第27話 元聖女様と初めてのお客様

 

「【ヒール】……これで終わりですね」

「すげぇな嬢ちゃん。ほんと何者だよ」


 リュウさんが連れて来た……攫って来た? 冒険者達の仲間の治療が終わった。

 後から追加された二人のうち、一人はかなりの重傷でリュウさんに連れてこられたのがトドメになりそうだったが、私の魔法でなんとか助かった。


「ミサキの元へ運べばなんとかなると思った」


 なんて言っていたドラゴンは現在正座させて反省してもらっている。

 監視役のルーナちゃんに見張られてさぞ居心地が悪いだろう。


「骨も繋がってますし、傷口も塞ぎました。ただ失った体力までは戻らないのでしばらく安静にしてください」

「何から何まですまないね。ありがとうミサキさん」


 一番重傷で意識を取り戻してすぐ私に頭を下げる女性。

 他の仲間からリーダーと呼ばれる猫耳のクールな人で名前をララァという。


「ほらお前たちも礼をいいな」

「「「ありがとうございます!!」」」


 残りの男性三人が頭を下げる。

 最初に会った二人のうち、剣を持った長身の人がアメロさん、特徴ある喋りをする太っちょがカミーヨさん、ララァさんと一緒に攫われて来たのがジュウドーさんだ。


「しっかし、こんなところに宿屋なんてもんがあるとはね」

「へへっ……俺も驚き」

「そのおかげでリーダーも助かったし、嬢ちゃんとあのドラゴンの兄さんには感謝だな」

「うぅ……ドラゴン怖い」


 ジュウドーさんだけはリュウさんの飛行中に意識を失ったようでまだ怯えている。


「ミサキさんには悪いが、アタシらはダンジョンで荷物をほとんど失っていてね。世話になった分の金は後から必ず払うから数日ここにおいてくれ」

「はい。構いませんよ」


 命の危険だってあったのでお金を貰うのは気が引けたけど、ララァさん達は絶対にお金を払うと言ってくれた。

 なんなら最初に脅そうとしてしまった分の迷惑料まで上乗せすると言ってくれたが、そこはお断りした。


「なんて人間が出来た嬢ちゃんなんだ!」

「へへっ……感謝」


 いやまぁ、うちの従業員が殺しかけたりトラウマ植え付けていますし。

 むしろ料金割引したいくらいですとは言えなかった。


「それにしても皆さんって仲がいいですよね。ララァさんは魔族なんですよね?」

「ん? あぁ、そうさ。冒険者なんて仕事やってたら種族の違いなんて気にしてられないからさね」


 ララァさんは語る。

 冒険者は土地や国を飛び越えて各地の冒険者ギルドで依頼をこなしたり、ダンジョンを探索したりする。

 当然危険な仕事なのでやりたがるのは物好きか命をかけないと仕事が出来ない身分の人。

 ララァさんは後者で、魔族として人より優れた身体能力で次々と依頼を達成したらしい。


「そんなわけで冒険者の連中は魔族だから使いものにならないなんていうやつは少ないさね。まぁ、肩身が狭いのは確かだけどね」


 今でこそ仲間がいるが、昔はシリウスとルーナちゃんと同じように魔族だからという理由で迫害を受けたとか。


「大丈夫だぜリーダー。あんたには俺らがいる」

「へへっ……一生ついて行きます」

「リーダーいないと僕らのパーティー弱いからね」

「世話のやける連中だよオマケらは」


 でも今の彼女には信頼できる冒険者仲間がいる。

 人間と魔族について村で聞いた情報しか無かった私にとって彼らの絆は希望になった。

 いつか、フェイトさんが言っていたように両種族が仲良くなれたらいいな。

 そのためにこの宿の経営を成功させなきゃダメだ。


『お客様方、ただいま食事の用意が出来ましたので食堂へお集まりください』


 ララァさん達から話を聞いているといつの間にか日が沈んでいてマリオさんが呼びに来た。


「念話が使えて自分で動く自動人形か。初めて見るね」

「おまけに人化出来るドラゴンまでいるんですから本当に凄いですよココ」


 屋敷の一階にある食堂は宿に泊まりに来た人全員が集まって食事できる広い空間だ。

 ララァさん達のテーブルにはマリオさん手作りの料理が並べられていて、厨房から運んで配膳するのは子ども従業員の二人だ。


「うひょー、美味しそうだぜ」

「へへっ……涎が止まらない」

「どうぞ召し上がってください。当店自慢のシェフの料理です」


 傷は癒えたけど、数日間満足な食事をとれなかった彼らは並べられた料理を見てうずうずしていた。

 料理が出揃ったところで食事の開始だ。


「「「「うめぇ!!」」」」


 最初のひとくちを食べた瞬間に四人の冒険者は全く同じ言葉を口にした。


「こんなの王都の高級料亭でも味わえないぞ……」

「へへっ……具材が貴重なものばっかり……」

「野菜もいけますよ。ソースに付けるだけでサラダをパクパク食べられます」


 流石は冒険者、健啖家なようで次々とお皿が空になる。


「なぁ、ミサキさん。この宿って一泊いくらなんだい……」


 ただ一人、リーダーのララァさんだけは汗を流してこちらを見てきた。


「一泊の料金は銀貨一枚ですよ。ちょっと他より高めらしいですけど」


 まぁ、私はこの世界の宿屋の相場料金は知らないんだけどね。

 フェイトさんとアズリカさんが値段を調べて設定してくれた。


「銀貨一枚……アタシらの普段使ってる宿の十倍か。高い出費にはなりそうだね」


 苦い顔をするララァさん。


「でもリーダー、三食このメシで風呂まであって近場に未踏破のダンジョンがあるんですよ。探索が上手くいけば楽勝ですよ」

「その探索に僕らは失敗した。貯めてた分も考えると長居は出来ないな」

「へへっ……ならここ拠点にします?」


 四人はあーでもない、こーでもないと言いながらあっという間に全ての料理を平らげてしまった。


「ふぅ。食ったぜ」

「久しぶりの食事がこんなご馳走だなんて幸せですね」

『よろしければデザートもご用意しましょうか』


 全員マリオさんの料理に満足してくれたようでなによりだ。

 自分の腕前を褒められたのが嬉しかったようでマリオさんもオマケでデザート作っちゃっているし。

 ちなみにこの後、冒険者四人は食べ過ぎで動けなくなってしまうのだった。











 数日後、ララァさん達は帰り支度を整えていた。

 この宿屋がオープンしてから初めてのお客さんになった彼らが居なくなってしまうのは少し寂しいが、借りている宿や失った荷物の補充のためにも活動拠点の町に戻らなくてはいけない。


「怪我の治療から何まですっかりお世話になっちまったね」

「気にするな。だが、金は必ず払いにこい。さもなくば我が自ら集金に来るぞ」

「それは勘弁してくれリュウの兄貴。アンタが町に来たら厳重警戒態勢になっちまうよ」


 宿泊をしている間にリュウさんと彼らはすっかり仲良くなってしまった。

 毎日のようにお酒を飲みながら語り明かしていたらいつのまにか兄貴って慕われているし。


「チビ達も元気でな。次来た時には頼まれたもんも持ってくるよ」

「頼んだぜララァの姉御!」


 シリウスとルーナちゃんも同じ魔族だからか、ララァさんと距離が近くなった。

 私は最初二人と仲良くなるのに時間がかかったのにすぐ懐いてしまってちょっと悔しい。


「じゃあな嬢ちゃん。店の宣伝はきっちりしておくからな!」

「へへっ……また来ます」


 最後に私達全員でお見送りをする。

 町に戻るまでの間の食料は渡したし、リュウさんが近くの村までのモンスターが少ないルートを教えてくれたので無事に辿り着けるだろう。


 こうして、出会いこそは印象の悪かった冒険者達との交流はひとまず終わった。

 またしばらくはお客さんが来ないのを嘆く日々が始まるんだろうな。


「ねぇ、ルーナちゃん。さっきララァさん達に頼んでいたのってなに?」

「えっとね……秘密!」

「そっか、秘密かぁ」


 だけど、今は私に出来ることを精一杯やろう。

 具体的には畑仕事とか、治癒魔法の練習とかをね。




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