第三話

シルヴィア=オルセット。


真っ赤な髪をした彼女。

原作では第一王子ルートにしか登場しないが、もし戦えばアリを潰すかのようにあっけなく俺は負けるだろう。

そんな彼女がここまで俺に殺気立っているのは何を隠そう、彼女の母を失脚させたのが以前のヴァイオレットだからだ。

ほんとに余計なことしかしてないのな。

 

一般庶民と成り下がった彼女が再び子爵という地位を得るまで成り上がるのは茨の道だったに違いない。

その分俺への恨みが大きくなるのも致し方ない。

 

「では、国王のところへ案内してもらいますわ」

 

「……ついて来い」

 

ガシャと鎧を鳴らし、シルヴィアは踵を返す。俺も彼女へついて行こうとした所で。

 

「ま、待ってください!」

 

いつのまにか復活していたレイラさんがシルヴィアを呼び止めた。

 

「……なんだ?」

 

彼女はスカートをくしゃくしゃに握りながら、シルヴィアへと一歩近づいた。


「その…ヴァイオレット様は私に暴力を一度たりとも振るったことはないのです!どうか誤解なさらないでください!」

 

騎士団長に正面切って俺を庇ってくれたレイラさん。

前々からだが、彼女がこんなにも慕ってくれているとは思わなかった。

よほど彼女の妹の治療代を渡したことを恩に感じているらしい。

あれはあくまでも俺の保身のためにやったというのに。

 

「…今更信じられるか。そんなこと」

 

シルヴィアは俺を鋭いナイフのような眼光で睨みつけ、再び歩き出した。

先に部屋を出て行った彼女についていく前に、俺はレイラさんに微笑みかけた。

 

「苦労かけますわね、レイラ。感謝…しておりますわ。ゆっくり休んでおきなさい」

 

だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ。

罪悪感がつりゃい。

 

 

■■

 

 

 

俺が案内されたのは謁見の場ではなく、大きな応接間といった所だ。


基本的には他国からやってきた使者と会談をするのに使われる。

豪華な飾りが壁、天井あちこちにあしらわれており、金の輝きが眩しい。

 

「御呼びに応じ、参上いたしました。ヴァイオレットでございます。

国王様、この私めにいったい何用でございましょうか?」

 

「いつも通りでいいわ。今日は個人的にお礼をしたくてあなたを呼んだのだから」

 

「では。

お菓子とお茶を要求いたしますわ!特にものすごく美味しいお菓子を所望しますわよ」

 

いつも通りと言われたので俺は下げていたこうべをあげ、すっかり板につき始めた悪役令嬢ムーブをかましながらドサリと大きなソファに座り込んだ。

豪華な装飾がなされているだけあってふかふかだぁ。

 

「よ、よいわ」

 

眉間をピクピクとさせながら俺の対面、玉座に座る威厳と風格を合わせ持った彼女。

第18代目女王、ルーリス=ヴァン=アルファス陛下は鷹揚に頷いた。


さすがフィオナの母親とあってか、年は結構いっているにもかかわらず綺麗な人だ。

年については地雷なので死んでも言わないが。

冗談抜きで処刑されるのが見えている。

 

ルーリス女王が手を叩くと、城付きの侍女たちがたくさんのお菓子が並べられた皿と香ばしい匂いをぷんぷんとさせる紅茶を持ってきた。

 

「好きに食べるといいわ」

 

女王の許しが出たところで、俺は軽く頭を下げ、さっそくうまそうなきつね色をしたビスケットを一つかじってみる。

うん、女王が口にするものとあって甘さと食感が特に素晴らしい。

もぐもぐと味わいながら咀嚼する。

 

それをじーと見ていた女王は"お口にあったようでよかったわ"と言って、上品な笑みを浮かべながら俺の後ろに控えているシルヴィアに命令する。

 

「シルヴィア、下がりなさい」

 

「…………」

 

「シルヴィア」

 

「はっ」

 

シルヴィアは最後、俺の背中越しに殺気を飛ばして退出した。

闇討ちされないことを祈るばかりだ。

 

他に待機していた侍女達も下がらせ、このバカ広い部屋で俺と女王、二人きりになった。

 

「さて。久しぶりになるかしら?ヴァイオレットくん。

また一段と美しくなったわね。」


彼女の、口元を妖しく扇で隠しながら切り出したまったく嬉しくないその言葉に、俺は思わず頬を引き攣らせた。

 

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