第二章 日常の忘れ物 3

クレープを食べ終えて、姫さんと食料品売り場に来ていた。

まず俺は家の在庫がなくなっていたカップ麺を買い足す。

俺は種類はメジャーなものを買うタイプだ。

期間限定とかは、普通のものより安ければ買う感じだ。

…最も、そういうものはあまり美味しくないイメージが俺にはあるが。


「魔法使いさんは、今晩何を食べたいですか?」


カートを押す俺の隣で、姫さんは聞いてきた。

女子高生と買い物をするなんて、なかなか体験できないだろう。


「うーん、そうだな。…やはり、温まるものが食べたいかな」


まだまだ寒いし、これからもっと寒くなるだろう。

お金はまだまだあるし、そこそこのものが買えるはずだ。


「魔法使いさんの家に鍋ってありましたっけ?」


「あるぞ。といっても、そんなにでかくはないが…」


「じゃあ今日は鍋にしましょう」


鍋か。

しばらく食べていないな。

施設で皆と食べた時以来だろうか。

家で結局鍋を買っても、作ることはしなかったからな。


「何鍋が食べたいですか?」


姫さんが、野菜売り場で白菜などをカートの籠に入れながら、聞いてくる。


「何鍋って、最近のは種類が多すぎて困るんだよなあ。どんな種類が作れそうだ?」


「そうですね…。普通に水炊きだったり、ちゃんこ。豆乳にキムチ、トマトとかもありますね」


「それなら多分俺、水炊きしか食べたことないかもな。あれだろ?ぽん酢につけて食べるやつ」


「そうですね」


姫さんは豆腐やしめじ、もやしなどを次々、籠に入れていく。


「だったらやっぱり、水炊きじゃないやつ、食べてみたいかな」


「でしたら」


彼女が食材のコーナーを周って、ある場所を見つける。

鍋の素のコーナーだった。


「この中から選んでください」


「…こんなにあるのか」


さっき、姫さんが言ったものから、本当に鍋になるのかと思うようなものまで。

数々の種類の鍋の素が置かれていた。

買い物にはかなりの頻度で行っているのに、いつもお惣菜コーナーばっかりで、こんなものが置かれているなんて俺は知らないはずだ。

何故かとても新鮮な気分だった。


「うーん、そうだなあ」


実際どれも味の想像がつかない。

キムチやトマトは食べたことあるから、キムチやトマトの味がするのだろうか。


「オーソドックスにいったら、どれになる?」


まず最初は基本のものを食べるだろう。

俺の癖だ。


「んー。やっぱり、ちゃんことか豆乳じゃないですかね?」


「ならその二つでどっちか選んでくれ」


「いいんですか?」


「ああ。正直、味の想像がつかないしな」


俺がそう言うと姫さんは少し悩んだ後。


「じゃあ、豆乳にしましょう」


「その心は?」


「豆乳鍋は身体の冷えに効くんですよ」


そうだったのか。

最近は寒いし、反対する理由にもならない。


「じゃあ後は、肉を買って帰りましょうか」


「了解だ」


少し残金が心配になったが、俺と姫さんは肉売り場に向かった。


・・・


食材や衣類、その他多数を持って歩くのは少し疲れた。

ゆっくり歩いて、アパートの部屋に戻る頃には、太陽の半分程が沈みかけていた。

買ってきた荷物を部屋に置いて、食事の準備をする。

戸棚から、鍋を取り出して姫さんに渡す。


「魔法使いさんは全部食べた分、お米を炊いておいて下さい」


「任された」


米を多めに四合、彼女の邪魔にならないように急いで洗って炊飯器に入れ、スイッチを押した。

姫さんは白菜を千切って切ったり、鶏肉を素早く切ったりして準備していた。


「やっぱり、姫さんは手際がいいな」


「そうかな?」


「ああ。俺なら十倍くらいの時間がかかっているだろうな」


「何ですかそれ。遅すぎですよ」


姫さんは笑って、作業を進める。

やがて、鍋に豆乳鍋の素を入れて、そこに切っておいた鶏肉を入れる。


「鶏肉は中まで火が通るのに時間がかかるし、いい出汁が出るので早めに入れます」


「勉強になるな。なんだか、料理が好きなお母さんみたいだ…」


「…」


姫さんは少し俯いた。

俺も自分が言ったことを自覚する。


「悪い。変なこと言ったな」


「い、いいですよ。それに、私の作った鍋で心も身体も温まってもらいますから」


「それは楽しみだな」


姫さんは鍋の中に切った野菜を入れていく。

そして豚肉や肉団子を入れて、最後にもやしを入れて、蓋をした。


「もやしは味を染み込ませるのも大事ですが、シャキシャキ感も残したいので、最後に入れます」


「なるほど」


「これでしばらく待ったら、煮詰まってできるはずですよ」


「じゃあ、それまで待つか」


「部屋のテーブルに何か布や紙を敷いて、そこに鍋を乗せましょう。何かありますか?」


「うーんそうだな。チラシとかでもいけるか?」


俺がそう言うと、彼女は少し考える。


「折ったり重ねたりしたらいけますかね。それでいきましょう」


「わかった」


俺は机の上に置いてある、日にちの切れた飲食店などの割引券があるチラシを重ねて、折り紙のように折る。

俺はこういうのをすぐに捨てられる性格じゃないのだ。

折ったチラシを机の真ん中に置いた。

これなら、机も焼けたりしないだろう。


「こんなものか?」


「ええ。いいと思いますよ」


すると、キッチンからピピーと音が鳴る。

どうやら米が炊けたようだ。

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