第二話

フィオナのおっぱいに殺されかけ、夜中に腰を抜かした日から数日。

 

あれから特にこれといった出来事もなく、孤独な学校生活をすごしていた俺は今、王城のある一室でこれでもかというほどにふんぞりかえっていた。

 

「まったく。

このわたくしを呼び出しておきながらこんな狭い部屋に案内するだなんて。

国王は耄碌しすぎて礼儀を忘れたのではと疑いますわ。あなたもそう思いませんこと?レイラ」

 

自分の体を見下ろせば、目に映るのはむき出しになった肩と無乳がバレるのではというほどに開かれた胸元。

めったに着ることがない貴族衣装だ。

やけに露出が多いし、なんというか、いかがわしい店の嬢が着そうな服だ。

 

おまけに国王に招かれたということでしたくもない化粧や衣服やらで着飾るはめになった。

俺は男だというのに。


ため息をつき、さっきから黙ったままのレイラさんに目を向ける。

 

彼女はほう、と息をつきながら瞬きもせずに俺を見ていた。

しかし、様子がおかしい。

その目はちゃんと俺を見ているはずなのに、見ていない。なにやら熱に浮かされたような目で焦点があってない。

 

「レイラ?」

 

もう一度彼女に問いかける。今度は口調を強くして。

するとレイラさんは大袈裟に体を震わせて、あわあわとし始めた。

 

「お、おおおお、おトイレにいかれるのでしたらこ、こちらです!!あ、ああああんないいたします!!」

 

「違いますわ!!!それとトイレじゃなくてお花摘みと呼びなさい!」

 

「ひえっ!も、申し訳ありません!」

 

顔を青くしてがばりと頭を下げるレイラさん。

その時、彼女のお尻が後ろの机にあたってその上にあったティーカップが落下。

耳を覆いたくなるような破砕音とともにティーカップが派手に割れた。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「ちょっと、様子がおかしいですわよ。少し休んだ方がよいのではくて?」

 

やっぱりおかしい。

いつもはテキパキと仕事をそつなくこなすレイラさんがこんなドジをするなんて、体調が悪いとしか思えない。

割れた皿を拾おうとするレイラさんを制止し、俺はしゃがみ込んでひとかけらずつ拾っていく。

 

そして散らばった破片を全て拾い終わったあと、俺は彼女を見上げる。

 

「あとはあなたにまかせますわよ。これが終われば休んでおくといいですわ」

 

「む、むむむむむむ……!」

 

壊れていた。

顔をこれでもかと真っ赤に染めたレイラさん。彼女は俺の顔よりも下に目線を送りながら、壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返していた。


ダメだ。一度、頬を叩いて正気に戻そう。壊れたテレビは一度叩けば治るっていうし。

 

俺は立ち上がって、腕を振り上げる。

 

「己の侍女に手をあげようとするとは。

相変わらず見下げ果てたクズのようだな」

 

しかし、それを振り下ろす直前。狙ったかのようなタイミングで扉が開いた。

扉の先には凍える殺意を纏った騎士。

あともう少し遅く開けて欲しかった。

 

「あらあら、騎士団長自らがお出迎えとは。もうすこし人を選んで欲しかったですわ」

 

「私が立候補したのだ。貴様にこの王城まで好き勝手にさせるわけにはいかんからな」

 

「……子爵風情が。またその地位を剥奪してあげてもいいのですのよ?」

 

俺がそう言った途端、彼女の手が腰に吊るされている剣の柄にかけられ、チリチリと俺の肌を刺していた殺気がさらに膨れ上がった。

俺に対する恨みは相当らしい。

 

この騎士の名はシルヴィア=オルセット。

燃え盛る炎のように、紅蓮色の髪をした美少女。


王国最強と謳われ、王都防衛の役割を担う精鋭が集まった、騎士団の団長である。

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