4.夢の中――カトレア。
帰宅して、食事などを簡単に済ませた。
自室に閉じこもる準備をして、ゲームで適当に時間を潰す。そうしていると、いつの間にやら就寝の時間になっていた。
明日も学校がある。
無理せずに、眠っておこう。
「そういえば、夢――か」
ベッドに入ってから、俺はふと文芸部での話を思い出した。
夢を日記につける。そんな話が出ていたが、本当に傾向など見えてくるのだろうか。しかし他に方法は思いつかなかった。
それに、自分自身こういったことへの興味はある方だ。
どんな夢を見るのか、実は楽しみだったりする。
「ふぁ……。とりあえず、寝よう」
そうこう考えているうちに、眠気さんがやってきた。
俺は横になって布団をかぶる。目を閉じると少しずつ意識が遠くなって――。
◆
――女の子が、泣いていた。
綺麗な黒髪の女の子。大粒の涙を流して、なにかを言っていた。
聞き取れなかったが口の動きから、それは何かへの謝罪に感じられる。いったい、なにに謝っているのだろう。
分からない。
それでも、女の子は必死に謝っていた。
周囲を見渡せば、そこに広がっているのは炎に包まれた街。廃ビルや、朽ち果てた家屋が文字通り転がっていた。
そんな中で俺は立ち尽くし、ただただ少女を見つめている。
理由は分からない。
それでも、俺は彼女から目を離せなかった。
「――――カトレア」
その時だった。
夢の中の俺がそう、口にしたのは。
その声に反応したのは、今までずっと泣いていた女の子。彼女はこちらに背を向けると、ぎゅっと拳を握りしめて震わせる。
そして真っ赤な空を見上げて、こうハッキリと言うのだった。
「こんな結末、あんまりだ……」――と。
夢の中の俺は答えない。
それでも、どこかカトレアという少女に同調しているのは分かった。
こんな結末は、あってはならない。
もし変えられるのであれば、変えてやりたい。
できないとは分かっていても。
時は戻せないとは、分かっていても。
それでも、俺とカトレアは心の底からそう思ったのだ。
◆
朝日が、俺の瞼をくすぐった。
それによって、意識は次第に夢から現実へ。
「ん、あ……?」
寝惚け眼をこすって、俺は無我夢中にノートに手を伸ばした。
そして、書き綴る。あの景色を――。
「あれ、なんで……」
そこで気付く。
勝手に、意思とは関係なく、涙がこぼれ落ちていたことに。
拭っても拭っても、それは際限なしに溢れ出してきた。ノートにペンを走らせながら、何度となく涙を拭い取る。
その中でも、忘れはしなかった。
「……カトレア」
あの、不思議な女の子の名前だけは……。
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