第10話

魔法実技の授業。

 

「今日の授業は諸君らの魔法の精度をはかる。それぞれのグループに分かれて取り組んでくれ」

 

先生の指示に待ってましたとばかりに生徒たちはどんどんグループに分かれていく。俺とフィオナ王女殿下を置いて。

 

どの世界でもボッチというのはこのように淘汰されるんだと、一筋の涙を的の方に顔を向けながら誤魔化す。なんで初回から公開処刑をされねばならんのか。

あんまりだ。

我がボッチ仲間の王女がいてくれなければ号泣してたかもしれない。

 

「ん?あとはヴァイオレットと…殿下が残っているな。ちょうどいい、残った2人でやるといい」

 

……マジですか。

 

俺は取り残されてポツンと立ち尽くしているフィオナ殿下をみる。

そして嫌そうに眉を曲げて俺を一瞥するフィオナ。なんか死にたくなってきた。

 

「分かりました。」

 

どうやら生真面目な彼女は先生に歯向かうのが嫌だったらしい。

嫌そうな顔をするだけで先生の提案を受け入れた。俺もこのままボッチというのは嫌だったので何も言わずだんまりを通す。

 

「勘違いしないでください。あなたのことは嫌いです」

 

腰までウェーブがかかった黄金色の髪を揺らしながらやってきたフィオナの辛辣な一言。

うん、わかってた。

 

「奇遇ですわね。わたくしもあなたがきらいでしてよ」

 

むしろドストライクで好みなんだが悪役令嬢としての体裁もある。だから俺も嫌いだと返す。

するとフィオナはアイリーン以上の苛烈な憎悪が滾った目つきで睨みつけてきた。

 

「そんなことを言っていられるのも今だけです。

私は国王となって、善良な民を虐げたあなたに必ず報いを受けさせます」

 

「やれるもんならやってみてくださいな。

まあ、あなたが国王になれる器にふさわしいかも怪しいのですが」

 

器かんぬんという所でフィオナが強く反応し、ギリ、と歯を軋ませた。

俺と彼女の間をさらに険悪な空気が包む。

彼女が女王になったら絶対に脱国しよう。


「猛火の球よ、その猛き熱によって、燃やし尽くせ!炎球ファイアーボール!!」

 

詠唱とともにどこからか放たれた炎球。

熱気を撒き散らしながら的に向かっていくそれは残念ながら的から大きく外れ、明後日の方へと飛んでいってしまった。

どうやら俺とフィオナが睨み合いをしている間に的撃ちがすでに始まっていたようだ。

しかしほとんどが的に当てられず外している。

魔法の制御はそう簡単なものではないらしい。

 

「少し離れた的にも当てられないなんて、話になりませんわね。さっさと退学にさせればいいんですのよ」

 

目を剣呑とさせながらこちらを睨むフィオナの前に立ち、俺は目標の的に向けて手の平を向ける。

 

「ゆらめく水塊よ、骨肉を砕く砲弾となりて、我を阻むものを打ち砕け!氷塊(アイスエッジ)!!」

 

最後の一節とともに俺の手から人間サイズの氷塊が飛び出し、そのまま的を破壊することに成功した。

 

的が砕け散り、地面に破片が散らばっていく。

 

周りからはおおと感嘆の声が上がったが。


……ぐわあああ!!痒い!体中が痒い!!

 

「さすが公爵令嬢といったところか、まさか一発で当てるとは…」

 

先生も感心したような声をあげる。

俺は内心地面に転げ回りたいのを必死に抑えながら、その言葉に胸をそらして答える。

 

「ま、当然ですわね」

 

当然、俺は魔法を使っていない。


ゴリ押しのズルをしただけだ。

使ったのは魔石。

これを使えば魔力なしでも魔法を使えるというひみつ道具であり、使うために必要なのはトリガーとなる詠唱のみ。

だから俺は的に手を向けそれを唱えるだけで魔法は外れたりもせず手を向けた方へと飛んでいくわけだ。

なんとなく銃で発砲するイメージに近いだろうか。

 

なので当てられなければおかしいほどだ。

しかし魔法の反動がでかく、この世界ではか弱い男の腕では耐えきれない。

レイラさんに用意してもらった腕のサポーターがなければ腕の骨はバキバキに折れていただろうし、おまけに魔石は非常に希少。

これをポンポン使えるのはうちの家くらいだ。

 

「次はあなたでしてよ。せいぜい頑張りなさい」


俺は銀髪を翻し、フィオナに声をかける。


彼女からしてみればさらに怒りを覚えるだろう俺の言葉に、フィオナは身体を強張らせた。

 

 

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