第19話 しんじつをしりしもの、こたえよ


 外階段を降りて往来に出ると、折からの雨が僕の機械の顔を濡らし始めた。


 これが僕の――愛を求める資格などない、本来の姿なんだ。


 これからどこへ行こう。どんな場所だったら、恐ろしい機械人間を置いてくれるだろう。僕を居させてくれるところなんて、この街のどこにもない。


 僕はとぼとぼ歩きながら、ふと歩のことを思いだした。そうだ、彼女なら僕を受け入れてくれるかもしれない。ぼろきれのようになったズボンのポケットに手を伸ばし、僕ははっとした。


 そうだ、このスマホはちえりから借りたものだった。……返さなきゃ、でも。


 僕は今しがた出てきたばかりの部屋の窓を見つめ、うなだれた。再び僕が姿を現せば、ちえりに不要な恐怖を二度も与えることになる。


 後でポストにでも入れておこうか――そう思った時だった。


 通りの向こうから、人影らしきものがこちらに向かってゆっくりとやって来るのが見えた。


 ――あれは?


 近づいてきた人影を見て、僕ははっとした。なぜ、あいつが?


「よう、ずいぶんといかつい姿になったじゃないか」


 人影は僕の同僚だという男――風間だった。


「ようやく自分が何者かを思いだしたようだな、イグニアス」


 風間は足を止めると、薄笑いを浮かべながら言った。なぜ僕の姿を見ても驚かない?


「多岐川の研究所に行く気だな?悪いがそうはさせない。お前は我々の物だ」


 風間は不気味な台詞を吐くと雨の中、いきなり上着を脱ぎ捨てた。


「風間――お前は一体、何者だ?」


「お前を造ったアダムスアーツ社の者だよ。お前を監視していて命を落とした男の同僚さ」


 僕は思わずえっと声を上げていた。資材置き場のパワーショベルで死んでいた、あの男――あいつは僕が殺したのか?


「厳密に言うと、お前を造ったのはサイバー研究室の多岐川チームだが、利権上の所有者は我々だ」


「僕は……ぼくはいったい、なんなんだ?」


「お前はアダムスアーツ社筆頭株主である資産家の、死んだ息子の代わりに造られた人造人間だ」


「人造人間だって?」


 風間の言葉は、僕ののわずかに残っていた希望を跡形もなく粉砕した。


「資産家は事故で亡くなった息子の代わりにと、当時進行中だった我々の『イグニアスプロジェクト』に破格の研究資金を提供した。その結果、誕生したのが『心を持つ機械人間』――装心機人L79Eだったというわけだ」


「装心機人……」


 「だがお前は人間の世界に適応しきれず、行方をくらました。そこで会社はお前を回収するため、方々手を尽くしてお前の消息を探し続けたってわけだ」


「……いやだ。僕は戻らないぞ」


「そいつは無理ってもんだぜ、イグニアスL79E」


 風間はそう言い放つと、シャツの前をはだけた。風間の上半身は、僕とよく似た金属のボディだった。


「――僕と同じ?」


「契約では、『心』に当たる部分さえ回収できれば手足はバラバラでも問題ないそうだ。――さて、この俺に勝つことができるかな?」


 風間は不気味に言い放つと、黒光りする機会の肉体を誇示するかのようにファイティングポーズをとった。


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