第5話 女子高生は宣言する
「きょ……うすけさんは、どうして私と付き合ってくれないんですか?」
「なんだ急に」
いつものように通勤路を歩いているといつの間にか隣を歩いている新垣が唐突にそんなことを聞いてきた。
「いや、私最初にきよ……うすけさんに告白しましたよね? なんでお断りされたのかなって」
「あれは告白じゃなくてほとんど美人局かパパ活のそれだけどな。それに断った理由はあの時話しただろうが。それときようすけって誰だ。呼べないなら無理に名前で呼ぼうとするな」
「それは却下で。じゃあ私が高校生じゃなかったとしたら付き合ってくれるんですか?」
こいつはいったい何をバカなことを聞いているんだろうか。そんなもしもの話をしても仕方ないだろう。
新垣は女子高生で俺は社会人。そんな二人が付き合ったりして別れでもしたら、俺の人生は目も当てられないほどに急転直下まっさかさまだ。
突然新垣が高校生じゃなくなるわけでもなければ、成人へと急成長することもない。
だからそんなもしもの話をしても意味がない。
そういいかえしてやろうと新垣の方にふと視線を向けると、彼女はやけに憂いげな表情をしてうつむきながら歩いていた。
その表情はどこか不安げに見えたが、俺からすればなぜ真剣にそんなことを聞いてくるのかわけがわからなかった。
「好きじゃないからな。高校生じゃなかったとしても付き合うことはないだろうな」
俺はそこらへんはしっかりとしているつもりだ。恋愛感情なくして付き合えるほど俺の恋愛観は成熟していない。
少し厳しい言葉に聞こえるかもしれないが、曖昧にごまかすよりはしっかりと言ってやったほうがいいだろう。
そう思って再び隣を見たがそこに新垣の姿はなかった。
「あれ?」
もしかして俺の返答をちゃんと聞いていないとかそんなオチは勘弁してくれよ。
どこに行ったのか少し気になり周りを見渡してみると、すぐ後ろで立ち尽くしている彼女の姿があった。
「……そんなにショックか?」
まさか本気で新垣は俺のことを……。
一瞬そんな思考がよぎるが俺は即座にそれを否定する。
そこに至るまでの過程に心当たりがなさすぎるし、遊び半分で俺に近づいてきてると考えた方がしっくりくる。
俺は若干後ろ髪をひかれる思いをかかえながら、新垣から視線を外して駅へ向かって歩きはじめた。
「私……私絶対京介さんのことオトして見せますから!!」
駅構内に響き渡るように力強い声でそう宣言して見せた新垣。
突然の大声に俺の身体は跳ね上がる。
まったく……若いっていうのは恐ろしいな。こんなところでそんなことを言うなんて俺には怖くてできない。
「そんなこと、ありえないよ」
俺は彼女には聞こえないような声で、まあどれだけ普通の音量でしゃべったところで新垣とは相当な距離が離れてしまっているから、聞こえるはずもないのだが、小さくそうつぶやき、俺は新垣花怜には惚れない。
そんな確信めいたものを感じながら駅のホームへと向かった。
「はあ……」
午前の仕事がひと段落した昼休み。俺は会社の近くにある公園のベンチへ腰かけると同時に、大きくため息をつきながら天を仰ぐ。
仕事量は別にいつもと変わらないのだが、ここ最近は昼休みには一日分の体力を使い果たしているような、それくらいの疲労に襲われている。
やはりあれだろうか。女子高生のテンションに朝からついていくのは俺みたいな腐りきった社会人には、半日分くらいの体力が必要ということだろうか。
恐るべし高校生。俺を疲れさせて判断力を鈍らせる作戦か。
……新垣がそこまで策士的には見えないが、最近の若い子の動向はわからんからな。
「久能、ずいぶんと疲れているようだな」
「はえ?」
自分でも気が抜けていると感じる声を発しながら視線を空から名前を呼ばれた方へ向ける。
そこにはスーツ姿で姿勢正しく、ただし少し苦笑いをしながら立っている女性がいた。
「清瀬先輩!」
俺は鋭い視線で見つめられていることと、彼女にだらしない声を発してしまったことへの羞恥心をごまかすように、素早く立ち上がり直立不動の状態になってしまう。
「先輩はやめてくれと言っているだろう。今は私が少し先に入っただけの会社の同僚だ」
「すいません、つい……」
「相変わらずだな。となり、いいか?」
「もちろん!」
会社でも目立つほどの整った顔立ち、そして会社でも評判になるほどの完璧な仕事こなし……そんな俺から見たら完璧超人な存在が今俺の隣に座った
高校の時の先輩で、高校の時も生徒会長と風紀委員長を兼ねていたような存在で学校中から『鉄の処女』と恐れられると同時に、憧れの視線を向ける者が多かった。
……まあ二つ名のネーミングセンスはどうかと思うけど。
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