第9話

「火属性の魔法。その熱はどこから来ていると思う?他の属性にも共通するのだが、魔法というのは空間、物質さまざまなものに干渉して発ど……」

 

 

魔法学の授業。

俺は足を組み、いかにも偉そうにふんぞりかえって授業を受けているわけだが、実は何一つ理解などできていなかった。

そもそも魔法を使えない俺には魔法というのは未知というか、よく分からないものだ。

コネで入学して本当に申し訳ないです。

 

前世で培ったこの世界で俺だけが唯一使える技、ペン回しをしながらいかにも分かってますという雰囲気を醸し出しつつ、隣の席に目を動かす。

キラキラとした黄金の髪、制服を押し上げる豊かな胸、神が手がけたかのような綺麗な横顔。

 

彼女こそがフィオナ=ヴァン=アルファス王女殿下。

この王国の次期国王候補だ。

 

彼女もゲームでは金髪煌めくいい男だったというのに女となってしまっていた。

王子であるのに加えて、整いすぎた容姿とその身分にあぐらをかかず、国民のためになることを率先してやろうとする、性格も完璧なキャラだった。

もはや現人神である。

 

そんな王子が女となった。

美しい顔にプローポーション抜群な体、女になろうと変わらず王国が誇る国の宝といってもいいだろう。

そんなふうにボーと見つめていれば、フィオナ殿下が何見てんだ、ボケというようなどう見ても好意的でない視線を向けてきた。

なので俺はそっと目線を外すのだった。


仲はこのように超悪いです。

 

 

 

 

 

 

 

「私は殿方の胸より股間の方が好みですわ。

殿方の股間についているものは立派で逞しいものだと本で読みましたの。

ぜひ実物でみたいものですわよね…ジュルリ…」

 

「股間もいいですけど、やっぱり胸がいいですわよ。

余分なお肉がついていない、殿方の胸板はまさに至高。裸夫画をみれば一目同然ですことよ?貸してあげましょうか?」 

 

「ぜひ!」

 

次の魔法実技の授業のために体操服に似たピッチリとしたものに着替える時間。

 

この魔の時間では服を脱ぎ開放的な気分になるせいか、鼻息荒く卑猥な雑談が至るところでかわされている。

優秀な生徒を輩出するためのお嬢様学校とあって抑圧されているせいだろう。

クラスメイトの性癖が俺の気を知らずとも暴露されていく。

お嬢様達が下ネタをむふふと笑いながら話す、さすが男女逆転した世界だ。

さいこ…なんて闇が深いんだ。

 

それはそうと俺はかなり、おそらく人生で最大の危機に陥っていた。

このままでは非常にやばい。なぜなら、

 

 

………お、起きるんじゃねぇぞ、息子ぉ…

 

俺のアソコが今にも勃ちそうになっていたからだ。

 

当然といえば当然だろう。女の子しかいない、甘い香りが漂う教室の中で彼女達は無防備に服を脱いでいる。この世界の男にとっては怖すぎて股間が縮み上がる光景かもしれんが、俺にとっては股間が膨れ上がる光景でしかない。

 

おまけに。チラッ、ではなくガン見する勢いで俺は隣で着替えている彼女を盗み見る。

 

下着姿のフィオナ殿下。

窮屈に制服を押し上げていた胸が解放され、ほんの少し動くたびにプルプルとたわわにふるえる美味しそうな果実。

白く眩しい太ももと艶やかなパンツ。

もはや誘っているのかと思ってしまうぐらい、なにがとはいわんがこれだけで何杯もいけそうな光景である。

ものすごい美少女の下着姿を目にして勃たない男はいまい。いかん、涎が。

 

そんなこんなで必死に欲を抑えつつ、フィオナ殿下の艶姿を目に焼き付けているとふと彼女と目が合った。

 

「なに見ているんですの?」

 

内心でテンパリつつ、俺は殿下を睨む。

なにも言わずにサッと顔を逸らす彼女。

 

別に殿下は悪くない。

俺が男ということで通していればフィオナは前世でいう女の着替えを覗く変態となるのだが、今の俺は女として通っている。

だからなにも後ろめたいことなんてないのだ。

そう、女同士なのだから俺が彼女の着替えを見てもなんの問題もない。

 

そんな理論武装をして、俺は服に手をかけながらもフィオナから目を離さない。

フィオナのエロい体に磁石のように目線が離れない。男の悲しい性よ。

 

すると顔を背けていたフィオナがまたこちらに顔を向けた。

目線は俺の顔より下に向かっており、その先は俺の股間?

 

まずい…っ!


俺が股間を慌てて手の平で覆って遮ると、フィオナが顔を上げ。

あ、また目が合った。再び彼女が顔を逸らす。

バレては、ないはず。

 

ほんとなんだろうね。分からん。

だが、そろそろ限界だ。

 

俺は急いで着替え終わり、レイラさんを呼び寄せる。

 

「道具、先に持っていってくださる?」

 

「分かりました。なにか急用ですか?」

 

まあ、急用であろう。早くなんとかせねばならない緊急事態。

だから俺は不自然にならないほどに腰を屈ませた体勢で、悪どい笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

  

 

「少し、お花を摘んできますわ」

 

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