第1章 11話  アゼロ

*出現した光の玉は見ている前で大きくなって直径20m位で止まり

 空中に浮いたまま静止していた。


『シャナ、まだ聞こえるのかい?』


『はい、聞こえます・・・女性の声のみたい』


『なんやて!聞こえる所は分かるんか?』


『シャナさん、大凡でいいの教えてくれたら私も探せるから』


『シャナ、僕も協力するから・・・光の方から聞こえるのかい?

 僕にはまだ聞こえないけど』


『みなさん、ありがとうございます。何となくですが光の奥の

 方から聞こえてくる感じなんです』


 シャナにしか聞こえない声か、この光の玉も普通じゃないし

このままじゃ埒が明かない、思い切って光に突っ込んでみるか?


『リケッツ・・・僕が光の中に入ってみようか?』


『少し待ち・・・「ロックシュート」「ウインドサーチ」これでどや』


 流石リケッツだ魔法の連続発動、でも何の魔法なんだろう?

光の中に拳程の石が数十個打ち出され同時に空気が波状に打ち出され

吸い込まれてた、何か探査系の魔法なんだろうか?


『ユウ、危険は無さそうや。中央に防御結界のようなもんが

 あるから気をつけや』


『了解!』


 僕は光の中央を避けて侵入した、結構眩しいけどただの光の様だ

何故突然現れたのだろうか?

ゆっくりと確認しながら中央に向かった。

ん、何かあるな・・・あ、誰かいる。近づこうとした時に光が霧散

した。

光が収まり中にいたのはエルフの女性だった、始めは空中に浮いて

いたが静かに地面に横たわった。


『女性がいるよ近づいてみる、エルフのようなのでシャナ来て』

 

『今、行きますから少し待ってください』


『気いつけや、ワイらも行くよって』


 見た感じは眠ってる感じだが、状況を考えると眠っているだけ

ではないと思う、浮いてたし・・・


『どう思うシャナ、エルフなのは間違いないよね?』


『はい、同胞だと思います。でも状況を考えると遺跡の住人と

 考えた方がよろしいのではないでしょうか?』


『そやな、ワイも同感やなメーディア、彼女の状態を確認してや』


『見せてみて』


 メーディアは回復系の魔法も得意としている、回復系の魔法

にはケガなどの状態を調べる事ができるらしく魔法が放たれた。


『大丈夫みたい、容態に異常は無し、本当に寝ている状態よ』


 皆で様子を見ていると、彼女の目が開き始めた。


『@#)・・・&5%$0>>.<_0+0#$@』


『*&+!@$5(765)@#$+_?><!!5(?>』


『シャナ、もしかして古代エルフ語?』


『はい、そのようです、簡単に状況を説明しました』


彼女は何やら魔法を詠唱し始めた。


「^&*@$$?>””^#$+!:?〜」


『ハジメマシテ、ワタシハ、テミス デス』


 これは・・・よく分からんが言語系の魔法のようだ


『リケッツ、これって』


『言語変換やな・・・珍しい魔法や、知ってはけど使っている

 のは初めて見たな』


『でも、良かったですわ、言語変換なら私達も話せますよね。

 だってシャナさん以外は古代エルフ語言葉は理解できませんし』


『いえ、私も魔法詠唱程度しか古代エルフ語は知らないので・・・』


『アナタタチ ハ ダレデスカ?』


『私たちはこの遺跡を調査に来た者です、三人は人族で一人エルフ族

 です、貴方は古代エルフ族の方ですか?』


『コダイエルフ? ワタシハ エルフデス アナタ ト オナジ』


 彼女は首を捻り考え込んでいた、シャナが古代エルフと言う事を

考えると現在のエルフと区別する理由があるのだろう。


『シャナ、古代エルフと今のエルフの違いって何なの?』


『エルフ族に伝わる伝承では魔法力や行使できる魔法の多さ、

 身体能力もかなり高いと伝わっています』


『ワタシハ メザメタ ノ デスネ セツメイ ヲ オネガイ』


 そうだよな、いきなり目覚めてこの状態。

僕だって戸惑うよな、どう説明するのが良いのだろう。

この状況は封印されていたと考えるべきだよな、この事は彼女は

理解しているのだろうか?

その辺を確認してからでなければ説明が難しくなりそうだ。


『シャナ、彼女が封印されていた事情を確認してした方が今後の

 説明が容易になる、その辺を聞いてくれ』


 彼女の話では正体不明の伝染病でにより遺跡の街が全滅の危機に

際し種族存続の為に感染していない彼女が選ばれ遺跡の地下に設置

されている魔法結界が施された空間に避難していたらしいい。

遺跡の結界が作動したきっかけの石像は偶然で本来は同族が捜索に

来た際に生存者がいる事を知らせる為の仕掛けであり、同族の者で

あれば容易に解除し彼女を保護できたそうだ。

 彼女もシャナの説明を聞きながら戸惑っていたようだ、同族だと

思っていたシャナがエルフでありながら異なる種族であった事と

同族(古代エルフ)は既に滅んでいる事など・・・

今回の依頼であった結界による状態異常は彼女が開放された事に

より元に戻った。

 これにより仕事は達成されたわけだが、このまま彼女の保護を

どうするか話し合う事になった。


『リケッツ、メーディア、どうしたら良いと思う?』


『そやな、依頼主に話さなあかんやろな・・・』


『それってドワーフよね? 彼らに保護の考えはあるかしら?

 こんな結果は予想してないでしょうし、異種族でしょ?

 それに古代エルフなのよね、売られたりしないかな?』


『その辺は話せば分かって・・・って保証はできないか・・・』


 ここは異世界なんだ、雰囲気的には僕の知っているヨーロッパ

の中世時代の感じで公的な保護機関は無いだろうし人身売買も

あるし、このままでは彼女の安全は確保できないだろうな。


『ワタシ アナタト イタイ ダメ?』


『え、私!』


『シャナはん、同じエルフ族やさかい安心できるとちゃうの?』


 シャナは少し戸惑っていたが、古代とはいえエルフ同士であり

心配はしているのだろう。


『貴方は私と一緒のいたいのですか?』


『ハイ アナタ ニ ツイテ イク ダメ?』


『これは仕方ないんじゃない?私やリケッツじゃ安心できない

 と思うし、どうなの?』


『そやな依頼主のドワーフは無理やし、ここにって・・・

 てのも人道的じゃないわな』


『雄靖さん、どうしましょう?』


 僕もリケッツと同じ意見だ、でもシャナと母親そして今はアズも

いる。

彼女はアズよりも歳は上だが今の時代に馴染めるだろうか?

状況的に難しくても元に戻す方法も分からない。

であれば目覚めさせた我々が責任を負うしかないだろうな。


『僕はシャナが良いなら反対はしないよ、帰ったら皆に説明しよう。

 それに関わってしまったからには何とかしてあげないとね』


『ユウと奥方の行為に対してワイからの提案やけど、今回の報酬を

 全額渡したいと思うんやけど、どうやメーディア?』


『いいんじゃない・・・私もそれで良いわ』


『シャナ、この事を彼女に伝えてほしい』


『あなたの名前を教えて?』


『ワタシ アゼロ』


『アゼロさん、私達は帰るのだけれど私の所に来ますか?』


『アゼロ アナタ ニ ツイテイク』


 今後の事を考えると少し不安になるけど、きっとアゼロの方が

不安は大きいいと思うし、この異世界なら何とかなる気がする、

前向きに考えるとしよう。


 リケッツ達と別れて帰宅しアンナとアズに事情を説明し一緒に

暮らす事を伝えた。

今の家は5人で生活するには狭すぎる、それに子供ができたら

ますます狭くなるよな・・・

報酬もかなりの金額だったし大幅に家の増築をまたズムコに

頼むとするか。


 ズムコと増築の相談をしたら、その規模なら建て替えた方が

早いと提案され僕もそれを了承した。

ズムコは何人か仲間を呼んで建築をした結果、一月程で家は

完成した。


 完成した家は僕が知識にある二世帯住宅に近い感じで

部屋は僕たち家族とアズ、アゼロに別れ食事などは暫くの間

一緒にする事になった。


 アズはアンナに大分慣れたようで見た感じ本当の親子みたいに

感じられる、なにより、なにより。

僕はこの環境に慣れてきているアゼロに事情を聞いても良いの

ではと思いアンナとシャナに相談してみた、二人も僕と同じ考え

らしく夕食後に代表してシャナが聞く事になった。


『アゼロさん、ここの生活は慣れましたか?』


『はい、皆さん優しくて安心できます』


 アゼロの話す言葉は始めの頃と比べるとかなり流暢になったな

今なら正確に事情が聞けるのではないだろうか?


『シャナ、アゼロに聞くことを纏めたいので隣の部屋で少し

 話さないか?』


『そうですね私も雄靖さんと相談したいと思ってました』


 シャナも僕と同じ事を考えていたみたいだな、僕が確認したい

事は生き残ったのはアゼロ一人であり、おそらく今は古代エルフ

は彼女一人だと思う。

シャナの話では今のエルフは古代エルフの末裔だと伝わっている

らしく、その事実が伝承を受け継がれている理由と言われてる。


『僕が聞きたい事なんだけど、以前同族が存在しないこの世界で

 このまま僕たちと生きていく事を望んでいるのか?

 それとも何か目的の様な使命はあるのだろうか?

 聞きたいのはこの2つかな』


『この先の事は私も聞きたいと思ってました、れに遺跡に住んでいた

 方々がもうこの世界には居ない事は理解できているのかも確認

 したいですね』


『アゼロさん、仲間たちが居なくなったのは分かる?』


『はい、理解しています。あの絶望的な状況から種族を守る為に

 私は選ばれました。

 もう一人いたのですが封印直前に感染し安全の為、私だけ急遽

 封印されたのです。

 その時点で仲間たちが滅ぶ事は予想していました』


 彼女は全てを理解して私達の所に来たようだ、目覚めての孤独

と絶望、その悲しみを思うと、何とか力になってあげたいと思って

しまう。

話を聞くシャナの表情を見ると同じ気持ちなのだと僕は思った。


『アゼロさん、これからも私達と一緒に暮らしていきませんか?

 その方が私達も嬉しいわ』


『シャナさん、雄靖さん、ありがとうございます。

 ご迷惑でなければ、これからも皆さんと一緒にいたいです』


『よし!家も新しくなる、アズやアゼロの部屋もあるぞ、大きな

 家だから気を使う必要も無い安心して暮らせるぞ』


 そう言うとアゼロは嬉しそうな笑顔で頷いた。

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