。




 

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