第2話 2度目のサンプル回収
「なるほど、例の試作品は十分な効果を発揮したようだね」
薬品を散布し終えた箱と、持ち帰った赤ゆの死骸を手渡す。これも薬品を研究する上で必要なことだ。
「俺が見た限りでは、この薬品は成功だろうな。目の前で赤ゆがたくさん死んでいった」
「そうでなくては困るよ、ゆくゆくはこれを増産して……」
その発言をカットするようにタロットの1枚を取り出す。
「運命の輪(ホイルオブフォーチュン)の逆位置、誤算だ。この薬は確かに効果的だが増産するにはコストが見合わない。それにゆっくりは自然に発生するもの、ナマモノでもあり、思念体だ。」
「ならばどうすれば良いと思う?」
「簡単な話だ、薬品や投擲するための箱の素材を見直したり、散布する薬品の効果を強めにして1度で寄り付かなくなるようにすれば良い」
「なるほど……でもゆっくりがそれに適応した進化をすれば……」
「隠者(ハーミット)の正位置、深慮だな。だが叔父の研究データによると、ゆっくりはさほど進化していない。毒物、つまり苦いものや辛いものへの耐性は変わってないのだ。せいぜい進化しているとすれば、うんしーのシステムだけだ」
「え?昔とどう違うの?」
「あれは老廃物を出すためでもあるが、都合の悪い記憶を流すためでもあったりするのだ。最初の頃はそれがなくて非ゆっくり症になるゆっくりが多かったそうだ。」
タロットと一緒に、叔父から聞いた話を一くさり述べる。
「そうなの?知らなかったよ」
「まあ、叔父の家の地下に冷凍保存されてた200年ほど前のゆっくりだしな。俺らが知らなくて当然だろう。それと……この死骸解剖しなくて良いのか?」
「ああそうだね、死んだフリという可能性もゼロじゃないしね」
おちびと言っても、極端に小さいわけでもない。解剖は容易かった。
「うわあ……中枢餡が黒紫色になってやがるな……これは助かってないな」
毒の影響だろうか、中枢餡も、その周りの餡も本来の小豆色ではなく、黒紫色へと変色しているのだ。
「そういえば、他のゆっくりはどうしたの?」
「んー、置いてきた。持って帰るには多すぎるからな」
「もう1匹サンプルが欲しいな、今度は親ゆが良いかな。もし死んでたり食べられたりしてたなら、これ持ってって」
例の立方体を渡される。
「薬品のチャージは終わってるからね」
それを左のポケットに入れると、さっきの公園に向かった。
死体はなかった。食べられたのだろうか……公園に着くと、また別のゆっくりが居たが、髪もお飾りも無事な辺り、食べたのは別のゆっくりなのだろう。
「おいくそどれい、さっさとまりさたちにあまあまをよこすのじぇ」
テンプレじみた台詞、思わず笑ってしまう。
「れいむ、おちびちゃんがいるんだよ!ゆっくりしないでね!」
まだ産まれてないのだろう、これもまた貴重なサンプルだ。
「仕方ないなあ、あまあまあげるよ」
例の立方体のボタンを押して、ゆっくりに当てないように投げると、煙が散布される。
「ゆ?あまあまなけむりしゃん!」
煙を思うさま浴びたり、吸ったりしたのだろうか、
「しあわせぇ~!」
と、もみ上げやおさげを広げて、うれしーしーをしながら叫ぶ。
「たりないのぜ!もっとあまあまよこすのぜ!」
まりさが喚いたが、丁重に無視する。いずれ分かるだろう。その煙の真の恐ろしさが……
「ゆ?れいむのもみあげさんどぼぢでじめんにおちてるのぉぉぉ!?」
「まりさのおうっごんのおさげさんもないのぜぇぇぇぇ!」
ざまあm9(^д^)
「ゆっくりできないいいいいい!」×2
目から砂糖水を流しながら、2ゆんのゆっくりが喚く。騒音でしかない。
そう考えていると、れいむとまりさのお飾りが黒く変色して、さらさらと砂の塔のように崩れ去る。
「れいむのしんくのおりぼんさんがないぃぃぃぃ!」
「まりさのしっこくのおぼうちもないのぜぇぇぇぇ!」
まあ良いだろう、れいむを掴んで帰ろうとすると、
「れいむをかえすのぜこのくそどれい!」
「ならここまで来なよ」
無理なのは知っているが、そう挑発する。
「ゆ?あんよしゃんがうごかないのぜぇぇぇ!」
「星(スター)の逆位置、お前はそこから動くことはできない」
別に連れ去るのはまりさでもよかったのだが、ここは赤ゆが出来てるれいむの内部はどうなっているのか気になったので、れいむを連れ去ろうとした瞬間だった。
「あぢゅいのぜぇぇぇぇ!おもにぜんっしんがやけるようにあぢゅいのぜぇぇぇぇ!」
まりさが苦しみ始めた。さっきとは違うようだな……
「死神(デス)の正位置、終わりだ」
苦しむまりさを無視して、れいむを持ち帰る。内部がどうなってるか楽しみだ。
To Be Continued
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