第4話 女子高生同士の作戦会議

「やった! ……やった!」


 電車の中で小さな声で自分の胸の前でガッツポーズをしている女子高生がいた。

 その漏れ出ている喜んでいる雰囲気に、周りの通勤ラッシュですでに疲れ果てている社会人たちの心を知らず知らずのうちに癒していた。


 そんなことを微塵も気づかない女子高生、新垣花怜はガッツポーズをしたまま、電車を降りる。


「久能京介……へへへ」


 もう何度目になるかわからないその言葉を口の中でつぶやき、にへらとだらしない笑みを浮かべる。


「すごくだらしない顔してるよ、花怜」


「うへ!?」


 自分の妄想の世界へと没入していた彼女は、背後から突然澄んだ声で名前を呼ばれ大げさに肩を震わせて振り返る。


 そこに立っていたのは呆れたような視線をこちらに向けながら腕を組み、こちらに近づいてくるクールな雰囲気を醸し出している女子高生だった。


「なんだ、夕花ちゃんか。びっくりさせないでよ~」


「私は普通に話しかけただけ。自分の世界に入り込んでいる花怜が悪い」


 花怜は周りを見渡すと、自分がいつの間にか駅を出て同じ制服を着た高校生が多く歩いている通学路に出ていたことにようやく気付く。


 それと同時に自分が妄想の世界に入り込みすぎてだらしない顔を周りに向けていたかと思うと、途端に恥ずかしくなってしまった。


「今更気づいてももう遅い。それで、どんないいことがあったの?」


「いいことあったって、どうしてわかるの!? 夕花ちゃんもしかしてエスパー!?」


「何バカなこと言ってんの。あんな幸せオーラ振りまいておいて気づかない人はいないでしょ」


「私……そんなにだった?」


「そんなによ。それで、何があったの?」


 夕花は花怜が一人の男性に猛アタックをしているということを知っていて、むしろ一日目からきつい返事をされて落ち込んでいた花怜にアタックし続けろとアドバイスまでしている。


 花怜のメンタルがくじけることなく久能に話しかけることができているのは、ほとんど夕花のおかげといっても過言ではない。


「それがねえ、名前教えてくれたんだ~」


「……ん?」


「ん? どうしたの?」


 夕花が花怜の発言を聞き、眉をひそめて首をかしげる。


「今まで知らなかったの?」


「そうだよ?」


「あれ、私花怜から告白したって聞いてから少なくとも一週間は経ってたと思うんだけど」


「そう、やっと教えてくれたんだよー。ちょっとは信用してくれたってことかな?」


「経緯にもよるけど……」


 夕花は何があっても友達として花怜の恋愛を成就させたいとは思っている。

 そうは思っているが、これはなかなかハードルが高いかもしれない……。

 そんな予感がしてどんどん眉が八の字になってしまう。


「それでそれがいいことだったりしないよね? もう少し何かあったんでしょ? 隠してないで洗いざらいはいちゃいなさい」


「ちょ、夕花ちゃん迫られると怖いよ? それに私それで満足しちゃって駅に入っちゃったからあったことってそれくらいだし……」


 花怜のおびえながらももじもじとした返答に、まじか……と驚愕の表情を浮かべる夕花。


「……まあ喜びの幅は人によるからいいけど、そんな調子で大丈夫なの?」


「むー……それでも毎日頑張って話しかけてるし、いつかは……」


「そんなのんきにしてたら相手は社会人なんだから、すぐに別の相手見つかっちゃうよ」


「それは困る!」


「ならもっと突っ込んでいきなさい」


「うー……らじゃ!」


 びしっと敬礼する花怜をみて、少し微笑み満足げにうなずく夕花。

 毎朝の進展を確認するのは二人の最近の日課となっていた。

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