第41話 イーストリアン王国の責任者
「兄さん。これは何の騒ぎだ!」
「ロイド!? なぜお前がここにいる!」
馬から降りて近づくその人に驚いて大きな声を上げたのは王様だった。
他の人達もそれぞれ反応があった。
私は王様に近づいていく彼が誰なのか知らなかったのでやり遂げた顔をしているフェイトさんに尋ねた。
「誰ですかあの人?」
「彼はロイド第二王子。この国の王位継承権第一位だった人物だよ」
王位継承権第一位ってことは次の王様候補で一番の有力候補だったってことだ。
今の王様は第二王子じゃないけど、どういう意味なんだろう。
「お前は留学していた筈だ」
「父さんの訃報が届いたんだ。留学を切り上げて慌てて帰って来たに決まっている」
第二王子が険しい表情で王様に詰め寄る。
「なぜか情報が遅れたり、国境を越える時に手間取ったりしたけど手伝ってくれた者がいた。おかげで無事に王都まで戻れたよ」
「そ、そうか。兄としてお前の帰還を嬉しく思うぞ」
王様はダラダラと汗を流しながら乾いた笑い声を出した。
一方で第二王子は怖い顔のままだ。
「それで、この状況は? 僕が戻るまで政務を肩代わりしてくれたのには礼を言いたいけどそれどころじゃないよね?」
第二王子の視線が私やフェイトさん、特にリュウさんに向けられた。
久しぶりに実家に戻ったらドラゴンがいるとか驚いちゃいますよね。
「こいつらは魔族とその手先で我が城に攻めてきた大罪人だ!」
「魔族とは過去に停戦条約を交わしているはずだよ」
「そうだ。しかし、こいつらはそれを無視したのだ。イーストリアンの国王としてそれは許せんだろ?」
王様はどうしても魔族を悪者にしたいようで都合の良いように第二王子に話をする。
ゴグワールとソアマを首を縦に振って同意していた。
それが許せなくて私が文句を言ってやろうとしたらフェイトさんに肩を掴んで止められた。
「まぁまぁ。見てなよ」
悔しいけどフェイトさんを振りほどく力なんて私は持っていないので成り行きを見守ることにした。
「ふーん。それで?」
「それで、だと!? 見てわからんのか! 今はこの国の危機なんだぞ!!」
第二王子は王様の言葉をあっさり流した。
これには王様も顔を真っ赤にする。
「それはわかるよ。けれど今の兄さんの話だけじゃ事を判断する材料にならない。相手方にも詳しい話を聞くべきだ」
「魔族の言うことを信じるつもりか!? 奴らは四十年前にも侵攻を企んだそうだ。恐ろしいだろ?」
「僕は事件を知ってたよ。父さんから直接教わっていたしね。当時の記録には事の経緯が記されていたし、全て解決している」
「解決だと?」
「そうだよ。魔族側からの謝罪と主犯格の処刑についての報告。事件で発生した損害の補填を丁寧にやってくれた。ここまでやれば国として素直に謝罪を受け止めて終わりだ」
すらすらと説明して、もう話すことはないという雰囲気の第二王子。
王様が何も言えずに言葉に詰まっているとゴグワールが前に出た。
「ロイド王子。それでは被害にあった犠牲者が報われません。魔族は人間に害をなす存在だ。二度と悲劇を繰り返さぬよう根絶やしにするべきだ!」
「新教皇か。随分と過激な発言だがそれは神聖教会の総意か? それとも個人的な私怨か?」
「両方です。儂はその事件の生き残りで、奴らのせいで人生が滅茶苦茶になった。死んだ一族の者も無念でしょう」
泣いたフリをしながら第二王子の同情を誘おうとするゴグワール。
「そうだったのか。ならば貴方は運が良かったのだな」
「はい?」
「兄さんが知らなかったようにあの事件は一部の関係者の間で内密に処理された。表に出すと我が国にとっても不都合なことがあったからだ。例えば被害にあった行商が違法な商品ね取引や非合法な人身売買に手を染めていたとかね」
第二王子が語る新情報に私の空いた口が塞がらなかった。
「な、何を……」
「知らなかったんですか? まぁ、当時の貴方は幼く真相を伏せられていても仕方ないでしょう。だが、あまり事件の内容を口外しないように口止めされたのでは?」
思い当たる節があるのかゴグワールは考え込む。
「それから情報が漏れた際に身の安全を守るために教会に入信させたと報告にあった。真相を知って心を痛めた優しい神官が世話係を引き受けたともありました。確か、先代のペトラ教皇が名乗り出たのではありませんでしたか?」
お義父さんの名前が出て再び私の口が空いたままになる。
そんな昔からゴグワールとの関係があっただなんて初耳だ。
でも、同時に納得する部分もある。
あの雨の日に記憶喪失で行き場の無い私を引き取ってくれるほど優しい人だった。
きっと私の時のようにゴグワールにも手を差し伸べたのだろう。
「ち、違う。奴は儂にとって邪魔もので嫌味や皮肉を言いながら嫌がらせをする奴だった!」
「教会だって一枚岩ではない筈だ。出世して長く生き残るために厳しく指導したのではないですか? まぁ、僕は詳しくは知りませんが、以前会ったあの人はそういう方でしたよ」
第二王子はお義父様と面識があるようだった。
私もゴグワールの語った経験より王子の話した印象の方がお義父様の本心だったと思う。
「さて、魔族の方々。詳しいお話と今後についての相談をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ボクとしてはそれで構わないんだけれど、国王じゃないキミにそんな権限があるのかい?」
「僕はこの国の王位継承権第一位です。父が亡くなった以上、僕が、ロイド・イーストリアンが新国王だ」
胸を張って堂々とした態度で名乗る第二王子。
ちょっと頭が混乱してきた……。
「そうなんだ。ボクらはさっきそこにいる彼が国王だって聞いたんだけどね」
「兄はあくまで代理です。父の遺言書にも僕を正式な国王にするように署名がありました」
「ふーん。だけど手に入れた情報だと先代国王は今際の際に第一王子を指名したらしいよ。証人もいて、教会からの後押しもあったと」
フェイトさんと第二王子の間で情報が食い違う。
だけど何となく私にも話が掴めてきたかもしれない。
そもそも教会がこの国の国王への即位を後押しするなんて聞いたことがない。
お義父様の頃にはあり得なかった話だ。
「ふざけた冗談ですね。こちらは正式な手続きを踏んでいるし、改竄不可能な魔法を使った署名ですから鑑定して裁判すればどちらが正しいかハッキリさせれます」
「では、そうして貰おうかな。魔族の王として交渉をするならやっぱり正しい後継者と話をしないと意味が無いからね」
そう言うと第二王子はその場で動けずにいた騎士や使用人達にテキパキと指示を出し始めた。
話の急展開に戸惑っている私達には第二王子の側近らしい人が近づいてきて、王都にある来客用の館に滞在するようにお願いをされた。
「これは仕方ないね。ミサキちゃん、ボクらは大人しく彼らの指示に従うとしようか。賓客扱いしてくれるそうだし、美味しい物が食べられそうだよ」
整った顔でにこやかな笑みを浮かべながらフェイトさんは呑気なことを言った。
私はそんな彼の態度に一つ思い当たることがあったので質問をしてみた。
「もしかして、フェイトさんはこうなることを知ってて裏で手を回していたんですか?」
リュウさんの暴走を止めて以降、彼は魔族を侮辱されても何を言われても余裕のある振る舞いをしていたからだ。
フェイトさんにとって一番予想外だったのがリュウさんのことで他は想定通りだったのかもしれないと。
「ボクは魔王だからね。最初から負けたり不利な戦はしないタイプなんだよ。さっきも言っただろ? やれる事はやった後だって」
私はフェイトさんの笑顔には怖い意味も含まれているんだなと知った。
優しくて立派な王様だと思っていたけど、これは絶対に怒らせたり刃向かったりしちゃいけないタイプの人だ……。
心の中で腹黒魔王という異名を考えながら私達はイーストリアン王国が選ぶ結末を待つことにした。
ちなみに、城を出てすぐ人型になったリュウさんに殴られてフェイトさんはギャグ漫画みたいに空に打ち上げられたんだけどこれは王都の新しい七不思議『人間流れ星』として噂が広まったそうだ。
し、締まらない……。
でも、誰も死ななかったことだけが私にとっては救いだった。
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