第2話ー不完全な密室ー

「事件は昨日の朝、6時半頃発覚しました。亡くなったのはこの家の夫人。47才。死因は感電死。風呂場に居るところを家政婦が発見しました。」

テーブルに何枚かの写真を並べながら小林さんは続けた。

「家の玄関には鍵がかかっており、窓もほとんど閉まっていました。」

「ほとんどねぇ。開いていた窓もあったということか?」

「はい。二階の夫人の寝室です。ただ、鍵が開いていましたが下の方が少し開く程度の窓で人は通ることは出来ません。外にも木もありませんし、脚立を立て掛けた跡もありません。雨が降ってないので自然に跡が消えたというはないでしょうし、跡を消したとしても窓枠などに跡もありませんでした。」

珈琲を二人に出して自分もインスタント珈琲のコップを片手に小林さんの横に座る。

「帰らないのかい?」

「遅くなってもいいと言われてますし、気になりますし。」

「他言無用で、お願いしますよ。」

「小林、容疑者は?」

「今のところ3人です。夫人の旦那の社長。社長の運転手。通いの家政婦。です。」

「アリバイは?」

「旦那は夜6時から11時までホテルで創立60周年記念のパーティーに参加。参加者も多数いてアリバイは完璧です。運転手は、夜の5時半にホテル旦那を送迎したのち旦那から終わったら電話すると言われ帰ろうとしたんですが、同級生に会いパーティーが終わるまでホテルのロビーでお茶していたようです。家政婦ですが、普段夜10時までだったんですが夜の9時に帰ってます。いつもは夜9時に夕食を食べるようですが旦那がいないので8時頃食べたようで夫人から早く帰っていいと言われたようです。家から車で10分程のスーパーに買い物に行ってその後帰宅。朝の6時半に家に来て夫人が起きてないので起こしに行ったら部屋にいなくて旦那と二人で探していたようです。因みにですが、帰ってきた旦那は夫人が先に寝ていると思いお酒も飲んでいたので風呂に入らず寝てしまったようです。」

「子供は居ないの?」

「居ます。娘が一人。すでに家を出て一人暮らししていますが実家の鍵を持ってないようです。家の鍵は4つしかなくて合鍵を作るのも困難な鍵のようです。」

「特殊な鍵ねぇ。死因は感電死って言ってたけど浴槽に体は浸かっていたのかい?」

「浸かってました。鑑識は顔が浸かってなかったので溺死ではないと言うことで解剖してます。まだ詳しいことはわかってませんけど。」

「夫人の趣味ってアロマキャンドルじゃないかい?」

「はい。最近、ハマっていたようです。」

「風呂場でも使用していた。」

「けど、蝋なんてありませんでしたよ。」

「蝋燭は使わなかったろうな。水で火が消えるから。今は、LEDのがあるんだよ。それが凶器。浴槽の水を調べなさい。塩が出るから。」

「凶器ってやっぱり他殺なんですか?事故ではなくて。」

「蝋が見つからないとか、顔が浸かってなかったから溺死ではなく解剖に回したって言ったろってことはLED のアロマのやつがなかったということ、犯人は夫人が死んだその時間にアリバイのある人間だよ。その後、犯人は現場に行き証拠を隠滅。けど、隠したのが関の山だろうね。今も家に警察がいるならね。」

「今も居ますよ。夫人が亡くなったのは、夜9時から12時の間と思われます。ただお湯に浸かっていたので実際よりは長くなっているかと。もう、犯人わかったんですか?」

「あぁ、簡単だったよ。」

そう言ってまだ湯気の立つ珈琲を一口飲み微笑んだ。


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