愚かな超能力者達は世界を蹂躙する
里道アルト
序章 超能力者と名乗る者
日本には流れ星が見えた後、星が落ちる前にお願いを3回唱えると願いが叶うという言い伝えがある。
僕はそんなもの信じられなかったが誰かが信じるから今の今まで伝説として受け継がれてきた。
そしてそんな噂のような言い伝えが一年前、本当に叶ったのだという。様々なニュースに取り上げられ、世界には特殊能力を持つ『超能力者』の存在が認められた。
『あの日あの時、何かを願った子供達だけが特殊な能力に目覚めました。彼らを「超能力者」とする研究者達は、役らの能力は世の中の役に立つものであり、また世界を減ぼす可能性があると懸念しており、彼らを統制し、危性性のないに更生させるための施設を作るべきと政府に訴えています。政府は、これに一定の理解を示していますが、現在、誰が「超能力者」かを判断する方法がないとして断念しています。
次のニュースです。原因不明の出火でマンションの一角が全焼、高校二年の男子生徒と、その両親と思われる三〇代の男性と二〇代の女性の死体が発見されました。またこの...』
「お兄ちゃん、ずっとテレビ見てるけど、もう八時なのだよ、授業遅れちゃうよ?」
「あぁ、大丈夫だ、ボーっとしてただけだから、すぐ出れる」
実際すぐに出れた。腕時計、学年章、学ランはもう着てるし、教科書は昨日用意したし、大丈夫だろう。
妹が作ったオムレツを口の中に入れて、僕は家を出た。
「いってらっしゃいなのだ〜」と大振に手を振る妹に僕は、軽く手を振った。
僕は噂など信じない。本当に流れ星の願い事が真実だとしてこの目で見ない限りは。そして、実際僕の学校「桜園学校」には「特殊能力者」はいない。電車で三〇分バスで一〇分交通的には便利とも不便ともいえない場所ではあるし、何も無い所が問題ともいえるような場所。
だからこそ、僕の認織や想像がかき乱されることはないし、平凡に一日を過ごせる。こうやって過ごしておけば、「特殊能力者」のことなど自然に忘れる。
あの日、あの時、あの人を助けてくれなかった流れ星のお願いが、今さら本当に願いが叶うなんてことを思わなくて済む。
そんなことを考えてる僕は、やっぱり、星のお願いにまだ期待してるのだろうか...
考え事をしながら 僕はスマホにイヤホンを差して目を閉じて、音楽を聴いていた。すると、突然英語混じりの知らない曲が流れ始めた。こんな曲入れた覚えがない。
眠りかけていた頭がふっと起き上がってまぶたを開くと、そこには、身覚えのない少女が勝手に僕のスマホを触って、全然知らない曲をインストールしているようだった。
周りはこの光景をなんとも思わないのか?普通であると平常であると...?いや、ちがうはずだ。だ、誰か気付いてくれ、おかしいだろ。こんなの、犯罪だって言われかねないぞ。しかし、誰も気付かない。まるで、そこに誰もいないかのように。
そして、彼女も彼女で、僕の視線も気にならず、僕の顔など、見向きもせず、逃げようともせず、ずっと、スマホを眺めている。たまに、しかめ面になるのはなんなんだろうか。
「あの〜一体あなたは誰ですか?」
彼女が気付くのを待っているとキリがないと思い、僕が話しかけると、少女の顔がようやく、上を向いた。白い髪は見えていたがその髪に合うような合わないような淡い深い青色の瞳がこちらをのぞきこむ。
「あなた、ということは、私が見えているということですか?そうですか。ここに 私達と同じ『超能力者』がいるというので、皆さんにちょっとしたいたずらを一週間程続けていたのですが、皆さん反応が違ったので、居ないかもしれないとか思っていたんですが...。でもようやく会えましたね。どんな能力か分からないから苦労しましたよ」
彼女は悪びれる様子もなくしれっと真顔ですらすらとそう返してきた。この子は、やけに口がよく回るなと思った。僕なら今の文字の羅列で絶対噛んでいただろう。そして、しれっと返された言葉の中にさらっと興味深いものがあったのを僕は見逃していない。
「『起能力者』?」
「聞いてませんか??ー年前、あの流れ星に願い事を...」
「それは知ってる。そうじゃなくて、なんで僕が『超能力者』だっていうのかだよ。僕は空を浮いたり火を吹いたりそういう力は持ってないよ」
「それはあなたが別にそれを望んでいなかったからでしょう。アレは、あくまで望みを叶える方法を与えてくれるだけですから」
彼女は、そう淡々と言葉を続けた。願い?望み?星のお願いなど信じていない僕があの時に何かを願ったはずがない。 これは、夢なのか?突然、「あなたは『超能力者』です」と言われても現実味がない。
「もしかして、からかってる??僕は、あの日何も願ってはいない」
「からかうためだけに ちょっかいをかけると思いますか?だったら私、超暇人じゃないですか??....もしかして、私が『超能力者』っていうのも疑ってるんでしょうか?」
「あぁ、その通りだけど」
「まぁ、気持ちは分かりますよ。誰だって出会って間もない人に何を言われても信用できないでしょう。だから、私が証明して見せますよ。ちゃんと見ていてくださいね」
そう言って 、一人で話をずんずん進めていく少女は僕と向かいに立っている女子高生の方に歩いていって、その女子高生のスカートを思い切りめくり上げた。
「キャ」と女子高生は短い悲鳴を上げ、スカートを押さえて、目をキョロキョロ動かしている。周囲の人たちは、その短い悲鳴をあげた女子高生の方をガン見していた。
そして、どう考えてもこの騒動の発端であった少女はしれっとこっちに戻ってきて、全く悪びれた様子もなくこう言った。
「ラッキーパンツでしたね」
「いやッ必然だったろ!?」
「まぁ冗談はともかく、これで信用してもらえましたかね。私の能力は『誰の視界にも数秒映らない』というものなんです」
「いや、冗談じゃ済まされないだろう。そして、俺にはずっとお前のことが見えてたぞ?」
目の前の少女が向かいの女子生徒のスカートに手をかけ、思い切りめくり上げるその瞬間まで、しっかりくっきりと。(パンツもだが)
だから、目の前の少女が女子生徒に捕って痴漢ですと言われる。それが僕の予想していた結果なのだが、実際は全然違う。
今だに女子生徒は周りを見渡してるし、本当に 誰がやったのか分からないという感じだ。周囲の人も全然気付いている様子はない。
「そう、あなたには、周りが見えていないのに、私が消えた後も見えてた。すなわち、そういう能力を持っているということです。能力に干渉されないとか?そんなところじゃないですか」
平坦とそんなことを語られる。『超能力』は確かに存在するのかもしれないがそれは僕じゃない。まだ、僕には信じられなかった。だって僕は、、
「僕は、あの日、何も願わなかった。願わなけば君みたいな『超能力者』にはなれないはずじゃないのか?だから、僕は違うよ」
「なぜ、そんなに否定したいのかは知りませんが、あなたは私たちと同じ『超能力者』です。確かに星に願い事をすることで、私たちは特殊能力に目覚めました。しかし、あなたは星に願わなかったと言う。でも、それはこうも変換できるでしょう。願わないんじゃなく、願いたくなかったと」
たしかに、そう変換されれば、願いとして成立する。
流れ星のお願いを信じたくない。そこから生まれたという『超能力者』だって信じない。だから、僕は、『超能力者』の影響を受けないという特殊能力を手に入れた。確かに、辻褄は合う。
「だけど、それってありなのか?願わないことが願いになって、願いを叶える手段として、こんなよく分からない特殊能力を手に入れているなんて...」
〜まもなく、悠里真ゆうりま、悠里真、お降りの方は、足元に十分注意してお降りください〜というアナウンスが耳に入ってきた。少女はそのアナウンスが聞こえて、ドアが開くとすぐに電車を降りた。
「私はここで降りるので、その話はまた後で話しましょう。また、会いましょう
僕は、そんな少女の言葉を耳にして、奇妙な朝の登校を果たした。不思議と、彼女とまた再会するのは早い気がした...。
朝の不思議な少女との出いのことが今日一日、頭から離れなかった。友達と話していても、授業を聞いていても、全く忘れられそうにない。
僕が絶対にいないと思っていた『超能力者』で初めて出会った彼女は不思議な雰囲気を持つ、感情があまり表に出ない人だった。
彼女は一体、何者なのだろう。僕の名前は多分だが、スマホをいじくってる間に見つけたのだと思う。彼女の名前は開き損ねてしまったが...。
時は変わるが、放課後、僕はなぜか校長室に呼ばれ、校長、副校長、教頭、学年主任といった堂々たるメンバーと面向かうことになった。すごい空気が重いし、ずっと気を張っている。どうして、こんな事に僕が、何かやらかしてしまったのか、と内心焦る僕に、僕が今日一日忘れられなかった少女の平坦な声が聞こえた。
「朝ぶりですね、有羅木暦くん」
「有羅木くん 彼女のことは知っているかね?」
副校長先生が彼女の後に続いて口を開く。こんな面々を呼び出せるだけの有名な人なだったのか?だかしかし、僕は朝の通学で初めて出会い、少し会話をしただけだ。彼女のことは全くと言って知らない。
「今日の登校中に少し話をした程度ですが」
「そうか。彼女から君の編入を検討してくれたのだよ、星宮学園の」
星宮学園、隣街の最も偏差値が高い学校で、僕では到底レべルに合わない。ましてや、編入学なんてさらに難易度が高くなるだろう。
そもそも、なんで僕は制服で気付かなかったんだ?いや、普通、全くの逆方向なんだから、仕方ないか⋯。
「僕には、難しいですね」
「いや、君には編入しててもらうよ。彼女は星宮学園の理事長の娘なのだよ。拒否権はないに等しい」
校長先生は重々しく口を開く。本校のレベルの差を気にしているのか、あるいは、名誉が欲しいのか、それとも星宮学園の理事長と面識とかがあって、そこで何かがあったのか?
僕には、想像もつかないことだが、とりあえず少女は星宮学園の理事長の娘であり、彼女からの推薦書を もらった、今の僕はこの話を断るに断れないということ 、これが唯一の事実であると理解した。
「それで、僕はどうなるんでしょうか?試験なしに、入学なんてことはできませんよね」
「それは大丈夫ですよ。私の推薦をもらうだけで入学の資格を得られますから。なんなら、今ここで、それに署名していただけたら、あなたは、今からでも星宮学園の生徒です」
僕は校長をはじめ、他の重慎達の顔を見渡すが、誰も、こっちに目を合わせようとしない。これは、言わゆる引き抜きという奴じゃないのか?という顔をしてみるが、と誰にも伝わらない。よって、選択肢は一つだけ。
「よろしく、お願いします」
その言葉を聞くと、少女は不敵に笑った。僕の平凡な一日はこれで絶わった気がした。
ようやく、重たい雰囲気から技け出した僕は、長く深くため息をついて、星宮学園の資料を眺める。
近辺では、最も入学が難しいとされている小中高一貫校は当たり前のように私立なので授業料が高い。しかし、この推薦では皆、授業料免除になるみたいだ。
もちろん、この推薦を理事長の娘である少女が行っているということは、星宮学園の最高責任者である理事長と推薦された者しか知らない秘密裏なもので、他言厳禁、もし、外に漏れてしまった場合、学園からの永久追放、及び学園が代わりに負担していた授業料その他諸々を支払わなければならないという枷も存在する。『絶対ばらすな』と手書きで書かれた一枚のA4の紙を見たときは、背筋が凍るかと思った。
そして、現在、僕は少女に言われ教室に残っているわけだが....。
「どうして、僕がこんな事に...」
「それはあなたが『超能力者』だからですよ?すみません、待たせましたか?」
後ろから囁くような声で、少女は話しかけてきた。彼女の名前は、注意書きのようなあの資料にも書かれていた。
「
「ちゃんと資料を読んだんですね。ところで、ちゃんと誰にも見られない所で、読みましたか?」
「ここで読んだよ。誰も、残っていなかったから、誰にも見られてないだろうな」
「そうですか、それなら安心しました。このことは、あくまで、内密に行いたいので」
香宮野は、僕と同じで電車を利用するらしく、同じ帰り道を歩いている間に少しだけ話をしようということで、僕に残っていてほしかったとのことだった。帰り道の小さな石を蹴りながら、僕は、香宮野に尋ねた。
「僕は本当に『超能力者』なのかな?」
「えぇ、あなたは、ほぼ間違いなく私たちと同類です。まぁ、それを確かめるべくあなたに編入を勧めたわけですが...」
「僕が『超能力者』であるという根拠は?」
「そうですね。見えないはずの私の姿を目視していたこと。私にとっては、これが一番決め手になっています。登校中にも、見せましたが、能力を使っている間の私の姿が見えているのはある特定の条件下にいる人だけです。あなたは、その条件を満たしていないにも関わらず、私の姿が見えていました。だから、私はあなたのことを『超能力者』だと結論付けました」
「本当にそんな『超能力者』がいないと成立しないようなそんな能力が存在するのか?」
「少なくとも私は、存在すると考えているんです。そして、だからこそ危険だとも」
僕は、なぜ、こんなに、自分が『超能力者』であることを否定したいのか、それは僕にも、分からなくなっていた。目の前の少女が、『超能力者』であることも、正直まだ全然ピンと来ていない。それは、彼女が(表情が読み取りにくいこと以外は)普通の女の子と何も変わらずに見えているからだ。
これが一歩違えば、世界を滅ぼす危険な因子と見なされる。
なぜ、研究者たちは、『超能力者』のことを危険分子だと決めつけるのか。もちろん、突然人とは違う才能に目覚めた者の中には、その力に溺れ、自由勝手にする者もいるだろう。しかし、それは全員が全員というわけではないと思う。むしろ、身に余った才能に振り回される、その可能性だってあるはずなのに。
「危険っていうのは研究者たちに捕まることなのか?なぁ、なんで『超能力者』はこんなにも嫌われ役なんだ?」
「それは、...電車が来ましたね。それは、あなたの家で話しましょう」
香宮野は少し言い淀んで、とんでもないことを言い出した。あなたの家?僕の家?つまりは、僕が住んでるマンション?
この少女は、事前の連絡もなく僕の家に来ようとしている!!
「まさか、お前」
「想像通りですよ。最初からあなたの家にお邪魔するつもりでした。善は急げ、レッツゴートゥー」
「レッツゴートゥー、じゃねぇよ!!」
僕は、この少女香宮野唯の邪悪な笑顔をこの時、初めて見た気がした。
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