部屋の中の探偵

不思議猫

第1話ー探偵登場ー

潮風が気持ちいい港町私はこの町唯一の喫茶店に働いている。名前は牧萌まきもえ今年25になるが低い背のせいで豆と呼ばれている。萌は、めとも読めるから略して豆。

「おはようございます。」

エプロンを着けながら階段を降り店長に挨拶する。

「豆くん、おはよう。来たばっかりで悪いけど配達頼める?」

「良いですけど、配達なんてしてたんですね。」

「普段というか普通はしないんだけど、この人は特別なんだ。このキリマンジャロ届けてね。住所じゃわからないだろうから地図描いたから」

そう言って豆の入った紙袋と紙切れを受け取る。

「じゃあ、行ってきます。」

「別に遅くなっても良いから。というか遅くなると思うけど。」

「何でですか?」

遅くなるってどういうことなんだろうか?

気難しい人なのかなぁ?配達なんて初めてで少しワクワクしながら店を後にした。


店の戸を開けると潮風が香る。今日は、晴天で波も穏やかこんな日は海岸で時間を忘れながらぼーっとしていたい。

店長の描いた地図は見やすくすぐにつけると思った。ほんの少し前の自分に腹が立つ。曲がる角の目印の木で出来た魚の看板が一向に見当たらない。

「うちに用なら着いておいで。」

急に話しかけられはっと振り向くと、一人のイケメンが立っていた。

日本人離れした顔立ちに少し明るい感じの黒髪、ダークブラウンといったようなそんな色緩やかにウェーブもかかっている。見とれて言葉に詰まっていると「そこの喫茶店の子だろ。注文したのは私だから。」と言われ苔が覆っている壁を撫でると木で出来た魚の看板が現れた。

「え~と、緒方さん?」

「はい。道分かりにくいですよね。この先のレンガの家が私の家です。」

微笑みながら流暢に日本語を話す彼はハーフか何かなのだろう。

「出来れば、家に一緒に来て珈琲淹れてくれませんか?」

「そういうサービスは……」

といいかけて彼が買い物帰りで荷物が持てないことを知った。

「すみません。気がつかなくて。」謝りながら彼と共に家に向かった。遠くからは見えなかったが近づくにつれ[緒方探偵事務所]という看板に気がついた。

「探偵してるんですか?」

「趣味程度ね。あまり依頼は来ないけど。」

苦笑いしながら言う彼。

「先生!出掛けてたんですか!」

「うるさい、小林。私だって出掛ける。」

小林と言われた彼は、家の入り口の階段に座っていてこっちに気がつくと走ってきた。大きな黒縁メガネがトレードマークのような少年のような子。

「事件なんだろ。小林。君も入って。」

緒方さんが鍵を開けて家の中に招かれた。中に入ると珈琲の香りが先に香った続いて古本やインクの匂い私も好きな香り。

「君の名前聞いてなかったね。」

「あぁ、牧萌です。皆からは豆って言われてます。」

ペコッと頭を下げて挨拶する。

「じゃあ、豆くん珈琲淹れてくれませんか?こっちの小林には棚の上にあるインスタントで良いから。」

「そうなんですか?」

「いいんですよ。いつもそうなんで。」

小林さんはそういうとソファに座り鞄から1冊の封筒を出した。

「では、話しますね。今回の事件の概要なんですが……」

「まだ、受けるとは言ってないが……まぁ、気晴らしにはなるか。話なさい。」

デスクの椅子に腰掛け足を組ながら緒方さんは言った。

部屋中に珈琲の匂いを漂わせながら事件は始まる。




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