1.ナイトメア







 廃ビルを出ると、そこには武装した年齢性別様々な人たちが集まっている。一見して共通点のない彼らが、俺の仲間たちだった。

 カトレアと共にその人だかりに近付く。

 すると、数名の仲間内でも最もガタイの良い男性がこう言った。



「あぁ、カトレア様。本日もよろしくお願いします」

「よろしく、賀東。他のみんなも忙しい中、感謝するぞ」



 男性――賀東の挨拶に、俺には見せないにこやかな笑みで答える少女。

 それに少しばかりムッとしながら、俺はメンバーを確認した。



「あれ……?」



 そして、気付く。



凪咲なぎさのやつ、今日はいないんですか?」



 そこに同級生の姿がなかったことに。

 俺の疑問に、賀東が答えた。



「あぁ、立花のことか。彼女は外せない用事がある、とかでな」

「仕事よりも優先する用事、ね……。なんだろう?」

「あまり詮索してやるな。男だろう?」

「はぁ……」



 首を傾げていると、賀東が大笑いしながら言う。

 なにが、そんなにおかしいんだ……?



「とりあえず、今日の獲物はこの先にいるはずだ。みんな、準備は良いか?」

「はい、カトレア様!」

「準備はいつでもオーケーさ!」



 そうしていると、カトレアが確認するようにそう口にした。

 すると仲間たちは意気揚々、声を上げる。その波に流せるようにして、俺も仕方なしに頷くのだった。それを確認してから、リーダーのカトレアが宣言する。



「それでは、ナイトメア討伐を開始する!」――と。









 ――この世界には、魔物というものが存在する。

 言葉のイメージ通りに、魔物たちは人間を攻撃してくる生物。かといって魔物のすべてが害を為すわけではない。中には知性をもって人間に与する者もいた。

 この辺りのことはまた、別の機会に話すとしよう。



「拓馬! 右に一体!」

「了解……!」



 俺は賀東の声に反応して手にした銃を右へ。

 そして黒い影に照準を合わせ、引き金を引いた。乾いた音が鳴り響き、もとより曖昧な形をしていた影は霧散する。


 今のがナイトメア、という魔物だ。

 俺たちがチームを組んで対処に当たる敵であり、人間に悪夢を見せる存在。先ほどの話にあった、いわゆる攻撃する魔物、というやつ。



「今度は、左か!」



 ――パンパン、という短い音。


 どうして、俺たちがナイトメアと戦っているのか。

 それを説明すると、少しばかり長くなってしまうのだけど。簡潔に言ってしまえば、金を稼ぐためだった。それ以外にも理由はあるが、それもまた別の機会に。



「ふぅ……。今日は、これで目標達成かな?」



 俺は一息ついて、そう呟く。

 子供のころから続けてきたナイトメア狩りも、高校生にもなれば板についてくる。銃の扱いだって、嘘みたいに上達するものだった。


 ――快調、快調!

 俺は少しばかり余った時間で、廃墟の街を散策する。

 だが、それが一つの判断ミスだった。




「危ない、拓馬!!」

「え……?」




 角から飛び出した、その瞬間。

 ひときわ大きなナイトメアの影が、俺を覆いつくそうとした。しかしそれより先に、賀東が身を挺して俺を守り――。




「う、あ……!」

「がとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」









「うわああああああああああああああああああああああああっ!!」





 教室の中に、俺の絶叫が木霊した。

 思わず立ち上がったこちらに、クラスメイトの視線が突き刺さる。



「おい、明海あけみ。また、寝惚けていたのか?」

「へ……?」



 先生が、呆れたように言った。

 そこに至って俺は、顔から火の出るような気持ちになる。




「は、はい……。すみません……」




 そして、しゅんとして席につく。

 するとクラスメイトからは、大きな声で笑われてしまうのだった。




「ほら、静かにせんか。次のページに行くぞ!」




 それを注意して、先生は授業を再開する。

 しばし騒然としていたクラスメイトだったが、次第に日常の静けさを取り戻していった。俺はそれをゆっくり確認しながら、深くため息をつく。




「…………あれ」




 そして、ふと思うのだった。





「どんな夢、見てたんだっけ」――と。



 

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