第1章 2話 死闘と思い

バキバキ・・ドン・・ドサッ・・

立木を無視した突進で胴回り程の木々が薙ぎ倒をされている

その数十メートル先を僕は逃げている。


『洒落にならない破壊力だな、正面を逃げていたら追い付かれるか

 薙ぎ倒をされた木の下敷きになったかもな』


 雄靖は木々の枝を忍者の様に移動し直線的に逃げている

デモニオライノも直線的に追って来るが木々を破壊しながら

であり、雄靖には簡単に追い付けない。


『この先に大木がある、気絶でもしてくれれば多少の足止めと

 休息が取れるかもな、強化した体でも続けば体力が持たない

 と思う』


 その大木の幹は直径5mはあり枝も太く安全に休めるので

狩りの合間の休憩に良く利用していた場所だった。


 デモニオライノが大木に衝突する直前に何かの光りが大木を

一瞬で切断してしまった。


『嘘だろ・・・・なんだあれは? 前面に光の線の様なものが

 見えたような? 良く見なかったけど確認が必要だな』


 この先に木立に隠れて見えづらい岩がある、そこで正体を

見極めるか。


 雄靖は誘い込む為に右に進路を取った。立木は少ないが進路には

背の高いヨシに似た植物が群生しカーテンの様に視界を遮って

いた。

あの早さで突進していては岩を確認してからでは回避は難しい

だろう、少しでもダメージを与えたいところだ。


 岩に誘導するように絶妙な距離感でデモニオライノを誘い岩まで

あと100m程に近づいた時、先ほどの光を見極める為に高い木の上で

衝突の瞬間を注視しする事にした。

岩と接触する寸前で何かが光り岩が水平に切断され上の部分が突進で

吹き飛ばされた。


『え!なんだあれ・・・・ 光の刃? 魔法? でも反則だよな

 あれは、っと見とれてる場合じゃないな 奴を弱らせる方法を

 考えなくては・・・・止めを刺せなくなるな』


 素早くデモニオライノに背を向けると立木の方に戻る為、左に

向かった。

多少の障害物では足止めに効果が無いようだ。できれば最後の仕上げ

の前に興奮状態にしたい、苛つかせるために氷魔法で頭部側面に氷塊

をぶつけた。


ゥガ~~ウゥゥラァァ~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『お、少しはダメージを与えたようだな、火魔法が使えればもう少し

 効果的な攻撃になるんだが・・・・森を燃やすのは気が引けるし

 仕方ないか』


 シャナは破壊音を聞き雄靖が攻撃をしているのを遠くから感じていた

この音が聞こえなくなった時は闘いに決着した時だと理解していた。


 雄靖の告白には今までの彼の態度から薄々予想はしていたのだけれど

まだ私の気持ちには迷いがあった。

彼の事は好きか嫌いかで言えば好きだと思う、亡き夫に似ていることで

罪悪感を感じてるのではないか・・・・


 今、命懸けで闘ってくれている、それを思うと胸に熱いものが込み

上げてくる、それは感謝なのか愛情なのか今は区別がつかない。

でも彼の誠意に対して何らかの答えは出さなくては・・・・

今のまま中途半端な気持ちでは彼を傷つけてしまうかもしれない。


 正直な気持ちを、罪悪感を感じてしまう事も一切合切を打ち明け

て、それでも私を愛してくれるのかしら……

彼を好きな気持ちはある、出会ってから今までの彼は誠実で優しく

何も不満は無い、告白を受けた時も嬉しかった。

そして今、彼は私の為に命懸けで闘ってくれている、彼が私の元に

戻ってきてくれたら彼の想いを受け入れたい。


『だから無事に私の所に帰ってきて……お願い……』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 魔法による氷塊で攻撃をしているが、怒らせる効果はあるけど

ダメージが思った程無いようだ、できれば体力も奪い突進力を鈍らせたい

ところだ。


『しっかし硬い体だな、それに光の刃も邪魔だよな・・・・それなら

 火の攻撃魔法に切り替えるか』


 火の攻撃魔法なら刃で切断されても体に攻撃が当たる可能性が高い

そのためには火災の危険性の無い場所に移動する必要がある。

デモニオライノと闘うと決めた時から作戦を幾つか考えていた、その

中で火の攻撃魔法を使う為の場所は決めていた。

その場所は森の中程にある湿地帯である、誘き寄せる為に所々に自分用

の足場になる岩を設置をしていた。


 もうすぐ湿地帯だ、デモニオライノとの距離を少しだけ縮めて

視線を僕の方に向くように仕向けた。

湿地帯は泥の層が2m程あり巨体の生物には動きが鈍るはずだ

攻撃を続ければ興奮して引き返さずに追ってくるだろう。


 設置した足場を移動し湿地帯の中央に向かい移動しながら

火魔法による攻撃を開始した。


『ファイアージェル・・・・』


 普通の火魔法では外皮の厚いデモニオライノには効果が薄い

そこで考え出した魔法で、キャンプなどで火起こしで使われる

着火剤ジェルのような火炎で着弾した対象に火が張り付き水にも

強く消えにくい。効果は5分程度だが。


 魔法の効果で熱いのか水飛沫を上げ暴れている、ここで体力奪い

体にもダメージを与えたい。

願わくば片目だけでも潰し距離感を奪えれば有利に事が進む。


 僕はファイアージェルを放ち続けた、その甲斐あって体表の

殆んどは黒く焼け焦げていた。動きも若干遅くなってるように

思えるが目的の1つ視界については上手く攻撃を避けられている。


『何とかしたいな…………』


 一瞬でも僕以外に注意を向ける事ができれば隙を作れるのだけれど

何かないか・・・・


とその時


カァカァカァカァ……


 離れた場所で群れなす水鳥を見つけた、100羽はいそうな大きな

群れだ。このまま誘導して突入させれば飛び立つ鳥に注意を引かれ

隙ができるのではないか?


『えぇ~~い、考えていてもしょうがない。行くぞ!』


 ファイアージェルを撃ちつつ注意を惹き付け水鳥の群れに

向かった。


 群れの中心に突っ込むと水鳥は四方八方に飛び立った、その

状況にデモニオライノは僕の姿を見失い僕はその隙をつき真横

に移動、前方に目が向いているので横は死角になる。

透かさず目に向けてファイアージェルを放った。


ビギャー・・・・・・


 物凄い悲鳴とともに顔面を地面に擦り始めた。

瞼に邪魔されず直接眼球に攻撃が届いたようだ、見たところ

片目だけの様だが、距離感を奪うには十分だ。

攻撃の効果を確実にするために土属性魔法のロックヒットで

岩石を生み出し連続でぶつけた。


 見れば瞼を閉じた状態で血を流している、間違いなく片目は

使えなくなっただろう。そして動きを見ると体力も多少だが

奪うことに成功したようだ。


 そんな状況のなか突然デモニオライノの鼻先が光った!

その光りは伸びる剣の様に切っ先を僕に伸ばしてきた


『どわァ…………なんだこれ!』


 先ほどの大木切断もだが光属性魔法で剣を作り出せるみたいだ

これでは空でも飛ばなきゃ攻撃から逃げれないな。

さっきの攻撃も伸ばせる長さは分からないが距離感を奪ってなけ

ればヤバかったかもな。


 このまま開けた場所に居ては、狙いを付けやすく不利だと思う

目的の距離感を奪えたし、多少でもダメージは与えた

森に戻り打撃系魔法に切り替えて様子を見るか・・・・


◆出逢い◆


 雄靖が死闘を演じている頃、少し離れた森の中でその様子を窺って

いる男がいた。


『今日は自棄に騒がしいちゃ、魔獣でも暴れているんかいな?

 でもあれは何かを追っかけてる様に見えるな、チョッと面白しろ

 そや見に行こかな』


 森の出来事に興味津々な男、出で立ちは森ではかなり目立つ格好

でタキシードの様な服装でシルクハットを被り白塗りの化粧に三日月

のアクセントが左目回りに施されている、例えるならRe:ゼ○に

登場してるロズ○ールの様である。男は楽しげな笑みを見せると

軽やかな踏み込みで木の枝から弾けるように飛び出した。

その身のこなしからただ者ではない雰囲気が漂う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雄靖は打撃系魔法で攻撃を続けていた。


『ロックヒット!・・・・』


 この魔法は彼の得意な打撃系魔法で、狩りに使っていた事から

使用回数も多く熟練度が高いので、この追われる状況でも安定して

攻撃を繰り出していた。


『少しは効いているようだな、頭部の硬い表皮が変色してきてるし

 追う早さも遅くなってる感じがする、このまま続けるか……』


とその時、横に気配を感じ視線を向けると、森に似合わない格好の

男が並走していた、そして興味ありげに話しかけてきた。


『あんた何か面白そうなことしてるな・・ワイも混ぜてくれへん?』


『え!……今、微妙にピンチなんだけど、見てて感じない?』


 何なんだこの場違いな格好の男は……見れば追われてるの理解で

きそうなんだが、しかし能力、特に身体能力は高そうだな。

ちょっと協力を頼んでみるかな・・・・


『僕は雄靖、今ちょっと困っていてさ…君、かなり強そうだけど

 僕に協力してくれないかな?』


 このままでは少々魔力行使に不安がある、デモニオライノの

体力をある程度削っていると思うが、底が知れない。

確実に倒す為なら共闘した方が安全だ。


『なんや、遊んでたんちゃうの?倒す気が無いよう見えたんで

 遊びやと思うたわ。協力してもいいけどな訳を聞かせてな』


 何か関西弁みたいだけど、色々と混ざってる感じだよ

でも、どうする……正直なところ一人じゃキツいと思う

訳か・・・・女性の為に闘ってるって言ったら大丈夫だろうか?

僕なら呆れるが……下手な嘘で誤魔化せば見透かされそうだ。


 それに逃げながらだと上手く考えが纏まらない

ここは協力を願うのが正しい判断だと思う、話そう

正直に。


『実は好きな女性を守る為に闘っている、この状況では詳しく

 話せないが、彼女は過去にデモニオライノから深く傷つけられた

 そして今度は命を奪われそうになった。

 そこに僕が助けに入り、彼女から引き離す為に逃げているのさ』


 かなり大雑把な説明だけど嘘は言ってない。


『そうでっか、女子の為かいな……何かカッコええな、なら一人で

 倒す方がエエのかな?』


 ん……そうなるかな、でも光る剣は少しは厄介だな予想外だし。

安全策で行きたい、死んでは意味がないし。正直に自分の実力

を説明して頼むしかないな。


『力を貸してもらえないだろうか?倒す準備が整う前に襲われて

 しまったんだ、それに光の剣?みたいな攻撃を持っているなんて

 知らなかったんだ、あの攻撃はかなり辛い。

 頼めないかな……』

 

 これでダメなら諦めるしかないな、彼の格好は場違いな感じだが

強さは感じられる、返事を期待しよう。


『ワイはリケッツや冒険者で魔術師しとる、話は分かった・・・・

 協力してもいいが条件があるんや、それはなワイのパーティーメンバー

 に入ってもらうでな、ちょうど前衛の近接戦闘が出来る魔術師が

 辞めてもうてな、今ちょうど募集中なんよ。どないする?』


 うわ~~前衛の魔術師って欠員出るよね・・・・魔術師は普通

なら後衛で支援の役割だよな、随分と変則的なパーティーだよ。

でも取り敢えず倒す事を優先に考えよう、条件については

仕方なしだな。


『リケッツ、条件は了解した・・・・倒すのを手伝ってくれ

 それでなんだが止めは僕が刺したい、いいか。』


『よろしいで、他には何ぞあるかい?、無ければ雄靖の考えてる

 倒すための策を教えてくれへん?』


 雄靖って言ったな、魔法も体術もギリギリ合格点やな

何か策が有りそうやな、どんな策なのか確認せなあかんな

それで性格や物の考え方が分かると言うものや。


『始めに体力を極力奪い肉体的にもダメージを与えます

 その後ある場所に誘導し止めを刺します

 策は単純ですが確実に倒せる方法だと思います。

 誘導する場所ですが…………』


 大雑把だが説明を終え、リケッツの答えを待った。


『雄靖はん、分かりやすい策やけどヤツは賢い魔獣さかい

 難しい策になりそうやな、ワイなら一撃で終いに出来るのに

 それではあかんのやろ?』


『面倒臭い頼みで済まないリケッツ、彼女に対しての誠意なのだから

 この手で決着をつけなければならない分かってくれ頼む』


 リケッツはとんでもないなデモニオライノを瞬殺かよ、一瞬だが

心の中で(それでもいいかな)などと考えてしまった自分を情けなく

思ってしまった。


『僕が囮になって誘導するからリケッツはダメージを与え続けてくれ

 怒らせる様な攻撃が都合がいいんだ、目的のポイントまでは今の

 ペースで30分くらいで着くはずだ、よろしく頼むよ』


 僕はデモニオライノの前方に移動し木の枝から地上へ移動場所を変更

した、真後ろから追われるのは流石に恐怖を感じるな。

今は援護もあるので恐怖感は薄れている、リケッツの攻撃は正確で

効果的にダメージを与えているようだ、それは追ってくる速度が徐々に

落ちてきている事で分かる。


 リケッツの攻撃は風の刃で切りつけ又は空気の塊をぶつける攻撃

スタイルで威力も強力だ、でも手加減していると感じる。

表情や仕草に余裕がある、彼の強さは自分とは次元が違うと思う。

リケッツの強さには思うところはあるが、今はリスクの少なく

し確実に退治する事を優先しよう。


 しかしリケッツの様な実力者がいるパーティーに自分が加わって

良いのだろうか?

自分は、そこそこ魔術・体術は出来る方だと思っているが、彼に

比べれば、遥かに劣ると感じている。もしかして捨て駒なのか?

今、考えても仕方ないな終わってから考えよう。


『ところで雄靖はん、この魔獣はレベルの高い冒険者の間では

 重宝されとる魔獣なんや、防御力が高いから戦闘の練習相手に

 最適やし、肉は干し肉にすると絶品やから高額で売れるんやで』


 自分にとってデモニオラノは絶対的な強者だと思っていたけど

実力のある冒険者にとっては良い獲物なんだな、でも彼女や師匠

からもそんな話はなかったと思う、一部の高ランク冒険者だけが

獲物としているだけで一般的には強敵だろう。

そんな事を考えているとリケッツから提案があった。


『雄靖はんヤツの誘導を代わるさかい、体術の腕前を見せて

 はくれへんか?チョッとでいいから』


 う~~そうだよな、パーティーメンバーの実力を確認するのは

当たり前だな、重量級の相手だから取り回しがよい片手剣で

攻撃してみるか、自分には一撃で倒せるだけのパワーは無いしな。

攻撃方法は一撃離脱でいくか。


『あまり期待するなよ、体術での直接攻撃は得意じゃないんだ

 剣を使っても差し支えないかな?』


『構わへんよ、好きな得物でいいよ~~』


 よし、正面からは自分には難易度が高いと思われるので

まずは側面胴体辺りから攻撃をするか。


『始まりよったな、側面攻撃に一撃離脱か・・・・自分の技量を

 見極めた良い判断である、脚を狙わないのも合格点や突進を

 得意とする魔獣の弱点でもある脚は何らかの防衛策を持っている

 ヤツの場合は光属性魔法による反射であり魔法攻撃も物理攻撃も

 放った本人に返してしまう厄介な代物なんや、限られた時間で

 どこまでダメージを与えるか、期待しとるで』


 リケッツは余裕で自分の代わりに誘導しているな、悔しいが早さも

間合いの取り方も絶妙だ。この様子なら倒すのも余裕なのだと

想像出来るよ。今は自分の事に集中しよう・・・・


『目的の場所はもう少しだ……しかし硬いな・・・・剣が折れないかな』


 剣の心配をしながら攻撃を続けていた時、デモニオライノの胴体表面に

変化が生じた。それは穴のような模様が浮いてきたのだ。


『ん?、何だあれは……』


『あちゃーこれはヤバイで、雄靖はん、離れるんや~~

 防御系の魔法が使えるなら準備せんと死んでまうよ~~』


 何だってエェェ・・・・ってリケッツが言うことだ、間違いなく

ヤバイのだろうな、しかし困ったな防御系は得意ではないんだよ

使えるのはアイスウォールだけだしな、強度的に不安があるので

多重に張った方がいいな。


 そんな事を考えた直後デモニオライノの動きが止まり、同時に

穴のような模様が赤く光り始めた。


 リケッツの方を見れば、かなり高い上空に退避していた。

こっちも急いだ方がいいな。


『アイスウォール、アイスウォール、アイスウォール』


 飛ぶことができない自分は地上で防御魔法を三重に張った

張り終えたと同時にデモニオライノの攻撃が始まった、穴の

ような模様から火炎放射器の様に炎が吹き出した。


 向かって来る炎が三重に張られた魔法障壁を二枚破壊し三枚目

が辛うじて防いだ。


『凄まじい威力だな、随分とダメージを与えたと思ったが

 それでもこの威力の攻撃が出来るとは恐ろしい底力だな』


『よ、雄靖はん無事耐えきれたみたいやな、この攻撃の直後は

 多少は休めるで、ヤツを見てみなはれ丸まっているやろ。

 この攻撃はヤツにとっても体力的にキツいのや、攻撃を

 耐えきれれば、こちらも休めるから仕切り直しには良いやろ

 どうやらヤツは変異体のようやな、変異体の能力は他に2つ

 あるよって今のうちに教えとくよ』


 リケッツの話では変異体は先の攻撃以外に闇属性のホロウで

数分間ではあるが意識が方針状態になるらしい。

もう1つは光属性のアンガーで雷を使った広範囲攻撃である。

聞いた瞬間に絶望した、現状の実力では回避は難しいと思う


 攻撃のタイミングはリケッツが教えてくれそうだ、それなら

回避する事に集中すれば何とかなりそうな気がする。

回避の方法は出たとこ勝負かな……


『リケッツ・・・・お願いがある、変異体特有の攻撃が発動

 する時は教えてくれないか?』


『分かったで~~任せなさいな!』


 雄靖はんの状況判断、魔法の発動時間、攻撃に対する反応速度

はパーティーメンバーとしては許容範囲やな、直接攻撃には少し

課題が有りそうやな。未知の攻撃にどう対処するんか見せてもら

うで。


 動きが止まったデモニオライノに変化が表れた、体の模様が消え

動き始め、リケッツを追い始めた。


 攻撃のタイミングを知らされるなら、攻撃に集中できる

変異体特有の攻撃に完璧に対応するのは現時点では難しいと思う。

現状での対処は攻撃範囲からの離脱であろう。

この闘いを生き延びたらもう一度魔法の修業でもするかな……


 などと思考しつつ一撃離脱の攻撃を続け多少馴れてきたので

剣に魔法で炎の刃を施して攻撃を試みる。

この攻撃によるダメージは思いの外高かった、熱が加わることで

硬い外皮表面を脆くする効果があるからだ。


『リケッツ!ヤツのダメージがどの程度か推測できるか?

 分かるなら教えてくれ、可能なら具体的なイメージで』


『そやな、ヤツが特別な攻撃をするって事は、いろいろな意味で

 追い込んでる証拠やな、追ってくる早さも落ちてきているしな。

 何か仕掛けるならそろそろやな』


 まだ見ていない攻撃は気になるが、仕掛けてみるか・・・・。


『リケッツ、ありがとう、弱っているなら仕掛けてみる。

 デモニオライノの誘導を代わってくれ、目的の場所に追い込むから』


 ここからが正念場だな、自分も連続攻撃による疲労が無視できない

仕掛けるなら早い方が良いだろう。

リケッツと誘導を代わりデモニオライノの前方に移動した時に

異変が起きた。

後方からプレッシャーと共に黒い空間が逃げるより速く迫って

来た。


『これってヤバイんじゃないの? リケッツ!これは大丈夫なのか?』


 その掛け声と同時に一瞬で僕の側にリケッツは表れた。


『逃げるで、雄靖はん。これが闇属性魔法のホロウや、この次に

 光属性魔法のアンガーが来るで!』


 リケッツに引っ張られ黒い空間から辛うじて離脱できた。


『この次の攻撃がエゲツナイのや、雷を使こうた広範囲攻撃やから

 回避は難しいで。雄靖!、大丈夫か? 不安なら手、貸すよって』


 リケッツの申し出は嬉しいが今後の関係を考えると頼り過ぎる

のは良くないのではないか?彼に悪意は感じないが、必要最低限の

支援に止めたい。


 どうすれば雷の範囲攻撃を防ぐかだが、水系の魔法で防げないかな?

魔法による水の生成は純水だから電気は通さないはずだ、衝撃に耐える

だけの強度を持たせ、自身を覆い隠せば遣り過ごせるのではないか……

イメージは氷製のかまくらだな。これでいくか!


『リケッツ、考えがある・・大丈夫だ、危ない時はお願いする』


『しっかりな~雄靖はん、油断したらあかんよ』


デモニオライノが動きを止めたと同時に光属性魔法アンガーが発動した。


『来たな、〃アイスウォール〃』


 僕も自身を被うイメージで氷属性魔法で対抗する。


 空気が裂ける様な音と共に空から雷が降って来た

一瞬で木々や草花は炭化し水は蒸発した、氷越しに見た外の

状況は想像を絶する光景である。


『うわ……これは凄まじい威力だな、知らなかったら灰に

 なってたな、リケッツに感謝しなければ、この後の対処

 をどうするか・・・・』


『リケッツ!教えてくれ、攻撃の後ヤツの動きが前の時と同じく

 止まっているけど、どのくらいで復活してくる?』


『そやな、前よりは長いと思うが……倍ぐらいやろな』


 前の倍か・・・・5分くらいだろうな、この後も特有な攻撃が

続くのだろうか?立て続けに攻撃されてはかなり厳しい。


『リケッツ、続けての攻撃の可能性はあるのかい?』


『短時間の連続攻撃ってのは聞いた事ないな、大丈夫ちゃう』


 であれば、このまま予定の場所まで誘導し決着をつけるか。

しばらくしてデモニオライノは動き始めた。

目的の場所まではもう少しだ、ダメージも良い感じで与えていると

思う、一気に決めるか。


『目的の場所は近い、リケッツ、誘導を代わるよ』


『ほんなら、代わるで』


 どないするのか興味あるな、新メンバーやさかい攻撃の

パターンや柔軟性、策略の良し悪しなんかも知りたいよって。


『もう数百メートルでたどり着くな、決めてやる・・覚悟しろよ』


 何とかここまでたどり着いたな、この先は樹木などが鬱蒼と茂り

視界が悪いうえに先が断崖絶壁になっている。

今回の作戦は単純で弱らせて墜落死させることだ、問題はヤツに

悟られないようにする事であり思考を鈍らせる為にダメージを

与え続けた。

締めくくりは体力が尽きたと思わせ鼻先に倒れる、デモニオラノ

が勝利を確信し体当たりしてくる直前に横に移動し断崖から

落とし絶命させるが作戦内容だ、単純でシンプルな作戦ほど案外

上手くいくものだ、などと考えていると目的の場所に到達した。


『よし、低木で視界遮っている前で待ち構えるか』


 木の前で疲労感を漂わせ力なく膝を着いて佇む。

デモニオライノはリケッツを警戒するように睨み付けたが

僕に視線を移し突進してきた。


『来る、避けるタイミングを間違えるなよ俺!ギリギリで

 避けるんだ……3・・2・・1・・』


 僕はデモニオライノの鼻先を掠めるように体をひねり突進を

かわした、勢いが止まらないまま草木を薙ぎ倒しながら断崖

から落ちて行く。


『よし!これでどうだ』


 落ちて行くデモニオライノを目で追っていると信じられない

光景が確認できた。

背中の側面二ヶ所に切れ込みが入り、そこから蝙蝠の様な羽が

飛び出してきて滑空し始めた。


『何あれ?デモニオライノって飛べるの・・・・リケッツ!

 教えてくれ、これも基本能力なのかい?』


『雄靖はん、こんなのは見たことないで!でも、ヤバイな

 これは……特別サービスや、ここから先は任しとき』


 その言葉を残しリケッツは飛行しデモニオライノに向かって

行った。


『仕方ないか、飛行できない自分に追手だては無いし・・

 ここはリケッツに託そう』

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