第22話 不協和
「なぁ、恵」
「なに?」
「北条ってなんであんなに俺に突っかかってくるんだ?」
悟は恵に午前中の出来事を、呆れたため息とともに吐露した。
「知らないわよそんなの。香奈に聞けばいいじゃん」
「聞いたさ。"俺のことが嫌いなのか?"って。そしたらだんまりしちゃうんだもん。よくわかんないよ」
悟は頬を膨らませる。そして風船のようの空気が抜けるように溜息を出した。
「うーん……そんな子じゃないはずなんだけどなぁ」
恵は首を傾げた。
「確かにな。北条も恵と似て、若干強気なところはあるけど、人を陰湿にいじめたりだとかそんなことするような女じゃないぜ?」
慎之介も恵と同じくして首を傾げる。
それほどまでに、今朝起きたいじめの出来事は異質だったのだ。
からかうだとか、馬鹿にするだとか、悪口をいうだとか、そんなレベルの話ではない。
明らかに人間が人間を貶めようとする卑劣な行為そのものであった。
だが、今回の標的はあくまでも悟ではない。詩なのだ。
「この間の昼食の時の感じしかわからないんだけど、私は有栖川さんにそんな変な雰囲気は感じなかったよ。たしかに悟に引っ付いてたし、人見知りなところはあったけれども……それが癪に障るとは思えないわ」
恵の言う通り、いじめに足りうる原因があまりにもわからない。
もともといじめっ子というのであれば話は別だが、北条 香奈はそういうわけでもない、ただただ少し強気な女の子である。
北条 香奈の存在は悟も中学生の時から把握はしていた。
悟も恵も慎之介も同じ中学に通っていて、北条は中学2年生の時に転校生としてやってきた女の子であった。
悟と慎之介とはクラスが違ったために話をしたりしなかったものの、恵は転校してきたばかりの北条の世話を焼いていた。
偶然か必然か、北条は恵と同じ進路希望を提出し、そして同じ高校に入学した。
それは恵も喜んだそうだが、やはり中学と高校ではいる人も環境もがらりと変わってしまい、今では一緒にいる姿を見かけなくなっていた。
「ま、そしたら私が後で香奈に聞いてみるよ。それで有栖川さんはどうしてるの?」
「あ、あぁ……今うちで飯でも食べるんじゃない?」
「え?あんたの家に行ったの?」
「そうだよ。親が仕事でいないんだってさ」
「本当……悟の母親ってすごいよね。器がでかいというか、社交的というか。普通そんなほいほい知らない人泊まらせたり、面倒みたりしないわよ?本当、つくづく憧れちゃうよ」
「そんなにすごいか?」
「悟が思ってる以上にね」
悟は「ふーん」と答える。
その直後、彼のスマホからピコンと通知音が鳴り、母からメッセージが送られていることに気づいた。
「詩ちゃん、今ご飯食べてるよ」
その言葉に思わず、悟はニヤけた。
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