第7話

こちらをジーと見るノワール。怖いから受け取っておくことにする。

 

「まあ、できた作りではなくッ!!」

 

ところがどっこい。

ノワールから鎧を受け取った瞬間、あまりにも鎧が重すぎて床に落としてしまった。

ダンと床に響く重い音。

しかし鎧にヒビは入らず。頑丈すぎん。

 

「ノワール、男の子にそんな重いもの持たしちゃダメよ〜」

 

ご飯をパクパクと消しながら母様がそう言う。

今は侍女たちを退出させているから男の子だと言っても問題はない。

 

この世界の男は女より力が弱い。だが前世がある俺はどうしても納得できなかった。

 

キンキンに冷えて感覚が薄くなってきた指に力を入れ、持ち上げようとする。ぐぬぬ。

 

「……お姉様、もういい」

ダメだった。やっぱり重すぎたよ。こりゃ無理ですわ。

 

「わたくしに差し出す物ならもう少しマシなモノを作ってからにしてくださる?」

 

俺の悔し紛れの言葉に俯くノワール。

さすがにブチきれたかと構える。が、よくみればノワールの肩が小刻みに震えている。

な、泣いている?人形みたいなこの子が?

 

「と、とはいっても、き、気遣いは伝わりましたわ。感謝いたしますわ、ノワール」

 

俺はおそるおそる手を伸ばし、ノワールの頭を撫でる。さらさらな髪を優しく、痛まないよう。

これでいいはず、たぶん。

 

「………ん」

 

ノワールは小さい息を漏らしたかと思うと俺の手にすりすりと顔を押しつけてきた。

なんかいい匂いがする。

あれ、うちの妹、もしかしてかわいい?

 

そのまま飯も食べずに彼女が満足するまでと手を動かしていたが、今度は逆からくいくいと引っ張られる感覚。

 

「なんです?リリアおね……むぐっ!」

 

顔を向けたその時、口に食べ物を押し込まれた。

 

「なにするんですの!」

 

「ヴァイオレット、昨日の稽古で体を痛めたんだろ?

私がお前の手になってやるから、ほら、あーん」

 

「いや、けっこ…むっ!」

 

問答無用で再び口の中に押し込まれた。

もぐもぐと咀嚼する俺を見て嬉しそうに微笑むリリア姉。

仕方ない。

ノワールを撫でるのをやめ、食べるのに集中する。そうしないと喉がつまっちゃう。

 

そうして数十口ぐらい入れられた頃だろうか、バキッ!!と何かがへし折れる耳障りな音がすぐ隣から聞こえてきた。

 

……ヒェッ。

 

ノワールだ。

ノワールが俯きながら、持っているスプーンを片手のみでへし折ったのだ。

めっちゃキレとる。

 

「なんだ、ノワール」

 

「……邪魔。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔」

 

ノワールがゆらりと顔を上げる。

その時に見えた目はあの時の侍女とは比べものにならないぐらいに血走っていて、ぞわりと俺の背筋が勢いよく粟立った。

俺の妹、やっぱり怖い。

 

しかし、リリア姉は気にせず再びお肉を差し出してくる。

あんたのメンタルすげえな。

 

「お、お腹は十分に膨れましたわ。もう結構ですわよ」

 

「そうか?男とはいえあまりにも少なすぎるのではないか?」

 

リリア姉が心配そうにもうすこし食べろと催促してくるが、あなたは闇堕ちした感じの妹をなんとかするべきです。

ほら、今バキッっていった!

もう怖いから見てないけどまたなんか壊してるよ!

 

「ノワール。静かにしろ」

 

「あ?」

 

ノワールが可愛さをすべて彼方へ吹っ飛ばすほどのドスのきいた声を上げ、2人の間に怪しい空気が立ちこみはじめた。

二人から迸る殺気がバチバチと火花を散らす。

その間に挟まるは俺。お腹、超痛い。誰か助けて。

 

「うふふ。喧嘩するほど仲がいいっていうものね。二人が仲直りしたようでお母さん嬉しいわ〜」

 

完食した母様が口元を綺麗に拭きながら、ほんわかと笑う。

 

………ダメだこりゃ。収拾不可。

 

 

俺はぐるりと白目を向いた。

 

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