第2話

時間としたら数分というところだろう、椅子にもたれかかった体を気だるく起こしてメニューを手に取る。確か彼女はメニューの最後にサービスの内容が書いてあると説明していたな、私はメニューの最後のページを開いた。そこには、簡潔にゲームのルールが記されていた。




Who done it 誰が犯人か


・お客様には誰が犯人かを推理していただきます。


・How done it(どのようになされたのか)Why done it(なぜおこなったのか)については問いません。


・物語は『ノックスの十戒』に基づいていることを約束致します


・ご不明な点がございましたら、お気軽に店員までお尋ねください。




…なるほど。つまりは誰が犯行を行なったかを当てるゲームというわけだな、にしても、この『ノックスの十戒』とはなんだろうか。私は首を少し傾げた。小説は好んで読んではいたが、そこまでの深入りはしていないのでオムライスがきたら彼女に尋ねてみようと思った。そして、メニューを閉じると机に静かに置いた。


しばらくすると、美味しそうな匂いと共に彼女が厨房からこちらへ来る。

「お待たせ致しました、半熟卵のオムライスとブレンドコーヒーになります。」

「ありがとうございます、それとすみません。お聞きしたいことがあるのですが…」

「どうされましたか?」

「メニューの最後の説明に書かれていた『ノックスの十戒』を教えて頂いてもいいですか?」

「ノックスの十戒ですね、かしこまりました。」

彼女は一呼吸置くと、簡潔に説明を始めた。


「まず、ミステリーはフェアプレーの精神があるのです。つまり読者の方に解く事ができるようにされていなくてはいけません。ノックスの十戒は推理する上での杖となるルールなのです。」

「①犯人は物語の始めに登場していなければならない、②探偵は超自然能力を用いてはならない、③犯行現場には秘密の抜け穴や通路などが2つ以上あってはならない、④知られていない毒薬や難解な科学的説明を必要とする機械を犯行に使用してはならない、⑤並外れた身体能力を持つ者を登場させてはならない、⑥探偵は勘や第六感によって事件を解決してはならない、⑦変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自信が犯人であってはならない、⑧探偵は、読者によって提示されていない手がかりによって解決してはならない、⑨探偵の助手に当たる人物は自分の判断をすべて読者に知らせなければならない、そして、最後に⑩双子や変装による一人二役は予め読者に知らせなければならない」

ふう、と説明の後に彼女は一息つく。私はこれだけのものを空でいえる彼女に感心した。

「長くなってしまい失礼しました、以上がノックスの十戒の説明です。また、食後にゲームをお渡しさせていただきます。ごゆっくりどうぞ。」

「ありがとう。」

テーブルには半熟とろとろの卵に包まれたオムライスが鎮座している、傍らのコーヒーの香りも素晴らしい。

「いただきます」

そういうや否や、私は銀に光るスプーンを持ちとろとろの卵とチキンライスを夢中で口に運ぶのだった。

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