第150話 体育祭当日⑥


「さて! いよいよ選抜リレーですわッ!!!」


 結局、あの後の模擬剣術戦は私たち白組の勝利となりました。そして、キイロさんとの戦いに出る代表には、兄貴が選ばれました。


 あの乱戦での戦果、その後の一対一でも一人でほぼ全ての相手を倒してしまった彼に対して、誰も文句を言いませんでしたからね。


 にしても、先ほどまで体調が悪いと言って模擬剣術戦を辞退されたとは思えないくらい元気いっぱいなマギーさん。


『……マギーさん。元気、だね……』


「当たり前ですわッ!」


 オトハさんの疑いの目も何のその。最早次のリレーに向けてオイッチニーサンシ、と準備運動を始めた彼女を見て、私たちは何かを諦めました。


 はい、さっきはたまたま体調が悪かっただけなんですね。なんで仮病まで使ってサボったのとか、そういう事は何も聞きませんとも、うん。


 選抜リレーに出るのは、兄貴とマギーさんのお二人です。


 しかし兄貴は、先ほどの模擬剣術戦でかなりの奮闘を見せていました。疲れていないかと心配が顔を覗かせましたが、


「アイツとやり合える目処もついたことだし……何より、リレーこそ体育祭の華よ! ッシャアッ! やってやるぜェッ!」


 こちらもやる気十分と言ったご様子で、疲れているとは微塵も思えません。うん、杞憂でしたね。


「……こいつらは置いといたとしても、結局今のワイら何点なんやー? 昼からは得点板が隠されるから、状況がわからんわ」


 シマオが校舎の方を見上げています。彼に言う通り、午後からは赤組と白組の得点板が両方隠されてしまうため、現在の点数状況が解りません。


 体育祭も、残すところあと二種目のみ。彼らが出る選抜リレーと、各組の応援団による応援合戦だけです。


 決着は目の前だと言うのに、自分たちの状況が目に見えていないのが歯がゆいですね。


「確かに……今、点差はどれくらいなんでしょうか?」


「上級生の結果まで全部覚えとらんし、ワイらも勝ったり負けたりやったからなー。一体どっちが優勢なんやか……?」


「……あっ。もしかして気になる~?」


 二人でどうだろうと話していたら、ウルさんが入ってきました。含みのある言い方が、妙に引っかかります。


「なんやウルちゃん。まさか全部覚えとるとか言わんよな?」


「えっ? 覚えてるよ。だって気になってたし」


「「嘘やんッ!?」」


 ウルさんのその言葉に、私はシマオを声を揃えて驚きます。まさか、彼女が全部覚えて計算していたとは……。


「ま。そうは言っても実行委員じゃないし、勝ち負けによる具体的な点数の入れ方までは知らないから、何となく~だけどね」


『……ちなみに今はどっちが勝ってるの?』


「多分だけど、ボクたち負けてるよ」


 ウッソだろお前。


「うん。ボク達一年生が勝った負けたをしててだいたい五分なんだけど、上級生の種目で負けた回数が若干多いから、多分負けてるんじゃないかな?」


「……聞きましたか、野蛮人?」


「……ああ。よぉおく聞いたぜパツキンよぉ?」


 ウルさんの言葉を聞いたマギーさんと兄貴が準備体操を終え、ユラリと立ち上がりました。


「このリレー、絶対に落とせませんわッ!!!」


「要は俺らが勝ちゃいーんだろうがよォッ!!!」


 こちらが何も言わずとも、気合い十分なお二人。なんと頼もしいことか。その勢いのまま、二人は入場ゲートへと向かっていきました。


「頼みましたよ二人ともッ!」


『頑張ってね、エド君、マギーさん!』


「行ってらっしゃ~い。吉報を待ってるよ~」


「負けたら承知せんぞノッポォ!」


「わたくしにお任せあれッ!」


「うっせぇなチンチクリンッ! テメー、自分が出た競技ほとんど負けた癖にいっちょ前言いやがってェッ!」


 こうしてグラウンドのトラック内に集まった、選抜リレーの面々。各学年から代表者が複数人出て行われる、リレーの大一番です。


 順番は、二年生選抜から始まり、私たち一年生選抜が中継ぎ、そして三年生選抜が最後になります。


 中盤を任された兄貴とマギーさんら一年生選抜。果たしてどのような結果になるのか。


 私が行く末をワクワクしながら見ていたら、やがて二年生選抜の生徒達がスタートを構えて、選抜リレーが始まりました。


 序盤は一進一退の攻防。と言うか、本当に足の早い人ばかりでびっくりしてしまいます。


 私もそこそこは自信があったのですが、選抜にすら選ばれませんでした。世の中、上には上がいるものです。


『……ちょっと、負けてきちゃったね』


「くあー! あの二年生、速過ぎやろッ!」


 やがて勝負の天秤が傾き、私たち白組が少し差をつけられてしまいました。シマオが嘆くように、二年生選抜のとある生徒がめっちゃ速く、こちらとの差が徐々に広がっています。


「これは……何とか巻き返したいとこだね~」


「そうですね。まだ抜き返せそうな差ですし……」


 私はウルさんと話しながら、リレーの推移を見守ります。他の二年生選抜の生徒も頑張りましたが、二年生同士の対決では赤組に軍配が上がった感じでした。


 次にバトンが渡るのは、私たち一年生選抜。兄貴やマギーさん達の番です。


「……少々不利、という奴ですか……」


「ああ。だが……やりがいがありそうじゃねーの……ッ!」


 やがて立ち上がったのは兄貴でした。彼の前に一年生選抜の生徒も走っていますが、つけられた差はまだ縮まっていません。


「いってくらぁ」


「全力で、ですわよ?」


「わーってるよ」


 赤組の生徒が先にバトンを受け取り、その後で兄貴がスタートラインに立ちます。軽くジャンプした後に走り出す態勢を取り、前の走者が交換地点にきた段階で兄貴も走り出しました。


 そのまま手を後ろに出し、バトンを受け取ります。

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