第20話 つみぶかきもの、おそれよ


「――ゆくぞ!」


 風間が動いた瞬間、僕は距離を取ろうと反射的に身を引いた。が、次の瞬間、僕は腕を掴まれ態勢を崩されていた。


「遅いな、新製品君。心の方は芽生えても、戦闘の訓練はしたことがないと見える」


 耳元で風間の声がしたかと思うと、僕は機械の腕で後ろから羽交い絞めにされていた。


「ぐっ……」


「自分の身体のことを熟知していれば、簡単に背後を取らせてはいけないことぐらいわかったろうに」


 風間が冷たい声で言い放った瞬間、背中の方でかちんと何かが外れる感触があった。


 ――しまった、コンバーターのプロテクトを外された!


「これからお前の機能をダウンさせ、人間で言う仮死状態にする。バラバラにされるよりましだろう?」


 風間の声が死の宣告のように聞こえ、僕は絶望的な気分になった。自分が何者かを知った途端、闇の中に逆戻りだなんて。背中の方で何かを操作する音が聞こえ始めた、その時だった。僕の身体の奥深いところで、何かが自動的に立ちあがる気配があった。


 ――緊急自衛プログラム、作動。


 自衛プログラム?いきなり頭の中に響いた音声に、僕は戸惑った。次の瞬間、身体のどこかでモーターが激しい唸りを上げたかと思うと、うなじのハッチが開いて多関節アームが勢いよく伸びた。アームは背後にいる風間の顔面を爪で捉えると、いきなり高圧電流を放った。


「があっ!」


 僕を縛めていた力が消えて風間が離れた瞬間、僕は自分でも驚くような速さで身体を反転させ、逆に風間の首を両手でとらえていた。


「――ぬっ?」


「僕に……構わないと約束してくれ。さもないと……」


 僕は風間の首を締めあげながら懇願していた。心の中で何かが外れ、指先にけた外れの力が加わるのがわかった。


「や、やめろイグニアス、俺を殺す気か」


「殺したくない。殺させないでくれ」


「な、なあ、嘘だろう?お前にそんなことができるはずはない。俺は……俺はロボットじゃない、こう見えても人間なんだ。脳はそのままのサイボーグなんだよ。わかるだろう?お前たち人造人間には、生身の人間は決して殺せない。そう言う風に造られてるんだよ」


 風間はそう言うと、憐れみを乞うように僕を見た。僕は思わず、風間の首を捉えた手を緩めた。だが、風間の腰が開いて武器らしきものが覗いた瞬間、僕は一気に両手の指に力を込めた。


「ぐあああっ!」


 ケーブルとチューブの切れる音がしたかと思うと、風間の首が がくんと前に折れた。


 僕がそっと両手を離すと、風間はそのまま糸が切れた操り人形のように地面に崩れた。


「あ……」


 目から光が失われた風間を見て、僕は自分がしでかしてしまったことの大きさに慄いた。

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