第3話「スキル授与式」


 教会の中は薄暗く、普段は無人なのか微かに埃の匂いがした。

 今日のために整備したのか長椅子は整えられ、壁際にはズラリと神殿騎士たちが居並んでいる。


「さぁ、こちらへ来なさい」


 教会関係者────高位の司祭らしき初老の男性に誘われ、レイルは水晶の前に立たされる。


「まずはこちらに手を当てなさい。そして、今の自分を示すのです」


(……今の自分を示す? ステータスの開示ってことかな?)

 言われるままに、教会の奥に安置された大きな水晶に手を当てる。


 冒険者ギルドにある冒険者認識票ドッグタグ登録時に、義務つけられているステータス鑑定の水晶に似ているので、現役冒険者のレイルには何となく使い方が分かった。


「えっと、はい」


 ギルドの受付でやる様に、頭に「ステータス出ろー」と念じると、

 普段、自分だけが見えるステータス画面を他人にも見えるようにする仕組みらしい。


 じわり…………。



 水晶に浮かび上がる文字列──。



 ※ ※ ※

レベル:23

名 前:レイル・アドバンス

職 業:盗賊

スキル:七つ道具シークレットLv3


● レイル・アドバンスの能力値



体 力: 235

筋 力: 199

防御力: 302

魔 力:  56

敏 捷: 921

抵抗力:  36


残ステータスポイント「+2」


スロット1:開錠Lv2

スロット2:気配探知Lv1

スロット3:トラップ設置Lv1

スロット4:投擲Lv1

スロット5:登攀Lv1

スロット6:な し

スロット7:な し


● 称号「なし」


 ※ ※ ※



「ふむ……。まだ若いのに精進しているようですね」

「あ、ありがとうございます」


 成人になりたてにしては──という意味だろうが、所詮Dランクの冒険者に過ぎないレイルには素直に褒められた気がしない。


「スキル『七つ道具』ですか──……冒険者なら【盗賊シーフ】として支援職にうってつけの良いスキルですね」

「そ、そうですね……」

 ニコリとほほ笑む司祭に、曖昧に頷き返すレイル。

 支援職にうってつけとは随分前向きな意見だ。実際は『七つ道具』は外れスキル・・・・・と言われているくらい。


 『七つ道具』は戦闘力に乏しく、魔法も使えないので、

 このスキルを持って生まれたものは【鍵屋】か【盗賊】くらいしか就職の道はない不遇スキルだ。


 だからレイルは────……。


「それでは、地下にお進みなさい──奥には女神様がいらっしゃる。くれぐれも粗相のなきよう」

「は、はい!」


 ドクンと心臓が高鳴るのを感じる。

 いよいよスキルを授かるのだという高揚感が否応にもレイルを浮つかせる。


 司祭に示された先に進むと、青い灯の先に薄暗い階段がぽっかりと口を開けていた。

 レイル以外の若者たちもこの階段を通って「スキルの女神」に会ってスキルを授かったのだろうか。


 教会を出てきてすれ違った若者たちの色々な表情を思い出す。


 喜んでいるもの。

 落胆しているもの。

 微妙な顔をしていたもの────本当に様々だった。


 果たしてここを出るとき、レイルはどんな表情をしているのだろう。


(いよいよだぞ────ミィナ)

 そっと、胸に手を当て、ミィナの形見のペンダントを握りしめる。






「きっと、戦闘スキル・・・・・を授かるからな────見ててくれよ」


 ※ ※ ※


 決意を胸にしたレイル。

 そのまま階段を下りていくと、目の前には広大な地下空間があり、床にはびっしりと魔法陣が刻まれた不思議な空間に降り立った。


「こ、ここが……」

 荘厳な空間に息をのむレイル。

 そして、部屋の壁際には彫像のように立つ神殿騎士と中央には高そうな法衣を纏った神官がいた。


「それではスキル授与式を始める。──レイル・アドバンス。前に」

「は、はい!!」


 言われるままに進み出るレイル。

 その歩みにあわせるように、床の魔法陣がポンッ……ポンッ……と明るく光り、まるで踏むと発光するコケを踏みしめている気分だ。


「レイル・アドバンス────これよりスキルを授与する。……強く願いなさい。自分がどうありたいのか」


 こくこくこく!


 緊張感のあまり、答えることもできずにただただ頷くレイル。


「──強く、強く! 強く願うのです!」

「は、はい!」


 神官に言われるままレイルは願う。



 スキルを…………!

 強いスキルを──……!



「俺に戦闘スキルを……! 強いスキルを────!」


 ギュウと握りしめるミィナの形見。その思いを馳せるレイル。

 まだ子供だったあの頃の約束を果たすために……。



 ミィナ……。

 ミィナ──。


  「レイル……」


 ミィナ!


  「レイル──! 約束だよ!」

  「レイルは護衛の冒険者で、私は商人!──それで二人で世界を回ろうよ!」


 あぁ、ミィナ!

 俺は約束を果たすよ──……。


  「────スキル授与式でいいスキル・・・・・を手に入れたら、絶対に一緒に行こうね!」

  「約束……だよ!」



 脳裏に流れたミィナの声。

「あぁ、約束だ……」

 もう二度と、君と喧嘩はしないよ。


(──あの日、喧嘩をしたせいで彼女にお別れを言えず、酷い別れ方をしたままで後悔だけが残ってしまった。だけど、もう後悔したくない!)


 些細な事で、ミィナと喧嘩別れをして、そのせいでミィナの死に目に会えなかった。

 そして、誰か見ず知らずの人間に殺されたミィナ────……。



 彼女はとっくに死んでもうこの世にはいないけれど──レイルは彼女と世界を回るという約束を果たしたい。



 絶対に戦闘スキルを手に入れて見せるから……!





「約束──……守るよ、ミィナ」





 ……ピカッ──────────!!


 レイルの呟き。

 それを合図としたかのように地下の部屋が強い光に閉ざされる。



 そして、光が収まった時。

 その光の収束した先に、神々しい光に包まれた一人の女性がいた。



 そして、彼女が言う。

『──……貴方のスキルは「手料理」です』


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