第17話 元聖女様、職人に出会う

 

「待たせたね。やっと職人達が到着したようだ」


 吟遊詩人のエルフであるヒルスールさんとの別れから数日。

 屋敷の前に十数人の男達が集まっている。

 以前にフェイトさんに頼んでいたリフォーム工事の職人達が遂にやって来たのだ。


「お待たせしました魔王様。親方が相変わらず仕事嫌いでして遅れちまいましたぜ」

「そんなことだろうと思ったよ」


 職人達はみんな、私と同じかちょっと小さいくらいのおじさんばかりだ。

 髭を沢山生やしているけど、誰も彼も小さい体にムキムキの筋肉を持っている。ドワーフ族だと名乗っていた。

 その中でもまとめ役らしき人がフェイトさんに頭を下げていた。


「で、親方は?」

「あっちに居ますぜ」


 ドワーフのおじさんが指差す方を見ると、屋敷の屋根に登って大はしゃぎしている人影があった。


「なんだこりゃ!すげぇ建築技術だぜ!魔法も付与してあるってのかい!?」


 他のドワーフ達と同じような身長だけど胸には大きな膨らみがあり、髭も剃ってある。

 代わりに頭はもじゃもじゃのアフロのようになっている女性がドワーフの職人達の親方さんらしい。


「親方。さっさと降りて来てくだせぃ」

「てやんでぃ!んなことより見ろよこの屋敷の頑丈さ!腐らないように時の魔法までかけてあるぜ!」


 部下の呼び方も虚しく親方は屋敷をトンカチで叩いたり足で蹴って踏み抜こうとしたり、やりたい放題だった。


「ふむ。ちょっと手荒に行くぞ」

「あ、待ってリュウさん!!」


 私の静止も虚しく、リュウさんはジャンプして軽々と屋根まで登ると親方さんの首根っこを掴んでこちらに投げ飛ばした。

 ドラゴンの投擲は凄まじく、親方さんは頭から地面にダイブした。


「いってぇ!レディーは丁重に扱いな!」

「平気なんだ……」


 親方さんは顔に土が付いて汚れているけど、それ以外は何もなかったようにピンピンしていた。

 洞窟で壁にめり込んだフェイトさんもそうだけど、魔族っていうのは全体的に体が丈夫なのかもしれない。


「親方。魔王様直々の依頼ですからしっかりしましょうや」

「わかったよ。で、アタシらは何をすればいいんだい?」

「事前に説明あったでしょうがい!この屋敷を宿屋に改築すんですよ!」


 この人に任せて大丈夫なのかと不安になる。

 フェイトさんは「腕だけは確かだから」と言ってくれたけど心配だ。

 部下の人から説明を受けた親方さんに私はリフォーム案の要件を書いた紙を渡す。


「こっちの部屋を従業員用の居住スペースにして、こちらをお客様用にお願いします。あと、各部屋にトイレを設置してください」

「結構大掛かりになって金もかかるんだけど大丈夫なのかい?アタシの仕事は高いよ」

「報酬はボクが支払う。遠慮はいらないから派手にやってくれ」


 予算の制限無しという太っ腹なフェイトさんの言葉を聞いて申し訳なくなる。

 これは責任重大だ。必ずオープンしたら営業を成功させないと!


「聞いたかい野郎共!これはアタシらへの挑戦状だ。派手にやってやるよ!」

「「「おー」」」


 親方さんの号令でドワーフ達が動き出す。

 第一印象が破天荒だった割に仕事には真面目な人のようで、親方さんはテキパキと指示を出していた。

 彼らが乗って来た馬車から次々と資材が運ばれる。


「旦那!追加の木材を頼みやす!」

「魔王め。我を小間使いにしおって…。」


 私達の中で一番力持ちのリュウさんはドワーフ達に混ざって資材運搬のお手伝いだ。

 太い丸太を一人で軽々しく運んでいるのは凄いと思う。


「アンタがこの屋敷の主人だね」

「はい」


 工事が進む中、親方さんが私に話しかけて来た。


「こんな凄い建物をよく建てたね。誰が作ったんだい?」

「それが分からないんです。私はこの屋敷を譲り受けただけで、殆ど知らないんですよ」


 この屋敷にずっといたマリオさんも、前の主人については契約上話せないと言っていたし、事情を知っていそうな養父様も死んでしまった。


「ただ、とても大切で思い入れのある屋敷だっていうのは知ってます」


 最後の直前まで養父様は鍵を肌身離さず持っていた。

 そして私に渡すその役目を果たしてから亡くなった。

 きっとそこには何か意味があるはずだ。


「そうかい。職人冥利に尽きる屋敷だね。これからも大事にしてやんな」

「はい。お願いします親方さん」

「任せときな」


 私が頭を下げてお願いすると、親方さんは自分の胸を強く叩いた。

 なんとも頼もしい人だ。


『休憩用の飲み物を用意しておりますので、ご自由にお飲み下さい』


 私と親方さんが話をしていると、マリオさんがやかんにお茶を入れて屋敷から出てきた。


「あの人形は……」

「自動人形のマリオさんです。親方さんは彼について何か知っていますか?」

「いいや。すげぇ技術と魔法が組み込まれてることはわかるけどそれ以上は……」


 凄い職人さんでも詳しく分からないらしい。

 一番付き合いの長いのがマリオさんなんだけど、いまいち過去の事情を知らない。

 彼がどういう理由で作られて一人ぼっちであの屋敷で眠っていたかを知りたいけど聞き辛い。

 せめて自動人形について何か情報があればなぁ。


「知り合いに人形なんかに詳しいヤツがいるから今度紹介してやんよ」

「本当ですか!?ありがとうございます」


 屋敷のリフォームが終わってからその人を紹介してもらえる約束をして親方さんは仕事に戻った。


 私が住む屋敷はとても特殊で異質な作りをしているために魔族でも腕利きの親方さん達でも半月はかかるとか。

 それとリフォームのおかげで色々と屋敷にかけられた魔法や結界に影響があるからとフェイトさんが修正するために泊まることになった。


「そんなにお城を空けて大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。ボクの部下は優秀だからね」


 屋敷の中はリフォームのためいくつか部屋が使えなくなって、全員が止まる事が出来ない。

 親方さん達はすぐ近くにテントを建てて野宿をするから問題無いと言ってくれた。この世界の建築仕事ではよくあることだとか。

 とはいえ魔王であるフェイトさんを同じ目に遭わせるわけにもいかないので私の部屋を譲ろうとしたら何故か止められた。


「ミサキちゃんのベッドを奪っちゃうくらいなら竜王の方を奪うよ」

「そうか。ならば貴様は今ここで滅する!」


 部屋を争う二人の戦いは公平にじゃんけんで決められ、リュウさんがリビングで寝ることになったのだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る