第1章 9話 シャナと共に

シャナは転移に少し戸惑っていた、転移した部屋には見慣れた

物は無く知らない世界に来たと感じたのだろう。


『シャナ大丈夫?』


『∂○✗=、☆Φ&#@%』


『あ、このペンダントを付けて』


 僕は異世界転移しても何故か言葉や文字が理解できた。

ユミル(僕を転移させた神?)の力かも?

でもシャナは違う、僕も転移すれば言葉は日本語になるようで

シャナは言葉を理解できない。


『今のはこちらの世界で使われている言葉なのでしょうか?』


『そうだね、驚いたかい? こちらに来る前に話すべきだったね。

 何となくだけど、予想はしてたんだ、だからペンダントを用意

 してたんです。

 僕は何故か転移した世界に合わせて言葉が使えるみたいなんだけど

 僕以外も同じになる確証は無かったです。

 でも良かった』


 言葉に支障がなくなり、僕はこの部屋の事やこちらの世界を

大雑把だけど説明した。

言葉だけでは理解が難しい事はインターネットで映像を見てもらい

ながら説明した。

彼女が初めに興味を持ったのは、こちらの服装だった

異世界と違いカラフルでデザインも豊富、一人ひとりが違う服装

な事に驚いていた。

異世界では多少の色の違いがあるが、デザインは似ている。

 街の様子の映像にシャナは目が釘付けになっていたのを

見て僕はこちらの洋服をシャナに用意しようと思った。

今の服装ではコスプレに見えてしまう、この後出かける予定だ

部屋に一人残していくのも不安なので一緒に行動するにも服装は

こちらの世界に合わせた方がいいだろう。

僕も一緒に出掛けたいしね。


『シャナ、外出用にシャナの服を買いに行くけど、どんな感じの

 服がいいかな?』


『え、よろしいのですか!嬉しいです

 ちょっと待ってください。う〜ん・・・・・・

 こんな感じが好みですが、どうでしょう?』


 彼女が選んだのはダウンジャケットにデニム地のスカートだった

季節も冬だし、この装いならニット帽も不自然じゃないので耳も

隠しやすいだろう。

 近くのショッピングモールでプレゼントとして購入すれば男が

買っても大丈夫だろう、大まかにサイズを測りそれを元に店員に

お願いすれば何とかなるよな。

 シャナには部屋にいてもらい買い物にでかけた。

服以外にも靴や外出に必要な小物なども購入しアパートに

戻った。

『買ってきたよ、自分で着れるかな?手伝いは必要?』


『着方を先に教えていただければ大丈夫かな・・・ポッ』


 そうだよな、夫婦でも女性としての恥じらいはあると

思うし、Hい事している場合とは違うよね。

男としては手伝いたいと思うところはある!

 こちらの世界常識などを簡単に説明してから僕たちは

外出をした。

目的は異世界で仕入れた物の現金化と、数日滞在するので

食料の調達をすることだ。


 最初は異世界で仕入れた物を買い取りに出して、それから

買い物かな、銀製の食器と金製のアクセサリーを出す。

毎回、買取店を変えてはいるが、そろそろ顔を覚えられて

いるようなので怪しまれない様にしばらくは買い取りは休み

にしようと思う。

手持ちの資金も100万円程度に増えたし投資に本腰を入れる

ことにする。

目標は5000万位かな・・・

異世界に行った事で思いついた商売があり、その資金にしたいと

考えている。


 などど考えているうちに買い取りが終わったようだ

今回は数も少ないので10万円だったが、食材の買い出しには

十分な金額だった、さてとショッピングセンターに行くか。


 10分程歩き目的のショッピングセンターに付いた

シャナの興味津々な態度が何とも可愛らしかった。

食材は重いし生鮮食品もあるので後回とし、先に生活雑貨を

購入することにした。

シャナに使い方を説明しながら歯ブラシなどを揃え、ついでに

寝具、パジャマ、下着なども購入する。

異世界の女性用下着にはブラジャーは無ショーツは男性のトランクス

の様な物を身に着けていた。

そのせいなのかカラフルで可愛いショーツを見る目はキラキラ

していた、ブラジャーはサイズを測って購入した。

初めに僕が用意したスマートブラと違いショーツに合わせた柄を

選んでいた。

寝具などもあり、下着を含め配送を依頼する事にした。


『後は食品かな、こっちの世界は食材がシャナの知ってる食材

 と違うと思うけど、どんな食べ物が食べたいかな?』

 

『何となくだけど私の知らない食材が沢山ありそうなのは想像

 できますわ、だから見て選びたいのですが・・・』


『そうだね、興味がある素材があったれ教えてくれ、どんな味で

 どう調理するのか答えるから。じゃ、行こうか』


 僕たちは一階の食品売場に向かった、初めに野菜エリアから

回ったのだが、土が付いてない綺麗な野菜をシャナは不思議

そうに眺めていたがトマトが気になったのか手に取り聞いてきた


『これは野菜ですの?この色からお肉かと思いましたわ

 でも、この感触は野菜ですよね?』


『あ、そうか。あちらの世界では赤い野菜は無いからな

 これはトマトって野菜さ。

 生でも煮ても食べられる物で僕は別の野菜と合わせ味付きの

 水をかけて食べるのが好きかな』

 

『こちらの冷たい棚に入ってる物は何んでしょうか?

 食べ物らしき絵が書いてありますが・・・』


『これはね、冷凍食品で調理しなくても温めれば食べれる

 物なんだよ、色々種類があるから食べたいのがあれば買うよ

 肉とか魚とか希望はある?』


『魚があるのですか! 魚はあまり食べる機会がないので

 食べてみたいです』


『よし、冷凍食品は保存ができるので多めに買うか。

 後は調味料、ジャガイモ、人参なんかも保存に適している

 から買っておく。

 食後のデザートもいいな』


 日持ちの良い食材をメインに清涼飲料水、デザートなんかも

購入した、異世界にはデザートの様な物は少なく一般的には

果物がデザートとして食されてるからケーキやクッキーなんかは

シャナには珍しくて喜ぶかもな・・・最後に案内して選ばせよう。


 帰宅した僕たちは購入した部屋着(僕はスウェット、シャナは

何故かパジャマ)に着替え夕食にした。

惣菜の焼き鮭と野菜サラダ、フリーズドライ味噌汁に僕はパック

ご飯、シャナはパンである、和風にパンはどうかと思ったが

気にしないようで焼き鮭を美味しそうに食べていた。


 食後は最後に購入したチョコクッキーに紅茶にし食べながら

明日からの行動について話し合った。

先に説明した投資については午前中に一度目の転移で購入した

新聞(1ヶ月程の未来)と明日の新聞で値上がっている銘柄を

確認し仕込んでおく。

今回の転移は投資とシャナにこの世界を知ってもらう事だ

これからも二人で転移する事になると思う。

 しばらく銘柄を眺めていたが○○○コーポレーションと言う

銘柄が一月後に600円程値上がりしているのに気づいた。

本来ならリスク分散で一点買いは危険なんだが、先の株価を

知っているのでリスク無く行ける。

現在の株価は1,400円、3百万の資金があるから

単元千株なので二千株を購入した。

取引手数料を引いても100万くらいの利益だ、以前に株式投資

をしていた時は、色々なデータやネットでの情報収集などで

株価の先を予測してたけど中々思うようには利益を得られず

悔しい思いをしたっけな。

ある程度研究しても所詮個人、投資組織相手に少額投資では

勝算は望めず運用に限界を感じ投資は諦めたんだよな・・・

才能も無かったのか、運なのか、でも少数だが個人でも運用に

成功し儲けている人もいたし・・・

しかし先の見えてる投資がこんなにも罪悪感があるとはね……

でも、今考えている計画がある。

実現にはある程度の資金が必要だ、まとまったお金を稼ぐには

株式投資が怪しまれないと思う、異世界で仕入れた物の転売では

回数が増えれば不審に思はれるだろうしな。


 そんな事を考えながらノートパソコンを操作していると

横で見ていたシャナが話しかけてきた。


『ねえ、雄靖がいじっているそれが、お金を稼ぐ方法なの?』


『あ!、ごめんね、ちょっと考え事してた。

 ちょっと大雑把に説明するとね、商店に資金を援助して

 その店が資金を使い商売を規模を大きくしたりして収益なんか

 が増えれば資金を援助した人が恩恵を受ける仕組みを利用して

 援助している権利そのものを売り買いし、その差額で利益を

 得ようとする行為が投資なんだよ。

 当然差額だから売値よりも買値が高ければ損をしてしまうけど

 逆なら利益が出るのさ』


 かなり大雑把な説明になったが、投資と言う仕組みが存在し

ない異世界の人に正確に説明する知識は僕には無いので、こんな

説明しかできないのが辛い。

シャナも今一つ理解できない表情だ。

興味がるなら別の機会に丁寧に説明しようと思う、今日は先程

見つけた銘柄をネット取引により購入した。

これで転移してきた目的の一つは済ませた、もう一つはシャナに

この世界を観せてあげる事、女性経験の少ない僕にとっては

デートの様な行動になるので中々に難問だ・・・碌な経験も無しに

結婚してしまったのだから。

見栄を張らないで自然体でいくのがいいよな、興味のありそうな

場所を聞いてみるか。

 会話をしながら興味のありそうな事を聞いて、ネットで画像を

検索し見せながら行く場所を決めていく。

最初に選んだのはショッピングモールだった、一つの場所で

様々な物を売っている形態は異世界にも市場として存在している。

買い物が好きなシャナとしては馴染みやすい場所かもしれない。

 その後の行動は買い物をしながら決めようと思う、時間に成約が

ある理由でも無いし、お茶でもしながら考えれば良いだろう。


 近所のイ○ンモールに来たのだけれど、荷物になりそうな食材は

先にある程度買っているので服とかかな。


『こんなにも色々な服があるのですね!』


『数日はこちらに居るので何着かは買わないと・・・

 好きなの選びなよ』


 シャナはカジュアルな洋服(デニム地やパンツスタイル)を

何点か選んだ、後は何か思い出になる物・・・アクセサリーとか

もどうだろうか?迷うな・・・


『ほかに何か見たいのとかある?』


『初めて見るものばかりで、ブラブラしながら色々なお店を

 見たいです、よろしいのですか?』


 そうだよな、初めて来たのだし聞かれても答えられないか・・・

ゆっくり見て回りますか。

 しばらく歩いているとシャナは雑貨屋の前で立ち止まり

何かを見ているようだ。


『何か気になる物あった?』


『あの木に光る飾りを付けているのは何なのでしょうか?』


『ああ、あれはクリスマスツリーだよ、こちらの神様の誕生を

 祝う日に飾られる物さ』


 異世界にはクリスマスの様な行事は無かったな多分・・・

そもそも神様を祀る風習は有るのだろうか?


『神様の誕生をですか?』


『シャナの世界の神様って、どの様な存在なの?』


『神様はいつも側にいますよ、木々にも水にも万物と共に

 存在し常に私達を見守ってくれています。雄靖さんの神様は

 違うのですか?』


 なるほど自然神信仰なのか、何か良いな・・・優しい感じがする

僕の世界でも自然神信仰はあったと記憶にある、特定の神を信じ

盲目に信仰したり、争ったりするよりは健全だよな。


『そうだね・・・この世界にはシャナの世界とは少し違った神様が

 沢山いてね、国によって神様が違ったりするのさ』


『私は他の国はあまり知りませんので、もしかしたらこの世界の

 様な神様がいるかもしれません、私達もクリスマスツリーを

 飾らないのですか?』


『シャナも興味があるなら買っていこうか?独り身だった頃は

 飾らなかったけどシャナと二人のクリスマスなら飾りたいな』


 服や日用雑貨、食材などを買い求め(クリスマスツリーも)

アパートに戻った。

ツリーの飾り付けをしていたら気分はクリスマスって感じになり

それっぽい夕食になった。

ワインを飲みながら明日からの行動を話した、株の仕込みも終わらせ

こちらの世界を少しはシャナに見せる事ができた。

などと思考しながらグラスを傾けているとシャナが話しかけてきた。


『あと何日こちらで過ごすのでしょうか?』


 あ、そうか・・・お母さんを残してきたのだし心配なのだろうな

その辺の説明をしたいなかったな。


『まだ説明していない事があるんだ、転移先の日付は指定できる

 んだよ、でも肉体の時間は止められないし、ロックラビットから

 取れた石を腕輪に嵌める事で転移が可能になるんだけど、今の

 石の数では30日が限界なんだ。

 頻繁に転移する事で時の流れに対して歳をとりすぎるのも不自然

 だからその辺を気をつけないとね。

 明日どこかに出掛けたら明後日には戻ろうと思う』


『分かりました、ならお母さんにお土産を買いたいのですが・・・』


『そうだね、でも世界を渡っている事は知らないのだから買う物は

 慎重に選ばないとね、何が良いだろうか?』


 こちらに来た日に戻るんだよな・・・お土産は変か?

でも、シャナにとっては旅行した感じなんだよな。

後々の事を考えると残らない物の方が無難ではないだろうか。

そうなると・・・手作りお菓子なんてどうだろうか?

材料を買って行き、作る!


『戻るのはこちらに来た日だからさ、お土産的な物は不審がられる

 そこで手作りのお菓子なんてどうだろう?

 材料はこちらで買い、戻ってから作れば違和感ないよね

 材料に多少珍しい物があっても、この前の迷宮攻略時に採取して

 きた事にすればいいよ、どうかな?』


『その方が良さそうですね、少しは驚かせたいのでちょっと変わった

 材料を使いたいので雄靖さんも一緒に選んでくださいね』


 話を終えて二人でベットに入り愛を確かめあって眠りについた

翌日僕たちは材料を買う為に再度ショッピングモールに行く。


 日持ちを考慮しお菓子は型抜きクッキーにする事にした。

小麦粉は薄力粉、砂糖、バターは使い切りに適した量の物、異世界

にも似た材料はあるみたいだが品質はこちらの世界の物が良い。

珍しさを出す為にトッピングの材料を二人で探していた。


『これはどうかな?木の実みたいねもので、こちらではナッツって

 呼ばれているんだ、何種類かあってさ僕は結構好きかな』


 調理器も必要かなクッキーならオーブンがあればいいな

たしかキャンプ用品にストーブの上に置いて使うのがあったような

気がするな、電気もガスも異世界には無いしからね。

キャンプ用品なら使えるだろう、探してみるか。


『これに似たような食べ物は市場で見たことがあります、形は

 ちょっと違う感じですが、私も食べてみたいです』


 その後も二人で相談しながらドライフルーツや何種類か

日持ちのする食材を選び購入した。


 オーブンを選びにアウトドアを扱うショップに移動し他に何か

ないかをブラブラしながら見て回る。


『何か気になる物はない?』


『この銀色の食器なんですが、とても軽いし綺麗ですね。

 鍋とか種類も沢山ありますし何か欲しいかも♡』


 そっか異世界では木製の器が一般的で金属製(アルミ製)は

珍しいよな。

軽くて丈夫だす冒険でも使えそうだ、多めに買っていくか。


『これは軽いだけじゃなく丈夫なんだよ、冒険者に最適な

 装備かもしれないので買いましょう。

 シャナも気に入ったの選んでください』


お菓子の材料、オーブン食器も買ったし異世界に戻りますか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 戻った僕たちはクッキー作りを始めた、小麦粉、バター、卵、

砂糖で作った生地にナッツのトッピング、生地にドライフルーツを

混ぜた物や生地を型抜きしただけのシンプル物など数種類を作った。


 薪のコンロの上に買ってきたオーブンを設置し焼け具合を見ながら

次々に焼いていく。

きつね色に焼けたクッキーからは香ばしく良い香りがする。

ある程度焼き上がったところでシャナはアンナ(母)を呼びに行った。


『良い香りがしていたので、何か作っていたとは思っていたけど

 何かしら?』


『雄靖さんの故郷のお菓子を二人で作っていたの、クッキーって

 言うのだけれど、みんなでお茶にしませんか?』


 異世界の菓子事情にそれほど詳しくはないけど、庶民は

お菓子と言う物はあまり食べないようだ。

農業が発展していない事で小麦は貴重でパンの用途以外には

あまり使われない、砂糖は無く何かの植物のツタを煮詰めた

甘味料をのようだ、甘葛煎の様な物だろうか?

甘味は異世界では貴重な物らしいので砂糖に関しては喧伝

しない方が無難だな。


『まあ!これは菓子かしら、良い香りがしてたのはこれなのね

 このまま食べてもよろしいのかしら?』


『お母さん、私と雄靖さんで作ったのよ、どれでも好きなの

 食べてね』


『お母さん、遠慮なさらずに食べてください、お口に合えば

 よろしいのですが』


 アンナはトッピングが珍しいのかナッツがトッピングされた

クッキーから選んで食べていた。


『あら、美味しい!、この種のような物は歯ごたえがあって

 甘さが無いぶん甘い焼き菓子と合わさって私には丁度よい

 甘さになっているわ、この種は見たことないけど何かしら』


『これは先日行った迷宮に向かう途中の森で見つけた物で

 土地の人はアーモンドと呼んでました、気に入りましたか?

 まだまだ他にも色々な味がありますから楽しんでください』


『嬉しいわ、二人の手作りのですもの!』


 三人で楽しいお茶の時間を過ごした、シャナはチョコチップ

クッキーが気に入ったようだった。


 食べ終わり片付けをしていると、突然リケッツが訪ねてきた。


『ユウ、おるん?お邪魔するでぇ』


『久しぶりだね、仕事の話かい?』


『何か家族団欒のとこ邪魔したかな? 少し外で待ってようか?』


 用事があって訪ねて来たのだろうし、お茶の時間が済んだので

話は聞けると思うのだが、二人がいる前で聞いても大丈夫か?


『この場で聞いても構わないかい?』


『そやな、一緒に聞いてもらった方がええと思うわ』


『リケッツがそう言うなら・・・お母さん、シャナもいいかな?』


『私達も聞いても構わないなら、お話ください』


 二人の了承を得てリケッツは話始めた。

彼は一人の獣人の少女を連れていたのだ、少女は以前に調査に

訪れた村の少女らしい。

村人は集団で移転しリケッツはその後の様子を見に行った

のだが、その時に親を亡くし一人になった少女を知った。

 彼女の家族は移住者らしく村内には近親者はいなく、

村人も移住したばかりで生活に余裕は無く精神的、生活的に

支える事が困難な状況だった。

そこで村長はリケッツに相談したらしくメンバーの中で世帯

を持っているのは僕だけであり、面倒を見ることができるか

相談しに来たのだった。


『面倒事を持ち込んでかんにんな、でどないや?』


『少し待ってくれ、僕だけのい判断で決められないよ

 家族で相談するからさ、ここで待っててくれ』


 僕とシャナ、お母さんで別室に移り相談する事にした。

迷宮探索などの仕事は僕だけで出かけるので、お母さんと

シャナが留守番になるが、異世界転移の時はシャナを同行

させる約束をしたことで留守はお母さん一人になる。

前回の転移は転移時の時間に合わせ戻ったが、場合によっては

転移時を過ぎた時間に戻る可能性があるかもしれない。

少女を預かった場合はその様な転移時に母さんを一人しなく

てもよいので考えれば安心かもしれない。

でもこれは僕の考えであってお母さんの気持ちを優先

しなくてはならないだろう。


『お母さんとシャナには僕より負担をかけると思いますので

 お二人の意見を尊重したいのですが』


『あなたがた二人で出かける時に私が一人でいるこを心配して

 いるのでしょうね・・・

 その子がいれば気が紛れるかもしれませんね、でも私は

 それほど弱くはありませんよ。

 今は私の事とは考えないで、その子の為に最善の方法を

 選ぶ事が大切ではありませんか?』


  確かにお母さんの言う通りだと思う、少女の気持ちを

 最優先にしなければ彼女が辛くなるだろう。

 少女の身の上を考えればこれ以上の精神的に負担を与える事は

 良くない、シャナはどうなのかな?


『シャナはどうかな?聞かせてくれないか』


『私は出かける時にお母さんを一人にするのは心配なので一緒に

 いてくれる方がいれば何かと心強いとかと・・・

 でもお母さんが言う通り少女の気持ちを尊重したいわ』


『そうか・・・なら少女が望めば受け入れるって事?』


『『そうね』』


 二人も彼女の身の上に同情しているのかもしれないな

リケッツが連れてきたのであれば悪い子ではないだろう。

少女の言葉を直接聞き、それで問題なければ引き受ける

とするか。

 僕たちは少女のいる部屋に戻りリケッツに話し合った

結果を告げ、少女と話す事になった。


『この子の名前はアズ、猫人族やねん。

 アズ、挨拶しなはれ』


『アズです、初めまして・・・あの、ん、え、ご、

 ごめんなさい』


 緊張してるのかな?どうしたら安心するだろうか・・・

この挨拶を聞いて母が少女に語りだした。


『慌てなくてもいいのよ、アズちゃんが私達とここで暮ら

 したいか聞きたいだけなの。

 ここには娘夫婦と私の三人だけ、小さな子はいないわ。

 私の子供としてここに住む、どうかしら?』


『ここに居てもいいの?迷惑じゃない?』


 この子は村に居場所が無かったのだろうな、あの状況から

村全員で移住したのだから自分たちの生活だけで精一杯だし。

少女も感じ取っていたのだろうな返す言葉にそんな事を

僕は思った。


『迷惑じゃないわよ、あなたが私達と一緒に居たいと願う

 なら遠慮はしないでね、今はあなたの気持ちが知りたいの』


 お母さんは引き受けても構わないと思っているんだな

僕も事情を知ってしまったので彼女の力になりたいと思う。

シャナの表情を見ても僕と同じ気持ちだと感じた。

彼女は暫く俯いて考えていたが顔を上げ答えた。


『ありがとうございます、ここに居させてください』


そう答えた彼女の目には涙が浮かんでいた。


 少女は荷物と共に母とシャナに部屋に案内されて行った。

残された僕とリケッツは少女の今後や仕事について話す事に

なった。


『今回は少女の事だけで来たのかい?』


『それだけやない仕事の話もあるんよ、ドワーフの村からの

 依頼でな。

 地下遺跡の探索なんやけど、その遺跡には貴重な鉱石が採掘

 できる鉱山の場所についての情報が隠されてるようなんや。

 でな報酬は大金貨10枚や!』


  因みに異世界の貨幣価値は王金貨=1千万円、大金貨=百万円、

 金貨=10万円、小金貨=1万円、大銀貨=5千円、銀貨=千円、

 大銅貨=500円、銅貨=100円、小銅貨=10円、銅銭=1円

 である。

 1,000万円って凄い高額報酬じゃないか・・・


『その依頼すごく不安なんだけどさ、命がけとかじゃないよね?』


『安心しなはれ、危険と言うよりは謎解きって感じやな、確定情報

 ではないんやけど、エルフ族が関わっているようみたいなんや。

 今までも何組もの冒険者が探索に向かっているみたいでな、けど

 探索が一向に進展せんらしい。

 中には道に迷いとんでもないところで発見された、なんて情報も

 あるくらいや。

 しかし誰一人として怪我などの被害は無いのが救いなんやけど』


 命の危険が無くて高報酬か・・・かなり良い仕事だな、他のメンバー

はどうなんだろうか?


『この仕事は全員参加かい?』


『カルロスとアバンには断られたんでメーディアとユウとワイの

 三人ですわ、戦闘好きの二人はつまらんらしくてな。

 危険も無いしええとちゃうか』


『わかった、それで出発はいつ頃なんだい?』


『そやな、急ぐ仕事でもないよってアズの事が落ち着いてからで

 ええと思ってる、判断はユウまかせるさかい決まったら前に

 預けたペンダントに魔力を通してくれればワイに知らせが届く

 んよ』


 リケッツと仕事に必要と思われる持ち物を確認した後、別室に

行って戻って来たアズ達と話した後に帰って行った。

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