第18話 魔族最強の料理人現る


 ドワーフの職人達が工事をしている最中、屋敷のベルが鳴らされた。

 庭でもうじき収穫を迎える野菜の手入れをしていた私は玄関に回って来客の対応をしようとした。


「はーい。どちらさまですか?」


 こんな人里離れた場所に来客なんてありえない話なんだけど、フェイトさんの件もあってリュウさん関連で誰かが来てもおかしくない状況である。

 まぁ、竜王という存在がそれだけ重要視されている話を私はまだ半信半疑で受け止めているけど。

 だって、普段の姿がやんちゃな青年くらいだからねあの人。


 そんなことを考えながら玄関に着くと、そこには長いスカートの本格派メイド服を見に纏った女性が立っていた。


「どうも。魔王専属メイドのアズリカと申します」

「あぁ、フェイトさんの」


 赤い髪の中に白いメッシュの艶のあるロングヘアーの美女はスカートを摘んで軽く頭を下げた。

 うわっ、本物のメイドさんだ!と私は軽く興奮してしまった。


「私はミサキです。フェイトさんにはいつもお世話になってます。今案内しますね」


 扉を開けてアズリカさんを招き入れる。

 大きめの鞄を持った彼女をマリオさんとフェイトさんがいるリビングへと案内する。

 ピッタリと私の後ろを歩いてついて来るアズリカさん。

 背が高くてスラッとした長身の女性ってやっぱりカッコいいなぁ。私も早く伸びないかな?


「フェイトさーん。お客様が来てますよ」

「ボクにかい?って、アズリカか。よく来てくれたね」

「ごきげんよう魔王様」


 フェイトさんにも礼儀正しい挨拶をするアズリカさん。

 こんな美人でカッコいいメイドにお世話されているなんてやっぱり王様なんだ。

 ここ数日はリュウさんと酒の飲み比べをして二日酔いで私にヒールされている人とは思えないよ。


「ミサキちゃん、マリオくん。この子はボクのメイドのアズリカ。普段は魔王城でボクの身の回りの世話をしてくれている」

『はじめましてアズリカ様』

「アズリカで結構です。いつも魔王様がお世話になっています」


 アズリカさんは初めて見る木の人形であるマリオさんにも驚くことなく落ち着いて挨拶した。


「アズリカを呼んだのはボクでね。前に頼まれたいた料理のメニューについて力になれると思ったんだ」


 マリオさんの作るご飯は美味しいけど、宿屋で出すには数が少ない件についてだ。


「魔王城の食事は全てアズリカが作っているからね。普段の食事から貴族との会食まで何でもお任せさ」

「微力ながらお手伝いさせていただきます」


 フェイトさん曰く、アズリカさんは魔族で一番の料理人を決める大会を連覇して殿堂入りしたほどの経験者だとか。


「では早速取り掛かりましょう。時間があまり無いというのは魔王様から聞いています」

『はい。よろしくお願いします』


 そこからはアズリカさん主催のお料理教室が始まった。

 私の役割は実食係。何故か隣にはリュウさんが座って今か今かと待ち構えている。


「今日は狩りに行かないんですか?」

「感想を言う人数は多い方が良いだろう?」


 それらしいことを言う腹ペコ竜王。

 フェイトさんがこっそり耳打ちした情報によると、リュウさんは偶に魔王城にアズリカさんのご飯を食べに来るそうだ。

 つまり胃袋を掴まれていると。


「ドワーフの職人達も呼んでおこうか」

「もうすぐお昼ですもんね」


 ただ椅子に座って待っていても手持ち無沙汰なので親方さんを呼びに行く。

 部下のドワーフ達にビシバシ指示を出していた親方もアズリカさんのご飯を食べれると聞いたら仕事を即中止した。


「いやぁ、アズリカ様の料理が食べられるなんてこの仕事引き受けて良かったってもんさ」

「そんなに嬉しいんですか?」

「当たり前だよ。本来はお貴族様じゃないと食べれないような料理さ。魔王専属ともなればアタシらからしたら雲の上の料理人だよ」


 リビングには全員集まって手狭になったところでマリオさんとアズリカさんが料理を運んでくる。

 テーブルにぎっしりと並べられた料理はどれも美味しそうで涎が垂れそうだ。

 ぐぅ〜っと可愛らしくリュウさんのお腹が鳴っている。ただし音量は目覚まし時計くらい大きいけど。


「「「「いただきます!」」」」


 みんなで手を合わせて食事が始まる。

 焼きたてのパンはふわふわしているし、野菜とお肉の入ったスープは体の内側からぽかぽかとあっためてくれる。

 香草を使って焼かれたチキンソテーは肉の旨みが口の中でいっぱいに広がっているし、かかっているソースがまた絶品だった。


「「「「………はっ!?」」」」


 気がついたらみんなで皿の上を空っぽにしていた。

 アズリカさんの作った料理の美味しさに無言で食事をしていたのだ。


「ふっ。流石だなアズリカよ」


 リュウさんが完敗だ……と言わんばかりに深く頷いているけど口の周りにソースついてますよ。


「お褒め頂きありがとうございます竜王様。ミサキ様はいかがでしたか?」

「すっごい美味しかったです!」

「ふふふ。それは良かったです」


 この世界に来て一番美味しかった料理が更新された。

 ドワーフ達が仕事を途中で投げ出すわけだよ。

 これを食べられるためなら何だってしちゃうよ私。


「これからマリオ様には私と同レベルまで腕を磨いていただきます。皆様もご協力ください」

『この味を目指せるよう精一杯努力します。見ていてくださいミサキ様』


 私達の反応を見ていたマリオさんは凄くやる気を出したみたいで両手を胸の前でぐっと握りしめた。

 顔が無いけど、きっと目がメラメラと燃えているだろう。


「ところでおかわり貰っていいですか?」

「我も!」


 それはそれとしてこんなに美味しいご飯だとお腹がもっと食べたいと訴えてくるので追加注文をする。

 親方さんからまだ食べるのかい!? って言われたけど、私は成長期だから大丈夫。

 何でか知らないけど最近はよくお腹が空くんだよね。


「かなりの量を作ったと思ったのですが……」

『我が家では今ので腹七分目です。追加の調理に移りましょうアズリカ様』


 後から聞いた話だけど、クールな表情を崩して驚くアズリカさんはとてもレアだったとフェイトさんが教えてくれた。







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