第11話

俺と交代し、強張った面持ちのフィオナが前に出る。

 

「ふぅー…」

 

フィオナは深く肩を上下させた後、手を持ち上げて新たな的へと向ける。

 

「聖なる光よ、一条の光となりて、刺し穿て!紫電の一閃(ライトニング)!!」

 

綺麗に澄んだ声で詠唱が紡がれ、完成とともに彼女の掌が眩く発光した。が、それだけ。

近くに立っている俺が少し目を細めるだけの光量がフィオナの掌から発されるだけで、的は依然としてある。

 

「もう一度やります!」

 

フィオナは再び詠唱を唱えるがまたもや同じ結果。彼女は唇を噛み、魔法を何度も何度も行使する。

 

「紫電の一閃(ライトニング)!紫電の一閃(ライトニング)!紫電の一閃(ライトニング)!!」

 

結果は変わらず。

彼女の手の平が死にかけの電球のように点滅を繰り返すだけだった。

 

次第にその様子を見ていた生徒たちから嘲笑が漏れるのが聞こえてきた。

 

俺は痛ましく不発の魔法を繰り返すフィオナから目を背け、主人公達のグループを見る。

彼女らは周りのように笑わず、むしろクスクスとフィオナを馬鹿にしている連中を睨んでいる。

しかし、歩み寄る気はないらしい。

これも男女逆転してしまったせいだろう。

 

原作では、容姿と思想だけは立派で魔法は落ちこぼれと蔑まれていた王子を主人公が応援して交流を深めるのだが、その主人公が応援する経緯が憧れとひたむきな彼に惹かれたからだ。


だがこの世界では女同士、庶民出身の主人公にとって王女は雲の上の存在でしかない。

 

だから王女は原作と同じように口だけで実力もない落ちこぼれとして影で嘲笑されているのに加えて、俺と同じように孤立してしまう結果となっている。

王女としての期待、それに伴わない実力。


その苦痛は俺には到底計りしれないだろう。

 

「紫電の、一閃……!」

 

肩を震わせ、声もだんだんと弱々しくなっていくフィオナ。

しかしいまだ諦める様子はない。

先生は腕を組んで厳しい顔で傍観するだけで止めるつもりはないようだし、嫌われている俺が何を言ってもすげなく拒絶するだけだろう。

フィオナに諦めがつくまで待つしかない。

 

「私は…絶対に、国王にならないといけないんです…!」

 

まるで自分に言い聞かせるように叫んで、フィオナは苦し紛れの魔法を放った。

またもや不発に終わる。


俯くフィオナ。


「………」


俺は何も言わずにただ彼女を見つめる。

俺とフィオナの溝は深いんだ。俺が何を言ったって、彼女を惨めにするだけ。

そもそも俺は悪役令嬢、彼女を助けるのはアイリーンであるべきだ。


そう、俺はここで黙ってフィオナが諦めるのを待つしかない。


再び目を背けようとしたその時、彼女の固く握りしめられた掌から何かがこぼれ落ちるのが見えた。

 

ーーー地面がポタポタと赤く染まっている。

血だ。強く握りすぎて爪が皮膚を突き破ったのか。

 

「ああ!もう!まどろっこしいですわね!!!」

 

そんな光景を見てしまえば黙っておくことなんてできなかった。


俺はずんずんと歩きフィオナの横に並ぶ。

いきなりの乱入に彼女は気圧されたように手を引っ込めて、わずかに数歩下がった。

 

「いきなりなんですか…あなたも、国王を目指しておきながら魔法の才能がまるでない私を笑いにきたんでしょう…」

 

「うるさいですわ!いいですこと?!今からわたくしのいう通りにしなさい!!」

 

「なっ…!わけがわか…」

 

「い い で す こ と?!!」

 

「はひっ!」

 

俺が顔を近づけて凄めば、フィオナは噛みながらも大きな返事を返した。

 

「ではこれだけを頭に入れるんですわよ!

あなたは的に当てるのではなくただ魔法をぶっ放すことだけ考えなさい!!!」

 

「魔法を…ぶっぱなす…」

 

「じゃあ、いきますわよ!手を向けて、わたくしに続いて詠唱!!」

 

「は、はい!」

 

「聖なる光よ、我が手に収束し」

 

「せ、聖なる光よ、我が手に収束し」

 

「極光となりて、すべてを断罪せよ!!」

 

「極光となりて、すべてを断罪せよ!」

 

「「聖なる極光(ホーリーレイ)!!!!」」

 

 

刹那、世界が眩い光に包まれた。

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