たのむよ異世界

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第1章 1話 すべての始まりと決意

◆序章◆


『いらっしゃいませ~空いてる席へお座りください

 ご注文がお決まりましたら声をかけてくださいね』


 ここは喫茶店、ただしウエイトレスの頭にはネコ耳が付いている

所謂コスプレ喫茶である。

 店内は洒落た調度品が揃えられ落ち着いた雰囲気がある

オーナーの拘りの一つはコスチュームの仕立てが高品質であり

高級ドレスと遜色ない作りとなっていて通常のコスプレ衣装

とは一線を画していた。


 洗練された接客は、萌え系やメイドカフェとは違い

そして客層も常連が多い会員制となっている。


 そしてこの店のウエイトレスはコスプレではなく本物の獣人

だったりするのだ! その事実は入店客も知らない。


『すいません注文、お願いします』


猫耳ウエイトレスが客のテーブルに来た


『承ります』


『ケーキセット1つ、ブレンドでケーキはモンブランで』


『ご注文繰り返します ケーキセット1つブレンド、モンブラン

 ですね』


『はい』


『承りました、少々、お待ち下さい』


『いつ見ても、その猫耳は本物みたいで可愛いね~』


 客は知らないが獣人なので猫耳は当然本物であった。


『ありがとうございます、どうぞ ごゆっくり』


◆三年前、始まり◆


僕は何をしているのだろう?

不安?生き甲斐?希望?

自分自身の存在が、意識と肉体が分離している感覚。

生きているのか?

でも不思議と安らぎを感じている。


このまま、このまま、ここで穏やかに流れていたい・・・・

世界が終わるまで。


《数時間前》


 男は暗いアパートの一室に横たわっている

男の名は島仲雄靖、25歳、バツイチ独身で現在無職

大学卒業後に就職したが些細なミスがトラウマとなり退職

退職後はアルバイト生活をしていたが、それも辞め

貯蓄も無くなりアパートの電気、水道も滞納で止められ

力なく部屋に横たわっていた。


『俺はこのまま消えてしまうのか・・・・』


 その時、腰の辺りで何かが光るのを感じた

よく見るとズボンのポケットの中が光っているようだ

中に手を入れると小さな紙があった


『これは、さっき拾ったやつだ』


それはアパートへの帰り道で道端に落ちていた

模様が魔方陣の様で何か気になり拾って持ち帰ったのだ。

その紋様が光っていたのだ


『なにこれ・・?! うわ~~』


その瞬間、光が紙から手首へ移り腕輪の形に変化した

光が収まると、そこには銀色の腕輪があった


『何これ! ヤバくない?』


『ん? 今さらか』


男は思った、自分はこのまま消え失せてしまうかも

しれないのだ、どんな事があっても驚かないさ。

その時、落ちるような感覚と共に気を失った。


 どのくらいの時間が過ぎたのだろうか

雄靖は軽い疲労感を感じ目覚めた、そこは暖かな

日差しが差し込む森の中、大きな木の根元に横たわっていた


『ここは何処だ? アパートじゃないよな?』


その時、横で何か気配を感じ視線を向けた

そこには心配そうに見つめる美しい女性の姿があった。

彼女を見て雄靖は違和感を感じた、それは衣服が遊作が

知っている現代の物ではなく歴史の教科書に出てくる

中世ヨーロッパでの服装に似ている。


 彼女は心配そうな顔で話しかけてきた


『大丈夫ですか?この辺では見ない服装ですが』


『旅の方でしょうか?』


どうやら自分はここで気を失って倒れていたようだ。

いろいろと疑問はあるが、まずは現状把握だよな。

とにかく彼女と話す事から始めよう。


『ご心配かけました、何とか大丈夫なようです』


『ここは何処なのでしょう?よろしければ教えてほしい

のですが』


彼女は優しく微笑みながら話を始めた


『ここは王国から遠く離れた町でスピティキナウルですよ』


『私の名はシャナといいます、森で薬草を探していて

あなたを見つけましたのよ』


『ここは人里から離れた森の中ですよ、道に迷ったので

しょか?』

 

 格好は地味な服装だが、金髪で引き締まった体型の

美しい女性だ。

かなり僕の好みのタイプだ。

さて、何と答えようか・・・・ここはどう考えても僕の

住んでいた世界ではないと思う。

理由は幾つかある、まずアパートからいきなり森って

あり得ない。

そして決定的なのは、彼女である


 金髪美女であり耳がファンタジー世界のエルフなのだ!

コスプレとは考えにくいほど質感が本物の耳なのだ。

この事実を踏まえると、理由はともかくここは異世界だよな。

でも言葉が通じるのは何故なのだろう?

この疑問は後回しだな通じるなら

まずは会話を続けながら考えを整理しないと。


『ありがとうございます、お話を聞いた感じだと

ここは私の知らない場所のようです』


『それに何故ここで倒れていたかも自分でも

わかりません、困りました・・・・』


 シャナにはある程度曖昧に答えた方が良さそうだ

まさかいきなり異世界人ですって言ったら、警戒され

そうだし。

僕が少し考え込んでる様子をしていると彼女は


『ここから少し歩きますが、私の家がありますので

休んでいかれませんか? 何か思い出せるかもしれ

ませんよ』


彼女のこの好意に僕は甘えることにした

このままここに居ても先が見えないだろうし

少し落ち着いた場所で考えを整理しないと。


『とても嬉しいです、でもよろしいのですか?

見ず知らずの者を家に招いても?』


彼女の申し出に僕は感謝したが、簡単に家に招くなど

全く警戒されてないのか、ほかに理由があるのか?


でも、この後に僕は理由を知ることになる。


◆新たな生活◆


 二人でしばらく歩いて行くと、小さなログハウス様な

家が見えてきた。

森の中の一軒家、庭と小さな小屋があり日差しが気持ち

良さそうな感じがする住まいだ。


『ここが私の家ですよ』


玄関の前で彼女は嬉しそうに微笑んでいた


『どうぞお入りください』


『有り難うございます、おじゃまします』


僕はお礼を延べ家に入った

家の中にはテーブルに座っている彼女の母親らしき

女性がいた。

彼女は僕を見て少し驚いた表情を見せたが、すぐに

落ち着いた表情に戻った。


『シャナ、その方はどちら様?』


『お母様、この方は森で倒れていたのよ』


『記憶も無くされていて、辛そうなので

お連れしましたの』


少し考える素振りした母だつたが


『そうでしたか、私はシャナの母でアンナ。』


『落ち着くまで休んでいかれたら良いでしょう』


僕はその言葉を聞き少しだが安堵した。


『初めまして私は雄靖です、御厚意に感謝します』


『途方に暮れていたところシャナさんに救われました』


『お言葉に甘えさせていただきます。』


 挨拶の後に三人でしばらく話をし、母子二人で暮らして

いることや訳あって街から離れて住んでいることなどの

情報を得た。


 しかし、これからどうしたものか・・・・

ここは異世界、知り合いもいるわけもなく住む場所もない

このままでは生存の危機だな

ここに来る前は消滅願望みたいな事は考えていたのだが

アパートで静かな死を迎えるのとは違い、かなり惨たらしい

最後になる予感がしてならない。


ここを離れたら森の中をさ迷うしかないようだし

森に生息する生物は、危険な感じがする異世界だしね

この状況どうしたものか・・・・

まだ慌てる時間じゃない、考えを整理しよう

 

 今すべき事は安全な居場所の確保、帰る方法があるのか?

この世界での状況次第では帰らなくていいのかも。

帰れないとした場合、ここで生きていくための手段。

最低限これらの事は解決しなくては・・・・


 何もせずこのまま人生を終わらせる考えもあるが

ここまで劇的な変化を迎えたことで、今後の事を考えると

何故か心が昂っている。

それは僕はラノベを読むのが好きだったのが理由で

このようなシチュエーションは嫌いではない。

むしろ今後の展開を想像するとワクワクしてくる。

でもこれらの問題は自分だけでは解決できないだろう

今のところシャナの家族に協力を求めるのが正しい選択

となりそうだ。


 自分の事を正直に話すのは流石にまずいだろうな

異世界転移なんて不信感を持たれるに決まっている。

じゃ何て説明しようか・・・・

この世界の知識は無い状態を誤魔化すには記憶喪失を

装うのが適切だな、先程シャナも母親に説明していたし

名前だけ覚えている点は少し不自然な気がするが。


 確か家の脇に納屋の様な小屋があったはず

少しの間、そこを借りれないか交渉してみよう

森で野宿はかなり危険だと感じる。


 テーブルではシャナとアンナが楽しげに会話をしている

二人の会話が途切れたタイミングで納屋の件の話を切り出

してみた。


『お二人にお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?』


椅子に座っている二人の視線が僕に向けられ

アンナが僕に話しかけてきた。


『どの様なお願いですか?遠慮なさらずに話してくださいな』


優しげな笑みを浮かべ答えてくれた

雰囲気は悪くない、こちらの要望は聞き届けられるかも・・・

思いきって話してみよう。


『今の僕は記憶もない状況なので、このままでは生きていく

のも難しいです』


『ご迷惑でなければ隣の納屋に寝泊まりすることをお願い

したいのですが・・・・』


『生きていく見通しが立つまででいいのです』


 この願いが通らなければ、そう長くない先に異世界に

骨を埋めることになるだろう。

餓死するか、味知の生物に襲われるとかでね。

初対面の立場でこの願いはハードルが高いが

今の状況では彼女達以外に出会える保証はないし

家に招かれる可能性はかなり低いだろう。


この不幸な状況に同情してもらい、どうにか手を

差し伸べてもらえる事に賭けるしかないし運任せだが

仕方ないだろうな。

それに寝場所を確保したら生活の手段も考えなくては

ならない。

流石にこの状況で養われるわけにはいかないだろうし。

そんな事を考えているとアンナはシャナの方を見ながら


『シャナ、あなたはどうなの?私は貴女が良ければ

助けてあげたいけど……』


シャナは少し考え込んだ後に答えた


『お母様、私も雄靖のこれからに力を貸してあげたいわ』


 助かった~とりあえず二人には好意的に受けいられた

感じだ。


『有り難うございます、見ず知らずの僕に心遣いに感謝します』


『差し支えなければ、少し休みながら考えを整理したいのですが?』


何とか寝床を確保できたのは有難い

後は生きていく手段を考えなくては・・・・

『納屋は少し散らかっていますので、今シャナに掃除させますね』

何か申し訳ないので僕も手伝うことにした。


 納屋は使用してないようだったが比較的に綺麗な状態だった

置いてある物も少なく寝床の設置は問題ないようだ。


 掃き掃除の後に幾つか木箱を繋げて寝床を作った

拭き掃除をしながらシャナに今後の事、とくに生活方法など

食べていくために何をすべきかなどだ。


 今まで見てきた状況で考えると時代背景は僕の住んでいた

世界での中世ヨーロッパに似ている、それはシャナの服装から

も感じていたことだ、そう考えると僕が生きるためにできる

仕事は限られそうだな。

頼れる知り合いもない訳で、その場合肉体労働的な仕事に

限定されそうだ。その辺をシャナに相談してみるか。


『シャナさん、僕は生きていく為に働かなくてはなりません

僕にもできそうな仕事の心当たりは有りませんか?』


彼女は少し難しそうな顔で考えていた


『雄靖さんは得意なこととかありますか?

 この辺では薬草採取や狩の仕事くらいですね』


 何となくだが予想はしていたが、この状況では

受け入れるしかないかな。


『なるほど、ところで採取した薬草や狩で得た獲物は

どこで買い取っているのでしょうか?』


これも帰って来る答えは予想できるな。

ファンタジー世界のお約束ならギルドとかの予感!


『いろいろですね、少量なら町で露店を開き商売したり

直接お店に売ったりしますね』


『あとは売る量が多い時は商業ギルドに持ち込むことも

ありますね、価値がわからない時はギルドがよろしいかと』


 なるほど予想は大体合ってるな、採取や獲物の種類が認識で

きて手に入れることができれば生きていけそうだ。


『そうですか、シャナさんも採取や狩をするのでしょうか?』


 もう少し情報が欲しいな、彼女達にも可能ならば

自分にもできそうだ、教えてもらえるなら直ぐにでも

試してみたい。


『私達は作物を育ててますので、収穫した作物や罠で捕った

動物などは売りに行くことはありますよ。薬草は希少なので

高く買い取ってくれます』


 これは案外イケるかも、異世界→チート能力→バトル→

冒険者。こんな展開を予想したが、今のところチートな感じ

は無いように思える。

少し残念だが命を賭ける生活は望んでいない

どちらかと言えば穏やかで安定した生活。


元の世界では少し惨めな生活だったし、変われるものなら

変わってみたい。


『シャナさん、迷惑じゃなければ薬草や狩について教えて

いただきたいのですが』


この申し出を彼女は快く受けてくれた


『わかりました、ここの片付けが終わったら森に行ってみましょう』


『有り難うございますシャナさん』


◆生活の糧を得る◆


 片付けを終え彼女と森に来ている

30分ほど森の中を歩いていると彼女は立ち止まり目の前にある植物を

指差した、それはうろ覚えだがヨモギに似ているように思えた


『雄靖さん、この薬草は磨り潰した汁を傷薬として使えるんですよ』


『あまり高価な薬草ではないのだけれど、需要が多いので売りやす

い薬草ですよ』


 なるほど・・・・採取が容易で売りやすい、薄利多売って

て事だな。

手始めには良いかも慣れてきたら段々増やせばいいしな。

あとは狩だな、教えられた薬草のように狩やすく売りやすい

ならば儲けは少なくても良いのではと考えている。


 そんな事を考えていると彼女は走りだした

その先には人の頭ほどの大きさの茶色い石があった

その前に立ち止まり持っていた槍を石の下に差し込むと

テコの原理でひっくり返し、素早く槍を突き刺した。


キィィ……と断末魔の叫びをあげ生物?石?

彼女は此方を振り向き


『雄靖さん、これはロックラビットですよ』


『狩りやすいのですが肉が少ない為に買い取りが

安いのが残念なのですが』


 この短時間で採取と狩ができたところを考えると

経験が少ない自分に合っているのだろう。

その後、彼女はいくつかの薬草や動物を教えてくれた。


 慣れるまではヨモギに似た薬草(ズキと言うらしい)採取と

ロックラビットを狩ながら生活の基盤にするしかないだろう。

帰り道に森での注意点を聞きながら納屋に戻り明日に備える

ことにした。


 翌朝、狩や採取に必要な解体採取用のナイフや捕った獲物の

を入れる麻袋のような物を譲り受け森に出かけた。

優先は食料を兼ねる狩りだ、少なければ食料にするし

多めに狩れれば売ればいい。

 狩りをしながら薬草採取!

しばらくはこのパターンで行こうと思う。

森で棒状の間伐材を見つけ先端をナイフで削り簡単な槍を

作った、これでロックラビットを狩ってみよう。


 しばらく歩いていると木の根本に居るのを見つけた

そっと近づくが逃げる様子がない

シャナの話では、その体重のため動きが緩慢で狩りやすい。

獲物のとしては売値が安く人気が無いらしい。


 そっと近づきシャナがしていた様に作った槍もどきを使い

ひっくり返して仕留めた。


『ん~狩りやすいな、これなら俺にもできそうだ!』


 ロックラビットはその重さから、血抜き解体して持ち帰るそうだ

解体手順は前にシャナから教えられたので問題なく解体を行えた。

早く慣れて数をこなさないと金にならない、解体していると

小豆くらいの大きさの水晶の様な物が出てきた


 シャナから解体を教わっていた時は無かったと思う

帰ったら何なのか聞いてみよう。


 その後、数匹のロックラビットと少しの薬草を取り

納屋に戻った。


 ロックラビットの肉は鳥のササミより一回り小さい

一匹から2つ取れる。

まとめて売るために干し肉にして保存する、食用ではあるが

酒のつまみとして食されるようだ。

薬草も乾燥し、ある程度の量になってから売ることにする。


 夕食はしばらくシャナの好意により一緒に食べることに

なった、現金なり狩猟で自活できるまでの間お世話になる。


 この状況、自分は幸運ではないだろうか?

シャナの家族は見ず知らずの自分に優しく接してくれるばかりか

仮住まいの納屋まで世話してくれた、その好意には大いに感謝

している。

元の世界よりこの異世界の方が他人の親切を感じられる

このままこの世界で生きていく方が幸せではないだろうか?

今は生きることを優先に考えることにする。


 夕食は硬めの黒パンと肉の入った野菜スープだ、薄味で

体に良いかも、それに優しさを感じる味かな(思い込みかも)


 そうだ獲物の体内から出てきた鉱物の事を聞いてみよう


『シャナさん、今日狩ったロックラビットの体内からこれが

出てきたのですが何なのでしょうか?』


『あ、それは 願いの石 ですね、ロックラビットの体内から

希に見つかる石ですよ』


『あまり価値が無いので子供の玩具になってますね』


 なんと!水晶に感じが似ているので多少は価値がありそうに

思えたのだが、少し残念だな。


『そうなんですか、見た感じ綺麗なので価値があるのでは?

と思いました』


ま、綺麗だし取っておくかなと思いポケットに入れた。


この日は夕食をご馳走になり寝床(納屋)に戻った

疲れているのか、横になると睡魔が襲ってきて深い眠り

についた。


◆今後の方針◆


《夢の中》


『おお~い・・・・起きてるか~』


『この世界はどうかな?楽しい?』


ん?何だ何だ・・・・声が聞こえるが俺、寝たよな?

これは夢? 話し声は続いた


『夢でもあり現実でもあるかな、多くは語れないが

この世界に導いた者として伝える事がある』


 やっぱりか!何者かによりこの事態になったと

予想はしていたが・・・・

そして伝えたい事ってなんだとうか?

聞きたい事は沢山ある。


『雄靖よ、聞きたい事は有るだろうが今は腕輪について

だけ話そう』


それから声の主は話を始めた、話の内容はこうだ

腕輪には三個の丸い窪みがあり、そこにロックラビットから

取れた水晶の様な石を嵌め込めばひとつにつき一回願いが

叶うらしい。

なんと元の世界にも帰れるとか。


すべての石が嵌まるのではなく、合わないのがほとんどだ

今回の狩りでは一個だけ適合した。

願い事は三個揃うまではテストはお預けだな

それに願いについてはよく考えたい。


 謎の啓示から数日が過ぎ、狩猟や採取も順調に

こなしていた。

ロックラビットの干し肉は数が揃えばそれなりの

収入になった、薬草は肉に比べると収入は少なめ

なのが悲しい。


 稼ぎから納屋の家賃を払えるようになったことで

彼女達に対して心の余裕ができてきた様な気がした。

今では狩りや日々の出来事を話しながら食事を共に

している。


 この異世界での生活は心地よく人間らしく生きてる

と感じる。

ここに来る前の自分は社会にも人間関係にも絶望し

生きる気力を失っていた。


ここでの生活は自分は自然の一部だと感じながら

自然に身を委ねて生きている

危険は多いが生きるも死ぬも自己責任であり

それが心地よくも感じるのは、理不尽な出来事に

悩まされる事が無く優しく接してくれるシャナの

家族の存在だと感じている。


食事を終え納屋に戻り明日の事を考えながら眠りについた。


《シャナ家族視点》


 雄靖が食事を終え納屋に戻るとシャナと母は話を始めた


『シャナ、彼は死に別れた夫によく似ていると思うのだけれども

辛くはないの?』


 母の問いかけにシャナの表情は少し沈んだ感じになった

雄靖は人族だが他界したシャナの夫に似ていたのである。


 シャナの夫は狩りの最中に大型の魔獣に襲われ逃げ延びたが

その時の怪我が原因でこの世を去っのであった。

しばらくは悲嘆に暮れていたが母の優しさに支えられ

悲しみを乗り越えていた。


 そんな彼女の前に突然死に別れた夫に瓜二つの雄靖が

現れたのだ、母は娘の心が動揺するのではと心配したのだ。

シャナはそんな母の気持ちを察知し平常を装い母に答えた


『大丈夫よ、お母さん 夫の事はお母さんのおかげで

気持ちの整理がつきました』


『でも出会った時は驚いたのよ』

 

 母にもその驚きは理解できた、それ程、雄靖は容姿や顔が

似ていた。

でも今、シャナは心の何処かで安堵の感情も抱いてた

容姿が似ているのもあるが、ここ数日の雄靖を見ていると

夫に感じていた優しさが雄靖にもあることを感じていた。


 それは母も気づいていた、死んだ娘の夫にそっくりな

男が突然現れた

この事は母にとって警戒するべきなのだろう、だが雄靖の

優しさに触れていると娘が抱いている感情を理解できるような

気がした。


『シャナ、気持ちはわかるけど彼は夫とは別の存在、それは

わかってるでしょ?』

 

 母は落ち着きを取り戻した娘の心がまた乱れるのを心配した。

だがシャナには動揺した感じは無いように見えた。


『大丈夫よ、お母さん少し驚いただけよ、もう心の整理は

ついてますから心配しないで』


 母の問いに彼女は普段通りに答えるのであった。

それどころか彼女はどことなく微笑んでいるかの様である。


 彼女のその雰囲気から母は娘が夫の死を受け入れ

雄靖との出会いを楽しんでいるかの様に思えた。

シャナは雄靖と話す機会が多く、それなりに親しいく

なっていた。


『シャナ、彼の様子はどうなの?』


『そうね、狩りや採取もだいぶ慣れてきましたよ、

もう少し稼げたら納屋の借家代と食事代を支払いたい

ような事話していましたよ』


『雄靖は今後どうしたいのか、シャナ聞いてみてくれる?』


その事についてはシャナも母と同じく気になっていた。


『そうね、明日は彼と一緒に町に行くので聞いてみるわ』


 翌日、雄靖とシャナは町に獲物や薬草を売りに向かっていた

町までは歩いて3時間ほどである、歩きながら昨晩に母と話して

いた事を聞いてみた。


『雄靖はこれからどうするの?』


『記憶が戻れば今後の方針が決められるのですが

今のところ何も思い出さなくて・・・・』


『もうしばらく今の生活を続けるしかないかと』


『そうですか・・・・何かお手伝いできればよろしい

のですが』


 シャナの気持ちは嬉しいのだけれども本当は記憶を

無くしてはいない、怪しまれないように真実を隠して

いるだけなのだから。

でもシャナの家族の心配も理解できた、私も立場が逆なら

心配していただろう。


今後について考えていた事があるのでシャナに話した。


『考えている事があります、いつまでも納屋を借りて

いては迷惑でしょうから納屋を出ようと思います』


『え!では、住居はどうするのでしょうか?』


『町に住まいを借りるのでしょうか?』


『まだこの土地に不慣れですので、許していただけるのなら

シャナさんの敷地を少しお借りして小屋を建て、そこで生活を

と考えています』


『もう少しお金が貯まったら相談しようと考えてました』


 シャナは顎に手をあてて少し考えていた、死に別れた夫に

似ている雄靖との生活は心のどこかで楽しいと感じていた。

ただこの話を聞いた母の反応が気になっている、雄靖の

これまでの行動を思うと母も反対はしないだろう・・

でも私の事を心配して反対するのではないかと。


 私たちはエルフ族だけど雄靖は人族、母は種族の違いを

心配すると思う。

私たち家族がエルフの村を離れ暮らしているのは夫は人族

だったから。エルフ族は異種族交流を嫌う傾向にある。


 人族の夫と死に別れ、そこに雄靖が現れた・・・・

母は夫の事は人族だったけど理解をしてくれた

たぶん思うところはあったであろう。


 そこに人族の雄靖が現れた、感情的には複雑かも・・

私の心も出会った時は心が乱れたけど、今は落ち着いている。


 母の心配は当たっているかも、私は雄靖の事を案外気に

入っている、理由は夫に似ている訳ではなくて数日間彼を

見て好意が持てると感じたから。

それに彼の側に居るとどこか心が安らぐと思えた。


 こんな事を考える私は夫に対して裏切り行為?

あなたごめんなさい!


『あ、ごめんなさい! 私から聞いたのに呆けちゃって、少し考え事

していました』


『新しく建てる小屋の事は、お母さんに聞いてみますね』


 シャナさんはどうしたのだろうか?

近くに住まわせてほしいなんて話したから驚いたのだろうか・・・・

正直なところ、この事は話したらいいか迷っていた。

万が一警戒されてしまえば今の状況の全てが悪い方向に

いってしまいかねない、でも話そうと決意できたのは

彼女の家族(母と娘の二人だが)が好意的だと感じたからだ


 もう話してしまったので、運を天に任せるしかないか

この話を聞いて彼女は笑顔のままだ、きっと上手くいく

だろう……


 しばらく話していると目的の街が見えてきた

二人は街の中心近くにあるギルドの買い取りカウンターに

向かった。

今回の買い取り価格は高めだったので以前から考えていた

買い物をしようと思う。


 シャナの家族には言葉では言い表せない感謝の気持ちがある。

だから節目と言う訳ではないが何かプレゼントをしようと思う。

前に売りに来た時に髪飾りを売っている店があった、装飾品は

好みがあるので少し悩んだが、ほかに思い浮かばなかった。


 ギルドで換金を終えシャナと別れてから髪飾りを売っている

店に向かった。

ドアを入ると店員の声が届いた


『いらっしゃいませ、お探しものがあれば ご案内しますが?』


商品の陳列されている場所は知っていたので


『大丈夫です、お気遣いありがとうございます』


髪飾りが陳列されている前に行き選び始めた

シャナには明るめのデザインがいいかな?などと考えていると

カラフルな花をモチーフにした髪飾りが目に止まった。

シャナにはこれに決めよう、お母さんには落ち着いた色合い

のデザインの髪飾りに決めた。

二つの髪飾りの支払いを終え帰路に就いた。


◆決意◆


 お礼の意味を込めた髪飾りを買った日の夕食

食べ終えてくつろいでいるとシャナは母に雄靖の今後に

ついて話を始めた。


『お母さん、雄靖に今後の事を聞いたのだけどね』


『私達の近くに小さな家を建てて暮らしたいそうよ』


それを聞いた母は驚きもせず話を始めた。


『そうなの雄靖さん?』


『この辺は土地も平坦で開けている場所も多いし誰の

所有でもないのだから安心して建てられますよ。』


 母はこうなる事を予想はしていた

記憶を無くし一人で生きていくことは困難だと思う

種族は違えども同情はしてしまう。

娘も死に別れた夫に似ている彼を少し気にしていると

母は感じていた。

雄靖も娘のことを気に入ってると思うが、それが娘にとって

良いことなのか母は思惑っていた。


 母の思いを知らない雄靖はシャナの母の言葉に安堵したのか

気分が軽く感じられた。


『そうなんですか!まだここの生活に不安があるので近くに

住めるのは助かります』


『以前、町で知り合った職人に建築を頼む予定です』


何回か町に通っているうちに親しくなった職人だ

名前はズムコ、腕が良く気さくな男である

建てる資金が少ないと話したら、かなり値引きしてくれる

約束になった。


『あと2、3回売りに行けば資金は貯まるので、その時は

お話します』


 家が用意できれば試してみたい事がある

一つは未だに謎の多い腕輪についてだ、正体不明の人物によると

ロックラビットから取れる水晶の様な物を嵌めることで願いが

叶えられると言っていたがまだ試してはいない。

 元の世界に未練は無いが万が一に備える意味でも戻れるか

確認しておきたい。


そろそろ用意していた感謝の気持ちを込めたプレゼントを渡そうと

思う。


『シャナさん、アンナ(お母さん)さん、丁度良い機会なので

今までお世話になったお礼にプレゼントを用意したので受け取って

ほしいのですが?』


 それを聞いた二人は少し驚いた表情を見せていた。


『雄靖さん、そんなに気を使っていただかなくてもよろしいのよ

私も娘も雄靖の力になりたかっただけなのだから。』


『お二人には感謝しています、もし一人だったら今の自分は

無かったのではと思うくらいです。だから感謝の気持ちとして

受け取って下さい』


 その言葉を聞き彼女達は快く受け取ってくれた。

僕の人生で女性に贈り物をするのは初めてかもしれない

この世界に来る前は少しだがボッチな生活だった、人付き合いは

上手ではないと感じてる。

こんな自分が変われたのは彼女達のお陰だと感じている。


 食事を終え、贈り物を渡してから借りている納屋に戻り考えを

整理していた。


『贈り物は渡せたし、後は近くに小屋を建て腕輪の実験だな、万が一

を考えて、この納屋ではできないよな』


 彼は、何が起こるかわからない状況を警戒し納屋での実験を見合わせて

いた。

今後の事を考え眠りについた。


◆過去◆


 遊作が納屋に戻ると親子は懐かしむ様に話していた


『ねえシャナ、彼を好きなの? あなたは大人だし私が

口を出すのもどうかと思うのだけど心配なのよ』


 シャナは、いつか母に聞かれるだろうと思っていた。

今はまだ雄靖は好感が持てる男性、容姿が夫に似ているのが

気にはなっている。

複雑な気持ち・・・・母の心配も感じていた。


『お母さん安心して、嫌いではないけど助けてあげたい気持ちが

あるだけよ。でも良い人だと思っているわ』

 お母さんに心配をさせてしまった、でも自分の気持ちに自信が

持てない。雄靖とのふれあいは心のどこかが満たされていると

感じている。今でも未練が有るのかな・・・・


『あなたが雄靖との事に特別な思いが無いのなら良いのだけれど』


その母の言葉には不安を払拭できない心うちが込められていた。


 シャナの夫タカディールは狩りで魔物に遭遇し亡くなった、二人で暮らし始めて

二年での出来事だった。

狩りの場所は滅多に魔物が出没する所ではなく運が悪かったとしか

言いようがなかった。

人族であったタカディールは魔物に対しては無力であった。

何故か容姿は雄靖に似ている、その辺がシャナの気がかりでもあった。


◆腕輪の力◆


 シャナの家族に話をしてから程なくして念願の小屋が完成した

8畳程のリビング兼寝室、キッチン、小さいが浴室とトイレがある

感覚的にはアパートの様な感じだ。

いつもの狩りを終え部屋でくつろぎながら腕輪の事を考えていた。


『はめ込む石は揃った、今夜試してみるか』


夕食を終え石を準備する

はめる所は3箇所ある、何となくの想像だが願いの大きさで石の

必要量が決まるのではないか?

今回はテストなので極端な願いにしてみよう。

腕輪に一つ石を嵌めた


『願いは、この部屋を埋め尽くす大金が欲しい!』

すると頭の中に声が聞こえてきた


(この石の数では叶えられない願いです)


『だろうな予想はできたが、声が聞こえてくるとは不思議だ』


『仕組みはわからないが機械的な物は感じられないし魔法?』


 やはり予想してた通りだ、おそらくだが以前謎の声の主によれば

元の世界に戻れるらしい

腕輪に3個嵌めると戻れる様な気がする。


今回はテストでもあり欲しい物があったので試してみる


1つ嵌め『これに見合う剣が欲しい』


そうすると目映い光と共に一本の剣が現れた

それはバスターソードであった、グレートソードよりは

私には使いやすいのではないかな?

ま、それは後で考えるとしてテストは成功だろう。


 石の手持ちは10個、仮に片道移動に3個必要とするなら

往復するのは可能だ、元の世界よりはこの異世界に愛着と言うより

シャナの家族に親しみを感じている自分が心地良いからだと思っている。


 それでも帰れる方法を確認する理由は何時でも帰れる状況を安心材料

にとの考えからだ。

不安だが確認しておく事は今後の生活スタイルに影響するだろう。


『さあ試してみるか』


石を腕輪に3個嵌め予備の石を袋に入れ腰に着けた

少し不安だが強い興味もある

雄靖は覚悟を決め石に願いを告げた。


『元の世界に戻りたい!』


 腕輪が眩しく輝きだした、足元に魔方陣の様なリングが出現

したと同時に目の前が光に包まれた。


 光が収まるとそこは少し懐かしいアパートの部屋だった

異世界に渡って随分と時間が経ったはずだが、この部屋の様子は

ほとんど変わっていない。何なんだろう?


 とっくに家賃は滞納になってるはずなのだが部屋が整理されてる

様子もない、まるで異世界に来る直前の状態に思える

部屋の照明をつけようとしたが電気は止められていた

電気、水道などは異世界に渡る前に止められていたし。


 今の状況を整理するためにもう少し情報が欲しいので外に出る

事にした。確かこの近くにコンビニがあったはずだ行ってみるか。


 しばらく歩きコンビニに入った

店内に設置された日付付き時計を見て驚きの情報を得た

今日は異世界に飛ばされた日ではないか!


『これは・・・・腕には腕輪がある、異世界は夢や妄想ではない

のは確かだ、どうやら戻る場合は異動した時点に戻るようだ。


 異世界に戻る場合も同じと考えるのが正しいだろう

ならば焦って戻らなくても良さそうだ。

異世界に転移し生活する中で面白そうなアイデアを思い付いて

いた、お互いの世界に無いものを売買するとか

腕輪を使い未来予測しお金儲けできないか?など・・・・


 腕輪に使えない小さい石はアクセサリーとしてフリマアプリで

売れそうな気がする。

もう一つは一週間か一ヶ月先の新聞をてに入れ投機に利用することだ。

趣味でネットトレーディングをしていた事があり株取引には多少では

あったが知識はある。

当時は先の株価が分かればなどと思ったものだ、願いが叶う事実を

知った時に初めに思い付いたのは言うまでもない。


 よし、試してみるか!

先ずは1個で始めてみよう。


『一ヶ月先の○○新聞が欲しい!』


すると腕輪から声が聞こえてきた

(石の数が不足です)


『ん~対価の基準が今一つ理解できないな』


石を二つ嵌めて先程と同じ願いをしてみる


 今度は目映い光と共に新聞紙が現れた!

日付を確認すると30日後の日付だった。


『うわ!これは、凄いな ヤバくない?』


思わず発した言葉とは裏腹に気持ちは舞い上がっていた


『これは、これは初期投資の資金があれば、確実に利益を

上げる事ができるぞ!夢なら醒めないでくれ』


 この事実に興奮状態ではあったが資金の調達を考えると

少し冷静になれた。

今の自分には狩りで得た石だけだ、それ以外は異世界での生活に

必要な資金源となっている。

どうせ毛皮や肉は 元の世界ではお金にする方法を知らない。


 何とか石を現金化できないだろうか・・・・


単純に石を売る、少し加工して売るかな?

天然石アクセサリー作りを趣味としていた時期があったので

簡単な物は作れると思う。

売り方はフリマアプリを利用すればいけそうかな・・・・


 先ずは試作品の作成だが時間がかかる事を考慮すると

異動元の世界の時間経過が停止状態だとすると、異世界に異動し

作品を製作、販売の準備をするのが良いだろう。


 当面の活動資金として直ぐに現金化できる物を考える必要が

ありそうだ、フリマで稼げるまで家賃の支払をしなければならない。

異世界に戻ってから考えるとしよう。


 こちらの生活は仕事を含め絶望に思えていたが、異世界の生活を

経験してからはそれほど苦には感じなくなっていた。

その理由は異世界では普通に暮らしていても命の危険がある

それは魔物が存在しているからだ、狩りや町からの異動で遭遇すれば

命の危険が増す事になるだろう。

森奥深くや人里から離れた所などで運が悪ければ魔物に襲われる心配は

無い。


 異世界で生活する事で肉体的、精神的に成長したのだろうか?

今は二つの世界を行き来できる様になり、手に入れた石を使い

アクセサリーとして販売する、未来の新聞を入手し投資に利用

する事を考えている。


 先ずは一旦、異世界に戻る事にした

今後の計画と手段を纏めるためだ、こちらに居ては時間が経過

してしまい家賃などの支払い期限が迫ってくるので、じっくり

と考えるには適していない。


『さあて戻るか』


雄靖は異世界に戻った


◆希望への準備◆


 雄靖は異世界に戻り日中は狩りに夜は今後の計画について

思案する日々を送っていた。


 ロックラビットから取れる石も少ないながら集まっている、全部38個

あり、アクセサリー用に20個、転移用に18個を準備した。


 アクセサリーはペンダントトップとキーホルダーを作る予定。

石を加工するのは困難なのでシルバーワイヤーで包み込むデザインに

しようと思う。


 雄靖は多趣味で以前天然石アクセサリーを作っていた経験があった

それはアクセサリーが目的ではなく不運続きの自分を変えたいという

気持ちからだった。


 元の世界から戻る時に以前使用してた手芸道具を持ってきたので

製作作業は順調に進んだ。


『何とか売れそうな物が出来たな、後は元の世界で現金化が容易な物を

探さないとな』


そして一月が過ぎた・・・・


 アクセサリーと異世界の町で購入した少し怪しい感じの置物数点を

準備し再び元の世界に転位した。


 アパートに転移し置物だけ持ち近くの何でも買い取る○○書店に

置物を持ち込んだ。


 買い取りカウンターに置物を並べ店員に査定を依頼し、終わるまで

店内で時間を潰していた。

しばらくして査定が終わったらしく呼び出しの店内アナウンスで

呼び出された。


『査定でお待ちの53番、島仲雄靖様、査定が終わりました

ので買い取りカウンターまで御越しください』


 カウンターでは買い取り価格と身分証の提示を要求された

運良く何と置物は銀製らしく全部で3kgくらいあり総額で20万円

になった。

お金を受け取り店を出た。


『ありがとうございました~またのご来店を御待ちしてます』


店の前で思わず『良し』と声を出してしまった!

 

 異世界での仕入値は、こちらの感覚的には5千円程度だったので

金属の価値には違いがあるのだろう。

お金を銀行口座に入金し、アパートの家賃とスマホの支払いに回した。


 アクセサリーはフリマアプリの○○カリに出品しておいた。

売れると良いのだが・・・・

(しかしこれが後にちょっとした騒ぎになるのだが・・・・)


 異世界に戻る前に次の仕込みの準備をしなくてはならない

銀製品が換金に適している様なので、投資に換金資金を充てる

ことにした。

後は今日の新聞と腕輪を使い一週間後の新聞をてに入れ、異世界に

戻った。


 こちらでの生活にも少しだが変化してきた、日中は相変わらず

狩りと町での買い付けをこなし、夜はアクセサリーを製作している。


投資については現物取引をする銘柄の選定は済んでいる。

先に入手した新聞の情報で一週間後の株価が判明しているので

ある程度の利益を見込める銘柄を選ぶ。


これが問題なく取引できれば、長期的な視野で利益の得られる

銘柄を購入する予定。


 今夜はシャナの家から夕食の誘いが来ている

食事を共にするのは久しぶりな気がする。

狩りやアクセサリー作りで忙しく挨拶は交わしていたが、ゆっくりと

話す機会は少なくなっていた。


『今晩はお招き頂き、ありがとうございます』


『娘は食事の仕度をしていますので、その間にお茶でもいかがですか?』


 この世界のお茶は紅茶に似ている、アールグレイと同じような香りだ。


『ありがとうございます、いただきます』


『雄靖さん、ここでの生活は慣れましたか? 狩りの他にも何かなさ

れてるようですが?』


『はい、ちょっとしたアクセサリーとか作っています』


『町で売れればいいのですが、まだそこまでの品物になっていなくて』


『でも生活は狩りや採取で何とかなっていますから』


『そうですか、元気そうですし安心しました』


『今晩は食事をしながら、いろいろお話しを聞かせてくださいね』


『雄靖さん、いらっしゃい!』


夕食の仕度を終えシャナが部屋に入ってきた。


『今晩はシャナさん、今日も綺麗ですね』


 最近はシャナと話す機会が減っていたのと場を和ませる意味で

シャナさんを誉めてみた、でも少し本音が混じっているかな?

性格は優しく、一緒にいると心が安らぐ女性だと思う。

元のいた世界では色々あり女性とは縁が無くシャナさんの

優しさは僕の心を癒した。


『雄靖さん、お上手ですね、フフフ』


『食事の用意が出来てますので、こちらのテーブルにどうぞ』


 狩りの事とや夜はアクセサリーを作り、商売にしようと考えて

いることなど、近況報告の話しをしシャナ達の意見を聞いてみた。


気になっていた銀製品の置物についても聞いてみる。


『お聞きしたい事があるのですが・・・・』


『何でしょう、私たちにお答えできれば良いのですが』


『町の市場で見かけた銀色の置物は何で作っているのかな?』


『私はわからないけど、お母さんは知ってる?』


『ん~あれはたしかアルジョンという金属だったと思うわ』


『良く取れるし加工しやすいから、よく置物の材料に使われて

いるようね』


『そうですか、よく見かけるし銀色で綺麗ですよね』


 なるほど、これは元の世界での資金作りには理想適かもしれない

仕入値が安く高額で売れる、怪しまれないよう売る場所は安全の

ため分散した方がいいな。


『お料理が冷めないうちに食べましょう』


 そして食事を楽しみながら会話を続けた、最近シャナは魔法の練習

をしているらしい、魔獣を追い払う効果がある魔法らしいが説明を

聞いても理解できなかった。

なぜ、シャナはその魔法を会得しようとしていたか僕は後から

知ることとなる。


 シャナの母は僕とシャナが話している様子を見て微笑んでいたが

どこか不安そうな感情が見え隠れしていると感じたのは気のせい

だろうか・・・・


 楽しい時間は瞬く間に過ぎ食事を終えた僕はシャナの家族にお礼

を言い家をあとにした。


次に転移する為の準備は整っている、アクセサリーそして株の投資

銘柄。

でもその事で幾つか問題点が出てきた、それは転移しても時間の経過

が無い事だ、前回転移した時間に戻る、初めは都合が良いと思ったが

フリマや株の売買を考えると、しばらく滞在しないと売買ができない。

ちょっと試してみるか!石を3個嵌めて願う。


『前に転位した日の一週間後に転移』


すると腕輪から声がした。


(石の数が不足しています、拡張しますか?)


う、何となく予想はできた

石は対価のようだ、気付いた理由は先の転移でてに入れた新聞で

抜けている記事があったからだ、その記事とは宝くじの当選番号

で高額当選番号だけ消えていたのだ。

その事から対価に見合わない情報が削除されたのだろう。


拡張で対応できるのならば迷う事はないな


『拡張してくれ!』


その瞬間腕輪は輝き嵌めてあった3個の石は消え、3ヶ所あった嵌め込む

所の両端に1個づつ全部で5ヶ所になった。


『お~~、これは最高じゃない? これで短期的な株の売買が

可能になったよ』


などと部屋で一人興奮状態になっていた。

銀製品の置物の転売は利益は大きいが回数が増えれば目立って

しまい警戒されるだろう。

一回の利益を少なくし地道に利益を積み上げていけば

それなりの金額になると思う

今後の事など決めてはいないけど資金があるに越した事はない。

などと考えながらこの日は床についた。


◆Looklng to the future◆


 今日は自分で決めた休養日だ、異世界では決められた休みは

無い、そもそも休みの概念が無いのだろう。

全ての人々ではないのだろうが今のところ関わった人々はそんな

感じだ。

自分は元の世界に習い週休二日にしている


 休みの日は今後の事を考えたり、狩りや商売の準備などしている。

今日はそんな日だ・・・・


 狩りで魔石を得、元の世界で金を稼ぎ一年が過ぎた

ある程度の金額が貯まってた事もあり、これからの方針を決める

必要があるだろう。


 しかし元の世界で絶望していた自分が異世界に来て生きる楽しみ

を感じている事が不思議でならない。

ま、嫌じゃないので、この状況を楽しもうと思う。


 異世界転移前は建設業で働いていた関係で雇われる仕事は今度は

避けたいところかな。

しばらく前からカフェの経営に興味があり資金があれば挑戦してみたいし

珈琲は好きだからオリジナルのブレンドで煎れてみたい!なんて考えたり

してみた。

自分は少しオタクが入っているので、コスプレカフェなんてどうだろうか?

そんな事考えていると段々楽しくなってきてしまった。


 今後の事は今のところ急ぐ必要性はないだろう、これまで稼いだ金額も

其なりに確保できた、方針が決まり不足する時は又稼ぐとしよう。


 しかし今後の活動資金の確保が自分で考えていたよりは比較的容易に

できたと思う。狩りでは多少の危険はあったのだが・・・・


 置物の転売で投資資金を確保し、それを基に投資に充てる

値上がり銘柄に投資する事で確実に資金が増える。

元の世界で株の売買で利益を上げるのは容易ではなかったと思う

大きな流れで会社の業績を加味し利益を上げるには少ない投資額では

難しい、仮に利益が出ても投資期間と利益を考えると効率的とは思え

ないからだ。

数千万の金額で運用するなら投資期間が長期に渡っても十分な利益を

得る確率が高い。


 個人の少額投資で利益を上げるには短期で値上がり率が高い銘柄で

取引するのが効率が良い、利益が少ないと取引手数料で利益が取られて

しまう、長期になれば予測が難しく利益が少ないと労力に割りが合わない。


 僕自信も以前に株投資していたが投資額よりも評価額が下回り

売ることも躊躇い所謂「塩漬け」状態になっている。

当時も値上がり銘柄が判ればなどと考えてるいたっけな・・・・


 元の世界での資金の確保、異世界では生活の基板ができた。

後はこの条件下でこれからの行動を決めなくてはならない。

異世界に来る前は生きる事に絶望し、どこか死を望んでいた所が

あった。

未来、現在に執着が無くなると死さえ安易に肯定してしまう

異世界に転移したのもそんな時だった。


 今は生きる意味を考える様になっている、楽しみながら稼ぎ

シャナの家族や町で知り合った人達との交流は心地良い。

異世界での生活は近代的ではないが昭和の始めの様などこか

長閑な雰囲気がある。

魔獣や盗賊などの存在もあり決して安全ではないが慎重に行動

する事である程度危険は回避できる。


 異世界と比較した場合は金銭的な問題が解決すれば、勝手しってる

元の世界が何をするにも楽かもしれない。

人間関係も希薄で仕事的にも挫折している事を考えると今後の生活に

希望が持てないだろう。


 今は転移した異世界の方が将来に希望が得られるのではないだろうか?

もしかしたら元の世界で商品を仕入れ異世界で商売をすることは可能では

ないか?

次に元の世界に転移した時に売れそうな物を買ってくることにした。


ー数日後ー


 元の世界で幾つか商品を購入し異世界に戻ってきた

サンプル的な物だから100円ショップを利用し異世界でも

不自然でないものを色々と揃えてみた。


ガラスのコップ、瀬戸物、木製のオモチャなど自然の素材を加工

した製品を選んだが売れるかな?


 買い揃えた物の中から数点を選び、よく置物を買いに行く店に

向かった。


『よ、雄靖いらっしゃい、また置物かい? 今日は良いのが無いな』

『なんてな、ガハハハ』


 店の店主のヤニスに声をかけらた、気さくで性格は正直者な男で

性格的も自分と相性が良い事から、この店を懇意にしている。


『ヤニス、今日は違うんだ。買い取りの相談なんだが頼めるか?』


『お、なんだい? 珍しい物でも手に入れたのかい?見せてみな』


 一度に見せるのはちょっと不安なので、先ずはガラスのコップから

見せる事にした。

異世界に来てガラス製品はあまり見たことがなかったので

希少価値に期待していたからだ。


『これなんだけど、買い取れるかい?』


ヤニスは出されたコップを見ると慌てて店の奥の部屋に

荷物ごと僕を押し込んで話しかけてきた。


『雄靖これどこから手に入れた!これガラスだろ?』


『あ~ガラスだけど・・・・それがどうかしたのか?

 随分驚いている様だがヤバイのか?』


『雄靖の国じゃどうかわからないけど、ここではガラスは

 貴重品だからな! 安易に人に見せたりすると下手すると

 襲われて奪われるからな。気を付けろよ』


『え!そうなのか・・・・知らなかったんだ、心配かけたな

 これは家を出る時に両親から渡された物なんだ』


貴重な物の様なので咄嗟にでた嘘の言い訳だが何とか誤魔化せた

かな? 


『そうだったんだ、まだ持っているなら厳重に保管するんだぞ!

 襲って奪おうとする輩が現れてもおかしくないからな』


 ガラス製品が異世界では貴重品とはな・・気をつけよう。

他は瀬戸物はガラス製品ほどではないが想像より高めで売れた

木製のオモチャは引き取り対象外だった。


 今後は瀬戸物を中心に売れば安定した収入源になりそうだ。


『ヤニス、忠告ありがとな、ガラスは難しいが瀬戸物は定期的に

 買い取ってもらえるのかな?』


『ああ、柄物よりも無地の方が需要はあるな、良い柄物なら

 高値で売れる時もあるぞ、しばらく展示する事になるがな』


 ヤニスには数が揃ったら売ると約束をして家路についた。

帰り道、以前から気になっていた事を思い出していた

シャナとは何度か採取や狩りに行っているが彼女は革製の小さな

袋を持っているだけで薬草ならば良いが狩りの獲物などはどうして

いるのかと?


当時は別の日に狩りをしているのかと思っていたが、今思えば

毎回というのは不自然だ、狩場や採取場所に着いたら別々に行動を

していたので収納しているところを見ていない。


次に同行する前に聞いてみようと思う。


 帰宅すると元の世界から持ち込んだ商品が無造作に部屋に

置かれているのを見てヤニスの言葉を思い出し少し怖くなった。


『このままでは命の危険があるな・・・・』


何故ならガラス製品、コップなど数多く持ち込んだからだ!

まさか異世界ではガラス製品が価値が高いとは想像しなかった

からな、何か自衛手段を考えた方がいいな。


 翌日、シャナと薬草採取に行く約束を取り付け僕の家の前で

待ち合わせをする。


『こんにちはシャナさん、今日はよろしくお願いします』


『こちらこそ、よろしくです』


『ところで採取に行く前にシャナさんに聞きたい事がある

 のですがいいですか?』


『何でしょうか、私にお答えできればいいのですが』


『以前から不思議に思っていたのですが、採取などで出掛ける時は

 いつも身軽ですけど、採取した物はどのようにして持ち帰って

 いるのでしょうか?』


『あ~その事ですか、私たちエルフ族には便利な魔法が伝えてられて

 まして、ちょっとやってみましょうか』


 そう言うとシャナは詠唱を始めた


 ♪∝*∃∬〓♯◇∞♪


 すると何もない空間に穴の様なものが出現した!


『シャナさん、これは何ですか??』


 異世界って事で何となく想像はできる、恐らく空間収納の

ような物だと思う。

でも今は驚いた素振りで詳しく聴く事にした。


『これはですね、エルフ族に伝わる技術で収納する技ですのよ、

 採取や狩りの時は便利なんです』


?ん?魔法とは違うのかな・・・・魔法っぽいけど、技術ってことは

誰でも習得できるのだろうか?


『それは人族でも使うことができるのでしょうか? 実は貴重な物を

 近々、預かる事になりまして、使えたら便利なんじゃないかと

 思いまして』


『そうでしたか、でも私の知る限りではエルフ族以外に使える種族

 を存じません。ご免なさい、お力になれなくて』


『いいんですよ、お気になさらないでください少し興味があった

 もので、差し支えなければ技を使う時の感覚がどの様な感じか

 知りたいのですが?』


 想像だけど魔法の様な感じだろうか?

多分だが今の自分には使えないだろう、でも腕輪を使えば

何とかなりそうな気もする、確信は無いのだが。


『そうですね、遊作さんに聞かれるまでは意識した事はない

 のですが、手から熱いものが出る感じとでも言いましょうか?

 すいません、なんか変な説明でしたね』


 ん~聞いた感じだと魔法っぽいな、使える自信は無いけど

何とかなりそうな気がするのは腕輪に願えば使える気がする

からだ。


 収納の魔法?・・は使えれば元の世界で仕入れた物を安全に

保管、運搬できるので今のこの状況では必須だと考える。

現実に存在する事象なら腕輪に願いを叶えてくれるかもしれない。


まだ魔石には余裕もある、今晩にも試してみるか


その日は魔石の事もありロックラビットを気合を入れて

狩りまくった。


◆なんか楽しくなってきた◆


 数日後、魔法について腕輪に願ってみる事にした

最近増えた二個と合わせて五個、魔石を嵌め


『腕輪よ収納魔法を使えるようになりたい!』


(魔法習得には石が足りません、拡張しますか?)


『拡張してくれ』


 同意の後に嵌め込みが四つ追加された、以前に転移関係での

要求よりも多いのには驚かされた。

魔法に関しては価値のあることなのだろう。


 全部で九個の魔石を嵌め込み再度願いを口にした!


その瞬間視界が閉ざされ暗闇から記号のような模様が脳内に

入り込んできた。

その内、記号が日本語に変換され内容が理解できるようになって

きた、内容は使用方法と注意事項だったが理解はできた。


 こうしてみるとシャナが話してた通り魔法と言うより技術って

感じだな、試しに使ってみる。


『ストレージ!』お~凄い・・・・


 空間にぽっかりと穴が空いたのだ、手を入れてみたのだが

実に不思議な感じだ。

早速、先日仕入れたガラスのコップなどを収納してみた

入れる時は適当でも取り出しはイメージすれば手元に引寄せられる

仕組みらしい・・・・実に便利だ。

これで安全便利に商品を売買できるようになった事で今後の展望が

明るくなってきた。


 もしかしたら、他の魔法も使えるのだろうか?

攻撃魔法など使えたら狩りも楽になるし護身にも使えるだろう

今回の事で形の揃った魔石が大分少なくなってしまったので

当分はロックラビットの狩りに専念しなければならないだろう。


 明くる日狩りに出て何匹かロックラビットを仕留め休憩に

寄った湖の畔でシャナが湖を見つめながら歌っている光景に

出くわした。


 その様子が美しく思え、彼女の歌を聞きながら時を過ごした。


♪ 優しい風が体の中を通り過ぎて行くわ ♪


♪ 何時しか私の中で過ぎ去った哀しみが癒えていく ♪


♪ 空の向こうには何があるの? ♪


♪ 風は途切れることなく世界を渡る 変わることなく ♪


♪ 時は流れ全ては光の中に溶けていく まるで何事も

  無かったように ♪


♪ 歩き出す私に風は頬を優しく撫でていく ♪


♪ 妖精が耳元で囁く季節は変わり始めるよ ♪


♪ 貴方も準備しなさいな ♪


♪ もうすぐ時の女神と創造の神が出会うから ♪


♪ 始まりの時はもうすぐ訪れる ♪



 シャナの歌を聞いて感じたのは魔獣に襲われ亡くなられた夫

への想いだろうか?死との折り合いはついても彼女の心の中で

は寂しさが残っているのだろう。


 そんなシャナを僕は愛おしく思えてしまう、僕は異世界に

来て彼女を見た瞬間、体と言うか心の中の何かが弾けた感覚

を感じた。


 以前から感じていた事だが、自分の中に(想像って感じ)

質感がガラスの様な材質の木が存在していた。

初めて気付いたのは結婚した直後だったと思う、今は離婚して

いるのだが。

妻には結婚当初から少し違和感を感じていた、その後数年間は

自問自答の日々を過ごしていたが、とある夜に夢にガラスの木が

現れ静かに佇んでいたが時よりフラッシュの様な輝きをしていた。

その光を見つめていると思考が浄化されている感覚を覚え

ふと気付いてしまった、自分には出会うべき女性がいる事に

微かに浮かぶシルエットは妻では無い事は理解できた。

それ以来、関係を続ける事が苦痛に感じ後に離婚に至った。


 円満離婚の裏には身勝手な事情があり、別れる際には

妻に充分な誠意を示したつもりだ。


 シャナの歌う姿を見た時に感じた心が弾けた感覚は

心の中のガラスの木が粉々に砕けた瞬間だった。

それはシャナこそが出会うべき女性だったと確信させられ

自然に声が出た。


『シャナだったんだ、出会うべき女性は。だから僕は異世界に来た』


 その衝撃的事実に僕はその日は彼女に声をかけることなく帰宅

したのだった。


◆勇気、決意、秘かな想い◆


 ストレージを活用しヤニスの店に安全に商品を卸す事が

出来るようになり異世界での生活が安定してきた頃

魔法が使える体質になった事で攻撃魔法を使えるのか試し

たくなった、ここは腕輪に聞くしかないか。


『攻撃魔法が使いたいが、どうすればいい?』


 その後の腕輪の説明によれば、既に魔法体質に変化している

ので攻撃魔法の習得は可能らしい。

攻撃魔法1つにつき魔石3個必要で威力を上げたければ追加と

なる、魔法の種類はその属性で区別されていて

火、水、風、土、光、闇の6属性に分けられる。


 腕輪に使える魔石が残り少ないので、攻撃性が強そうな

火属性を始めに選ぶ事にする、魔石を3個嵌め込み願う。


『腕輪よ、火属性の攻撃魔法を使える様になりたい!』


 すると収納魔法の時と同じく視界が閉ざされ情報が

脳内に流れ込んで来た。


 使いこなすには練習が必要な感じで、攻撃パターンは

簡単に言えばイメージのようだ。

火炎弾や火炎放射器をイメージして魔法を行使できる、

スムーズに使うには慣れる必要だな。

ただし威力を上げるには魔石が必要になる。


 早速練習と思ったが今は夜、火は目立つので明日

狩りを早めに切り上げて明るい内に練習する事にした。


 狩りの帰り道、シャナが歌っていた湖のほとりに

来ている、回りを見渡し人気が無いのを確認した。


『よし、始めるか! 火の玉をイメージ、イメージ 行け

 ≪ファイヤーボム≫ 』


 詠唱と同時にバレーボール程の火の玉が手から放たれた

火の玉は湖の中央に20mくらい直進し霧散した。


『何か少し感動したな、ゲームやアニメで見た魔法だよ

 どうしよう初めての攻撃魔法で興奮して考えが纏まらない

 まずは落ち着け俺、ふ~』


 深呼吸を数回し段々落ち着きを取り戻してきた。


『何とか使えそうだ、威力は然程でもでもないが護身用

 としては優秀じゃないか』


 雄靖の攻撃魔法には護身や狩り利用以外に密かな目的

があった、それはシャナの夫の命を奪った魔獣を倒す事。


 彼女は求めていないだろうが少しでも無念を晴らして

あげたい、それは僕の自己満足でしかない。

でも、それを成す事で彼女に対する想いを証明したいと

考えている。

これが運命を感じた彼女に告白する為の僕なりのけじめ

にしたい。今のままでは道のりは遠いだろうが・・・・


◆色々な準備を始める◆


 元の世界と異世界を往き来し、異世界ではガラス製品など

の販売、元の世界ではアクセサリーのネット販売と株の現物

取引などで両世界で金銭の不安は解消してきている。


 特に異世界での売り上げが順調であり、この事に協力して

くれたヤニスには感謝している、今日は百円ショップで買った

ガラス製の切小細工のアクセサリー入れをヤニスの店に売に

来ている。


『よ、ヤニス 今日はガラスのアクセサリー入れを持って

 きたけど買ってくれるるかい?』


 収納魔法から取り出しヤニスの前に出した。


『!?おいおい何だこれは・・とんでもない品だな

 これも両親から譲り受けた物かい?』


 ヤニスの驚きは僕にも伝わるほど衝撃的だったのだろう

しかし彼の前では平静を装う事にする、余計に騒がれると

感じたからだ。


『そうだけど、そんなに珍しい物なのかい? 僕の家には

 普通にあったからさ』


 このやり取りでヤニスも少し落ち着いたようだ


『そうか・・雄靖の国と言うより雄靖の家では普通かも

 しれんが、ここでは貴重な品物だぞ。収納魔法じゃなきゃ

 持ってるだけで身の危険を感じるがな。

 それに買い取ってもいいが、買い主が決まってからの

 買い取りにしてくれ。俺も保管には自信が無いしな』


 そんなにも高価だったとは、予想外だったが幸運でも

あった、なぜなら金銭的に余裕があれば攻撃魔法の練習を

したいと考えていたからだ、可能なら教えてくれる魔法使い

を探したい。

自分一人では限界を感じていたし。


『わかったよヤニス、買い取ってくれる人を探してくれないか?

 それと魔法を教えてくれる魔法使いを知らないかい?』


 僕は異世界でこんな頼みをできるのはヤニスしかいない

何人かは知り合いも出来たが、ヤニス以外は浅い付き合い

だしな。


『雄靖、どうしたんだ? 収納魔法を使えるのは知っているが

 他の魔法って攻撃魔法とかも使えるのか?』


『ああ…ヤニス、火属性だが少しなら攻撃魔法も使える』


ヤニスは少しの間、考えていたが真剣な表情で聞いてきた


『雄靖、何か理由が有るんじゃないか? 知らない仲じゃ

 ないだろ…話してくれよ内容次第じゃ力になるからよ』


 ヤニスは本当にいいやつだな異世界に来てシャナに次いで

世話になっている。彼になら話してもいいと思い話した。


 元の世界での部分は伏せてだが、記憶を無くして森に居た

ところでシャナに出合いしばらく世話になった事や湖で彼女

の歌を聞いた時に出会うべき女性であり運命の人だと感じた

事、そして彼女を愛してた自分に気付いた事など。


 ヤニスは真剣な表情で聞いていたが話し終わると透かさず

聞いてきた。


『雄靖!シャナって、シャナ・アズサファリヤのことか!?』


『彼女を知っているのかヤニス?』


『知っているさ、彼女の旦那のタカディール・アズサファリヤは

 俺の冒険者仲間だった奴さ』


『そうか・・・雄靖の恩人か・・真逆とは思うが魔法を習う

 って旦那の敵討ちでもするつもりなのか!!?

 そのつもりなら考え直せ、奴を襲った魔獣はベテランの

 冒険者でも手子摺る魔獣だ、運が悪く遭遇し犠牲になった

 それに今更倒しても彼女は喜ぶのか?』


 ヤニスの意見は当然の反応だ、それに僕の事を心配も

している事が理解できた。


『ありがとうヤニス、この事は敵討ちとは違うんだ

 僕自身のけじめと言うか、彼女に告白する為の決意

 なんだよ。自己満足に聞こえるかもしれないが

 彼と同じ状況になっても、必ず生きて帰って彼女の

 側に居るよって伝えたいんだ』


 ヤニスは話を聞いた後に目を閉じ沈黙していた

しばらくし考えが纏まったのか僕を見据えて話し始めた


『わかったよ雄靖、冒険者仲間に魔法が得意な奴がいる

 俺の紹介だと話せば協力してくれるだろうよ。

 でもな誓ってくれ無理だと感じたら逃げると・・』


『ああ、誓うよヤニス、無理はしないさ、逃げきってやる』


 少しだがヤニスの表情が和らいだ様に感じた。


◆力不足を想い知る、そして・・・・◆


 ヤニスに紹介された魔法使いのカルヴァンの家は

町外れに住んでるらしく寧ろ僕の住んでいる森に近かった

僕はロックラビットの干し肉を手土産に訪ねドアを叩いた。


『こんにちは、ヤニスさんから紹介された雄靖と申します

 カルヴァンさんはご在宅でしょうか?』


 すると部屋の奥から返事がきた


『おお、お前が雄靖かヤニスの奴から話しは聞いている

 俺がカルヴァン、魔法使いさ教えるのは構わないが

 何があっても責任持たないぞ、いいな?』


『よろしくお願いします、お世話になります』


『雄靖、先ずは魔法の実力を見せてくれ、教えるのは

 それからだ』


 指導方針を決めるためか?今使える火属性の魔法を見せる

しかないか・・・・

中庭の石壁に向けて唯一使える攻撃魔法を放った。


『ファイヤーボム』


魔法は石壁の一部に焦げあとを残して霧散した。


『成る程、威力は初期レベルだな、他にも使えるのか?』


『いえ、今はこれだけです。こんなものでよろしいでしょうか?』


『ああ、実力はわかった』


 カルヴァンは考えた、これはかなり鍛えないと返り討ち

になるな。

でもヤニスの頼みだし事情に感化できなくもない、教えて

みるか。


『雄靖よ魔獣を倒すには今のままでは実力が足りない

 それに魔法使いにもある程度体術が必要になる。

 放つタイミングを作り出す為にもな』


 成る程なカルヴァンの言う通りだと思った、体術か

運動神経は悪くないし何とか成るだろう。


 そして魔法修行は始まった。


≪修行を始めて一年が過ぎた≫


 修行途中に魔石を使い水属性も手に入れた、何故なら火属性

では森での闘いは退路を塞ぐ可能性があり不利になるからだ。

次いでに威力も底上げし、肉体強化も手に入れておいた、

突然の変化にカルヴァンも

少し驚いていたが。ま、良しとしよう・・・・


 今日はカルヴァンによる最終テストだ、森に入り

魔獣を攻撃魔法で仕留める。それができれば合格のようだ。

森の奥まで歩いて行く、普段の狩りではこんな奥には来ない

理由は魔獣が多く生息しているからだ。


『雄靖よ油断するな、お前の倒したい魔獣はここには

いないが、ここに巣くう魔獣に勝てないのでは話しにならない

分かっているな!』


『カルヴァン任せてくれ、この一年自分なりに努力したつもりだ

 今日はその成果を見てくれ』


 そんな会話をしていると森の奥から黒い影がこちらに向かい

突進してきた。


『来たぞ雄靖!あれはヘビの魔獣、ビックボアだ20mは

 ありそうだな。行けるか雄靖!』


『大丈夫やれます、先ずは動きを止めます』


 雄靖は魔法を発動した


『アイスミスト』


 ヘビは爬虫類であるため低温で急激に活動が鈍くなる

鈍った所で追い討ちの魔法を放つ。


『アイスバインド』


 ビックボアは地面に頭部を残し氷付けになった


『今だ雄靖、止めだ』


『アイスカッター』


 その魔法は氷の刃となりビックボアの頭部を切断した!


 興奮した雄靖はカルヴァンもとへ駆け寄った


『やりましたよカルヴァン!倒しました』


 戦いはお手本の様な魔法の連発で呆気なく終ったように

見えるが、日々の練習の成果が示されたのだった。


『雄靖、上出来だ。後は経験を重ねれば強くなれる

 何かに迷ったら何時でも聞きに来い』


『お世話になりましたカルヴァン、このご恩忘れません

 想いを遂げたら報告に来ます』


『死ぬなよ雄靖、良い報告を待ってるからな』


 そして僕は様々な魔獣と闘って経験を積んでいった

ある程度自信が付いた時点で冒険者ギルドに登録する事になる

カルヴァンの話では魔獣は勝手に狩ってはダメらしい

今回、僕の目的である魔獣は狩りに届け出が必要だとか。

ルールには従うしかないだろう。

早速、町の冒険者ギルドに行き登録を済ませた、登録は

狩った魔獣の一部(決められている)の提出と種族名・

名前を登録用紙に書き込むだけだ、妙に簡単な理由は

嘘をついて登録しても実力が伴わなければ早死にするだけ

の厳しい世界だからだそうだ。


 目的の魔獣はパワータイプの突進形魔獣だ、恐竜の

トリケラトプスによく似た風貌をしていてデモニオライノ

と呼ぶらしい。

如何なる魔法防御も突破するらしく多分足止め程度にしか

ならないだろう。


 作戦としては魔法を連発し興奮状態にする、そして罠に

追い込み止めって感じでいく予定だ。

走り回る事が予想されるので罠を固定式ではなく、異動設置型

で考えていて必要な道具はすでにストレージに準備している。


 魔獣との闘いは事前にシャナに話そうと思う

理由は色々とあり、自分勝手だがシャナに対しての決意表明

であり想いを伝える為の切っ掛けにしたい。

そして彼女の無念を晴らす、望まれないかもしれないが

僕のけじめ、そして彼女の夫に対しての敬意かな・・・・


『あ~グダグダと理由を付けたけど、ただの見栄だな

 多分。命を懸けた見栄か・・・・』

 

 それでも何か自分らしいと思った。


◆伝えたい想いとアクシデント◆


 今日はシャナを誘って薬草採取に来ている


『あ、そうだシャナさんに報告したい事があるんです

 実は僕も収納魔法を使える様になりました!』


『雄靖さん、凄いですよエルフ族以外で使えるのは珍しい

 んですよ!驚きました。これからの狩りに重宝しますね』


『シャナさんから収納魔法の話を聞いてから、いろいろと

 調べていたら魔法使いの方と知り合いましてね、その方に

 指導を仰ぎましてね、たまたま適性があったのでしょう

 使える様になりました。』


 そんな会話をしながら薬草を採取し休憩を取りに湖畔まで

来ていた。


『シャナさん、怒らないで聞いてほしいのですが・・

 以前ここで歌っているシャナさんを見ましたが

 この場所に何か思い出でも? 差し支えなければ

 お聞きしてもよろしいですか?』


 少しだけ考える素振りを見せたが、頷いて話し始めた


『そうですね・・・・ここは亡き夫と出会った場所なんです

 あの時も私は薬草の採取に来てこの場所で休んでいたんです

 そこへ狩りを終えた彼が来ました。

 その日は挨拶だけでしたけど、その後もここで出会う機会が

 増え話をする様になったんです。

 結婚してから聞いたのですが、偶然を装って私に会いに来て

 いたみたい………』


 その時、彼女の目尻に微かに涙が浮かんでいた


『ごめんなさい、つい思い出して・・・・もう心の整理は

 ついたのに』


『シャナさん、私の方こそ辛い事を思い出させて

 しまったようですね、ごめんなさい。』


 少し話題を変えた方が良さそうだな、魔法習得の話しに

してみるかな。


『シャナさん僕も魔法が使える様になったんですよ、収納魔法

 や攻撃魔法などです。』


『雄靖さん本当ですか!人族で魔法を使える方は凄く珍しい

 ですよ、よろしければ見せて頂けますか?』


『勿論、では水属性で』


『アイスカッター!』


太股程の太さの木に向けて魔法を放ち切断して見せた


『雄靖さん凄いです、私も防御系の魔法を練習してますが

 攻撃魔法は習得してませんのよ』


 そう言えば彼女が以前に防御魔法を練習してるって聞いた

ような気がしたな。

女性蔑視じゃないけど攻撃魔法ではないのが何か女性らしい

と感じてしまった。


 それから収入が安定して生活に余裕が出てきた事や

商人のヤニスが色々と世話になっているなどの近況報告

をした。

シャナからも母親と変わらず楽しく生活している様子の

話を聞くなど二人の会話が弾んだ。


 その時森の奥から何か近づいてくる音がした

この音、ロックラビットのような小型の動物じゃないな

大きいぞ間違いなく。

思わず僕はシャナさに叫んだ。


『シャナさん、ここを離れましょう嫌な予感がします!』


 彼女も危険を感じたらしく僕を見て頷いていた。


その場を離れようとした時それは木立の陰から姿を

表した。


ヴォWWWOOOU~


 あれは魔獣デモニオライノじゃないか?僕は心の

中で叫んだ。

彼女を見ると震えながら何かを口ずさんでいた。


『何故ここにいるの、私から大切な人を奪ったお前が!』


 なぜ森の奥から強力な魔獣が出て来たんだ?

森の入口近くに姿を見せることもあるのか?そう言えば

彼女の夫が襲われたのも森の奥ではなかったと聞いている


 どうするこの状況、二人で逃げ切るのは絶望的だな

とにかく時間を稼ぐんだ


『シャナさん、僕に合わせて防御魔法を!』


『アイスウォール!』


僕たちの回りに円を描くように壁を築いた


『シャナさん同じように内側にお願いします!』


『λξμτωΞδ』


 エルフ語か?同じように氷の壁が出現した。


これで少しは話せる時間が出来た。


『シャナさんこの状況は長く持たないでしょう。

 僕は攻撃魔法も使えます、何とか隙を作りますので

 ここから離れ木の上に身を隠して下さい、僕は闘い

 たいと思います』


『ダメですよ雄靖さん!危険すぎます、私はあの魔獣の怖さ

 は知っています。一緒に逃げて下さいお願いです。』


 しかし、なんてタイミングだ、闘う準備はしていたし

闘う覚悟もシャナさんに話す事で決意をする感じだった。

魔獣を倒すことで、何が有っても彼女に悲しい思いを

させない。

そしてその行為こそが僕の彼女に対する愛の証にすると

勝手に決めていた。


 でもこの状況じゃ、行成り告白、そして戦闘になるな多分

ここはベタだがやるしかない!

人生ってこんなものさ・・・・


『シャナさん、言えなくなるかもしれないので今言います

 貴女の事を愛しています、もし生き残ったら……

 僕の愛を受け入れて下さい、お願いします。』


『雄靖さん……私で……』


『返事はこの魔獣を倒して僕が生きていたら聞かせて

 下さい!』


 もうこれは倒すしかないな、魔獣が僕に気をとられて

いる隙に彼女が離れた木の上に避難した事を確認して

僕は戦闘に入った。


『やるぞ~!』
































 

 

 

  







  


  













 
















 

 






































































































 






 









































 


 















 



























 










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