Who done it ?
桐生
第1話
会社からの帰り道、私は最寄りの商店街を歩いていた。この日は残業で現在時刻は23時、当然ながら普段の賑わいは姿を隠し、あたりは静寂に包まれている。
「ああ、お腹空いた。」
そう無意識に呟いた時だろう、私は空腹を自覚した。思えば朝からろくな食べ物を口にしていない。そんな時だったからだろうか、あたりの静けさと合わせて普段なら気にも止めないだろうその店の明かりに気がついた。
[Cafe Who done it]
切れかけたやる気のない電飾の文字を読む、なるほど、カフェか。外観からはあまり期待出来そうもないが、それでもサンドイッチくらいなら置いてあるに違いないとそう思った。夜風も冷たくなり、鼻水を少し啜る。何より空腹には勝てなかった。私はその店に入っていったんだ。
カランカランと小気味よい音がドアを開けると響く、外観とは違い店内は古き良きを重んじるカフェといった印象を受けた。長い間丁寧に使われていたであろうインテリアがそう感じさせるのかもしれなかった。すると店の奥から「いらっしゃいませ、空いている席にどうぞ。」と落ち着いた女性の声が聞こえてきた。客は1人もなく、とりあえず店の奥の方の席に腰を落ち着けた。
「こちらメニューとお冷になります、ご注文がお決まりになりましたらお声かけください。」
そういって水とメニューをテーブルの上に置く。その仕草はどこか上品で清楚だ。容姿はやや細身、髪は長く少し癖毛でそれを後ろでひとつに結ってある。しかし前髪は眉上で短く切りそろえられており、それがまた彼女の顔の端正さを際立たせている。
「あ、そうそう」
彼女はふいになにかを思い出し、私に話し始めた。
「お客様当店は初めてですよね。」
「はい、そうですが」
「そうですよね。実は当店はお客様にあるサービスを提供させていただいていまして。お客様、推理小説などは好きですか?」
彼女はそう唐突に聞いた、うーん推理小説か。学生時代、小説は読んでいた方だと思う。好んでそのジャンルを読んでいた訳では無いが、嫌いという訳でもない。その事を彼女に伝えてみた。
「そうなのですね、でしたらよかったです。」
店員は少し微笑んでみせた、私はほんの少し胸が高鳴った。それほどまでに綺麗な微笑だった。
「当店では料理と一緒に、お客様には推理を楽しんで頂いているのです。もし宜しければ挑戦してみますか?」
「はい、ぜひ。」
「承知致しました。詳しくはこちらのメニューの最後に記載されていますので、目を通して置いてくださいね。それと料理のご注文が決まりましたら、またお呼びください。」
「分かりました」
説明をすると彼女は私の席から去っていった。
私はメニューを広げる。すると、忘れかけていた空腹感が呼び戻された。メニューには入る前までのイメージとは裏腹に様々な料理が並んでいた。料理の写真もありどれも美味しそうだった。
「ふむ」
なんだこれは。サンドイッチは王道から珍しいものまで10種類以上は並んでいた。ほかにもスパゲッティ、カレー、オムライス、パンケーキなどなど。お、定食なんかもあるが。ドリンクも山のように種類がある。デザートもだ。どちらにせよ空腹をより一層強め私はもはや限界だった。
「すみません。」
「はい、少々お待ちください。」
彼女が厨房からすっとでてこちらに向かってくる、歩く度に彼女の長い髪が飴色に煌めく。
「お待たせ致しました、ご注文をお伺いします。」
「この半熟卵のオムライスとシェフこだわりのブレンドコーヒーをください。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
そういうと彼女は注文を厨房に伝えに戻る、厨房はこちらからは中は伺えないようだ。私は深く溜息をつき、仕事の疲れを少しでも癒そうと椅子にもたれかかっていた。
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