第202話 更に現れたのは……
「"炎弾(ファイアーカノン)"ッ! やれ、キイロッ!」
「お、黄華激閃流、"豪雨激閃"ッ!」
頂上決戦とも言える方々のやり合いの外で、オーメンさんやキイロさんも蝙蝠の部隊と戦っておられます。
オーメンさんの牽制の後にキイロさんが突っ込み、お得意の一撃必殺の抜刀術を連射しました。
「"爪撃乱舞"ッ!」
「チッ! またか……ッ!」
しかし、蝙蝠の部隊員達は、自身の爪を長く伸ばしたかと思うと、キイロさんの斬撃をそれで受け止めてしまいます。
「甘いぞ人間。我ら吸血鬼の豪爪、そう易々と斬れると思うな」
「ま、まだまだ未熟だなぁ、ぼ、僕も……」
吸血鬼達の言葉を受け、神速で納刀したキイロさんがそう呟いています。
「く、加えてこの数だ……に、人数不利感が、い、否めないねぇ……」
「んな事は解ってんだよッ!」
先ほどキイロさんが引き連れてきた仮面親衛隊によって、こちらが人数差をつけて優勢に立ちました。
しかし今では、向こうの蝙蝠の舞台がやってきた所為で、逆に人数差をつけられてしまい、立場が逆転してしまっております。
「お、オーメンさ、ちょ、ちょっと時間稼いでくれない?」
「ハァ!?」
吸血鬼達と斬り合っているオーメンさんに、キイロさんが提案いたします。
「た、溜めが要るんだこれ。で、でも状況は、だ、打開してみせるからさ……よ、よろしく」
「お、おいッ! 待てキイロ……ッ!」
「隙を見せたな人間ッ!」
「あっぶなッ!? クソ、あんにゃろう、勝手言いやがって……ッ!」
言うだけ言って少し距離を取ったキイロさんは、抜刀前の構えのまま、姿勢を少し低く構えました。
対してオーメンさんは。たったお一人で複数の吸血鬼達を相手取っています。
「…………」
そのまま何も言わないまま、腰に下げた剣の柄を握っておられます。
「……まさか、キイロの奴……ッ!?」
何かを察したのか。それを見た野蛮人が声を出しました。
「あの奥義まで乱射するつもりなのかッ!?」
「な、なんやあの奥義って?」
変態ドワーフが首を傾げます。言葉からして、野蛮人が訓練している一刀一閃流の奥義であることは解りますが、それは果たしてなんなのでしょうか。
「くたばれッ! 人間がァッ!」
「ク……ッ! も、もう持たねぇぞキイロッ!?」
「…………ッ!」
オーメンさんの限界の声が上がった瞬間。キイロさんはその場から複数の吸血鬼達に向かって突進しました。
何かを察したオーメンさんが、彼から距離を取ります。
「来るか人間ッ! だが先ほどの技等、我らには通用しない……」
「た、試してみなよ」
自身の射程範囲内に入ったのか、キイロさんはそうおっしゃいながら抜刀しました。
「ぼ、僕が編み出した黄華激閃流の秘奥義…………"極光・激流激閃"を防げるのかさァッ!!!」
「なに……ッ!?」
「き、"極光・激流激閃"ッ!!!」
直後に目に飛び込んできたのは、無数の光。それがキイロさんの剣の軌跡と解ったのは、少し後の事でした。
まるでそれは刃の激流。彼から放たれたそれは、複数の吸血鬼達を瞬く間に斬りつけました。
「「「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!!」」」
吸血鬼達の断末魔が響きますがいいい、一体なにが起こったというのですのッ!?
「な、な、なんやアレェェェッ!? 何がどーなったんか、誰か教えてーッ!?」
「……全く、見えなかったで、ございます……」
変態ドワーフとイルマが呆気に取られております。説明して欲しいのは、わたくしも同じですわ。
みんなして空いた口が塞がらない中。野蛮人がポツリ、ポツリと話し始めます。
「……"激流一閃"……抜刀の一振りから複数の斬撃を放つ、一刀一閃流の秘奥義…………ジジイしか、使えねーと思ってた、のに…………アイツは、それを……しかも……連射した……だと……?」
「す、スゲーじゃねぇかキイロッ!」
やがて、オーメンさんが駆け寄りました。
「ここまでの剣技、見た事ねーぞ!? こんなもんが使えるならさっさと……」
しかしそこで、オーメンさんは言葉を切りました。何故なら、剣を持つキイロさんの震える手から、腕から、おびただしい量の血が流れていたから。
「ま、まだ反動には、た、耐えられない、ね……は、ハハハ……な、情けない、や……」
「キイロッ!」
「だ、大丈夫だよオーメン。ま、魔法も撃てるし、ま、まだ剣は握れるから……」
「や、やってくれたな人間ッ!」
しかし、その奥義で全ての吸血鬼を斬り裂く事はできませんでした。いくらか数は減らしたとは言え、まだまだ残っております。
あ、あの無数の剣閃の中で生き残るとは……。
「け、結構手応えあったと思ったんだけどなぁ……ま、まだまだか……」
「だが、お陰さんでだいぶ楽にはなったぜッ!」
そのまま今度はオーメンさんが前に躍り出ます。
「キイロ程じゃねぇが……俺もそこそこ剣には自信あんだよッ!」
「き、君は器用万能型だからね……う、羨ましいよ、そ、そこは。え、援護するよ、"炎弾(ファイアーカノン)ッ!」
「クッ! この、人間がァァァッ!」
前衛をオーメンさんが、後衛をキイロさんが担う形で、再び吸血鬼達との戦闘となります。
キイロさんはまだ行けるとおっしゃっておりましたが、あの手で再び斬り合いに行くのは危険だという事なのでしょう。
ただ、現状はこちらが優勢ですわ。キイロさんの大技で流れが傾きましたし、このままであれば……。
「「「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!!」」」
しかし、その時。旅館の入り口から複数の人々が飛び出して来ましたわ。誰も彼もが怯えた表情をしており、こちらの様子等目もくれていないみたいです。
「な……ッ!?」
「ま、まだ一般人の方々が、い、いたのかッ」
突如として現れた一般市民の方々に、オーメンさん達が驚いた表情をされています。
「何かは知らんが……利用させてもらうぞッ! あの人間達を狙えッ!」
「さ、させるかよッ!」
「お前の相手はこっちだッ!」
「クソッ!」
そうはさせまいとオーメンさんが向かいますが、立ち塞がるのは吸血鬼。
足止めをされている間に、他の吸血鬼達が魔法陣を展開します。
「遅いッ! やれッ!」
「「「"炎弾(ファイアーカノン)"ッ!」」」
生き残った吸血鬼達が、逃げ惑う市民の方々に向けて魔法を放ちました。い、いけませんわッ!
「野蛮人ッ! 変態ドワーフッ!」
「おうよッ!」
「やったらァッ!」
「ワタシもでございますッ!」
「「「「"守護壁(ディフェンスウォール)"」」」」
彼らだけでは難しいと思い、わたくし達も魔法を展開しました。
飛び交う炎の塊をどなたにも当たらないようにと、魔力でできた壁を避難民達の前に生成します。
「ッシッ! ナイスだぜ、マギーちゃん達ッ!」
「き、協力に感謝するよッ!」
オーメンさん達からも賛辞の言葉が飛んできます。良かった、わたくし達でも力になれたみたいですわ。
「チッ! あっちの餓鬼共も厄介か。先に潰せるとこから……」
「んな暇与えると思ってんのかッ!?」
「き、君たちの相手は、ぼ、僕達さッ!」
こちらに気づいた吸血鬼達が狙いを定めようとしますが、オーメンさん達がそうはさせまいと押し留めてくれております。
時折防ぎ切れずに魔法が飛んできますので、わたくし達も気が抜けませんわ。
なんとかして、皆さまの避難の時間を……。
「……やぁねぇ〜。アタシの作戦が、もう色々とめちゃくちゃじゃな、い、の……レイメイ。やるわよ」
「「承知いたしましたバフォメット様」」
直後。背後から聞こえた聞き覚えのある声と聞き覚えのない声に、わたくし達は一斉に振り向くことになりました。
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