第1章 5話 初めての迷宮
僕は迷宮の入り口でメンバーの到着を待っていた。
『少し早すぎたかな?』
この世界は時間の概念が実に曖昧だ、時計は身分の高い貴族
などしか所有していない、大勢の人々は日の出、頭上に太陽が
来た昼間、日の入りを基準にした大まかな感覚で生活を営んで
いた。
僕が知らされた待ち合わせ時間は 日の入りと昼間の間だ
であった。
『ま、新入りだしな皆より早く来るのは礼儀だよな』
しばらくするとカルロス、メーデイア、アバンそして
最後にリケッツの順で現れた。
『みんな揃ってるな、雄靖、呼びづらいからユウでどうや?』
『リケッツさん構いませんよ、皆さんもユウでお願いします』
『初めての迷宮さかい準備は大丈夫でっか?』
『ヤニスの店で必要と思われる物は揃えて収納しているよ』
『ほな行きますよ、先頭はワイとユウやな、行くで』
パーティーの先頭には多少の不安はあるのだがリケッツも
先頭だし、後方に狙撃や遊撃も控えている。
余程の事が無い限り安全だと思う・・・・思いたい。
迷宮に入ると程なくして、よく知る気配を感じた。
『ユウ、感じるか?』
『ああ・・リケッツ、この気配はロックラビットじゃない?』
『狩るのか?ユウ』
リケッツにはロックラビットを狩る必要性が理解できない
かもな、魔石の利用価値は魔法の腕輪を持っていなければ
この世界では価値は無いに等しいからだ。
ヤニスにはそれとなく探りを入れたが、腕輪と魔石の事は
知らなかった。
思うに特別な事なのだろう、以前夢の中で話しかけてきた
人物?神?よく分からないが、世界を越えて召喚出来る
力を持っている事を考えれば創造主的な存在なのだろう。
この事はメンバーにも黙っていた方が良いだろうな。
ロックラビットは30匹ほど狩り内魔石は10個取れた
いつもの様に肉は保存食にしておく。
この迷宮は50階層あるのだがパーティーの実力が高い
事もあり半分の25階層まで一気に来てしまった。
魔物は獸タイプが主で力任せに攻撃が多い、ミノタウロス
などは魔石も大きく角は高値で売れるらしい。
ロックラビット、ミノタウルスの他にも中型の魔獸を
それなりに討伐し売れば結構な収入になりそうなのだが
討伐で獲た素材は僕の物にして良いらしい。
僕には貴重な収入だけど彼ら上級冒険者には魅力的な素材
じゃないのだろう。
『スゲー助かるよ、もう少し大きな家をと考えていたので
お金を貯めていたところなんだ』
『気にせんでよかよ、ここにいる連中は十分に金は持って
るさかい、それに今回の目的は戦闘での連係を確認する
事なんよ、ここまではワイとユウの連係だったけど
ここから先はカルロスとメーデイアとの連係を確認する
よってな。
遊撃のメーディアが先行する前にユウが先制攻撃、
後方のカルロスの攻撃を援護できるポジションでユウは
待機し遊撃と狙撃の支援するようにな。
ほな、行きましょか』
基本行動とポジションの確認みたいだ
狙撃の援護って事は止めを刺す時の連係だろうな
魔獸も大型なのだろう・・・・たぶん。
『お、御誂え向きな魔獸がおったで』
それは牛程の大きさで蝙蝠の様な羽根を持った虎に似た
魔獸であった。
『ユウ!飛ばれるのは厄介だから奴の羽根に攻撃をお願いね』
その言葉を告げメーディアは魔獸に突っ込んだ
『≪アイスアロー≫これでどうだ!』
これは氷の矢を数本出し攻撃する魔法で、氷の攻撃魔法の
定番なのだ、狩猟で使えるので僕は得意としてる魔法の一つ
である。
*魔法は羽根を貫き飛行能力を奪った、メーディアは透かさず
足に斬撃を放ちカルロスの銃弾が眉間を貫いた。
≪≪ユウ、ナイス!≫≫
メーディアとカルロスからの称賛で少しホッとした。
『ユウはん、この調子で一気に最下層を目指しますよって
気張りなはれ』
下層に行くにほどに徐々に強くなる魔獸を倒しながら
最下層である50階層に辿り着いた。
『リケッツ、あそこに有る白い球体は何?』
そこには直径20メートルはあるであろう表面に光沢の
ある球体が鎮座していた。
『ほほー、スフィアー・ウォードゥンが階層ボスかいな』
『あまり強そうには見えないけど……』
リケッツはいつもと変わらない様子だが、他の二人は少し
緊張している感じに思えた。
『そやな連係の訓練には理想的な相手かもしれへんな、ワイは
手出しせんよって3人にお願いしますわ。
この魔物?魔獸?は、こちらから攻撃しなければ動かないけど
一度でも攻撃しよったら、連続攻撃の始まりや、攻撃が止む
事は無い。
生物かいなって思う程や、ユウ油断は禁物やで』
『そろそろ初めてよろしいかしら?私とユウで撹乱しつつ
何とかスフィアーを固定してみましょう。
ユウの経験の為に私達は最低限のサポートに止めますね
固定が出来ましたらカルロスが終わらせてくれるわ』
『止めは任せなユウ、奴は魔法攻撃を弾くから驚くなよ。
さて、始めようぜ』
*カルロスの合図で戦闘は開始された、ユウはアイスアロー
を放つが曲面の体表に弾かれ、透かさずファイアージェルの
魔法を仕掛けたがツルツルした表面の為か直ぐに流れ落ち
止まれない炎はダメージを与えられなかった。
直後、体当たりの攻撃が雄靖を襲った。
『うぉっと・・・・僕の攻撃は効かないか……
にしても、あの防御で体当たりじゃ攻防一体かよ、こっち
が不利だよな~
わわわ・・・・!』
≪・・どかん!・・≫
『あ・ぶね・・』
『ほら、ユウ・・余所見はダメよ~』
*メーディアは衝撃波を放ちユウに対する攻撃を妨害しスフィアー
の攻撃を自分に引き付けた。
『少しの間だ私が引き付けるから、その間に何か考えなさい』
さて、どうするか・・このまま攻撃しても効果は無いな
魔法がじゃなく、あの形(球状)と表面の状況だな。
生き物なのだから熱の耐性には限界があるはず、ちょっと
試してみるか。
『メーディアさん、交代してください。≪アイスアロー≫』
*当然、魔法は弾かれたがスフィアーは此方に攻撃を変えた。
『この辺りだったよな、あ、あそこだ』
*雄靖は逃げ回っている時に見つけた窪みがある場所に向かい
その底の中心で待ち構えた。
スフィアーは雄靖に体当たりを仕掛けたが、ギリギリで上に
回避する。
その場所は轟音と共に深く抉れた。
『いい感じだ、後数回かな・・・・』
*何度か繰返し擂り鉢状に30m程深くなっていた、
スフィアーの移動手段は自ら回転し接地摩擦を利用
している。
深くなった穴からの移動は鈍くなっていた。
『そろそろ仕掛けるか』
*スフィアーの攻撃をかわすと同時にファイアージェルを
連発する。
穴はファイアージェルで満たされ、スフィアーは地面との
摩擦は奪われ穴の中で身動きができない状態になった。
透かさず真上の天井にアイスアローを放った。
天井には鍾乳石様な形をした巨大な岩があり、魔法は
その根本に放たれ、着弾と同時にスフィアーにの頭上に
落下し蓋の様に覆った。
『よし!、これなら熱の攻撃が効くよな』
*スフィアーはファイアジェルの中に閉じ込められる
状態となった、中からは回転音が微かに聞こえている。
『ええ作戦やな、この先をどないするんが倒す為には重要やで』
たぶんこの攻撃では倒すのは厳しいだろうな、この隙に次の
攻撃手段を考えなくては・・・・
僕の魔法攻撃では打撃を与えるのは、この辺りが精々だよな・・
奴を固定する魔法をいくつか試してみるか。
*スフィアーを閉じ込めた穴から凄まじい回転音が響きだし
蓋にした岩が上下に振動し始めた。
『これは長いこと保たないな』
対象を固定する魔法は水系統(氷)と効果時間は短いが
空気系統(風)の魔法は使える。
ん?、そう言えばこれは互いの連係を確認するのが目的だった
のではなかったか・・・・
前衛である僕の役割は後衛の攻撃のサポートだよな・・・・
忘れてたよ。
『カルロス、メーディアさん、これからスフィアーの動きを
制限してみます、上手く行ったら止めお願いします』
『『了解した』』
『連係の事、忘れたと思ったぞユウ』
*その時、閉じ込めていた蓋が吹き飛びスフィアーが
飛び出して来た。
スフィアーはファイアージェルの熱で熔鉱炉内の鉄の様に
真っ赤になっている、そこにユウの魔法が放たれた。
『アイスロック』
*高熱状態のスフィアーは氷を溶かし始めるがユウの次の
魔法が放たれた。
『ブリザード』
*溶けかけた氷に氷雪混じりの極低温が吹き付けた。
その魔法は氷が溶けるそばから新たな氷でスフィアーを
包んでいた。
高熱から急激に冷やされた体表には温度差により微細な
罅が入った。
『お、なかなかの攻撃じゃないか。メーディア!俺が銃弾を
撃ち込むから、そこに止めを刺せるか?』
『カルロス、貴方こそよく狙いなさいよ』
*カルロスが銃弾を撃ち込むと罅が大きな亀裂となり
直後にメーディアの衝撃波が放たれ、スフィアーは粉々に
砕け散った。
『皆、お疲れさん。ユウも初めての連係にしては合格点やろ
カルロス、メーディア、ユウに言いたい事はあるか?』
『ま、初めてならこんなものだろうな』
『いいんじゃないかしら、判断力に問題はないと思うわ』
迷宮での戦闘連係は問題なく終えた、この後はパーティー
としての行動予定は無く解散となった。
リケッツだけは僕に聞きたい事があるらしく僕と共に家路に
就いた。
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