第1章 7話 新たな依頼と獣人の村

連絡した数日後、リケッツは迎えにきた。

やはり収納魔法は便利で、前回の迷宮探索で使用した装備などは

収納しっぱなしであり新たに準備する物は無くそのまま行くこと

にした。

 獣人の村は遠く途中でパーティーメンバーと合流し到着まで

一ヶ月を要した。


 気配を感知されない様に離れた場所で一度待機し隠密性の魔法が

使えるメーディアが偵察に向かう事になった。


『何にあれ・・・・』


*村の囲む擁壁に異常なまでの太い蔦植物が覆い異様な光景を

 作り出していた。

 

『あんな植物見たこと無い、あれって植物なんでしょうか?

 確認するしかないようですね』


*彼女が擁壁に近づいた時、蔓を鞭のように撓り攻撃してきた

 遊撃を得意としている彼女の身体能力は高く攻撃は回避した。


『これは面倒ですわね・・・・どうしましょうか』


 よく見れば植物は擁壁だけのようですね、あの程度の攻撃

ならば避けれるし、ここに居ても仕方ないから村に突入しよう

かしら・・・

あれ?窓からこちらを見ている方がいますね、行って事情を

確認した方がよろしいようですね。


*メーディアは蔓の攻撃を難なく躱し擁壁を飛び越えて村に

 入ることに成功した。


『えっと、あっちの窓よね』


 獣人の運動能力なら、このくらいの事で閉じ込められる

のは変よね?

何か別の理由があるのでしょうか・・・・

窓から見えた方に聞いてみましょう。


『あの〜ちょっとよろしいでしょうか?』


『誰さね、あんた』


 あ、お婆さんだったのね・・・話を聞けるかな


『怪しい者ではありませんわ、この村に連絡が取れない事を

 心配した者からの依頼で調査に参りました。

 お話を聞いてもよろしいかしら?』


『話すのはええが、いつまでもここに居ると奴らに捕まるがな』


 何かありそうですわね、こんなに早く原因が分かるなんて・・


『捕まる?ですか・・よろしければ詳しく聞かせて頂けますか?

 話の内容によってはお手伝いできるかもしれませんし』


『期待はせんけど・・聞きたければ話すのは構わんが、後の

 責任はしらんぞえ』


『私の興味で聞くのです、御婆様にはご迷惑はかけません』


『あれは4ヶ月ほど前じゃった、人族の行商人が村に来てな

 若い娘にネックレスを配りよった、何でもこれから販売する

 のでネックレスは無償提供だと言ってな。

 商品はこの村では珍しい物ばかりで、しばらくすると娘達の

 後ろには村の連中も集まり始めたんじゃ。

 行商人の男は集まってきた村人にもネックレスを配り始め

 たのじゃ。

 そのネックレスは疲労回復効果があるらしく、肉体労働が多い

 農村に住む我らには有難いものじゃった。

 次の日も男は商売に来て無償提供されてたネックレスは村人

 全てに配られた。

 その時じゃった・・・突然ネックレスが光始め夢遊病になった

 かの様に立ち尽くしておった、そして男の命令に従い村のにある

 洞窟に閉じ込められたんじゃよ』


『だからなんですね、他の村人に出会わなかったのは。

 でも御婆様は従わなかったのでしょうか?』


『あん時わしな、疲れとらんかったからネックレスは付けてなかった

 のよ。

 でもな気づかれたら危険な気がして操られているふりをして洞窟に

 向かう途中で抜け出し家に隠れていたのさ。

 村の危機を知らせようにもな擁壁の蔓が攻撃してくるし年寄には

 あれに対抗できん、途方に暮れる時にあんたが来たんさ

 擁壁の外から蔓の攻撃を避けて来たのが見えたんで男の仲間じゃ

 ないと思ったしな』


『おそらくですが、男たちは行商人ではなく盗賊でしょうね。

 それに今もここに居座っているとなると、ただの盗賊とは思え

 ませんね。

 村人を操り監禁してるとなると奴隷商人とも関わりがありそう

 ですわね』


『奴隷商人・・・・昔から獣人は奴隷商人に狙われておってな

 村に住んでれば安全なんじゃが、逸れてうろついて攫われる

 事はようあったが村にまで来よるとは・・・・』


『お婆様は、もう少しここに隠れていてくださいね

 私は洞窟を調べてまいります』


『気つけてな無理するでないよ、お嬢さん』


 これは奴隷商人にしては手が込んでいるわ、普通なら襲って

奪って売り捌く単純な行動になるんですけど。

村に居座り防衛まで仕組んでいる、こんな目立つ事をしてまで

何を企んでいるのかしら・・・


*メーディアが洞窟から離れたところで様子を伺っていると

 奥から鎧を着込んだ兵士風の人物が出てきて見張りをしていた

 男に話しかけた。


『異常はないか?村の巡回と周辺の警戒はどうなっている』


『は!異常はありません、巡回と周辺警戒は別班が今から出る

 ところであります』


『よろしい、儂は一度、軍本部に戻る警戒を怠るな』


*鎧の兵士は奥から出てきた飛龍に跨り空高く飛び立った。


 実験は始まったばかりだ、今はまだ民衆や他国に知られる

わけにはいかぬ、実験初期段階の成果報告と今後の指示を

受けなければ。


*メーディアは魔法で見張りの注意を逸し洞窟への侵入に

 成功した、奥には簡素な木で作られた柵があり囚われた

 獣人たちが居た。

 ネックレスは青白く光り目は皆虚ろであった。


『これは・・・・一時的じゃく持続性がある支配の魔法道具

 のようですね。

 何の目的で……ん?あれは・・・・』


*囚われている柵の前に机があり書類の様な物が置いてあった


(魔法具による精神支配とその持続性について)って何よこれ!

なになに……魔法を付与された物で精神支配の検証を行ったが

持続性につては装着している限り効果は続くと検証された。

支配については深層意識にまで達しており訓練、教育にも問題

は無いと思われる。

獣人の雄には戦闘教育、雌には潜入の為に必要な教育と護身術

を施し能力に応じて編成を行っている。

実践投入最終段階である。

各編成の詳細については・・・・・・・


 支配による軍隊編成って、国家が関わっているの・・・これ

何か単に調査って仕事じゃなくなってきたわね。

どうしようかしら、御婆様も心配だし一緒に村を離れて仲間に

相談した方が良さそうね。


*メーディアは洞窟から離れ村に戻り御祖母さんと合流し

 共にリケッツと仲間が待機する場所に向かった。


『リケッツちょっと厄介な状況になってるわよ、確認なんだけど

 この依頼って商業ギルドよね?』


『そうやけど、どないしたん? それにお婆さんは何なん?』


『この依頼大金貨5枚じゃ割り合わない感じよ、それに下手したら

 私達が抹殺される可能性だってあるわ。

 この背景には国の軍隊が関与してるようだし・・・

 お婆さんは難を逃れて隠れていたので用心の為にここにお連れ

 しました』


『偵察ご苦労さま、高報酬なんが気になってたんや。

 しかし国家が関わっていたんかい・・・

 この地域は魔物も多く危険な土地やからどの国家も避ける場所や。

 開拓も進まず未開地の部分が多い、人族には住みづらいが

 身体能力が高い獣人にとっては住みやすいんや。

 あと、婆さんはメーディアがギルドに連れて行く方が良いやろ。

 事情を説明すれば保護してくれるはずや。

 序でにこの状況を説明して、この依頼をどないすんのか確認して

 きてくれるか?

 それまで他のメンバーは村の外で監視してるよって。

 頼むでメーディア』


『ほな、ワイらも行動しよか』


 僕とリケッツ、カルロス、アバンは村の擁壁を見渡せる丘の

上に簡易な休憩所兼見張り場所を作った。

外観は緑色の防水布と草木を配置してカモフラージュしている。

メーディアが往復する2ヶ月をここで過ごすのだ。

長いな・・・・などと考えているとリケッツの指示で食料担当は僕、

偵察担当はリケッツとカルロス、監視担当にアバンに決まった。


『これでええよな?、それぞれ行動開始や』


 僕は森に入り獲物をさがす、調理も森でして方が良いだろう

煮炊きの煙で気づかれるとマズイしな。

移動も考慮すると弁当の様に容器に入れるのが理想だな。

初めに容器、続いて狩り、そして調理かな。


 竹のような植物があれば理想だな・・・

森を探して小一時間が過ぎた頃、風船の様に膨らんだ実を

付けた木を発見した。

僕の知識としてはヤシの実に近い感じだ、一つ木から取り

半分に切ってみたら、透明な液体と内側が白い果肉に覆われて

いた、正にヤシの実!これは使えそうだ。

仮名ヤシの実!を数個収穫し狩りに向かう。


 ここに来るまで川は無かった気がする、たんぱく質は獣の

肉にしよう。人数が少ないから小型の獣で量は足りると思う、

あとは山菜で良いか。


 獣道らしき物を見つけたので見渡せる場所で獲物を待つこ

とにした。


『ん!何か来た』


 猪に似てるな・・・体長は80cmくらいか、大きさは

丁度いいね、行くか。


<アイスカッター>


*魔法は獲物の首に命中し、頭が切り落とされた。


 おお……狩りの腕前も上がったな・・・

血抜きをし塩焼きにするか、山菜は軽く茹でて添える感じ

だな。

山菜を採取し食材の下拵えと調理を済ませ出来上がったのは

弁当である、仮称ヤシの実を容器としたのだった。


『なかなかの出来栄え、戻るか』


*人数分の弁当を用意し雄靖は仲間の下に向かった。


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*メーディアは冒険者ギルドに被害者(お婆さん)の保護要請と

 この件に軍隊が関与している事などを報告し、受けた依頼の

 扱いについて続行すべきかの確認を求めた。


『メーディアさん、ギルドとしては続行の判断になります。

 依頼主は街の労働者紹介所でありギルドはどの国にも属さない

 組織ですので軍隊が関与する事があっても依頼に影響は無いと

 判断します。

 したがって依頼を降りる判断はパーティーが決める事になります

 しかし状況が状況ですし、ギルドでも軍隊の調査はいたします。

 それまでの間、待機していてはどうでしょうか?』


 私達のパーティー能力は高いけど相手が軍隊なのは気が乗らない

わね、何かを実験してる感じだったし・・・もし極秘の任務なら

慎重なリケッツは関わりを避けるでしょうから。

長くなりそうだから、お酒でも仕入れて戻りましょうか。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


*洞窟の実験施設から軍本部に戻ったインバル部隊長は作戦参謀に

 実験経過の報告をしていた。


『現時点で得られた生体実験の報告であります。

 身体能力が高く戦闘に適している獣人に対して魔法具による

 精神支配を行い外人部隊とする計画ですが、今のところ

 魔法具による支配に問題は無いと思われます。

 激しい戦闘時、負傷時であっても支配は有効であります。

 課題としては魔法具破壊時に効果が持続するのか又は外的要因

 として魔法を想定してますが、支配解除の可能性などの検証を

 残しております』


*エルンスト作戦参謀は報告を受け暫し考え込んだが、考えが

 纏まったのかインバルに指示を出した。


『インバル部隊長は残す検証を確認し実験終了後に盗賊の襲撃に

 見せかけて被験者ごと村を焼き払うように。

 この実験は軍部の独断ゆえ国に知られては困るのでな』


『了解しました』


 参謀の命令は絶対だが、軍の実験には憤りを感じている。

獣人に対して差別意識は無い、こちらの都合で実験体とし終われば

命を奪う。

鬼畜の所業ではないか?彼らは被害者なのだ。

何とか助けたいものだ・・・


*インバルは洞窟に戻ると実験の状況と実験体である獣人の様子を

 確認していた。


『残る実験はどの程度進んでいる?』


『外的要因による影響ですが、負傷による刺激については魔法具

 の強化いより対処可能でありますが、解除魔法対策にはもう少し

 時間を頂きたい』


『よろしい、だが獣人の村を占拠して数ヶ月が過ぎている

 この実験は軍部だけで秘密裏に行われているのだ。

 実験の秘匿性ゆえ実験が途中でも30日後に完全撤収とする』


『了解しました』


 この実験には不快感を覚えている、軍の兵器開発に長年関わって

きたが、これは兵器なのだろうか?

実験で少なからず死者も出ている、私以外の研究員も研究に疑問を

持つ者が多い。

それに極秘研究とあってここの研究員は他の研究員とは隔離されて

いるのだ。

研究が終えた私達の安全は保証されるのだろうか?

不安しかない、30日か・・・・短く感じそうだな。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ユウ、この弁当は中々の出来やな』


『『これは美味しいよ』』


 カルロスとアバンにも好評のようだ、何かホッとしたな。


『リケッツ、メーディアの報告を待つのだろうけど

 獣人を助ける方向で動く事もあるのかな?』


 僕はリケッツ達の今までの行動を知らない、この様な場合

の彼らの判断を予測するのは難しい。

でも相手は国の軍隊のようで魔獣とは異なる、犯罪者には

なりたくないしね。


『ユウはんは心配せんでええよ、ワイらも御尋ね者にはなり

 とうはないよ安心しよし、でもなもしかして潜入はする

 事になるかもな・・・』


*カルロスとアバンはリケッツの方を向いて頷いていた。

 翌日メーディアは戻って来た。


『メーディア、ギルドはどないな返答やったんや?』


『ギルドはこの件に関しては続行の判断だそうです、軍隊の

 関与があったとしてもキルドは国に属さない組織。

 依頼主は街の労働者紹介所である事を考慮すれば問題無いと、

 但し軍隊が相手となる可能性があり継続判断はパーティーで

 決めて良いとのことでした』


『ギルドはギルドって事やな。

 皆はどうや?今回は魔獣や盗賊でないし正規の軍隊や

 訓練された集団は少々厄介やで。

 無理強いはせんよって意見聞かせてや』


『私はこのまま調査を進めたいわ、お婆さんの事もあるし・・

 一人になってもやるわ』


『メーディアよ、お前を一人で行かせはしないさ俺たちを

 頼れよな、そうだよなアバン』


『ああ、そうだなリケッツも潜入しそうな感じだったし行くなら

 付き合うさ』


『三人は行く気やな、ワイも一人でも行くつもりやったし。

 軍隊が関わっている事が気になってたさかい、ユウはどない

 する?』


 これは僕だけ不参加って、雰囲気じゃないよな・・・・

軍隊か〜国家機関だよな、ギルドからの依頼は調査だし戦闘が前提

じゃないしな、これも経験だよな。


『僕も参加するよ、調査なんだし面白そうじゃん』


『よっしゃ決まりやな、皆で行くで。それとなユウ、多少の戦闘は

 あると思うで・・覚悟してや』


『え!』


『『『『 あははははは 』』』』


 そして僕らは潜入の打ち合わせを始めた、リケッツとメーディアが

先行して侵入し、僕とカルロスが続き殿がアバンと決まった。

翌日の深夜に決行となった。

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